XTVが“異例”の投資実行。
スペースマーケット重松氏に訊く、社会情勢を追い風にするサービス設計
投資家やVCが事業のどこに注目し、何を高く評価するのか── 起業家にとって、資金を調達し、その先に見据えるミッション実現を目指すうえでも知っておきたいポイントだ。しかし、投資の決定要因が語られる機会は決して多くはない。
そんな閉ざされた世界を解き明かし、急成長するスタートアップを増やしていくべく、連載企画「グロース・カンパニーを見抜く投資家の眼」が立ち上がった。XTech Ventures株式会社共同創業者兼ジェネラルパートナーの手嶋浩己氏が、主に投資先のスタートアップCEOと対談。手嶋氏が投資を実行するまでの経緯から現在に至るまで、事業成長の背景を掘り下げていく。投資家が魅力を感じる事業の共通項や、創業期スタートアップが成功するために押さえるべきポイントを明らかにする。
第1回は、2019年1月にXTech Venturesから資金調達した株式会社スペースマーケット代表・重松大輔氏との対談を前後編でお送りする。
シェアリングエコノミーサービスの社会浸透を追い風に、順調に事業を成長させてきたスペースマーケット。主にシードやアーリー投資を行うXTech Venturesが、当時すでにレイターステージであった同社に投資するのは異例とも言える。フェーズが違うにも関わらず投資を実行した背景には、いったいどのような”魅力”があったのか。
後編では、手嶋氏がスペースマーケットの強みとして挙げる「社会情勢にマッチしたサービス内容」と「ユニークな使い方のキーワード化」から、今後の事業成長に向けた「大手企業とのアライアンス強化」までが明かされた。
- TEXT BY HUSTLE KURIMURA
- EDIT BY TAKUMI OKAJIMA
“最初は消極的だった”投資を実行したのは「使いたくなる仕掛け」があるから
XTech Venturesが初めてスペースマーケットに投資を実行したのは、2018年11月のこと。XTech Ventures代表取締役CEOを務める西條晋一氏と親交のあった重松氏が、出資を打診したことがきっかけだ。手嶋氏は、当時のことを回想しながら「実際のプレゼンを受ける前はファンドの方針とは違うフェーズでの検討になるので、出資に消極的だった」と当時を振り返る。
手嶋XTech Venturesは、ステージで言えばシードやアーリーのスタートアップを中心に投資を行うベンチャーキャピタルです。一方、重松さんにお声がけいただいた時点でスペースマーケットはシリーズC、レイターの企業でした。私たちにとってはイレギュラーな投資案件となります。ただ、プレゼンで実際の数値や状況を説明してもらい、最終的には西條さんや私を含めた全員が「スペースマーケット」の成長速度とポテンシャルに惹かれ、投資を決断しました。
レイター企業への投資においては、投資額の数倍程度のリターンを狙うVCや投資家が多い。僕自身も重松さんのプレゼンを聞き、スペースマーケットはさまざまな新しい挑戦ができそうな事業だと確信し、通常のプレIPOフェーズ、レイター投資以上のリターンを得られる可能性があるのでは、と思いました。
投資検討時点で、すでに一定規模のビジネスサイズに到達していたスペースマーケット。シリーズCでの投資実行後も、「まだまだここから大きく成長していくだろう」という仕組みとしての拡張性、優位なポジショニングを感じたという。
さらに手嶋氏がスペースマーケットを高く評価する理由は、成長速度やポテンシャルだけではない。それが「社会情勢にマッチしたサービス内容」と「ユニークな使い方のキーワード化」の2つだ。
手嶋スペースマーケットの魅力は、大きく2つあると考えています。1つは、サービスの内容が社会の動向を的確に捉えていること。「スマホ上で最低利用1時間から空きスペースを借りられる」というUXが、予定をかっちり決め過ぎず、その日の事情や気分を重視して過ごしやすくなった社会の変化にマッチしています。1日単位でしか借りられなったり、3日前に電話で予約しないといけないといった制限がない点が、最適化されていますよね。
もう1つは、サービスの使い方についてのキーワードを自分たちでつくり、PRに活かしていることです。CtoCプラットフォームは、ユーザーが思わぬ目的でサービスを利用するところに難しさがあります。しかし、スペースマーケットは、そういう予想外の使い方からインサイトを分析し、ニーズをキャッチーなワードに変えて、PRに活かすのが本当にうまい。「インドア花見」などが、まさにその好例です。
「インドア花見」とは、レンタルスペースを貸し切り、装飾された室内などで行う花見のこと。場所取りを必要とせず、天候などにも左右されずに楽しめるのが特徴だ。
重松お花見って寒かったり、公園が汚かったり、花粉症の人がつらかったり、実は残念な体験が多い。でもそのほとんどが、部屋の中なら解決できる問題なんです。そういった体験を避けるために、レンタルスペースでお花見をするユーザーが現れるようになりました。これはニーズがあるかもと思い、「インドア花見」をキーワードにPRを始めてみると、良い反応をたくさんいただけて、複数のメディアから取り上げてもらえたんです。
