「私もCloudbaseの営業をやってみたい」──DNXとCloudbase対談にみる、起業家と投資家が紡ぐ“With”な関係

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インタビュイー
岩佐 晃也

1996年生まれ。10歳からプログラミングをはじめ、特にセキュリティ関連に興味をもつ。学生時代からさまざまなサービスを開発し、京都大学工学部情報学科在籍時の2019年11月にLevetty(現・Cloudbase)を創業し、現職。

倉林 陽

富士通、三井物産にて日米のITテクノロジー分野でのベンチャー投資、事業開発を担当。MBA留学後はGlobespan Capital Partners、Salesforce Venturesで日本代表を歴任。2015年にDNX Venturesに参画し、2020年よりManaging Partner & Head of Japanに就任。これまでの主な投資先はSansan、マネーフォワード、アンドパッド、カケハシ、データX、テックタッチ、コミューン、FLUX、ナレッジワーク等。同志社大学総合政策科学研究科博士後期課程修了、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営大学院修了(MBA)、一橋大学法科大学院ビジネスロー専攻修了。著書「コーポレートベンチャーキャピタルの実務」(中央経済社)

新田 修平

京都大学経済学部卒業後、野村證券株式会社に入社。投資銀行部門にて、素材エネルギーセクターやテクノロジーセクターのM&Aアドバイザリー業務に従事し、大型の業界再編やクロスボーダー案件、地方企業の事業承継など、多種多様なM&A案件を担当。また、人事部にて新卒採用も担当し、多くの採用イベントの企画・運営や採用面接に従事。2021年にThe University of Chicago Booth School of Business(MBA)をHonors degreeにて卒業。2022年よりDNX Venturesに参画。

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新産業領域で急成長を遂げるスタートアップに、事業成長の過程で得た学びやノウハウをシェアしてもらう──。

FastGrowではこのような姿勢でもって様々な起業家・経営者を取材しているが、毎回多くの示唆を提供してくれるのがCloudbaseだ。同社は2019年に設立され、大手エンプラ向けのクラウドセキュリティSaaSで市場を席巻する、押しも押されぬスタートアップである。

これまでの連載では「スタートアップの通説に惑わされない事業づくり」「期待値調整の罠に嵌まらない社内コミュニケーション」「ツテなしコネなしの状態から築く大手エンプラとの関係」「掲げて終わりにしないバリューの運用方法」など、読者が明日から活用できる事業ノウハウが無数に飛び交った。

そして何より、どの取材においても一貫していたミッション・バリューへの深い共感と体現。ここに惹かれて「自分もCloudbaseで挑戦してみたい」と感じた者もいるはずだ。

一方で、疑り深い読者の中には「今後も伸びていくのか?」「自身が挑戦する余白はまだ残されているのか?」と思う者もいるかもしれない。

そこで今回は連載の最後を飾る集大成として、Cloudbaseの創業期から伴走を続ける投資家・DNX Venturesの倉林氏、新田氏をお招きした。これまではCloudbase社内の人物による話であったが、今回は第三者視点の意見をもとに、あらためてCloudbaseの魅力や今後のポテンシャルを確かめていきたい。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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Sansan、マネフォ級のスタートアップを生み出す起業家に求められる3つの条件

DNX Ventures(以下、DNX)の倉林氏と言えば、Sansan、マネーフォワード、アンドパッド、カケハシなど、もはや説明不要、日本を代表するスタートアップへの豊富な投資実績を持つ投資家だ。無論、社会を変える優秀な起業家の要件にも精通しているはず。

そこでまずは倉林氏に、Sansanやマネーフォワード級のスタートアップを生み出す優れた起業家に必要な要素とは何かをうかがってみた。

倉林それは、「傾聴力」「考え抜く力」「人間的魅力」の3つを備えていることではないでしょうか。

DNXでは、「私たちがアントレプレナーに求めるもの」として重視している起業家の特徴を開示しています。そこでも明確に記載されていますが、起業家として大成する人は総じて「傾聴力」が高いです。

起業家として成功する上では、前職でいかにビジネスパーソンとしてエリートだったとしても、それだけでは十分とは言えません。ビジネスパーソンとして成功することと、アントレプレナーとして成功することはまったく別のチャレンジだからです。

