XTechと共に事業価値を最大化させる。ミクシィが踏み切る300億円をかける挑戦
時価総額1,900億円、社員数700名を越えるミクシィが静かに動き出した。
2018年6月に木村弘毅氏が代表に就任して以来、同社は5つの注力領域を掲げ、次なる事業の柱を模索している。その中、2019年2月にXTech株式会社をパートナーとするM&Aの包括連携協定を締結。既存事業の枠組みにとらわれず、 M&Aに注力すると発表した。
M&A検討の加速や、デューデリジェンスの精度向上、経営統合の仕組み化などを進め、ミクシィのM&A体制強化が目的だ。投資総額は最大300億円。新たな事業機会獲得への強い意志が垣間見える。
なぜ、ミクシィはM&Aへ注力するのか。そしてパートナーにXTechを迎えた意図は。ミクシィ代表取締役社長の木村弘毅氏、取締役CFO大澤弘之氏、XTech代表取締役CEO西條晋一氏、XTech Ventures株式会社共同創業者兼ジェネラルパートナーの手嶋浩己氏の4名が、提携に至る背景やミクシィの展望を明かした。
- TEXT BY HAYATE KAWAJIRI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
XTechとの提携は、ミクシィがM&A投資に再チャレンジする意思表示
ゲームアプリ『モンスターストライク』での躍進の後、ミクシィは社内外様々な手段で次なる事業の柱を模索し続けてきた。その中では、M&Aの難易度やPMIの重要性を痛感するできごともあった。
それらを教訓として、同社はいかに次なる道へと踏み出していくか。木村社長の手腕が試される最初の一手が、今回のXTechとの提携だ。
一見XTech Venturesの投資先紹介や子会社のM&A支援会社M&A BASEを通したM&A支援とも見える提携だが、「これは単なる紹介や支援ではない」と木村氏はその全容を静かに語りはじめた。
木村今、ミクシィが次のステージへ進むためには、M&Aという手段も戦略的に選択しなければいけません。ですが、ミクシィは経験上、M&Aに対して不安要素があるのは事実です。M&Aを進めていくためには、単なるパートナーでは不十分でした。より経営視点で会話を重ね、我々と同じ目線に立って、あるべきM&Aを共に考えてくれる人が必要だったんです。
XTechには、上場企業の経営経験もある優れたジェネラルパートナーがおり、単なるM&Aだけでなく、経営や事業、ミクシィの今後を踏まえた統合的な視点で支援できる。彼らだからこそ、サポートいただく道を選びました。
手嶋氏もこの言葉に大きくうなずいた。あくまでXTechはM&Aに関する戦略パートナーであり、二人三脚でミクシィを加速させていこうとしている。
手嶋今回の提携は、XTechのVCの投資先やXTechが始めたM&Aの紹介事業とは関係ありません。また、ミクシィのM&AをXTechが独占的に行うものではありません。あくまでも我々は、NDA(秘密保持契約)を結んだ上で、ミクシィの持つ課題感や目指すべき姿を共有し、事業戦略においてM&Aという手段を打つべき場所を見つけ、策を講じる。その壁打ちをするのが役割です。
ミクシィとXTechとの出会いは昨年秋。XTech VenturesのLP(Limited Partner)へミクシィが参画したことがきっかけだった。
手嶋LPとして情報交換をする中で、ミクシィが単に資金を出して事業投資を進めるだけでなく、より大きな予算で、次なる事業の柱を見いだすべく動きを進めていることがわかりました。その中で、M&Aの支援についての依頼にも話が及びました。もちろん、ミクシィ社内にも投資部署やその責任者はいらっしゃいます。ただ、我々の視点だから見えるミクシィの未来があるとも感じました。そこで、今回の提携という形になったんです。
大澤XTechは「既存産業×テクノロジーで新規事業を創出する」というコンセプトを持ち、当社の事業領域とも相性が良い。かつ、事業作りから経営まで経験も豊富で、LPとしてお話しする中でも、非常に魅力的な方々だと感じていました。そこで、ぜひ事業面でもパートナーとして迎え入れたいとご相談し、共に投資事業に取り組むことになったのです。
「注力領域の成長を加速させる」ため、数千億規模の買収も視野に