手嶋スペースマーケットは、ユーザーのユニークな使い方をキーワードに変換して、うまく盛り上がりを生んでいますよね。CtoCプラットフォームは仕組みをつくるだけでなく、思わず使いたくなる仕掛けをつくることが重要なんです。
貸し借りを超えた「働く場所のアップデート」を目指す。大手企業とのアライアンス強化で、さらなる拡大へ
CtoCプラットフォームとして順調な成長を遂げているスペースマーケット。さらなる拡大を目指し、現在注力しているのが「大手企業とのアライアンス強化」である。2019年4月には、新たな取り組みとして東京メトロや京王電鉄とシェアリングスペースを共同オープンした。重松氏は、事業基盤ができた今だからこそ、そのような連携が強い効果を発揮すると考えている。
重松サービスとしての基盤が整った今、大手企業とインパクトのあるアライアンスを組むことは、事業拡大の鍵になります。逆に、基盤ができていない段階でアライアンスに力を入れても、売名のイメージが先走ってしまい、好印象を与えられない可能性がありますよね。そういう意味では、今が最良のタイミングだと考えています。
アライアンス強化の先に、スペースマーケットはどのような理想を描いているのだろうか。重松氏が着目するのは「働く場所のアップデート」を通じた、働き方の多様化だという。
重松いま構想を練っているものの一つが「働く場所のアップデート」です。現状、働く場所として上がる選択肢は、オフィスや自宅、カフェくらいですよね。そこに、選択肢を増やしたいと思っています。たとえば、オフィス利用できる30箇所のスペースを、月2万円ほどの定額で使い放題にできるサービス。場の提供を通じて柔軟な働き方を支援し、既存の仕事の在り方を変えたいと考えています。
手嶋「スペースマーケット 」は、シェアリングエコノミーの文脈でも、まだまだ色んなことができそうですよね。そう考えると、今のフェーズのスペースマーケットにジョインするのも、かなり面白いと思います。
重松そうですね。特にエンジニアやデザイナーは今30人くらいとまだまだ少なく、増やしていきたいと考えています。あとは、ビジネス開発。今後は、不動産の物件を開拓していったり、アライアンスを組んでいったりといった取り組みがさらに増えていくので、貢献できる人材にぜひジョインしてほしいです。
無料会員登録いただくことで
この記事の続きをご覧いただけます。
こちらの記事は2019年10月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
次の記事
執筆
ハッスル栗村
1997年生まれ、愛知県出身。大学では学生アスリートを取材し、新聞や雑誌の制作・販売に携わる。早稲田大学文学部在学中。
編集
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
連載グロース・カンパニーを見抜く投資家の眼
8記事 | 最終更新 2019.12.03おすすめの関連記事
そんな事業計画、宇宙レベルで無駄では!?プロ経営者と投資家が教える3つの秘訣──ラクスル福島・XTech Ventures手嶋対談
- ラクスル株式会社 ストラテジックアドバイザー
「スタートアップ支援」の醍醐味を、独立系VC・CVC・銀行などのエピソードに学ぶ──XTV西條・手嶋、みずほ銀行大櫃氏、WiL難波氏、GREE相川氏ら豪華登壇者が集結イベントをレポート
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
「小売の概念が、流動化する」とは?goooodsの次世代B2Bコマースから、XTV手嶋がECの未来を読み解く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
給与データの収集で、一体何が起きる?XTV手嶋が期待する「人材市場の変革」構想を、あの南場氏も舌を巻く豪胆さの元DeNA人事本部長に聞く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
Web3トレンド、次は社会実装のタイミングを見極めろ──24karatがアップデートする、新時代のブランディングとは
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
Web3スタートアップは、タイミングこそ命──想像以上の盛り上がりを見せるPictoriaの戦略を、手嶋氏と読み解く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「何となく作ったプロダクトは応援されない」レッドオーシャンで勝ち筋を作るスタートアップのあり方
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
別に東京で起業することにこだわる必要って無いよね──『エアクル』のローカル課題を起点に全国にサービス広げる戦略とは?
