「再現性ある事業開発」の条件──アーキベースが住環境領域で、事業家人材を生み出し続ける理由

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インタビュイー
岩木 亮介

1990年生まれ。大阪大学法学部卒業。福岡銀行を経て、ドーガンへ参画。ベンチャーキャピタル、コンサルティング、事業マネジメントに従事。その後、アクセンチュアを経て、2017年1月にREAPRA Venturesに参画。産業創業の対象となる投資領域の定義、産業リサーチ、事業開発の一般化等に従事。また複数の投資先経営支援も行う。2017年10月、アーキベースを創業。

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再現性のある事業開発と、永続的な企業成長を通した社会貢献──アーキベースCEO岩木亮介氏は、住環境という領域は、この追求において格好のフィールドだと強調する。金融、VC、コンサル、そして事業マネジメントを経験してきた岩木氏は、2017年にアーキベースを創業した。

ステークホルダーが多岐にわたり、バリューチェーンの複雑性が高い。加えて、テクノロジーを活用して社会に貢献できる余地がまだまだ広く、生産性の向上や人手不足の解消など、喫緊かつ長期的な課題が山積している。それにもかかわらず、住環境を支える建設業だけでみても全体の市場規模は50兆円超。

この可能性に開眼し、アーキベースには「将来的に起業して、自分で事業を育てていきたい」という野心を持った若きアントレプレナーの卵たちが徐々に集まってきている。REAPRAのCEO・諸藤周平氏に影響を受けたという岩木氏が考える、“成長し続けられる企業”の素養とは。アーキベースで培える「あらゆる産業領域で通用する再現性」に迫る。

  • TEXT BY TAKESHI NISHIYAMA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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事業、そして成長の“再現性”への熱烈な執着

「再現性」とは何だろうか。

みな口を揃えて「再現性が大事だ」と言う。再現性のあるスキームで事業を伸ばし続けることが、会社の生存戦略なのだ、と。

その重要性を理解しつつも、実態を掴めず、志半ばで倒れていく企業も少なくない。

岩木家族が通信や家電メーカーといった、今の日本を支える社会インフラを創っていた企業で働いていて、事業というものが社会に与えるインパクトの大きさと日々の生活への影響を感じていました。

一方で、そのような社会インフラも、新しい社会インフラに置き換わっていく。

事業はいずれ成熟していくことが前提で、伸び続けていける企業って、再現性をもって変化し続けているんですよね。

プロダクトライフサイクルを乗り越え、継続的に社会に新たな価値を提供している。そうすれば、働く人はもちろん、周囲のステークホルダーも幸せにできる。

そういう企業を創るにはどうしたらいいんだろうと、学生の頃から漠然と考えていました。

「変化し続けること」と「再現性」。二律背反のように思える要素の狭間に、サステナブルな企業を生み出すためのカギは、はたして存在するのか。その答えを探し求めて、岩木氏が新卒で足を踏み入れたのは、金融業界だった。“金”は会社の生命線であり、生き続けるためには不可欠な要素だ。

金の流れを熟知することで、再現性のある成長事業創りの本質を掴めるのではないか──金融業界からVCと、金融のキャリアを突き詰めていった彼の期待は、いい形で、裏切られることとなる。

岩木事業や経営について右も左も分からない中、金融の立場でさまざまな事業に関わるなかで感じたのは、「企業にとって、戦略やファイナンスは要素のひとつにすぎない」ということです。

経営にはさまざまな変数があって、その中でも金融は重要だが抽象的な要素。もっと経営の具体、事業オペレーションや人材マネジメントの部分に触れていかないと、再現性は探求できないと感じました。

ただ、それと同時に、自身が人生を賭けて“永続的に成長し続ける企業を創ることを通して、社会インフラとなるような事業を創っていく”ことにコミットしたいと考えていることに気づいていった。

岩木起業家の話を聞きながら感じたのは「起業家はそれぞれのミッションを持っているが、自分自身も主体として探求したいミッションを持っている」ということでした。

彼らの熱に触れることで、相対的に自分自身の熱に気付けたんです。“再現性のある事業開発を通した永続的な企業成長を通して社会インフラを創っていくこと”が、自分にとっての大きなミッションなんだなと、この頃にはっきりと言語化できました。

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エクイティファイナンスは、再現性追求の足枷になる場合もある

ミッションを見出した岩木氏は、すぐに起業の道を選ぶのではなく、修行の時間を取る判断をする。それは先述の“経営の具体”の経験が乏しいという感覚値があったからだ。

まずはデジタル領域に強いコンサルティング会社でビジネスとテクノロジーに触れ、その後、REAPRA Venturesへ参画し、投資領域リサーチとハンズオンでスタートアップの実務支援に奔走した。

