経営者は「思想のカルト化」に注意せよ──企業規模を問わず参考にしたい、坂井風太とCloudbaseによる“組織崩壊の予防策”

登壇者
坂井 風太
  • 株式会社Momentor 代表 

1991年生まれ。DeNA新規事業部でのインターンを経て、2015年DeNAに新卒入社。DeNAトラベル(現エアトリ)に配属後、16年にゲーム事業部、17年に小説投稿サービス『エブリスタ』に異動。サービス責任者、組織マネジメント、事業統括を担当。19年にエブリスタならびにDEF STUDIOSの取締役に就任。20年にエブリスタ代表取締役社長、経営改革とM&Aなどの業務を経験。22年8月DeNAとデライト・ベンチャーズ(Delight Ventures)から出資を受け、人材育成・組織強化をサポートするMomentorを設立。

岩佐 晃也

1996年生まれ。10歳からプログラミングをはじめ、特にセキュリティ関連に興味をもつ。学生時代からさまざまなサービスを開発し、京都大学工学部情報学科在籍時の2019年11月にLevetty(現・Cloudbase)を創業し、現職。現在ではスズキをはじめとした大企業でのサービス導入を進め、累計13.9億円の資金調達を実施。2023年にはForbes 30 Under 30 Asia、Forbes 30 Under 30 Japanに選出される。

石原 陽

大学を卒業後、人材広告会社への勤務を経て起業。事業売却後はコンサルティングファームにて組織変革に関わるプロジェクトへ従事。その後、メガベンチャーを経て、株式会社カケハシでHR・営業・CS組織、社長室の立ち上げ・マネジメントを担う。2023年10月にCloudbaseへジョイン。コーポレートチームの責任者として、採用や組織開発などを行いながら、コーポレート全般の体制整備推進など幅広く奔走中。

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急成長するスタートアップにとって、組織崩壊は大きな脅威となっている。多くの企業がミッションやバリューを掲げるものの、それだけで盤石な組織基盤を築くことはできない。

そんな中、元DeNA人材育成責任者の坂井 風太氏が注目するのがパブリッククラウドセキュリティサービスを提供するCloudbaseだ。現在Momentor代表として多くの企業の人材育成・組織強化をサポートする坂井氏は、「これほどまでに巧みなバリューが組織に根付いている会社は稀だ」と称賛する。

Cloudbaseは2022年のプロダクトリリース後、わずか数ヶ月で大企業との取引きを次々と実現。さらに、業界で引く手あまたのエンジニア採用も順調に進め、急速な事業成長を遂げている。この驚異的な成長の背景には、同社の強固な組織カルチャーがあると考えられている。

FastGrowはこれまで、20代で日本のクラウドセキュリティ市場を切り拓いた代表岩佐氏への単独取材をはじめ、国内トップレベルのエンジニア集団や少数精鋭で大企業の開拓に挑むレベニューチーム、同社を支える投資家、そしてミッションバリューを核とした組織づくりまで、多角的に取材を重ねてきた。

本稿では、坂井氏との対談を通じてCloudbaseの組織力の源泉に迫る。専門家の組織理論とCloudbaseの実践を分析し、他社も学べる具体的な方法論を示したい。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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「思想の先鋭化(カルト化)」と「マネジメント基盤の未整備」に注意せよ

急成長するスタートアップの中には、外向きには急速な事業拡大を遂げているように見えながらも、その裏で組織が崩壊の兆しを見せているケースが少なくない。

200社以上の大企業やメガベンチャー、スタートアップを支援してきたMomentor坂井氏は、組織の成長における隠れた危険性を指摘する。

坂井多くのスタートアップが、創業期を乗り越えた後の「安定期」や急激な「拡大期」で躓いています。一見、順調に成長しているように見えても、内部では深刻な問題が進行していることがあるのです。

坂井氏によれば、この時期に起こる組織の歪みは主に「思想の先鋭化(カルト化)」と「マネジメント基盤の未整備」によるものだという。

提供:株式会社Momentor

坂井初期メンバーの間で「自分たちのやり方や価値観こそが正しい」という考えが強まり、それが態度や言動に表れます。

具体的には「自分はどんな環境でも活躍できるのに、なぜ他のメンバーはできないのか」という思考や「環境のせいにする奴は甘い」「自分みたいに何でもできる人材を採用すべきだ」といった傲慢な態度です。

