「Salesforceでビラ配り」するほど泥臭く──UPWARD金木が見せる、「投資したいと思わせる経営者」の背中【DNX倉林の事業洞察 #01】

インタビュイー
倉林 陽

富士通、三井物産にて日米のITテクノロジー分野でのベンチャー投資、事業開発を担当。MBA留学後はGlobespan Capital Partners、Salesforce Venturesで日本代表を歴任。2015年にDNX Venturesに参画し、2020年よりManaging Partner & Head of Japanに就任。これまでの主な投資先はSansan、マネーフォワード、アンドパッド、カケハシ、データX、テックタッチ、コミューン、FLUX、ナレッジワーク等。同志社大学総合政策科学研究科博士後期課程修了、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営大学院修了(MBA)、一橋大学法科大学院ビジネスロー専攻修了。著書「コーポレートベンチャーキャピタルの実務」(中央経済社)

金木 竜介

1973年東京都生まれ。LBS(位置情報サービス:location-based service)やGIS(地理情報システム:Geographic Information System)に精通し、これまでに200以上のGIS関連システムを構築。国内初となるSalesforceと地図や位置情報を高度に連携させた、セールスエンゲージメントSaaS「UPWARD(アップワード)」を創業。現在、大手企業を中心に約400社に導入されており、フィールドセールス向けのクラウドサービスとしては国内トップシェアを誇る。

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「振り返ると、ハードシングスは5つありました」と振り返るのが、今回話を聞いた金木氏。もともとは1人の営業メンバーとして入社し、めきめきと成果を出して気がつけばCOOとなり、前代表から引き継ぎ現UPWARDのCEOになった。一時は会社としてかなり苦しい時期もあったが、乗り越えた今のUPWARDは急成長中。

その裏には、10年に及ぶCEOと投資家の深い関係があった。UPWARD CEOの金木氏、そしてDNX Venturesの倉林氏。倉林氏はDNX Venturesのマネージングパートナーに就任する以前のSalesforce Venturesの時代からVCとして支援を行っている。それだけでなく、お互いに友人であり、良き相談相手でもある。

VCとして百戦錬磨の倉林氏は、UPWARDへのDNXからの投資は彼にとってはじめてのダウンラウンド*での追加投資だったという。

ダウンラウンドでの投資にはネガティブな印象があるが、倉林氏は「金木さんが投資したいと思わせてくれた」と振り返る。

なぜ倉林氏は追加投資を決めたのか?そしてUPWARDは再創業後、どうやって事業を伸ばしたのか?その根幹にあるのは、金木氏自身の事業に掛ける覚悟と、展開するモバイルCRM(CRM:顧客管理システム)の筋の良さだ。

危機を乗り越え、事業をグロースさせるために必要なエッセンスを、金木氏の背中から学びたい。

  • TEXT BY TOSHIYA ISOBE
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サンフランシスコでの出会いと、運命の中目黒

二人の出会いは、遡ること10年前の2012年。カリフォルニア州サンフランシスコで行われていた、Salesforce主催のイベントであるDreamforceだった。金木氏はUPWARDの前身となる会社のCOOとして参加しており、そこで当時Salesforce Venturesの日本代表だった倉林氏に出会った。

金木倉林さんのことはなんとなく知っていたくらいでしたが、とても無邪気に「投資してくださいよ〜」なんて言ってしまって(笑)。私は当時、だいぶチャラく、怖いもの知らずでしたね。

帰国後、当時の代表と具体的な話を進めて、正式に投資の相談をさせていただきました。

倉林チャラいというか、おしゃれでセンスある人だというのが第一印象ですね。コミュニケーションに配慮が感じられて会話がスムーズでしたよ。懐かしいですね(笑)。

当時、私はSalesforce Venturesの日本代表になったばかりで、とにかく投資機会を探していたんです。そこで金木さんから投資の相談を受け、出会った次の年の2013年に投資をさせていただきました。

このときはCVCと投資先企業のメンバーという関係だった2人。Salesforceのパートナーアプリケーションだったこともあり、最初の投資は比較的スムーズに進む。2013年に総額6,000万円を調達した。さらに翌年、VCから総額9,000万円を調達する。

それから時が経ち、金木氏は2016年にUPWARDの代表取締役社長 CEOとなる。だが、事業も順調に伸び……とはならず、最大の危機を迎えていた。

そう、この危機を、二人がいかにして乗り越えたのか。それがこの記事のメインストーリーだ。

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会社存続の危機で試された金木氏の覚悟と、モバイルCRMの筋の良さ

