求められるのは情報収集力?泥臭さ?
コロナ禍に事業をグロースさせ続けた5名のCxOがBizDevを語る

登壇者
上河原 圭二

1982年生まれ。2005年に関西大学商学部卒業後、株式会社セプテーニ入社。名古屋支社立ち上げや子会社経営、社長室室長を経て、2013年2月にコミックスマート株式会社を設立し、同社取締役COOに就任。2018年、株式会社セプテーニ・ホールディングス グループ執行役員。2019年4月、株式会社イングリウッド取締役兼CHROを務める。

柴崎 洋平
  • フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長 

1998年 上智大学卒業後、ソニー株式会社に入社。世界を代表するグローバル企業に携帯電話向けカメラの商品企画、半導体の営業・マーケティングを行う。
2007年ソニー株式会社退社後、同年、フォースバレー・コンシェルジュ株式会社設立。
2013年 世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leaders 2013選出。
2016年 新経済連盟「少子化・人口問題検討PT」ワーキンググループのコアメンバー就任。
2016~2018年 官民協働海外留学支援制度~トビタテ!JAPAN日本代表プログラム~学生向講師に就任。
2018年 スイスで開催されたダボス会議では移民問題に関するパネルディスカッションで登壇。
2019年 厚生労働省「平成31年度民間職業紹介従事者の人材育成推進事業」外国人材検討部会委員に就任。
2019年 一般社団法人外国人雇用協議会 理事に就任。

石川 彩子
  • 株式会社ミツモア 創業者 兼 代表取締役CEO 

東京大学法学部卒、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA取得。ベイン・アンド・カンパニーでのコンサルタント経験を経て、シリコンバレーのEC企業で開発管理や経営管理業務に従事。帰国後、ミツモアを共同創業。

大平 裕介

慶應義塾大学卒業後、2016年にA.T. Kearneyに新卒入社。主にコスト改革、事業戦略策定などに従事し、2018年に当時最速でアソシエイトに就任。テクノロジーの力で企業のコスト管理機能を抜本的に変革するため、2019年2月に株式会社Leaner Technologiesを創業。

岩木 亮介

1990年生まれ。大阪大学法学部卒業。福岡銀行を経て、ドーガンへ参画。ベンチャーキャピタル、コンサルティング、事業マネジメントに従事。その後、アクセンチュアを経て、2017年1月にREAPRA Venturesに参画。産業創業の対象となる投資領域の定義、産業リサーチ、事業開発の一般化等に従事。また複数の投資先経営支援も行う。2017年10月、アーキベースを創業。

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「BizDev経験を活かし、成長中のスタートアップに転職したい」──そうした想いを抱くビジネスパーソンと、コロナ禍でも成長を続けるスタートアップをつなげるイベント『Fast Movers Online for BizDev』が2020年6月29日にZoomにて開催され、事業開発を経験したことのある社会人約100名が参加した。

業務のオンライン化が急速に進む今、BizDev(事業開発および事業開発に携わる人材)にはいかなるスキルが求められているのか。コロナ禍においても採用活動に積極的な注目ベンチャー企業5社のCxO・BizDevリーダーに語ってもらった。

  • TEXT BY KOUTA TAJIRI
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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「失敗した経験は武器になる」事業経験を大切にするイングリウッド

スニーカーのEC事業で創業して以来、「商品を売る最強の集団」として、データに基づいたブランディングやマーケティング、販売戦略立案、広告制作・運用などのECの包括的なサポート事業を手掛け、現在では自社でAIの研究開発も行っているイングリウッド。取締役兼CHROを務める上河原圭二氏は「情報収集力」をふたたび見直していると話す。

株式会社イングリウッド 取締役兼CHRO 上河原圭二氏

上河原ミーティングやセミナーのオンライン化が進む今、自らの意思で効率的に情報を吸い上げることができるようになりましたが、その感度が高い人と低い人の間で、情報格差は広がる一方です。

そして、収集した情報を自分なりに解釈し、力強く想像力を働かせ、アウトプットする力も同じくらい重要。なぜなら、新規事業立ち上げのファーストステップは、膨大なデータをもとに、経営者や投資家へプレゼンすることだからです。

当社で事業開発に携わっているメンバーの約7割は、事業立ち上げや起業をして、失敗を経験したことのある人。事業開発の難しさや苦しさを知りながら、それでもチャレンジする人をあえて採用しているというところもありますね。