一方で、新しく加わったメンバーはこうした態度に強い違和感を覚えます。「最初からできる人なんていない。環境や経験が人を育てるんだ」と。しかし、そうした意見が初期メンバーに届かず組織内の分断が深まっていくのです。

また、組織の急速な拡大に見合ったマネジメント体制の整備が追いつかないことも、組織全体の雰囲気を悪化させる要因となる。特にスタートアップの組織的な摩擦は、多くの場合「ミドルマネジメントの問題」から生じやすいと坂井氏は指摘する。

提供:株式会社Momentor

坂井通常、組織が30人を超えると経営層の目が行き届かなくなるため、ミドルマネージャーの導入が必要になります。しかし、各ミドルマネージャーが独立した「島」をつくることで、チーム間でマネジメントの質のバラつきが生じ、組織全体がギクシャクし始めるんです。

一般的に、マネージャーの役割には、目標に向けて業務の進捗を管理・推進する「目標達成機能」と、チームワークを維持・強化する「集団維持機能」の二つがある。

坂井多くのスタートアップでは成長に伴う業績向上のプレッシャーから「目標達成機能」に焦点を当てがちです。しかし、「集団維持」を疎かにすると組織の一体感が失われていくんです。つまり、火消し作業に追われて肝心の事業成長にリソースを割けなくなる。

結局のところ、組織の問題解決に費やす時間を最小限に抑えなければ顧客価値を生み出すことはできません。だからこそ、早い段階でしっかりしたマネジメント基盤をつくることが重要なんです。

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バリュー策定は手段。
あくまで事業を加速するためのドライバーである

こうした組織崩壊の危機に対し、先手を打ったアプローチを取っているのがCloudbaseだ。

同社は30人規模という早い段階から組織基盤の構築に着手。坂井氏はこの取り組みについて、「組織が拡大してからのカルチャー変革は難度が高い。Cloudbaseのような早期からの対策実行は、後手に回るよりもはるかに効率的で効果的だ」と高く評価する。

提供:株式会社Momentor

では、組織崩壊のリスクに対し、Cloudbaseはどのように対応しているのか。その鍵は、経営者が強く納得したバリューを組織全体に徹底して浸透させることにある。

CEOの岩佐氏は、同社の2つのバリュー「Unlock」と「With」を次のように説明する。

提供:Cloudbase株式会社

岩佐「Unlock」は、無意識の制約から自分を解放することです。スタートアップでは何かを実行しようとするとできない理由が100個、できる理由が2〜3個といった状況に直面することがあります。

私たちは、その少ない「できる理由」を全員で信じ、それを正解にしていくんです。もちろんリスクを洗い出すことは大事ですが、できる理由を積み重ねて昨日とは違う明日を実現しようとしています。

「With」は、前置詞で後ろに何を置いてもいいんです。お客様、メンバー、投資家、家族など誰とでも肩を組んで同じ景色を見ようという意味です。

さらに、私たちは「時空を超える」という表現も使い、まだ見ぬ未来の相手もWithの対象としています。現在だけでなく未来のお客様や仲間と共に歩む姿勢も大事にしているのです。

これらのバリューは単なる標語ではない。詳細は後述するが、Cloudbaseでは2つのバリューを組織の隅々まで浸透させることで、組織崩壊のリスクに対応しようとしている。

そんなバリューの策定と実践、これは多くの企業が直面する課題だ。現在はCloudbaseでコーポレート責任者を務め、コンサルティングファームやメガベンチャーを渡り歩いてきた石原氏は、自身の経験を踏まえて次のように語る。

石原バリューは企業の事業成長を加速させるためのドライバーであり、それ自体が目的ではありません。特に、リソースの限られたスタートアップでは組織全体が一丸となって同じ方向に進むための指針となります。

しかし、多くの企業ではバリューの策定と浸透が切り離されてしまう傾向にあるのではと感じています。経営陣が策定に力を入れても、「あとはよろしく」と他人任せになりがちで、その後の実践方法が不明確なまま終わってしまうケースが少なくない印象を受けています。

坂井その通りです。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は、それ自体では単なる物理的な人工物に過ぎません。重要なのは、その土台となる組織基盤、つまり理論的に言えば行動ルーティンと組織理念の整備です。これが先行していないとMVVは形骸化してしまいます。

ハリボテのMVVというのは本当によくあるパターンです。立派なオフィスを構えて華々しくMVVを掲げていても、実態とかけ離れていたり、経営陣自身が実践できていなかったりなど──。