創業期の調達から数年が経ちつつも、SaaS開発と受託開発を両輪で行っており、受託で作った資金をSaaS開発に充てる状況から抜け出せずにいた。しかしキャッシュが徐々に減っていき、会社の存続が厳しいくらいのバーン間近の状況に陥る。それが2016年、金木氏が代表となった頃のUPWARDだった。

金木資金が尽きるまであと数か月となり、資金繰りをなんとかやって延命をしていました。まだ納品していないお客さんに先に支払いをお願いしたり、様々な会社の資産の整理をして売れるものを探したり……。

いろいろ取り組んだ中でも一番きつかったのは、人員削減です。時間の余裕がほとんどない中で、退職するメンバー一人ひとりの就職先を探して提案していたんです。カッコつけたかったんでしょうね。そこまでやれば、わかってくれる、許してくれるんじゃないかと思っていました。今思えばいろいろな考え方が甘かったですね。

そんな中、わらにもすがる想いで連絡した投資家が、倉林氏だった。半ば懇願する形で、追加投資を相談。二人とも色濃く記憶に残る2015年12月28日、場所は中目黒だった。

金木何度も連絡をして頭を下げて、文字通り泣きつきました。

すると、体制や施策に対しての厳しい言葉も頂いたけれど、「3,000万円くらいだったら検討できるかもしれません」と言ってくれて。そして数日後、倉林さんが資料を改めてじっくり読み込んで、「事業、やっぱり良いですね」と連絡をくれたんです。とても嬉しかった。

1カ月も経たないうちに、投資してくれると言ってもらえて。この時も、朝から泣きましたね(笑)。

かなり苦しい状況にあったUPWARDと、それを率いる金木氏。当時のUPWARDの事業はどちらかといえば伸びているものの、資金確保の見通しは立っていなかった。

このエピソードを聞いて、金木氏の懇願を受け、感情的に応援したい気持ちもあったのではないかと想像した読者も少なくないのではないだろうか。だとしたら、それは誤解である。倉林氏の投資判断の軸は、あくまでも事業が先だった。

倉林モバイルCRMという事業領域は、やはり魅力的でした。冷静に考えて、需要がないわけがない。

当時はまだニッチ扱いされていましたが、顧客に関する情報入力はモバイルでやれたほうが利便性が高くなるはず。当時の日本では早すぎたサービスだったのかもしれませんが、潜在的な可能性を感じたんです。

また、すでに大企業に使われているというのもポイントでした。今でこそよく言われることですが、SaaSを大企業(エンタープライズ)に使ってもらうことってなかなか難しいですよね。そこをクリアしている部分があったわけなので、成長の余地がまだまだあるんじゃないか。そう感じて、ピッチ資料にレビューを入れて、投資する方向で調整を始めました。

倉林氏は、金木氏が会社を存続させるためにあらゆる措置を講じているのも知っていた。金木氏の覚悟を痛感した倉林氏は、どうにか投資ができるようにと手を尽くす。

倉林金木さんには本当によくやってもらったと思います。金木さんは創業者ではないですが、社員からの信頼も厚く、人間性も素晴らしかったので求心力がありました。

いざ金木さんがCEOになると決まったものの、当時はまだ株も持っておらず、会社としてもキャッシュがない状態なのに、億単位の借金を背負って、「人生をかけて取り組む」と言っていた。物凄い責任感と覚悟に心を動かされた側面は当然あります。経営者のTenacity(執念)は大事な評価項目ですから。それと、事業の評価は別物ですが。

また、さまざまな対応策を逃げずに講じていたことも、非常にポジティブだったと振り返る。

倉林金木さんはMRRが500万円くらいでもまかなえるくらいにコスト削減をして、数カ月間キャッシュが続く状態をつくりあげました。地獄の作業ですよね。

そんな姿を見て、私も期待に応えられるよう、年末年始で60〜70枚くらいの説明資料を作って、社内で説明しました。私にとって初めてのダウンラウンド*だったのですが、事業は面白いし、金木さんのエクゼキューション力も高く評価しました。ただ、立ち上がりにはどうしても時間がかかるので、少額投資では事態を大きく変えることは難しい。投資すると決めたのであれば、一定規模以上のキャッシュが必要と考え、最初は5,000万円の投資で決着させようと思っていたものの、最終的には1.5億円でGPメンバーの了解を取りました。

*……前回の資金調達(増資)実施時よりも低い評価額に基づいて資金調達を実施すること

金木倉林さんとは、事業のディスカッションをしていてもプライベートな話をしていても、リズムが合うと感じました。そうした背景もあって、ピンチだからこそ、倉林さんに是非とも投資をしてほしいと思っていました。