前職での成功体験から、過度に自身の考えや価値観に固執していては周囲のアドバイスに素直に耳を傾けることができず、フラットな意思決定が難しくなることがあります。

倉林その点、Cloudbase・岩佐さんはこの「傾聴力」に優れていますよね。

例えば私が彼にフィードバックをすると、彼は必ずまずは「なるほど、そういった視点もあるのか」と一旦受け止めてくれます。しかもただ素直に聞き入れるだけでなく、その後の事業の意思決定に反映させるのかどうか、フラットに思考して活かしてくれています。

こちらからするとまるで“真っ白なキャンバスにすっと筆が入っていく”ような感覚を覚えるんです。

岩佐隣で聞いていると“こそばゆい”ですね(笑)どうもありがとうございます。

岩佐私は学生起業したため事業に関しては知らないことばかりなんです。なので陽さん(倉林氏)含め色んな方々から話を聞いて「そうなのか…!」と気づかされることが日常茶飯事です。

ただ、アドバイスを受けながらも目指すゴールから逆算して問いを立て、自ら考え抜いてから意思決定することは意識していますね。

(20代という若さでスタートアップ界の常識を覆し、圧倒的な事業成長を実現している岩佐氏の経営哲学について詳しく知りたい方はコチラ

倉林まさにその「考え抜く力」も起業家にとって大事な素質の2つ目だと思います。

例えば、投資先であるアンドパッドの代表取締役の稲田さんやカケハシ代表取締役CEOの中川さんなど、DNXの投資先を代表する経営者たちは皆「Deep Thinker」で、プライベートで食事をしている時も彼らの深い業界理解や課題解決に向けた思考の深さに驚かされます。

だからこそ、彼らの発言は一つひとつ切れ味が鋭い。DD(デューデリジェンス)の際の彼らのプレゼンテーションを思い返しても、緻密に練り上げられていたなと思います。

VCとしては、こうした事業課題やお客様を思うが故の深い思考を持つ起業家こそ支援していきたいですよね。正直、私が投資先を選定する際は初期的なTAMの大きさにはそれほど拘っていません。Sansanの寺田さんは名刺管理市場をゼロから作り上げましたし、バーティカルSaaSでは初期市場が限定的になるケースが多いため、SaaSで作り上げたdata moatを使った新規事業の発展可能性が会社の規模を決めていくことも多いです。

つまり、優れた起業家は持ち前の事業構想力、プロダクトビジョンで成長市場を創りだすんですよ。

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インテグリティやディープ・パーパスなき起業家では大きな事業は創れない

そして優れた起業家に必要な要素の3つ目が、「人間的魅力」だ。倉林氏は「インテグリティやディープ・パーパスに欠ける人物だと大きな事業や組織を創ることは難しい」と述べる。

倉林インテグリティやディープ・パーパスに欠ける起業家が、Sansanやマネーフォワード、カケハシといったレベルのスタートアップにまで事業を成長させようとするといずれ壁にぶち当たってしまいます。

起業家が事業を行う動機が社会のためなのか、それとも単なる自己顕示欲や自身の金銭的メリットのためなのか、共に働く優秀な人は見抜きますからね。当然ながら、私利私欲が見え隠れする起業家のもとに優秀な人は集まりません。そして優秀な人がいなければ事業を伸ばすことはできない。したがって、そのような起業家は日本で小規模な上場はできても、上述したようなスタートアップを創ることはできないんです。

ただこの見極めも容易ではありません。VCから投資を受ける際は誰しも最も良い顔を見せるものです。投資後に「あれ?この起業家は自分のために事業をやっているのかな…?」と本性が見えてしまうことも稀にある。これはVCだけでなく、そんな起業家のもとで働くメンバーにとってもがっかりする話ですよね。

その点、岩佐さんに対しては、まったく心配しませんでした。おそらくCloudbaseのステークホルダーは皆が共感してくれると思いますが、1年後に彼が調子に乗って夜の街で豪遊しているなんてあり得ないですからね(笑)。

岩佐それをしてたらマズイですね(笑)。

新田まったくイメージできない…。

倉林岩佐さんが掲げる想いに共感して、「この人を応援して一緒に頑張りたい」という優秀な仲間が大勢集まっていくだろうなと、そんな期待をさせてくれる「人間的魅力」を秘めているんですよね。

シード投資から約2年間、VCとしてCloudbaseおよび岩佐氏の成長を見てきたInvestment VPの新田氏も起業家・岩佐氏の「人間的魅力」について大きく頷く。