提供:株式会社Momentor

坂井そもそもの組織基盤、つまり理論と日々のコミュニケーションが整っていない場合、MVVは血の通ったシステムにはなりません。形だけのMVVはむしろ組織に悪影響を及ぼす可能性すらあるんです。

ここまででバリューの策定とその重要性については見えてきたが、次はどのようにバリューを組織に浸透させ実践していくのかが課題となる。Cloudbaseではこの課題に対してどのようなアプローチを取っているのだろうか。

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ファウンダーによるバリュー体現こそが、組織浸透の鍵を握る

Cloudbaseのバリュー浸透への取り組みは、日々の業務への落とし込みから始まる。そのためにバリューの策定時からどのように実践するかを考え、実行可能な施策を設計しているという徹底ぶりだ。

石原よく皆さんから「バリュー浸透の決め手はなんですか?」と聞かれるんですが、正直に言うとそんな「銀の弾丸」のように一発で解決できるような特効薬はないんです。

事業やプロダクトを良くしていくのと同じで、小さな施策を愚直に続けて、その効果を見て、また改善する。そのサイクルを回しつづけることが大事だと思っています。

それと、絶対に外せないポイントは、経営陣を含むキーパーソンが本気でバリューにコミットし続けることです。特にスタートアップではファウンダーの役割が重要です。創業者が本気でバリューを信じ、実践するからこそ組織全体に浸透し、力を発揮できるんです。

Cloudbaseでは、バリューの策定において細部まで岩佐氏が決定権を握る。これは単なる形式的な手続きではない。創業者の本心とズレたバリューは実際の運用段階で綻びが出てしまうからだ。

石原よくある話ですが、多くの企業ではバリューの重要性を説きながら「この人は問題があるけど、成果は出しているからな…」と見逃してしまうケースがあります。しかし、岩佐はバリューを守れなければCloudbaseのあるべきメンバーの姿として認めません。全メンバーの前で「どんなに優秀で成果を上げている人でも、バリューを体現していなければ、成果を出しているとはみなしません」と言うほどです。

特に事業のフェーズが進み、投資家からプレッシャーが強まると、早期の上場や短期的な売上を求めて個別のケースで例外をつくってしまうケースもあるでしょう。しかし、岩佐は絶対にそこから逃げず、自ら発信してバリューに基づいた意思決定を貫いていく。だからこそ、Cloudbaseではダブルスタンダードにならないんです。

バリューに対する揺るぎない姿勢について岩佐氏は次のように話す。

岩佐「バリューを守るのが前提だ」と言えるのは、誰に対しても胸を張ってそう言えるという覚悟があるからです。

「With」の観点から、メンバー、お客様、投資家、そして将来のCloudbaseにとって良い選択だと判断すれば、個別の事象があっても揺らぐことはないですね。

坂井岩佐さんの姿勢で特筆すべきなのは、このようにミッションやバリューにひたむきで一生懸命である一方で、「自分が全てだ」といった傲慢さが一切ないことです。

この謙虚さと熱意のバランスが、「With」というバリューを通じて組織全体に利他的なカルチャーを生み出していると感じますね。

提供:株式会社Momentor

坂井また、Cloudbaseは「理念」と「実際の行動」も一致しています。多くのスタートアップでは、採用強化のため対外的なイメージを良く見せようとするあまり実態との乖離が生じがちですが、Cloudbaseの場合は外部に見せている姿勢と内部に違いはありません。

Cloudbaseが際立っているのは、バリューが経営者の人格と一致するだけでなく、それを組織運用で徹底していること。言葉だけでなく行動で示していることこそが何より大事ですよね。

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バリューに反する行為を指摘し合える。
これぞバリュー浸透の証拠

Cloudbaseでは、バリューを組織に根付かせるため複数の施策を展開している。

岩佐私たちが最も重視しているのは、メンバー一人ひとりがバリューを自分の業務に紐づけて、当事者意識を持つことです。

そのため「Unlock」と「With」は解釈の幅を広げられるように、あえて抽象的な表現にしており、各自が自分の立場や業務に応じて解釈し、実践できるようにしているんです。

こうした理念を実現するために、Cloudbaseはオンボーディング時にバリューのワークショップを導入している。1回1時間のワークショップを、入社1ヶ月目、2ヶ月目、3ヶ月目の節目に1回ずつ実施。仕事から一度離れてバリューについて考える場をつくっているのだ。