ミクシィはこれまで、コミュニケーションを軸にした事業戦略で「mixi」や「モンスターストライク」などを大ヒットに導いてきた。この軸はぶらさず、2018年5月には今後に注力する展開領域を「デジタルエンターテインメント」「ライブエクスペリエンス」「メディア」「スポーツ」「ウェルネス」の5つの領域に絞ると公表。今回の提携では、これらの事業の成長を加速させることが、至上命題だ。
大澤基本的に3〜5年の中長期にわたって投資していく予定ですが、主旨に沿っていれば短期間で一気に大型投資をする可能性もある。また、手段もこだわりません。状況に合わせ、M&Aか、事業投資か、はたまた自前で事業をはじめるのか。冷静に判断しながら進めていきます。
すべては、5つの注力領域でいかに成長させるか、ミクシィの事業にどのような意味を持たせられるか。この問いに対し、成果を最大化できる方法を選ばなければいけません。
西篠氏は、「リストには大小様々な企業や事業を並べ、日々ディスカッションを重ねている」という。
西條場合によっては、スタートアップや上場企業の買収、上場を目指した企業の50%以下の株式の取得、合弁企業の設立なども選択肢に入ります。枠にとらわれない発想で投資する方が、想像や期待を超える価値を提供しようとしている“ミクシィらしさ”を体現するのかもしれませんね。
ただ、順調に成長し、可能性のある良い会社は、M&Aをまとめるのも容易ではありません。私たちも試行錯誤しながら、良い落としどころを探り当てるクリエイティブさが求められていると思っています。
そのリストにはどのような企業が並ぶのか。無論、その詳細は明かしてもらえないが、木村氏は、他業種とのシナジーにも大きな可能性を見いだしていると語る。
木村これまで、ミクシィはネット専業で突き進んできました。当社のアセットを活用すれば何倍にもレバレッジがかけられる産業は、まだまだ存在すると考えています。一見するとニッチだと思われる産業でも、躍進できる余地が残されているものもある。そこに私たちがテクノロジーを用いて参入し、イノベーションを起こすことで、業界全体を大きく揺り動かせるのではないでしょうか。
西條そうですね。ミクシィのサービス開発技術やソーシャルビジネスの知見は、IT以外の伝統的な産業の企業とも上手く相乗効果を生み出せる可能性がある。例えば、強力なIP(知的財産)をもっている会社とも相性が良いのではないでしょうか。
場合によっては数千億規模の買収も実現できるミクシィだからこそ、これまで気づかなかった大きな可能性を見つける余地はあると思います。
ミクシィでは未来を担う人を追い求めていく
ミクシィは創業20年ながら、役員陣のほとんどが創業メンバーから入れ替わっている稀有な会社でもある。
これは捉え方によっては、「才能ある人材」を活かす環境が整っているとも言えるだろう。事実、木村氏は中途入社で一社員として働いていたにも関わらず、モンスターストライクでの実績が評価され、現在の地位にまで登り詰めた。
M&Aは、事業獲得の側面もあるが、優秀な人材を獲得する意味も持つ。木村氏は、「子会社の社長がミクシィ本体での経営に携わる可能性も十二分に用意されている」と語る。
木村M&Aはあくまで手段にすぎません。それを通して次の事業の柱を生み出すのはもちろんですが、ミクシィを通して未来の日本を作るのが私の仕事でもある。その観点でいえば、人も重要な資産になります。幸い、ミクシィには新卒か中途かM&Aでジョインしたかなど、入社方法については一切を問わず、優秀な人を引き上げていく土壌が用意されている。この環境と膨大なアセットを活かし、日本の未来を作ってくれる事業、人と出会いたいですね。
300億円という膨大な資金と、XTechという強力なパートナーを揃えたミクシィ。
新体制のもと次なる柱を探し求める木村氏は、どのような未来を描くのか。今後の動向に目が離せない。
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こちらの記事は2019年05月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
川尻 疾風
ライター・編集者(モメンタム・ホース所属)。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。
写真
藤田 慎一郎
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO