0→1での事業創造の極意とは?
ミクシィ木村社長の「自己破壊経営」に見る、屈指のスタートアップ志向

インタビュイー
木村 弘毅
  • 株式会社ミクシィ 代表取締役社長執行役員 

電気設備会社、携帯コンテンツ会社等を経て、2008年に株式会社ミクシィに入社。ゲーム事業部にて「サンシャイン牧場」など多くのコミュニケーションゲームの運用コンサルティングを担当。その後モンスターストライクプロジェクトを立ち上げる。 2014年11月、執行役員就任。2015年6月、取締役就任。 2018年4月、執行役員スポーツ領域担当就任。 2018年6月、代表取締役就任。

関連タグ

SNS、ゲーム、デジタルエンターテインメント…そして今後はスポーツ、ウェルネス領域に斬り込んでいくなど、多角的な経営に取り組む株式会社ミクシィ

一世を風靡したSNS「mixi」や、全世界での累計利用者数が5,000万人を突破したゲーム「モンスターストライク(以下、モンスト)」など、同社に抱く印象や思い浮かべるサービスは、人によって異なるだろう。

2018年12月、代表取締役社長の木村弘毅氏が、初の著書『自己破壊経営 ミクシィはこうして進化する』を上梓。モンストの生みの親でもあり、2018年6月に新代表に就任した木村氏の視点から、ミクシィの歴史とヒット作の裏に隠された経営哲学を紐解く内容となっている。

0→1で事業を創造し、サービスの成功に向かって挑戦し続ける木村氏が掲げる「自己破壊経営」とは、どのようなマインドセットなのか。ミクシィの成長を支えるスタートアップ思考の真髄に迫った。

  • TEXT BY HAYATE KAWAJIRI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
SECTION
/

「ユーザーを驚かせる」ことを第一に。没落から学んだ経営の極意

2004年にリリースしたmixiが大ヒットし、国内SNSで絶対的な地位を確立、2006年には上場も果たしたミクシィ。しかし、スマートフォンへの対応が遅れたことで、TwitterやFacebookをはじめとした海外のSNSへとユーザーが流出。一時は時価総額が上場時の10分の1近くまで落ちてしまった。

その後、2013年末に配信されたモンストの世界的ヒットで奇跡の復活を遂げ、会社の時価総額は1,900億円となっている(※2019年4月時点)。

ミクシィがメガベンチャーとして返り咲くことができた背景には、新たに見出した木村氏の理念である「自己破壊経営」があった。

木村「自己破壊経営」とは、成功体験に寄りかからず、常に新たな領域に挑戦していく経営スタイルのことです。過去の成功を否定してでも、新しい第一歩を踏み出して行くスタイルを採ることで、非連続的な成長を実現できるんです。

“破壊”と銘打ってはいるものの、やみくもに過去を否定しているわけではない。木村氏が立ち上げの中心人物を務めたモンストの開発をはじめ、常に戦略的に行動し続けてきたのだ。

たとえばミクシィには、「ユーザーサプライズファースト」という企業理念がある。

「ユーザーの驚きを何よりも優先する」ことを示すこの言葉には「想像や期待を超える価値を、ユーザーの方々に提供し続けていきたい」という想いが込められている。

木村モンストが大ヒットする過程のなかで、「ユーザーに多少怒られながらでも新たな提案をしていかないと、ヒットするサービスはつくれない」と気づいたんです。既存顧客のニーズを探ってばかりいても、未来がどうなるかまでは教えてもらえませんからね。ユーザーの期待を超え続けないと、かつてのミクシィのように衰退してしまいます。

SECTION
/

モンストはゲームではない。隠れたインサイトを見つけ出して定義する

ユーザーに驚きを与えるため、ミクシィで重視されているのが「物事の裏側にある、隠れたインサイトを見つけ出す」ことだ。

木村固定観念に囚われず、市場を「斜め」から見ることを心がけています。

たとえば私たちは、モンストをゲームではなく、“コミュニケーションツール”と捉えており、開発当初から「遊びの空間の創出」を目標に掲げています。トランプやメンコなど、昔ながらの遊びには、みんなで取り組むものが多いですよね。対して「スマホゲームは1人向けのものが多く、みんなで遊ぶものが少ない」と気づいたんです。ここに隠れたインサイトがあると考えた結果、ゲーム性ではなくコミュニケーションの価値を高める点でユーザーの期待を上回るサービスをつくり出していきました。