提供:Cloudbase株式会社

岩佐各回でテーマは異なるのですが、とある回では「誰がどうやってWithを発露しているか」「誰のどのような行動がUnlockだったのか」をそれぞれが発表していきました。

単に相手に感謝を伝えるだけでなく、バリューを具体的な行動指針として体感値で捉えられるようにしていくのです。

そして次に挙げた取り組みが「バリュースピーチ」だ。

提供:Cloudbase株式会社

これは、より日常的にバリューの共有と実践を促すための施策で、隔週の全社定例会議で行われる。メンバーがバリューに関する自身の考えや、「いいな」と思った事例を共有する場となっているのだ。石原氏は、この施策の効果を示すエピソードを語った。

石原先日、あるエンジニアが「経営陣によるSlack上の議論」を例にバリュースピーチを行いまして──。

その議論では、CEO岩佐とCTO宮川の間でややトゲのある言葉のやり取りがあり、それに対して私が「これはWithのバリューに反しているのでは?」とフィードバックしたんです。すると二人は即座に「申し訳ない。確かにバリューにフィットしていなかった」と認め、すぐに態度を改めたのです。

この一連のやり取りを見ていたエンジニアが「経営陣自らがバリューを体現し、指摘を素直に受け入れる姿勢が素晴らしいと思った。自分も見習いたい」と見解を述べてくれたんです。

このエピソードは、Cloudbaseのバリューが単なる言葉だけでなく、組織の上層部から率先してバリューを実践していることがよくわかる事例ではないだろうか。

さらに同社は日常的なバリューの共有の仕組みとして「waiwaiチャンネル」なるSlackチャンネルを活用している。これは社内でバリューを体現している人を見つけたら互いに褒め合う場として用いられている。

提供:Cloudbase株式会社

石原この取り組みにより、バリューの実践が日常的に可視化され、メンバー間で共有されます。全社定例会議の冒頭5分間だけでも70件もの投稿があったほどです。

バリューの浸透度とは、、こうした日常的なやりとりで見えてくると思うんです。

何か問題が起きたときに「これはバリューに反しているのでは?」とメンバー同士でフィードバックし合うことができ、そういった指摘をオープンの場でおこなえる組織カルチャーこそ、バリューが真に根付いている証だと考えています。

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数百〜数千人規模の組織でもワークする、“組織理論を修めた”ミドルマネージャーの存在

Cloudbaseのバリューの浸透への取り組みは、確かに効果を上げているように見える。しかし、こうした取り組みは現在の30人規模の組織だからこそ可能なのではないか──。そんな疑問を持つ読者もいるだろう。では、100人、200人、300人規模になってもこのような組織カルチャーを維持できるのだろうか。

この点について坂井氏は組織規模の拡大期における対策を次のように語る。

坂井先ほどもお話しした通り、多くのスタートアップでは組織の拡大期にミドルマネジメントの問題に直面します。この問題を回避するには、ミドルマネージャーが組織理論を体系的に理解することが重要です。

成功している大企業では、ミドルマネージャーの組織理論の引き出しがとにかく広く、何か起きたときに理論に基づいて説明できる状態になっている。そうなれば、たとえ3,000人規模まで組織が拡大してもうまく機能しますね。

しかし、組織拡大に伴い懸念も生じる。人数が増えればバリューの解釈にバラつきが生じたり、その重要性が薄れたりするリスクだ。坂井氏は、この課題に対する解決策として「理屈の強度を上げる」ことを提案する。

坂井例えば、「Unlock」を組織理論と結び付けるとその重要性がより明確になります。Unlockは「これまでのやり方を疑い新しい方法を探る」という姿勢を促すものですね。組織論ではこれを「ダブルループ学習*」と呼びます。

*「ダブルループ学習」は既存のルールや前提自体を見直して変革を促すプロセス。対し、シングルループ活動は既存のルールや前提を維持したまま問題を解決するプロセス。

簡単に言えば、「今のやり方が本当に正しいのか?」と立ち止まって考える習慣です。この姿勢がないと、組織は変化に対応できずイノベーションも起こせません。

「Unlock」はまさにこの考え方を促すバリューなんです。そしてこうした姿勢を持つには失敗を恐れない環境、つまり「心理的安全性」が必要です。これは謙虚なリーダーシップや自分の無知を認める勇気(知的謙虚さ)によって生まれてくる。