新田メガベンチャー出身者はもとより、「アジア太平洋情報オリンピック」や「未踏事業スーパークリエータ」などで活躍した20代のTOP技術者らが集結していることからも、岩佐さんの吸引力は強いですよね。

今の時代、優秀なエンジニアは人材市場で高く評価され、引く手数多の状態です。他にも魅力的な選択肢がある中でこれだけの優秀なエンジニアたちを仲間にできているというのは素晴らしいことで、代表である岩佐さんの「人間的魅力」の賜物なのでしょうね。

シード投資から2年ほどCloudbaseに伴走してきましたが、投資初期から彼の人間性はブレることがありません。

日本をリードしていく優れた起業家に必要な「傾聴力」「考え抜く力」「人間的魅力」。

Cloudbase・岩佐氏を事例にその意味するところを紐解いてきたが、読者諸君は持ち得ていただろうか?ぜひ、彼らの話から気づきを得ることができた者は、DNX Venturesが開示している「私たちがアントレプレナーに求めるもの」を意識してみると良いだろう。

提供:DNX Ventures

  1. 本気で、日本をアップデートするひと。
    ビジネスは、プロセスに過ぎない。イノベーションを生みだし、日本そして、その先の世界を変革していく。大きな志のある人たちを応援します。
  2. 可能性を、高めつづけるひと。
    決して驕らず、あらゆる声に耳を傾ける。スキルを高める。個人・組織として、成長意欲を持ちつづける人たちを応援します。
  3. 義憤に燃えて挑戦するひと。
    業界を支配する強敵に立ち向かう。挑戦しないことこそ、リスクと考える。イノベーションを信じ、前進しつづける人たちを応援します。
  4. 成功をわかちあえるひと。
    自分のためだけでなく、誰かのために。成功の独占者ではなく、社会全体の利益を考える。その先の社会変革までを見通す人たちを応援します。
  5. 姿勢と行動で語るひと。
    インテグリティ(高潔さ)を体現する。事業や社会に一途に向きあう。やるべきことを、やる。次世代の経営者の指針となる人たちを応援します。
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「指示」ではなく「選択肢の提示」が、起業家のオーナーシップを育む

Sansanやマネーフォワード級のスタートアップをつくる起業家の要件は明かされたが、そうした優れた起業家として成長していくために、岩佐氏はこれまでDNXからどのような支援を受けてきたのだろうか。

新田今だからこそ言えますが、シード投資当初のCloudbase経営陣(CEO岩佐氏COO小川氏CTO宮川氏)は20代中盤という若さゆえにビジネス経験が十分ではなく、事業を拡大していく上で必要な知識やノウハウに関して伸びしろを感じていました。

たらればにはなりますが、もし2年前の彼らからこの度のシリーズA投資の相談を受けていたら社内で投資検討に上げづらかったと思います。それくらいゼロからのスタートだったんです。

岩佐DNXさんには本当にお世話になりっぱなしです。

新田とんでもないです。岩佐さんたちが凄いのはそこからの学習力です。彼らは本気で事業・経営について学び、急速に成長してきていますからね。

我々が主催する投資先起業家向けのセミナーや勉強会に岩佐さんらをお呼びすると、どんな時も“最前列のど真ん中”に座るんです。しかも、全員揃ってコーポレートカラーでお馴染みのオレンジ色のTシャツやパーカーを着てくるので、とにかく会場で目立ってしまう(笑)。

提供:Cloudbase株式会社

新田そして岩佐さんたちはノートを広げペンを片手に“必ず"質問してきます。「勉強不足で恐縮ですが、これはどういう意味でしょうか?教えてください」と──。私は彼らのフレッシュな振る舞いや飽くなき向上心にいつも驚かされていました。

もともと地頭の良い方たちですので、我々の勉強会に限らず様々な機会を使って事業戦略や組織運営の知見を身につけていき、今日までの成長を遂げてきています。その成長ぶりを見ていると、「Cloudbaseは今後も間違いなく伸びていくだろうな」と思わざるを得ません。

こうしたDNXからの機会提供も相まって、起業家・岩佐氏を筆頭に経営陣は急成長。その結果、この2年間でプロダクトの品質も著しく向上した。

ユーザーにとって何が課題なのか、どのような機能が必要なのかを深く掘り下げ、課題解決に向けて真摯に取り組んできたCloudbase。その結果、エンタープライズ向けのプロダクトとして完成度を高め、スズキの導入を皮切りに大企業に広まったことが同社の急成長に拍車をかけた。