なので当社は、社員の失敗には寛容で、咎めることもありません。こうした「挑戦と安心はセットである」というカルチャーや、周囲の社員が助け合う空気に惹かれて応募する方も多いです。

各事業責任者がP/Lを作る独立採算制を導入しているのも、多くの事業を同時多発的に推進できる理由だという。また、開発した事業を成長させていくためのファイナンスやマーケティング思考を大切にする風土もあり、社員研修では、あらゆる企業のP/LやB/Sを読み取り、ファイナンスやマーケティングなど事業推進スキルが身に付くカリキュラムも用意している。

上河原0→1の事業開発で活躍できる人と、1→10、10→100の事業成長で活躍できる人には全く別の部分があると思いますが、当社ではいずれの人も活躍できる環境としくみがあります。事業を開発したい方はもちろん、成長させる力を磨きたい方も、ぜひ話を聞きに来てください

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「世界で戦える人材に育てる」フォースバレー・コンシェルジュが求める、グローバル志向

世界中の人材を企業や大学とつなぐオンラインマッチングプラットフォーム『Connect job』を提供するフォースバレー・コンシェルジュ代表取締役の柴崎洋平氏は、自社で求める人物像について熱弁した。

フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長 柴崎洋平氏

柴崎私たちが見据えているのはとにかく世界です。私の出身企業であるSONYのように、日本発で世界中の人々をワクワクさせられるような企業になること。2050年までに、日本のGDPは中国の10分の1になると言われています。そのときまで何もせず国内にとどまっている日本人は、世界で戦えません。

そのため、当社ではスキルよりも「世界を変えたい」「世界にインパクトを与えたい」というマインドをまずは重視し、すべての物事をグローバル志向で考えられる人財を求めています。そのほかに、あえてスキルを挙げるとすれば、「定量的なデータ分析力」や「マーケティングスキル」があれば、なお良いですね。

徹底的にグローバルを見据えるフォースバレー・コンシェルジュの社内公用語はもちろん英語だ。日本語が全く話せない外国籍メンバーも活躍している。しかし、「入社時点での英語力は求めない」と、柴﨑氏は勇気づける。

柴崎まずは、入社前に2カ月間、セブ島に行きましょう。死に物狂いで英語を勉強すれば、日常会話くらいはできるようになる。TOEIC500点くらいの人でも、「英語を話せるようになって、世界を変える」というマインドがあれば大丈夫。お待ちしています。

柴崎氏は、「これから世界で戦っていける人材」になるために、明日から行動に移せる具体的なTipsも付け加えてくれた。

柴崎もし、今夜からでもできることを伝えるなら、まずはジムに行く。70代、80代になっても戦えるようにフィジカルとメンタルを鍛えましょう。「体・技・心」。もう一つは、明日から副業をはじめること。会社の外で、自分の専門性と市場価値を確認しましょう。

そして、新型コロナウイルスの感染拡大が収束したら、海外に行くこと。社員にはいつも「どこに住んでもいい」と言っていますし、私もハワイに移住するつもりです。働く場所の制限を無くすことで、国内はもちろん、世界各国から優秀な人財を採用し、世界と戦えるチームをつくり上げていきます。

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「ユーザーの声を汲み取る力と、全体の均衡を保つ力」ミツモアはバランス感覚を重視

税理士や行政書士から、カメラマンや庭師まで、さまざまな事業者と個人や法人をつなぐマッチングプラットフォーム『ミツモア』を提供するミツモア代表取締役CEOの石川彩子氏は、自社で求める事業開発スキルについてこう語る。

株式会社ミツモア 創業者兼代表取締役CEO 石川彩子氏

石川「習うより慣れろ」ですね。いくら勉強したところで、それらはすべて机上の空論でしかなくて、実際の事業では大きな複雑性をもつさまざまなトラブルが起きる。そうしたトラブルも含めて、体験するしかないと思っています。事業を成功させる上で大切なことは、ユーザーの声に真摯に耳を傾け、泥臭くプロダクトに反映する力。

たとえば、有名コンサルティングファームから転職してきたある社員は、ユーザーヒアリングのために1日16件アポを入れました。事業を成功させるためなら、どんなことも厭わない気概が大事です。