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
知ってる?BtoB企業が殺到し始めた“エレベーター広告”の3つの特徴──XTV手嶋、三菱地所・石井、東京・羅が、起業物語を語り尽くす
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
クリエイターエコノミーは、SaaSの裏返し?──XTV手嶋・Natee小島が徹底解説する、新しい経済のかたち
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「有料ユーザーの95%が最高額プラン」toCプロダクトの魔力とは?愛猫家の熱狂を生んだ、元研究者/元リクPdM起業家の思考と行動
- 株式会社RABO 代表取締役
“高過ぎる受注率”を経営判断で実現。すぐ売れるSaaSを創った「事業会社に敢えて売らない戦略」とは
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
投資も経営も未経験でも、VCで活躍“できる”──投資家・起業家計6人に聞く「事業会社から、唯一無二のキャピタリストになる方法」
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
他社の決算に“感情移入”せよ──ラクスル福島・XTV手嶋の「ビジネスモデル分析対談」
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「アプリは贅沢」な時代だからこそ、活用したい“アプリマーケ”術──受託からSaaS企業へ超転換したランチェスター田代に聞く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「投資家と事業家、二刀流」のプロ。XTech Ventures西條・手嶋が語るベンチャー投資という仕事の魅力
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
2021年、今年のSaaSはココに注目。VCに聞く、起業家必読の12問【FastGrow Answers VC特集/後編】
- ALL STAR SAAS FUND Managing Partner
これから伸びる市場は、起業家に教えてもらう。気になる12の質問をトップVCに聞いた【FastGrow Answers VC特集/前編】
- ALL STAR SAAS FUND Managing Partner
JV立ち上げのポイントは「エゴを消すこと」と「コミット引き出す座組み」──アセマネ業務の10倍効率化を目指す、LayerX×三井物産の新会社設立の軌跡
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
ZoomとSlackでは、感情どころか業務内容も伝わらない?テレワークの秘訣は「テレカンでもテキストでもないちょうど良い会話」の有無にあり
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「資金ショートまであと5日」でも闘う姿勢が投資家の信頼に。D2C最注目企業Spartyに学ぶ“ユーザーからも株主からも逃げない経営”
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「在庫がないのに注文が入る」というパラダイムシフトで年率2,500%成長!スニーカー売買プラットフォームに隠された急成長の仕組みを解明
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
コアユーザーは「対面」で口説いた仲間。急成長を見据え非効率の連続も厭わないAntaa中山にXTV手嶋が迫る
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
5年連続200%成長を生んだ極意“おせっかい”。決裁者プラットフォームが「出会い」創出、オンリーストーリーの戦略に迫る
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「若手にVCは無理」なんて幻想だ。20代キャピタリストが志す、VC業界のアップデート
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「起業アイデアは借りたっていい」と後押し。XTech西條氏・手嶋氏トークレポートを起業家合宿から
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
新卒でXTech子会社役員へ就任した廣川航氏に聞く、事業家キャリアの歩みと展望
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
学生時代から活躍する事業家の「共通点」──LayerXの若手エースから溢れ出る、事業をドライブする主体性
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
驚異の「成長率3600%」は不断の修正から生まれた。カンム八巻渉が振り返るPMFまでの道のり
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
タクシーは「月に150万円生む1坪の不動産」。モビリティを攻める“不動産屋”、アイビーアイ金子健作の事業開発論
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
レッドオーシャンに潜む盲点を突く。士業・管理部門特化型エージェントを運営するヒュープロに学ぶ、ニッチトップ独占戦略
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
勝てるD2Cブランドをつくるなら、むやみなABテストはご法度。「ダサい」サプリメントを変革するトリコの戦略
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
急成長スタートアップ経営陣が語る、CxO人材に求める「経営者」としての姿勢
- 株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 コーポレートディベロップメント担当
リクルート、博報堂から“創業直後”のベンチャー企業へ。草創期にトップVCがみた「スタートアップで働くリアル」
- 株式会社エースタート 代表取締役CEO
XTechと共に事業価値を最大化させる。ミクシィが踏み切る300億円をかける挑戦
- 株式会社ミクシィ 代表取締役社長執行役員
XTechから1億を調達したRiLiは、スタイルを定義するコミュニティ作りを描く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
経験を積んだエグゼクティブに働き方改革を。事業も投資もする、新しいタイプのVC
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
ユナイテッドで確立された、経営者と投資家の顔。ブーストさせたのはSkyland Ventures木下慶彦
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
インタースパイアでの苦しい時代を共に戦った、UUUM中尾充宏
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
エニグモ須田に会えなかったら、今も僕は博報堂にいたかもしれない
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役