「スタートアップの通説」に惑わされるな──僅か2年でエンプラ市場を席巻するCloudbase・岩佐氏に訊く、toB SaaSで急成長を遂げる術

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インタビュイー
岩佐 晃也

1996年生まれ。10歳からプログラミングをはじめ、特にセキュリティ関連に興味をもつ。学生時代からさまざまなサービスを開発し、京都大学工学部情報学科在籍時の2019年11月にLevetty(現・Cloudbase)を創業し、現職。現在ではスズキをはじめとした大企業でのサービス導入を進め、累計13.9億円の資金調達を実施。2023年にはForbes 30 Under 30 Asia、Forbes 30 Under 30 Japanに選出される。

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快晴の日にふさわしい、オレンジ色のロゴTシャツを身に着けた男性が会議室に姿を現した。その人とは、Cloudbase代表、岩佐 晃也氏である。2019年11月に設立されたCloudbaseは、パナソニック、スズキ、出光興産など、日本を代表する大企業の新たな挑戦を支える注目のスタートアップだ。

つい先日の2月7日には、DNX Ventures、ジャフコ グループ株式会社を引受先とする第三者割当増資を発表し、シリーズAラウンド(1st close)において総額11.5億円の資金調達を行った。

同社が取り組むのは、Amazon Web Services(以下、AWS)、Google Cloud、Microsoft Azure(以下、Azure)などのパブリッククラウド領域。2021年の同市場規模は約45兆621億円に達し、前年比28.6%増(参考)となり、今後も成長が期待される巨大市場である。Cloudbaseはこの分野で急速に事業を拡大し、独走とも言える状態で市場を牽引している。

同社が展開するのは、大企業向けのパブリッククラウドセキュリティサービス。一見、専門的で取っつきにくい分野かもしれないが、この記事ではセキュリティの専門談義をするつもりは毛頭ない。

「起業家・事業家はスタートアップの常識に囚われず、世界を目指す日本発のビジネスを創造できる」というメッセージを伝えたいのだ。

世界で活躍する起業家や事業家を目指す人々にとって、岩佐氏の経営哲学や事業戦略から得られる洞察は、大きな価値を持つだろう。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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プロダクトリリース2〜3ヶ月でエンプラからのオファーが殺到

「20代の経営者が業界知見もないのに、SaaSやBtoB向けの事業を展開するなど無理だ」。

学生時代に起業し、現在27歳の岩佐氏は、これまで幾度となくこうした声を周囲から受け取ってきた。

そもそも、スタートアップがエンタープライズ市場に挑むことを「無謀過ぎる」と見る声も少なくない。「まずはSMB(中小企業)で実績を積んでから、エンタープライズに挑むべきだ」というのが一般的な見方としても主流だろう。

岩佐氏は、このようなスタートアップの“定石”に対しても、ただ受け入れるのではなく、疑問を持ち続けた。

岩佐先輩方は善意でアドバイスをくれたのでしょう。しかし、私はそれらを全て鵜呑みにはできませんでした。「本当にそうか?どうすれば実現可能なのか?」と常に思考を巡らせました。

ある時、リサーチを深める中で、アメリカでは注目されているクラウドセキュリティの領域が日本ではまだ広く普及していないことを発見しました。大企業がクラウドセキュリティに対して抱える課題には市場としての需要が存在しており、セキュリティ分野のスタートアップは国内にほぼ存在しない状況でした。

周囲からの「無理だ、無謀だ」という声を聞くたび、私の中では「やってみなければわからない」という気持ちが強くなり、より一層、挑戦心が芽生えていったんです。

Cloudbase株式会社 代表取締役 岩佐 晃也氏

自分の信念を曲げず、一般的なスタートアップの“定石”や社会の既成概念に挑戦する──それがCloudbase代表、岩佐晃也氏の経営哲学である。弱冠27歳で親しみやすく気さくな人柄を持つ一方で、その内には「容易には揺るがない」という経営者としての強固な核が垣間見える。

そして岩佐氏は、スタートアップ界の常識を覆すことに成功した。2022年3月にベータ版『Cloudbase』を発表すると、そのわずか2〜3ヶ月後には大企業からのオファーが絶えず、エンタープライズ市場における存在感を一気に高めた。下記は企業一覧はあくまで一例に過ぎず、まだ公表されていない実績が多数控えているというから驚きだ。