特に感じていたのが、倉林さんの事業を見る力。KPIや経営者のスペックなど上っ面なところで判断をする人が多い中で、倉林さんはいつも事業の本質を見てくれたんです。

倉林先程も言いましたが、UPWARDの事業はモバイルCRM。時代のど真ん中のビジネスです。しかも、Salesforceのパートナー企業であったこともあり、大企業に採用されているので、今後の成長の効率性も高い。金木さんがCEOになったタイミングでは、十分成長可能性があると思いました。

VCなら、経営者の能力と、業界の将来の方向性に対する仮説を踏まえて、まだ数字は伸びていない状況でも、事業の可能性を信じられるかどうかが大事だと思います。

ただ、状況が状況だけに、投資する理由を論理的に構築し、説明し、納得してもらうのは正直、難易度が高かった。年末の人通りの多い中目黒の駅前、2人で向かい合って話し合いをした時に、金木さんが物凄い迫力だったので、「これは自分がなんとかしよう」と思えたんです。人生でこんな案件に出会えることって、VCとしてもそうそうないと思います。ただ、その時周りにいた方は、何事かと思ったと思いますが。(笑)

逆に言えば、経営者が投資家にこのように思わせられるかどうかって、大事だなと感じました。

この時期が最大のハードシングスの連続だったと、金木氏自身も振り返る。だが、あまりにも余裕がなかったからか、細かい記憶は飛び飛びになっており、周りから話を聞いて思い出すことが多いという。ひたすら会社と事業に向かい、人生をかけて取り組んでいたからこそ、金木氏は倉林氏を動かせたのだろう。

そんな当時の状況を思い出しながら金木氏は、なぜUPWARDの前身の会社はうまく伸び切らなかったかを「事業創造型」という概念を提示しながら自己分析する。

金木2013年に資金調達をしてからも事業が大きく伸びなかった理由、自分なりにこう考えていました。

「事業発見型と事業創造型」ってありますよね。多くの起業家は、顕在化しているビジネス機会を見つけ、ソリューションを作って解決するやり方をします。我々の場合、位置情報テクノロジーを起点に事業展開していました。つまりテクノロジーをどう使うかの自己目的化を起こしていたんです。事業発見型をあまり良い形で実践できていなかった。

僕が代表になってから意識的にやったのは、事業家として領域にどっぷり飛び込んでいってニーズを探っていく、いわゆる事業創造型に振り切ったこと。潜在的ではあるが、今後課題として顕在化するであろうものを汲み取り、アプリケーションで実現する手法を取ったんです。他のSaaSはあまりしていない珍しいタイプなのかもしれません。

今でこそ、セールスイネーブルメントやセールスエンゲージメントと呼ばれる営業支援のテクノロジーが注目を集めはじめている。UPWARDはその時流にも乗って成長中だ。しかしそれはただの偶然ではない。事業家としてマーケットに潜り込み、徹底的に事業機会を探ったからこそ、世の中のニーズを捉える事業となったのだ。倉林氏は当時の追加投資を「市場が立ち上がるかどうかのリスクは取った」と吐露するが、結果的に倉林氏も金木氏もその勝負に勝ったと言っても良さそうだ。

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Salesforceの本社ビルでビラ配り──壮絶な第二創業

さて、先ほど「倉林さんはいつも事業の本質を見てくれた」という金木氏の言葉を紹介した。では、UPWARDの事業が持つ強さとは、いったいどういったものなのだろうか?ここから、倉林氏の視点も交えながらその秘密を深掘りし、また違った学びを探していきたい。

金木前身の会社では、「ロケーションインテリジェンス」という技術先行で事業をしていました。私も共感していましたが、より成長するには何か違う手段がないかを模索していたところ、自分たちが持っている技術を振り返ると地図というよりも位置情報、GPSを駆使したモバイルCRMのほうが可能性があるんじゃないかと思ったんです。そこで提供中のプロダクトを開発し直しました。それが今の「UPWARD」です。

例えばルートセールスの人が訪問先の会社に行ったときにオートチェックインがされてCRMに記録が残ったり、データエントリーを1タップでできるようにしていったりすることで、顧客業務をリッチにしながらセールス業務を最適化するようなことができます。

モバイルCRMの仕組み(UPWARD提供)

Salesforceに代表されるCRMやSFAの領域は、ITリテラシーが低いと言われる日本でもかなり浸透してきている。課題は、導入後、「どのように有効活用するのか」に重点が置かれる時代になっていることだ。