加えて、REAPRAではCEOの諸藤周平氏からも多大な影響を受けた。同氏は、エス・エム・エス(東証一部上場)の創業者でもあり、介護ヘルスケア領域で多様なビジネスモデルの事業を立ち上げ続けた経験をもつ。まさに再現性高く事業を創るプロフェッショナルだった。

岩木諸藤さんの描くビジネスは複雑性を取り込むゆえに再現性が高く、具体と抽象、つまり経営と実務がどちらも強いイメージなんですよね。

エス・エム・エスのビジネスモデルは、多種多様であるのにゼロから立ち上げているものがほとんどで、事業同士がシナジーを効かせながら健全に成長し続けている。

それって、具体と抽象や時間軸など、様々な事象が複雑に絡み合う変数をマネージして、事業成長の再現性を見出しているからこそ。その考え方に触れられたのは今に活きる大きな財産になっています。

事業の再現性を高めるためには、適切なファイナンス手法の選択も重要となる。スタートアップではエクイティファイナンスが主流となっているが、“再現性ある事業開発と永続的な企業成長を志向する”場合、かえって足枷になってしまう可能性もあると岩木氏は指摘する。

岩木エクイティファイナンスは、本来経営の一手段。あくまでオプションでしかないんですよね。スケールするために、一定の期間投資を行った後に損益分岐点を超える、Jカーブの成長を実現するためのツールにすぎません。

ミッションや、ビジネスモデルに応じた適切なファイナンスオプションの選択が重要かと思っています。ですが、スタートアップにいると、成長する事業はエクイティファイナンスが当たり前と考えてしまう。かつての私自身もそうでした。

しかし、創業期の事業のROIが不明瞭な場合に、損益分岐点を超える難易度は高い。また、時代背景や事業領域、ビジネスモデルなどにもよりますが、大きく成長し続けている企業は創業初期から売上・利益を出している企業もあります。

再現性のある事業開発の観点では、利益を出している状態の方が良いかもしれない。利益が出ていると新規事業開発の自由度は高くなり、顧客への提供価値の大きさと幅も増やせます。

成長する事業がエクイティファイナンス前提のビジネスモデルに限らないというのは、私自身、経営の原点に立ち返る大きな気づきになりました。

ファイナンスに限らず、戦略論から泥臭いオペレーションまで、諸藤さんの手腕を間近で見て、視座が総じて一段アップデートされましたね。

2017年10月、岩木氏が満を持して創業したのが、アーキベース。「事業成長の再現性」にこだわり続ける彼が選んだフィールドは、「不動産開発」「建設」「資材」「不動産サービス」「エネルギー」など、生活環境のライフサイクルに関わる産業領域を中心とした、住環境にまつわる産業だった。

岩木領域選定には3つの基準を設けました。1つ目は、「創業する2017年時点で、時間軸とともに課題が大きくなっていくこと」。

2つ目は、「バリューチェーンの複雑性が高く、IT・情報で解決可能性のある課題が顕在・潜在的に複数存在していること」。永続的な企業成長を実現するためには、事業開発を通し何かしらの資産をつくりながら、新しい事業開発を行う必要がありますから。

そして3つ目が最も重要で、「日々の生活の幸福に直接・間接的に貢献できる、未来の社会インフラ創りができること」です。この3つが揃う領域で、10以上の候補から絞り込んでいきました。

その中でも「住環境にまつわる産業領域」を選ぶ決め手は、1つ目の要素の強烈さにあった。

岩木特に、住環境を支える建設業界の人手不足の進行は深刻で、「2025年には現場で働く人材が100万人ほど不足するのではないか」といった試算も出てきています。

背景には、担い手の高齢化と若手人材不足があり、トレンドは加速する一方。確実に「住環境×IT・情報」のニーズが伸びていくと考え、この領域での勝負を決めました。

また、住環境はすべての人の生活にかかわる。この領域で課題を解消し、社会インフラを創り続けることは、あらゆる人の幸福につながっていきます。難易度の高いミッションに挑戦していますが、非常にやりがいを感じています。

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「選択と集中」がいつも正しいとは限らない

創業から2年半、経営の具体と抽象を行き来しながら、着実に成果を積み上げてきた。

創業事業には、すでに顕在化し拡大していく社会課題を解決すべく、人手不足の解消に貢献する人材のマッチングサービスを選択。業界特化型「建職バンク電気設備管理」「建職バンク電工施工管理」を立ち上げ、わずか4ヶ月で営業キャッシュフローの黒字化を達成した。

そこから同じマッチング領域で事業者と職人をつなぐ「建職バンク職人」や情報メディア事業としての「建職バンクコラム」もリリース。現在は4事業が並行している。

提供:株式会社アーキベース

岩木住環境にまつわるバリューチェーンはとても大きく複雑です。

その中で、我々は「情報・技術プラットフォームを提供し、 住環境の持続的発展に貢献する」をミッションに掲げ、多様なステークホルダーそれぞれの課題に対しバーティカルな事業を、プラットフォームビジネスとして創っています。