提供:Cloudbase株式会社

Cloudbaseが注力するパブリッククラウドの代表的なサービスには、読者にも馴染みの深いAmazon Web Services(以下、AWS)、Google Cloud、Microsoft Azure(以下、Azure)が挙げられる。

パブリッククラウドとは、ユーザーがサーバーや通信回線などを自ら用意することなく、クラウド事業者が提供するサーバーやソフトウェアなどのリソースをインターネット経由で必要な分だけ利用できるサービスのことである。

これらパブリッククラウドの市場規模は、利用者が急増し拡大傾向にある。海外市場では、2021年に売上額が45兆621億円(前年比28.6%増)に達し、日本市場では2022年に売上額が2兆1,594億円(前年比29.8%増)となり、2026年には4兆円を超えると見込まれている。(参考

例えば、アメリカでは2020年に創業したWizが僅か3年で企業評価額が100億ドルを超えるなど、クラウドセキュリティ領域はグローバル規模で高いポテンシャルを持っている。岩佐氏率いるCloudbaseは、この巨大な市場でチャンスを掴んだ。これは、彼が世間の「スタートアップの通説」や「常識」にとらわれず、自らの信念を持って道を切り拓き続けた結果であると言えよう。

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急拡大するDXの影に潜む、クラウドセキュリティという巨大市場

Cloudbaseの事業が急拡大した背景には、近年の日本企業におけるDXの推進が大きく影響している。DXの加速に伴い、多くの企業が業務の効率化、コスト削減、ビジネスモデルの変革を目指し、クラウドサービスの利用を積極的に行うようになった。この変化は大企業にも及んでおり、DX推進のもとで各部署においてパブリッククラウドの活用が進んでいる。

その結果、公開範囲やアクセス管理など人為的な設定ミスに起因する情報漏洩などの事故が増加。パブリッククラウドは従来のオンプレミス環境に比べ低コストでカスタマイズ性が高いが、セキュリティ担当者による管理が不十分な場合、重大なセキュリティリスクを引き起こす可能性があるのだ。

*オンプレミスとは、企業が自社でソフトウェア・ハードウェアを保有・管理をし、システムを構築する運用方式。導入には費用がかかり、運用開始までに時間を要するが、社内ネットワーク内で運用するため、パブリッククラウドよりも外部からの不正アクセスなどの影響を受けにくい。

岩佐氏はこの問題の一因として、パブリッククラウドのユーザー側に、「サービス提供側がリスクを管理してくれる」という誤解があることを指摘している。

岩佐パブリッククラウドは、クラウド事業者側とユーザー側でどちらに責任の所在があるのか、その責任範囲を明確に区分けした「責任共有モデル」を採用しており、それぞれの範囲でセキュリティの責任を持つ仕組みになっているんです。

例えば「アプリをアップデートしてください」という通知が来ているにも関わらず、ユーザー側がアップデートを行わないと、万が一ハッキングにより事故が起きた際は、ユーザー企業側の責任になってしまう。

実はパブリッククラウドは、ユーザー側で確認すべき範囲が広く、これを理解していない人が多いのが現状です。

思わずドキリとした読者もいるのではないか。こうしたパブリッククラウドのセキュリティリスクに対して、自動で診断可能なプラットフォームが『Cloudbase』なのである。

提供:Cloudbase株式会社

岩佐『Cloudbase』とは、言わば“健康診断”のようなサービスです。医者が健診結果を見て、患者に対し「今、こういう病気の疑いがあるからすぐに手術しましょう」「放っておくと重症化しますよ」と判断を下すように、私たちは企業のセキュリティリスクを統合的に監視、管理をしていきます。

具体的に言うと、顧客企業のクラウド環境をすべて可視化して「このままだと情報漏洩をするリスクが高いため、この手順で直してください」などとアラートと改善策をお渡しするのが『Cloudbase』です。

まるで人間関係を図式化したFacebookのソーシャルグラフのように、顧客企業の複雑なクラウドの活用状況を可視化させ、相互の関連性を示しながら、「この部分がハッキングされると、こちらの部分にも影響が出ますよ」「現状のままではこの経路で外部のアクセスを許してしまいます」といった情報を独自の技術で提示していきます。