一方で、ユーザーの声を聞くほど、プロダクトのバランスが失われる恐れもある。特定のユーザーにしか使われない機能を追加しても、全体の最適化が図れなくなり、テストの工数も膨れ上がってしまいますから。その結果、開発スピードが遅くなり、事業もスケールしなくなってしまう。全体を俯瞰してバランスをとるスマートさが必要です。

ミツモア』と同じローカルサービス領域で事業をしている会社としては、テレビCMでお馴染みの『くらしのマーケット』などが挙げられるが、UI, UXを作り込むことで他社との差別化を図っているという。

石川『ミツモア』では、依頼者にできる限り正確な金額の見積もりをお届けできるようにプロダクトを設計しています。たとえば、庭木の剪定サービスを依頼したい場合は、庭木の場所や種類、木の高さや剪定本数、オプション業務、駐車場の有無など、細かく入力しないと依頼できない仕様になっています。

他社サービスの多くは、ユーザーが自身で事業者を選ぶというモデルになっています。『ミツモア』は、その労力を省き、最適な事業者をプラットフォーム側でマッチし、正確な見積もりを瞬時に提示します。こうしたユーザーへの提供価値を考えながらプロダクトをつくり込めるのが、当社で働く魅力だと思います。

また、次に登壇するLeaner Technologiesの大平氏から石川氏に、質問が投げかけられる場面があった。大平氏は昔から『ミツモア』のファンで、よく利用していたそうだ。普段はなかなか関わる機会の少ない他社の代表同士のセッションや、企業リーダーの、素直に他者に学ぼうとする姿勢が垣間見えるのも、こうしたイベントならではの面白さである。

大平昔から興味があったのですが、『ミツモア』では依頼者側のユーザーをどのようにストックし、リピートを促しているのですか?

質問を受けた石川氏もオープンに戦略を披露。ここでも“泥臭さ”がキーワードになった。

石川現状は、SEO対策を徹底し、有益なコンテンツをお届けすることで、ユーザーを獲得しています。『ミツモア』のカテゴリーである「カメラマン」「税理士」などボリュームの大きいキーワードで狙いをしぼったら、あとはひたすら上位表示を目指すだけ。ユーザーはある程度増えたので、これからリピートをどう増やすかが新たな課題ですね。

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「ユーザーインタビューは不要」Leaner Technologiesは改善に向けてやりきる力を評価

企業コストの約10%を占めるという間接費を見える化し削減するSaaS『Leaner』を提供するLeaner Technologies。代表取締役CEOの大平裕介氏は、いま求められている事業開発スキルについてどう考えているのだろうか。

株式会社Leaner Technologies 代表取締役CEO 大平裕介氏

大平僕も柴崎さん(フォースバレー・コンシェルジュ)や石川さん(ミツモア)と同じく、スキルよりマインドが大事だと思います。事業開発フェーズは、毎日いろんなことが起きますよね。順調にユーザーが増えたと思えば、社員が突然抜けてしまったり、クレームが来たり。そんな中で事業を続けていくためには、スタンスが重要だと身をもって痛感しました。

そして、自信がなくても、プロダクトをローンチする勇気も大切です。起業やプロダクト開発にまつわる本には「ユーザーインタビューをして、十分に仮説検証を」とよく書かれています。でも僕の経験からすると、ローンチ前のインタビューはあまり役に立たなかった。日本人はみんな優しいので、多くの人が「良いサービスですね」としか言ってくれないからです。

ユーザーの本音がわからなければ、改善しようがない。それなら、自信がなくてもローンチしてしまったほうが、お金を払っているお客様からの本気のクレームを頂けるので、リアルなユーザーの気持ちがわかります。あとはがむしゃらに改善し続けるだけです。

また、当事者たちの「腹落ち感」も重要であるという。事業開発といっても、事業フェーズによって求められるスキルや業務内容は大きく変わってくる。「どのフェーズなら自分は熱を持って取り組めるのか」「そもそも自分は本当に事業開発がしたいのか」。こうした問いを自分の心に投げかけるだけで、モチベーションは変わるという。

大平僕自身、「事業をやる理由を深く考えていなかったのかもしれない」と気付かされた経験があります。

出資者であるラクスルの松本恭攝さんやクラウドワークスの成田修造さんに、「本当は何がしたいの?」と聞かれたときです。そこであらためて、本当にやりたいことをゼロから考えた結果、「レガシー産業の課題をテクノロジーで解決したい」という想いが湧き上がってきました。