倉林金木さんが仰ったように、CRMは企業内のプラットフォーム・データベースとなっていて、それをどう使うのかという時代になっていると認識しています。アメリカではセールスエンゲージメントという名の下で広がりを見せており、UPWARDはそのマクロトレンドに乗っています。日本の中では先駆者的存在です。

日本企業では、Salesforceなどを導入したはいいものの、きちんと使えるようになること自体が課題になるケースも非常に多く存在します。Salesforce自体のモバイルアプリでもデータ入力はできるんですが、日本企業のユーザーにとってのUIにはまだ課題があると思っています。外勤営業の人がオフィスに戻ってPCで入力するのも一苦労です。

UPWARDの何が良いかというと、モバイルでの活用に特化しているので、UIもUXも非常に優れており、Salesforceのデータベースに情報が連携されることで有効活用を続けていきやすくなるんです。

『UPWARD』は前身の会社の時代からSalesforceのパートナーアプリであったため、Salesforceとの相性がとても良い。当初から使っている顧客からはSalesforceの一部だと勘違いされていたり、UPWARDを使った結果Salesforceを導入したりした顧客もいるようで、Salesforceの営業担当もUPWARDをオンボーディングや解約防止として利用していることもあるという。

では、なぜ金木氏率いるUPWARDは今の状態を実現することができたのだろうか。

倉林金木さんだったから、というのは大きいと思います。

昔からSalesforceのパートナー企業のコミュニティに属していて、Salesforceの営業とたくさんやり取りを重ね、誰がSalesforceの営業のキーパーソンなのか、Salesforceのアップデートによってどんな方向性にいくのかなど細かく把握をされていました。また、プロダクト開発技術にも明るく、エンジニアと対等にコミュニケーションができる技術的な知見の深さもある。

セールスエンゲージメントという領域におけるファウンダーマーケットフィットの観点で、国内では飛び抜けているのでしょう。

金木氏も当時を振り返る。

金木当時資金が少なかったので、事業を成長させながらも採用は思うようにできなかったんです。だからコバンザメ戦法じゃないですけど、Salesforceに入り込んで土下座行脚するしかなかったんだと思います。

今考えたら有り得ないですが、社員数名でSalesforceのビルの下に朝行って、Salesforceの社員向けにビラ配りをしていました。例えば「『UPWARD』はSalesforceとこういう協業ができますよ」とかいった内容で。

そして「あ、あの部署の本部長が来た」となったらすぐにお声がけして挨拶するとか(笑)。

でもそのときに賛意を示してくれて繋がった方々は、結果的にSalesforce内で昇進している人ばかりで気がつけば今のSalesforceの上層の方々の知り合いが増えたりもしましたね。

倉林結局のところ、パートナーであるSalesforceの方々から信頼されないと、たとえSalesforceのパートナーコミュニティだったとしてもそれを存分に活かせないのですよね。金木さんたちは、それを厭わずにやっていたのが大きいと思います。

なんて泥臭い、スタートアップらしいエピソードだろうか。金木氏は、当時いたメンバーを思い出しながら述懐する。

金木エンジニアを除く当時の全メンバーで人を替えながらやってくれていました。全員野球ですよね。「なんでこんなビラ配りしているんだ?」といった水を差す言動は一切なく、みんながむしゃらにやっていたと思います。

その時一緒にいたメンバーはもう全員残っていないんですが、明日潰れるかもしれない、ゴールもわからない、そんな状況で僕についてきてくれたことに、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。見えないもの、なんとなくいけそうだという感覚、そういったものを信じる力があったのはすごいことで、その時一緒にやっていたメンバーをとても尊敬しています。

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「自分よりも優秀な人を採る」
その結果としての良い組織状況

一時は会社がなくなるかもしれないくらいの危機に瀕していたUPWARDだが、ようやく事業の成長曲線もポジティブな変化を見せてきている。事業の変化に加え、組織はどう変化してきたのだろうか。

金木シリーズEの資金調達のタイミングで、だいぶ事業も見えてきたし自信もついてきたので、ここらでわかりやすい成果を出してきた優秀な人材を入れようと採用に本腰を入れ始めました。その時採用したメンバーは現在のCxOを担っているメンバー。僕に、というよりも僕を通してUPWARDのビジョンやミッションに共鳴してくれて集まってくれた。今、本当に良い成長ができているなと感じています。

倉林正直、今ほどのチームになるとは想像もできなかったし、今のフェーズや金木さんとの相性を踏まえると、本当に良いチーム状態だと思います。一度はモメンタムを失い、ダウンラウンドしていて、ニッチだと思われがちな会社に、よくぞこれだけの人を集められたなと。