こうした理論的な裏付けがあると「なるほど、これはCloudbaseだけの話ではないんだな」と、組織が大きくなっても、新メンバーにバリューの重要性が伝わりやすくなります。多くの人が「確かに自分も経験したことがある」と共感できるとバリューがローコンテキスト(普遍的な原則)化できるというわけですね。

この様に、Cloudbaseは「理論的な裏付け」の重要性を認識し、組織拡大に伴う課題を見越して早い段階から対策を講じていることが分かるだろう。

岩佐前述の通り、私たちは30人規模の時点から、ミドルマネージャーだけでなく幅広い層のメンバーが坂井さんのマネジメントプログラムを受講しています。

このプログラムを通じてメンバー間に共通言語が生まれました。論理的な説明により、「なるほど、あれってこういうことだったのか」とまるで予備校の授業のように腹落ちする瞬間が何度もあって。このタイミングで研修を取り入れたことは非常に効果的でしたよね。

石原そうですね。坂井さんのプログラムは徹底的に体系化されているので再現性がありますよね。

例えばマネージャー同士で「今、組織効力感が薄れているな。そのためにはどうすればいいんだっけ」と課題に対して共通認識を持って臨めるため対応がぶれにくくなる。それにより、組織課題への対応時間を極小化できています。

坂井カルチャー投資やマネジメント投資は効果が見えにくいものですが、これらへの投資は組織の非効率化を減らし、意思決定のスピードを上げるために重要なんです。

例えば、「本当は戦略を転換した方がいいけれど、事業部長をどう説得していいかわからない…」となると決断が遅れ、3ヶ月も時間を浪費するケースがあります。

そうしたときに、バリューである「With」を基に「この事業はお客さんが喜ぶためにやっているの?」と問いかければスパッと合意形成ができ、事業展開のスピードアップにつながるのです。

Cloudbaseが早い段階からマネジメント教育に力を入れている理由は、組織拡大後も一貫した意思決定と迅速な行動ができるようにするためでもあるんですよね。

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MVV浸透のための3本柱
「ナラティブ」「エピソード記憶」「口癖化」

Cloudbaseの事例を踏まえ、他のスタートアップも明日から実践できるMVV浸透方法はあるのだろうか。坂井氏はCloudbaseが実践している3つの柱を提案する。

坂井Cloudbaseが実践する「ナラティブ」「エピソード記憶」「口癖化」といったアプローチは、どの組織でも有効だと思います。

「ナラティブ」は、各メンバーがバリューの重要性を自分の言葉で語り合うワークのことです。これによりバリューの個人的な解釈と意味づけが促進されます。

「エピソード記憶」は、バリューを具体的な行動として記憶に残すことです。例えばリッツ・カールトンは、多くの人がバリューを知らなくてお客様を大切にする逸話を耳にしたことがあるでしょう。これはバリューが単なる理念に留まらず、組織に浸透している証拠です。

「口癖化」は、バリューを日常的に口にすることです。周囲の反応にかかわらず常にバリューを意識するきっかけになります。

しかし、坂井氏はこれらのテクニカルなアプローチ以上に重要なのは経営者の姿勢だとくり返し強調する。

坂井結局のところ、組織は上流から変わっていくんです。ファウンダーやリーダーがMVVを率先垂範できるか、心の底から信じているか、嘘偽りないかが最も重要です。そこへの問いかけがファーストステップになるでしょう。

さらに坂井氏は、リーダーシップと組織カルチャーの関係について掘り下げる。

坂井ある研究結果によると、リーダーが自身の信念や価値観を率直に表現することが、ビジョンの実行力を左右するそうです。

一般的に、経営者は「感情を悟られないようにむやみに表に出すべきではない」「周りとは距離を置くべきだ」という考え方がありますが、私はそれが正しいとは思いません。もちろん、すべての感情をむやみに表に出すべきではありませんが、本当に成し遂げたいことは表に出してもいいのではと。この区別ができれば、より効果的なリーダーシップが発揮されるはずです。

Cloudbaseの岩佐さんは、まさにリーダーの真正性を体現していますよね。明るく前向きに本当にミッションを成し遂げようとしている姿勢がメンバーの共感を呼び、強い組織カルチャーを形成しています。

しかし、こうした文化は一朝一夕ではつくれません。石原さんのような実務者による地道な仕組みづくりも重要です。リーダーの真正性と、それを具現化する組織的な取り組みが一体となって初めてバリューに深く紐づくのです。

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坂井氏「私が20代半ばなら、Cloudbaseを転職先の候補にする」