働く人が疑問を感じながらも、長年改善されていない余分なコストや業務をテクノロジーで解決する。これこそ自分が一番に情熱を注げることだと確信した瞬間でした。

『Leaner』は、その想いを具現化したプロダクトです。僕たちのミッションは100年以上続く間接材発注時の相見積もりをDXし、企業の経費を見える化し、最適な調達・コスト削減を行える状態をつくること。この想いに共感してくださる方は、ぜひ僕らと「日本中の経営をLean」にしていきましょう。

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「答えがない中で、意思決定をくだす」アーキベースが考えるBizDevスキルは“推進力”

最後に登壇したのは、建設・設備技術者に特化した転職支援・マッチングサービスを提供するアーキベース。代表取締役の岩木亮介氏は、事業開発に必要な三つのスキルについて次のように解説した。

株式会社アーキベース 代表取締役 岩木亮介氏

岩木一つは、再現性高く超過収益を確保できるスキルです。当社は、経営の基本である財務諸表を起点に意思決定する文化があります。

コロナ禍では、創業事業である「建設×人材」も、一部の重要指標に影響を受けました。あらゆるものごとにおいて不確実性が高まる中、アクセルとブレーキのどちらを踏むか、正直迷いました。しかし、基本に従って詳細な現状分析を行い、施策を立案し、許容可能なリスクの範囲でアクセルを踏み、幸運にも助けられて、コロナによる事業への影響を最小限に抑えることができ、成長を維持できています。

二つ目に大切なスキルが、答えのない中でも意思決定する力。自分も含めて多くの人は、答えのある課題に取り組むことで、成功体験を重ねている。それゆえ、答えがわからなくなった途端、手が止まってしまうことがあります。それでは不確実な未来を切り拓くのは難しい。

そこで僕らは、「Change Forward(変化し続けよう)」というバリューを掲げ、明確な答えがない中でも、意思決定の機会を担保し、前に進んでいける組織づくりを目指しています。

そして三つ目は、人間力。先ほどの「Change Forward」のほかに、僕らは「Be The Best(ベストであれ)」というバリューを掲げていて。関わるすべての人のために、最良の価値を提供し続けられる組織づくりを目指しています。最近は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、オンラインでコミュニケーションをとる機会も増えてきました。リモートワーク環境下でも、一人ひとりがベストを尽くすためには相手への思いやりと気遣いが欠かせない。そういった意味でも、やはり人間力が不可欠です。

アーキベースが目指すのは「50兆円規模の住環境市場をITの力で変革する」こと。国交省や経産省がDXをキーワードにデジタル化を推進することは「追い風になる」と、岩木氏は予測する。

岩木当社は3年目の会社ですが、続々と新規事業を立ち上げる予定です。これまでは、再現性高く事業を創ることができるチームづくりや財務基盤など、組織の土台を固めてきました。今後は、これまで得てきたマーケットインサイトを活用し、既存のクライアントに対して、DXを推進するようなサービスも提供していきます。「我こそは」という方は、ぜひ当社の事業責任者に手を挙げてください。

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厳選ベンチャーの魅力を発信し、出会いの場を創出するFastGrow

トークセッション終了後、参加者から各登壇者に続々と質問の手が挙がり、視聴者の登壇企業に対する関心度の高さがうかがえた。アンケートには、「登壇企業を知らなかったが、ピッチを見て興味を持った」という声も多く寄せられている。最後に、中でも印象的だった回答を紹介しよう。

BizDevのリアルを垣間見ることができ、大変勉強になりました。「事業開発は実際にやってみることでしか習熟できない」という言葉がとても印象的でしたね。自分たちの会社も四苦八苦してプロダクトを生み出していくしかないと、決意を新たにできました。

今後もFastGrowでは厳選ベンチャーの魅力を発信し、優秀なビジネスパーソンとの出会いを創出する場を提供していく。

こちらの記事は2020年08月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

田尻 亨太

編集者・ライター。HR業界で求人広告の制作に従事した後、クラウドソーシング会社のディレクター、デジタルマーケティング会社の編集者を経てフリーランスに。経営者や従業員のリアルを等身大で伝えるコンテンツをつくるために試行錯誤中。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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