岩佐恥ずかしながら、2年前は自分たちが提供するSaaSの基本的な概念やフレームワークについてもほとんど分かっていませんでした。

例えば有名なビジネスモデルの「The Model」についても知らずに、その著者である福田 康隆さんをお招きいただいたDNXの勉強会では「代理店販売は本当に大事なんですか?」と初歩的な質問をしてしまったほどです…。それでも福田さんは丁寧に教えてくださり、「Cloudbaseの場合ならこうするとよいでしょう」と具体的なアドバイスまでしていただきました。

岩佐また、スズキの導入が決まった際、私たちはCS(カスタマーサクセス)の重要性にも気づいていませんでした。

そんな時、修平さん(新田氏)が「お客様がプロダクトをきちんと活用しているか把握しておかないと、チャーン(解約)のリスクがありますよ」「他のSaaS系スタートアップはどこもCSを立ち上げていますよ」とその必要性を教えてくださいました。

それも一度や二度ではなく、何度も情報を投げかけてくれていたのになかなか対応できていなかった自分たちを見かねて、「この資料にCSの立ち上げ方をまとめたので、ぜひ参考にしてください…!」と駆け込んでくださったこともありましたよね(笑)。

新田あの時は正直焦っていました(笑)。

こうした親身な伴走支援により、わずか3人からスタートしたCloudbaseは現在30人規模の組織へと成長を遂げている。

当初は「個の集まり」としてそれぞれの業務ミッションに基づき事業を進めていたが、現在は「組織」を主体としてチームで目標やビジョンを掲げ、それに基づいて自分たちが何をすべきかを考え、一人ひとりがオーナーシップを持って行動できるようになった。

このように組織として進化ができたのもDNXの支援のおかげだと岩佐氏は語る。

岩佐普通なら私たちの未熟な事業運営に口を出したくなると思うんです。それでも陽さんや修平さんは一切の口出しをせず、メリット・デメリットを添えて選択肢を提示するまでに徹してくださって、最後の意思決定はすべて委ねてくれていました。

もしお二人から「こういう機能をつくった方がいい」「次はこのサービスを始めたらどうか」と指示されていたら、ただ言われた通りに動く受け身の開発企業になっていたかもしれません。

シード期からこのような伴走支援を徹底してくださったからこそ、常に自分たちで考え抜いて意思決定するオーナーシップを備えることができた。言うなれば、私たちが自立できるように“子育て”をしてくださっているように感じています(笑)。

新田VCが起業家を育てるなんておこがましいですよ。冒頭で倉林が伝えたように、私たちVCが「起業家やスタートアップを成長させた」などとは断じて思っていません。

VCが出せる価値があるとすれば、それは複数の投資先企業から得られる集合知を提供できることです。その集合知を起点に起業家に問いを投げかけ、意思決定の材料にしてもらう。あくまでオーナーは岩佐さんであり、Cloudbaseですからね。

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DNX倉林氏の哲学に刺激を受け、Cloudbaseのバリュー「With」が生まれた

起業家・岩佐氏がVCであるDNXから得たものは事業成長のノウハウや、起業家としてのオーナーシップだけにとどまらない。よりコアな、岩佐氏自身の起業家としての人生観にまで大きな変化や成長をもたらしているとのこと。

起業家とVCが互いに刺激し合い、学び合うことでこのようなシナジーをも生み出すことができるというエピソードを2つ、ここでは紹介したい。

岩佐1つ目はシード投資の際です。陽さんから「この後のシリーズAでも最大10億円までは君たちに投資する用意がある。苦しい状況になっても必ず我々が支えるから」というお言葉を頂きました。

Cloudbaseを信頼してくれていることはもちろん嬉しかったのですが、もし私たち投資先が利益を生みだすことができなければ、DNXさんはLP(VCファンドに出資する投資家)に顔向けできないのではと思ったんです。

そこで陽さんに思いの丈を打ち明けてみたところ、「ベンチャーキャピタルだから全ての案件がうまくいくわけではないし、上手くいきそうな投資先に予算を集中させた方が、短期的なリターンも向上するかもしれません。でも、DNXは『私たちがアントレプレナーに求めるもの』に合致した投資先経営者の挑戦を最後まで支援することで、長期的な業界発展に寄与したいと思っている。苦しんでいる時こそ支援を厚くする。それが長期的な我々の評判に繋がり、優れた起業家に選んでいただく理由になると考えています」と答えてくれました。