現在は、キャリアを中心とした情報プラットフォームですが、今後はITを活用したプラットフォームを含め、多領域で事業を立ち上げていく予定です。

同時多発的な事業展開は、ともすれば合理的とは言えない行為だ。リソースが分断され、各事業の成長効率が悪くなる可能性もある。「選択と集中」とは聞こえが良く、これもスタートアップ界隈では通説。そんな疑問を投げかけると、岩木氏は少し遠慮がちに微笑んだ。

岩木自分でも合理的ではないと思っているんです(笑)。ただ、立ち上げた事業は早期に黒字化させているので、ファイナンス的には大きな問題なく新しい挑戦を続けられます。

問題になるのは、人材育成や管理。事業を率いる経営人材を育てていかないと、スピード感を持った事業成長や新規事業開発が実現できませんし、事業別・部門別会計を導入しているため管理コストも上がる。率直に大変です。

創業からの多角化は人材育成やリスクマネジメントなど、大きなコストが発生することには間違いない。「なぜ?」とこちらが聞く前に、控えめな、しかし芯の通った声が聞こえた。

岩木大変ではあるんですけど、ミッションから逆算すると、これは必然なんです。

事業開発の再現性を見出していくのが弊社のミッションのひとつであり、そのためには多様な事業づくりは不可欠。ひとつうまくいっただけでは、再現性なんて検証できません。

それに、健全な成長を続ける事業を増やし、社会に貢献していきたいので、自ずと経営人材の育成もミッションに内包されているんですよね。なので、そこは外せない要素なんです。

現状、岩木氏は部門別のP/Lを、それぞれの責任者に任せている。P/Lレベルから基本は委ね、限りなく自身が経営している温度感で事業を持ってもらうという。今後も事業を増やす過程で、どんどん事業責任者や部門責任者を増やしていくそうだ。

岩木P/Lからキャッシュフローの管理までほぼ一任しています。言ってしまえば、財布をまるっと渡して、どうバジェットを切ってどんな施策を試して提供価値を上げていくかも含めて、裁量を持って運用してもらう感じですね。

経営の具体は、実践でしか学べないことも多いですから。

経営人材の成長にレバレッジが効くように、P/Lを渡す当初には戦略設計からオペレーション、施策の運用などアーキベースの蓄積しているナレッジを元にサポートします。立ち上がりがスムーズにいくよう伴走するイメージで人材育成をしています。

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アーキベースで培える、どんな産業領域でも通用する再現性

岩木氏の語る再現性のある事業開発と、永続的な企業成長とは、同型のビジネスモデルを横展開していくような、簡易で安直な代物ではない。

先に挙げたエス・エム・エスや医療ポータルサイトを運営するエムスリーなどのように、ある産業領域に特化しながら、その内部の多様かつ複雑な課題を実践を伴いながら分析し、それぞれの課題に合ったソリューションを的確に当てていく。

課題分析から事業立案、その後の経営までのフルセットに、時間軸や類似事象からの仮説などを含めた複雑な変数を取り込み、リスクリターンを組み合わせて実践する。その積み重ねで“事業の再現性”を探求できると捉えている。

岩木矛盾していますが、事業は不確実性を前提として成り立つものであり、完全な再現性はないと思っています。

一方で、再現性を探求し続けることで資産が蓄積され、事業開発の確度を上げることができるのではないか、という仮説も持っています。

弊社で探求している再現性は、ビジネスにおける総合力そのもの。未来を創っていく社会インフラを、事業によっては自分の強みや経験とは関係のないところから立ち上げていくので、かなりチャレンジングでハードな環境だとは思います。

しかしながら、それは一度身についてしまえば、どんな産業領域でも成長事業を生み出していける力になるはずです。

10年後、いや、もっと近い将来、アーキベース出身の起業家たちが、さまざまな業界を騒がせる日がやって来るかもしれない。

岩木私自身、この会社が経営キャリアのスタート地点です。初めてのことだらけで、日々手探りの状態からひとつずつ仮説検証を積み重ねて、ここまで地道に事業の再現性を追求してきました。

事業や経営は不確実性が高くやればやるほど奥深く、毎日挑戦と失敗と、成長を実感しています。

「B/SやP/Lすら見たことがない」というレベルからでも、叩き上げられると自負してます。現状の経験やスキルにかかわらず、内発的動機が強く、成長感度の高い方には、ぜひ弊社の門を叩いてみてほしいなと思います。

こちらの記事は2020年03月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

西山 武志

story/writer。writerという分母でstoryを丁重に取り扱う生業です。「よい文章を綴る作業は、過去と未来をしっかりと結び合わせる仕事にほかならない」という井上ひさし氏の言葉を足がかりに、私は一つひとつ書き残すことで、歴史に参加していきます。

写真

藤田 慎一郎

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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