組織、チームに絶対の正解はない。事業の特性やフェーズやCEOとの相性など様々なファクターによって「理想の組織は?」に対する答えも変わる。コラボレーションは弱くとも個として戦闘力が高い人たちの集団が物凄く伸びるところもあれば、背中を合わせてやっていることで成長するところもある。倉林氏から見るとUPWARDは後者側で、ひとつのチームとしてまとまっていると感じられるという。

その要因として、金木氏の人間力が大きそうだ。

金木みんな多分、僕のことがちょっと好きだと思うんです(笑)。

倉林(笑)。

金木もちろん、僕も好きなんですが、それはベタベタした関係ではなくて。

自分よりも其々の分野で優秀であることに徹底的にこだわって採用したんです。自分より優秀だとわかっているからって、嫉妬をするようなことがあっては絶対にいけない。優秀だとわかりきっている人たちに爽やかに対応していくことは強く心がけています。

倉林今のUPWARDには、優秀で頼もしいメンバーが増えましたよね。CFOの荒木さんが、COOの石田さんを口説いた時に、「あなたみたいな人を探していたんです。LinkedInで1万人にコンタクトしたのに出会えなかった」と言って思わず泣き出して、それに感動して石田さんが入社を決めたエピソードは素晴らしかったです。

こんなに欲しがられたら、人間なので心動くじゃないですか。そんな経緯もあっていいチームが出来上がってきたんだと思いますよ。

自分より優秀な人を採るという方針で集まった人たちが活躍する環境作りのため、金木氏は「自分ごと化してもらう」ことを意識しているという。

金木彼らに気持ちよく働いてもらうために、UPWARDという事業を自分ごと化して捉えてもらう必要があります。そのためのひとつとして、普段のコミュニケーションから「私はこうしたい」ではなく「UPWARDはこうしたい」「UPWARDとして何が最適なのか」などのように、主語をUPWARDにすることを意識しています。難しいですけどね。

自分のエゴではなく、事業が常に主語になる。その風土が根付くと、事業の成長につながると関わった個々人の成長にもつながる。逆に根付いていない状態でうまくいかないと、他責思考が蔓延してしまう。

一番自分ごと化しているのはいつだって経営者だろうが、組織と事業の成長という目的のために、自分のエゴを出しすぎない。金木氏は目的のために手段を選ばず実行できる人なのだ。

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まずはユニコーン。
そうしないと去っていった人達に顔向けできない!

こうしてUPWARDの成長ストーリーを追っていくと、事業も組織も良くなってきているようだ。これからのUPWARDはどこへ行くのか?

倉林組織、事業としての目線がだいぶ上がってきましたよね。当初は、私自身もこの会社をそこそこいい会社にしようという目線だったのが正直なところですが、今ではいかに事業を大きくするかという議論ができています。

今、スタートアップの経営陣に求められる能力が年々上がっています。さらなる成長や大きな上場をしようと考えると、海外投資家から評価されることが条件の一つになってきます。彼らから評価されるには、さらなるマネジメントチームの進化が必要。今後はそういうフェーズになってきているとも思います。

金木今後はグローバルのマーケットをやりたいです。UPWARDという事業がビジネスロジックやプロダクトを構成するテクノロジーが、ドメスティックなものじゃないというのはずっと思っていたことのひとつ。国は関係なく、特にアジアなんかではニーズがあるのではないかと。

そのためには資金が必要で、その資金作りには大きな事業にしていかないとファイナンスができない。そういうロジックでなるべく大きい形でのIPOが必要だと考えています。

日本のマーケットも伸びるが、それだけだと心許ない。グローバル進出を目指し、UPWARDは突き進む。

金木少なくとも、SaaSとしての一定のプレゼンスは出す。ARR100億円くらいは最低限クリアしないとなと。そしてユニコーンを目指す、まずはそこを狙っています。

経緯としても、去っていった人達もたくさんいる会社なので、そういう人たちのためにもこれくらいはしないとなという気持ちがあります。関わった会社がここまで行ったのかと思われたら嬉しいんじゃないかと。

倉林UPWARDと関わらせていただけて、私自身が多くの学びを得られて成長したし、VCとしてやりがいを感じられました。「自分はこの会社を支援しているんだ」という手触り感。そんな実感や経験をもたらせてくれたUPWARDと金木さんにお礼を言いたいです。ありがとうございます。

こちらの記事は2022年11月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

磯部 俊哉

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