「身近な人とのコミュニケーション」という領域に狙いを定めたミクシィは、自らが取り組む市場を“friend+family”の造語で「フレミリー市場」と定義した。新たな定義を創り出すことで、注力すべき方針が定まり、新規事業へも思い切って舵を切れるのだ。

木村いまミクシィでは、これまでの事業領域とは関係がなさそうな「スポーツ」を注力ドメインのひとつとしています。スポーツを「個人で楽しむ娯楽」として捉えるのではなく、コミュニケーションを生む「フレミリー市場」に転換することに取り組んでいるのです。

海外のスタジアムでは、テーブルが並べられ、身近な人とコミュニケーションを取りながら観戦するのが一般的です。対して日本では、みんなでワイワイ楽しみながら観戦できる設備やサービスがまだまだ整っていないように感じました。この差を埋めていくことで、スポーツ領域にもミクシィが戦う余地が生まれていくはずです。

SECTION
/

大ヒットに不可欠な、圧倒的な“熱量”

ミクシィがコミュニケーションを重視する姿勢は、2015年に立ち上げたゲーム・映像コンテンツを統括するエンターテインメントのブランド「XFLAG」の戦略コンセプト「B.B.Q.(バーベキュー)」にも通ずる。

木村対面型のマルチプレイ形式のゲームを出したり、友情の肯定をメッセージとして強く打ち出したアニメ作品を放映したり、個人でコレクションするだけでなく友達にプレゼントしたくなるような商品をつくったり…「XFLAG」は、あらゆるチャネルにおいて“ワイワイ集まって遊ぶ場所をつくる”戦略として、「B.B.Q.」を掲げてきました。

そして、サービスを大ヒットへと導くためには戦略を練るだけでなく、心から「このサービスは成功するはずだ」と思える“熱量”が必要だという。

木村魂や感動が乗っかったサービスでないと、多くの人に受け入れてもらうことは難しいと思います。

モンストの開発中は、プロジェクトの進行が心配になるくらい、みんなでワーキャー言いながら遊んでいました。急に「俺すげえ天才だよおおお!」と叫ぶプランナーがいて、どんなアイデアを出したのかと思ったら、単に開発中のモンストのプレイが上手くいっただけだったことも(笑)。そのくらい開発側も一緒になってハマり、熱量を込めることで、ファンに愛されるサービスが生まれるんです。

SECTION
/

全員が成功する未来はない。だけどミクシィは、今後も「自己破壊」し続ける

取材の最後に「ミクシィのように挑戦し続けられる企業を増やすためには?」と訊いた。「チャレンジは評価されるべきこと。ですが、思い描く未来やビジョンが正しいものかは、最後まで誰にもわからない」と木村氏は返す。むしろ、仮に失敗したとしても、その経験で得たメソッドを活かせるような社会を志向する。

木村本当に残酷な話ですが、全員が成功する未来はない。ただ、チャレンジなき成功はあり得ませんし、失敗したとしても多くの場合はなんとかなります。教訓を活かして新たな事業をはじめることもできますし、ミクシィみたいなメガベンチャーだと、起業経験のある方が中途入社してくれるケースも珍しくない。

私も一度、ゲーム開発で大きく失敗した経験があります。それにも関わらず、「よくチャレンジさせてくれたな」と思うくらい、フルスイングして事業開発する機会をいただけました。そしてその再チャレンジが、後のモンストの大ヒットにつながったんです。

もちろんミクシィの挑戦も、まだまだ終わらない。

木村「コミュニケーション」を軸に、次の柱となるサービスをつくることで、自分たちの存在意義を明確にしていきたいですね。まだまだ「自己破壊」していくつもりです。

木村氏の著書『自己破壊経営』には、「会社や事業には、ストーリー戦略(ストーリーテリング)が不可欠である」「乗り越えなければならない課題は、多くの人からアイデアを募って進めていく」など、今回の取材では収まりきらなかった経営ノウハウも網羅的にまとめられている。

FastGrow読者のために、特別に同書を寄贈してくれることになった(※数量限定)。木村氏のスタートアップ思考をより深く知りたい方は、以下のリンクから応募してみてほしい。

こちらの記事は2019年05月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

川尻 疾風

ライター・編集者(モメンタム・ホース所属)。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。