陽さん率いるDNXの長期的な視野の広さを目の当たりにし、「起業家に対してそこまで考えてくれているのか…」と衝撃が走ったことを覚えています。

この体験が岩佐氏の起業家としての価値観をアップデートさせた──。

岩佐2年前の当時、Cloudbaseはまだバリューに「With」を掲げてはいませんでしたが、私は他者のために考え行動する「With」をビジネスで大事にしたいと考えていました。

しかし、資本主義のビジネスシーンにおいてこのようなスタンスを持つことはともすればいいように使われ、自分たちの首をしめる結果に成りかねないのではないかと思っていたんです。

ところが、陽さんはVCとしてLPから資金を預かり、経済リターンを狙うべき立場でありながら、短期的な損失を恐れずに長期的な視点で取り組み、多くの優秀な起業家たちから頼られている。これって「With」ではないかと。

であれば、Cloudbaseも目の前の顧客やVC、メンバーだけでなく、それこそメンバーの家族や時空を超えた未来の顧客や仲間たちにとっても「良い」と思えるものを目指せるのではないかと思ったんです。この気づきがあったからこそ、今のCloudbaseのバリュー「With」を掲げることができました。

提供:Cloudbase株式会社

続いて岩佐氏が印象に残ったエピソードとして挙げたのが、DNX主催の投資先向けイベント「SaaShip」でのことだ。

DNX Ventures投資先経営者勉強会|SaaShip 2024

その中のあるセッションにおいて、資本主義が人間性を奪う可能性を論じた東大・中島 隆博教授の著書『人の資本主義』が課題図書として取り上げられた。この図書を起用して、DNXから投資先の起業家たちに対し次のような問いが投げかけられた。

「スタートアップが急成長し、効率性や生産性を追求することは“人間性を失わせるリスク”があるのではないか。あなたたち起業家は、そのリスクの可能性にどう向き合うのか」──と。

岩佐いや待ってくださいと…(笑)。「VCであるあななたちが、起業家にそんなことを問いかけるの?」と呆然としました。

「とにかく起業家は上場まで一直線に向かっていけ(=そしてそのリターンをVCに与えよ)」と言われるとばかりに思っていたので…。ですが、その問いかけには深い理由がありました。

セッションのメッセージとしては、「起業家は上場後も高い視座を持って、日本や世の中のために貢献できる経営者になってほしい」というもので、それを実現するためには長く情熱の炎を燃やし続ける必要がある。そしてその土台になるのが自分の価値観や信念となる「哲学」だというのです。

この問いかけは私の心に深く刺さり、起業家として常に高い視座を持ち続けることの重要性に気づかせてくれる貴重な経験でした。

投資先限定の機会となかなかお目にかかれない貴重なエピソードであるが、なぜDNXはこうした場を起業家に提供するのだろうか。

倉林冒頭述べた通り、私が一貫して追求しているのは「日本のスタートアップエコシステムの健全な発展に寄与すること」です。

今、米国ではCreating Shared Valueの時代が到来しています。この流れを受けて、日本の起業家には事業の先にある社会的責任についても深く考え、自らの哲学を持ってスタートアップ経営に取り組んでもらいたい。だからこそ、その視座を引き上げられるようなセッションを定期的に開催しているんです。

そういうと偉そうに聞こえるかもしれませんが、こうした機会を通じてVCである我々も起業家から学ばせてもらうことが多いです。実際、前回の「SaaShip」ではSansanの寺田社長のお話から、私も大いに学ばせてもらいました。VCと起業家、お互いに手を取り合って一緒に考え、共に成長していきたいですよね。

こうしたDNXの支援体制について、取材に同席していたCloudbaseのコーポレート責任者であり、前職はカケハシ(DNXの投資先)で活躍していた石原氏はこう言及する。

「DNXさんなら支援の途中で梯子を外すようなことは絶対にしない」──。

「DNXのみなさんは起業家を甘やかすのではなく、時に厳しいフィードバックで私たちに気づきを与えてくれる。そして、最終的な判断を起業家に委ねる『起業家ファースト』を貫いている。私はVCとしてのそうした姿勢を心から信頼しています」と。

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顧客や社員のみならず、投資家とも「With」を紡ぐ

今回の取材では、「小さな市場で満足するな。もっと視野を広げろ。長期的な目線を持て」というDNXのメッセージに対し、必死に食らいつき成長を遂げていくCloudbase・岩佐氏の姿が印象的だった。