ここまでCloudbaseの組織づくりとバリュー浸透への取り組みを見てきたが、それは単なる社内施策にとどまらず、日本のテクノロジー産業全体を見据えた壮大なビジョンと密接に結び付いている。

岩佐氏はミッションに込める想いを次のように語る。

岩佐失われた30年、沈みゆく日本と言われる中で、私たちは日本の大企業から世界で通用するような偉大なサービスが次々と生まれる時代をつくりたいと思っています。

しかし現状、日本はテクノロジーで遅れを取っており、大企業はさまざまな制約からスピーディーな開発やサービス展開ができていないという課題があります。

私たちが目指すのは「攻めの部分」です。セキュリティを担保しつつ、日本企業のテクノロジーを加速させて、世界で戦える体制を整えること。それがCloudbaseの使命です。

提供:Cloudbase株式会社

Cloudbaseは、クラウドセキュリティという切り口から日本の大企業のテクノロジー変革を後押しし、国際競争力を高めるという挑戦を続けている。

創業からわずか5年、サービスリリースから2年で、既に日本の名だたる大企業を中心に多くの顧客を獲得し、急速な成長を遂げている。

提供:Cloudbase株式会社

この成長の核心にあるのが、今回見てきた「Unlock」と「With」という2つのバリューを軸とした独自の組織カルチャーだ。そんなCloudbaseの魅力を坂井氏はあらためてこう評する。

坂井これまで多くの企業を見てきましたが、20〜30代のスタートアップ人材にとってCloudbaseは魅力的な選択肢になり得ると自信を持って言えます。優秀なメンバーや投資家陣がそれを裏付けている。

確かに、事業領域の難しさを感じるかもしれません。しかし、Cloudbaseはまだまだ成長段階にあり、そこに大きなチャンスがある。私がもし今、20代半ばであれば転職の大きな選択肢になっていたと思いますね。

「当たり前を疑う姿勢」「顧客や仲間への誠実さ」といった価値観に共感できる方にとっては居心地のいい、最高の環境になると思います。

一方、石原氏は組織づくりの本質的な役割についての視点を提供する。

石原組織やHRはあくまでも事業やプロダクトを伸ばすために、一人ひとりの生産性を最大化させるサポーター的な役割であり、そこからぶれてはいけないと思っています。

例えば採用は、その方がジョインすることが価値ではなく、その方が活躍することが価値なんです。マネジメントプログラムも、やることが価値なのではなく、それによって事業に向き合えるリソースが拡大し、事業成長につながることが価値なのです。

私たちはまだまだできていないことが多いのですが、こうした考え方に「面白いな」と興味を持っていただいた方は、ぜひCloudbaseのドアをノックしてほしいです。

そして、最後に岩佐氏は熱を込めてこう締めくくった。

岩佐スタートアップを選ぶ理由は論理的なものだけでは片づけられないと思うんです。

社会へのインパクトや高い給与を提供する会社は他にもあるでしょう。私たちである理由は「これを大事にし、これを目指す」という価値観の共有にあります。だからこそ、バリューやミッションが非常に大事なんです。

私たちが目指すのは、Cloudbaseが大きくなることはもちろん、日本の大企業から世界的なサービスが生まれ、スタートアップのエコシステムが強化され、1兆円企業が当たり前になる、そんな未来です。

Cloudbaseで共に歩む方はもちろん、他のスタートアップで挑戦する方も含めて、私たちは同じ志を持つ仲間だと考えています。その上で、Cloudbaseにポテンシャルを感じ、選んでいただけたら嬉しいです。

Cloudbaseの事例は、バリューを単なる掛け声で終わらせない組織づくりの重要性を示していた。

経営者の揺るぎない信念、それを支える理論的裏付け、そして日々の地道な実践。これらが揃って初めて強固な組織カルチャーが築かれる。急成長するスタートアップにとってこの教訓は今後の組織づくりに大きな示唆を与えるだろう。

同社の姿勢は、価値観を共有し合い挑戦を求める者にとって最高な環境となるはずだ。もし、この記事を通じてCloudbaseの挑戦に興味を持ったものは、ぜひ下記の連載もチェックしてみてほしい。プロダクト・レベニュー(ビジネス)・コーポレートに投資家と、それぞれがどんな想いで事業に取り組んでいるかが具体的なエピソードも交えて掴める内容となっている。

ぜひ、君の手でCloudbaseの成長を加速させてみないか?

こちらの記事は2024年09月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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