FastGrowとしてもぜひCloudbaseがSansanやマネーフォワードに次ぐ、いや超えていくスタートアップとして成長していく様を見届けたいと思うが、そんなCloudbaseの今後についてDNXはどのように見据え、支援していくのだろうか。

新田この2年間、Cloudbaseは国内エンタープライズ市場を切り開き、猛スピードで事業を伸ばしてきました。今後はさらなる進化に向けて組織の拡大が見込まれるため、「組織開発」や「組織マネジメント」が課題になると予想しています。

そこに向けた支援の一貫として、私はCloudbaseの全メンバーと1on1のインタビューを実施し、現状の課題をまとめ岩佐さんら経営陣にフィードバックしました。その際、メンバーはみな経営陣や組織に対して「自分がどんなコメントをすれば良いギフト(=フィードバック)になるだろう」と真剣に考えていたことが印象的でした。これもCloudbaseの大きな魅力、「With」の体現ですよね。

また、こうしたカルチャーだけでなくプロダクトの面でも今後さらなる成長が期待できると新田氏は続ける。

新田Cloudbaseは、AIやDX全盛の時代にクラウドセキュリティという重要な基盤となるサービスを提供しています。まさにこれからの時代に則したテーマですね。大企業を相手に高付加価値かつ社会的意義のある仕事ができるため、ここでチャレンジするメンバーにとってはエキサイティングで働きがいある環境ではないでしょうか。

倉林なんなら私もCloudbaseで営業をやってみたい(笑)。そう思える要因は、やはりCloudbaseに集まる優秀なエンジニアたちの存在でしょう。

スタートアップにとって優秀なエンジニアの採用は極めて難しく、多くの採用エージェンシーが苦戦しているところですよね。それだけに、Cloudbaseが優れたエンジニアをこれだけ多く抱えているということは、会社として大きな強みです。

Cloudbaseは、その強みを活かす形で事業を一から構築できるステージにあります。優れたプロダクトを武器にいかに顧客に価値を届けていくか。そう考えるとワクワクしますし、ビジネスサイドにも大きなチャンスがあると感じますね。

倉林最後に改めてになりますが、Cloudbaseがさらなる飛躍を遂げていくためにはやはり岩佐さんをはじめ3人の経営陣がどれだけ成長するかにかかっています。

そのための支援として、DNXの持つ知見は惜しみなく投入したいと思っています。また、日米の先輩経営者だけでなく、同じラウンドを終えたばかりの起業家同士を集め、事業の中で得た気づきを共有できる場をつくること。DNXコミュニティを通じて起業家同士で刺激し合い、より高い視座をもってチャレンジしてもらえればと思っています。

DNXからの期待を一身に受けるCloudbase。同社の代表兼・起業家の岩佐氏は未来の仲間に向けてこんなメッセージを送ってくれた。

岩佐繰り返しますが、私たちCloudbaseは「With」を大事にしています。顧客やVC、社員、そしてその家族、将来Cloudbaseに関わってくれる人たち、そうしたすべての方たちと一緒に事業を進めていきたいと考えています。

また、私たちはDNXさんのような素敵なVCにご支援いただいているので、一緒にスタートアップエコシステムのために取り組みたいと考えている人にとっても面白い環境だと思っています。

ぜひ、DNXさんを筆頭に多くのステークホルダーと手を取り合いながら、一緒に挑戦していける仲間が増えてくれると嬉しいです。

提供:Cloudbase株式会社

今回の対談を通じて、CloudbaseとDNXの間に築かれている強固なパートナーシップが、Cloudbaseの飛躍的な成長を支える原動力になっていることが感じられた。

これまでの取材では同社がメンバーや顧客、新たな仲間に対して「With」の姿勢を重んじていることを伝えてきたが、今回はVCとの間にも「With」の関係性が築かれていることが伝わったかと思う。

CloudbaseとDNXのように、VCが起業家の成長を長期的な視点で支援していく関係性は日本のスタートアップエコシステムの発展にも大きく貢献していくはず。そんな両者の強固なパートナーシップを通じて、Cloudbaseは今後も急成長を遂げていくだろう。そんな期待が高まる取材であった。

最後に、Cloudbaseの魅力をまとめた過去の取材記事を列挙してみる。同社の挑戦をより深く理解するもよし。同社のような急成長を描くためのノウハウを学ぶもよし。ぜひ参考にしてみてほしい。

こちらの記事は2024年07月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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