大企業となれば、そのアラートの数は数十万件、多ければ数百万件にも及ぶ場合がある。『Cloudbase』はその膨大なアラートに対して瞬時に優先順位を見極め、的確に対策を示していくのだ。

岩佐クラウドのセキュリティサービスは、グローバルでは既に進んでいるとお伝えしましたが、例えば時価総額が10兆円を超えるアメリカのパロアルトネットワークスは、企業向けにクラウドのセキュリティ診断を行い、各企業のセキュリティエンジニアがその診断結果を基に自社のセキュリティ対策をしているんです。

しかし、日本ではセキュリティエンジニアがアメリカと比べて圧倒的に少なく、大企業でさえ、社内にセキュリティエンジニアが1〜2名いれば「すごい」と言われるレベル。その結果、多くの企業ではセキュリティ診断の結果を見ても「どのように改善すればいいのかわからない…」といった課題に直面している。そこが日本企業の明確なペインであり、私たちが強みを発揮できるところでもあります。

岩佐氏の構想が持つ事業ポテンシャルに対し、一部の投資家たちは瞬時に反応を示した。2022年3月に『Cloudbase』のベータ版をリリースした岩佐氏たちは、僅か5ヶ月後の8月、アメリカのVCであるArena Holdingsと、日本を拠点とするDNX Venturesをリード投資家に迎え、シードラウンドで総額1.3億円の資金調達を実現させた。

Arena Holdingsとは、SmartHR、CADDi、UPSIDERなど日本の名だたるスタートアップへの投資実績こそあるものの、Cloudbaseのようなシード期のスタートアップ支援に参画するのは国内初となる。

また、リード投資家のDNX Venturesは、「海外では多くのユニコーンが誕生しているこの領域において、日本のクラウドセキュリティの在り方をCloudbaseがリードできるよう、最大限サポートしていきたい」とコメントを寄せている。こうした事実からも、Cloudbaseが如何にポテンシャルを秘めたスタートアップであるのかが伝わってくるのではないだろうか。

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「エンジニアリングの軽視」が、日本経済の低迷を招いた

日本企業のDXが進むことで、クラウドの活用が加速し、結果として社内のセキュリティ対策の重要性が増していくことはわかる。しかし、セキュリティ領域に関心のない読者からすると、まだまだ“遠い”話に感じているかもしれない。

岩佐それはそうですよ。生まれてすぐ「セキュリティをやりたい」という赤ちゃんはいないじゃないですか(笑)。誰だって知らなければわからない。みんな同じです。

そう笑みを浮かべながら、岩佐氏は話を続ける。

岩佐私は2歳からゲームを始めて、小学校4年生の頃にはプログラミングに興味を持っていました。しかも、パソコンゲームにおいては遊びでハッキングも楽しんでいたので、セキュリティとは身近で楽しいものだと感じていました。ただ、それは大分稀なケース。ほとんどの人は、セキュリティには興味など持っていないんですよね。

しかし、日本企業のセキュリティに対する課題を解決できれば、DXをより安全に推進でき、新しいビジネスモデルや新規事業の創出に繫がっていくことは間違いありません。私たちは、大企業にとってインパクトのあることをしているんだという自負を持っています。

ところが、今の日本企業においては、金融系などセキュリティが極めて重要視される一部の企業でこそ対策が進んでいますが、その他の多くの業界ではまだまだ十分な対策ができているとは言えない状況にあります。

スタートアップである私たちが、日本を代表する大企業に対してプロダクトを提供できるのは、間違いなくそこに明確なバーニングニーズがあるからだと捉えています。

NRIのレポートによれば、「社内にセキュリティ人材が足りているか?」という企業アンケートに対し、アメリカでは9割近くが「足りている」と回答するが、日本では9割近くが「足りていない」という結果になる。そもそもなぜ、日本にはセキュリティエンジニアが少ないのだろうか──。

岩佐日本のビジネスシーンでは、長年にわたってテクノロジーの地位が低く扱われてきたことが原因だと思っています。つまり、「エンジニアは資産だ」という認識を、ほとんどの経営者が持ち合わせてこなかった。

ご存じの通り、この背景には高度経済成長期において、製造業でグローバル市場を席巻した日本経済の歴史があります。ところが、時代が変わり現代になっても、その成功体験から抜け出せずにいるのが今の日本企業の現状だと思っています。

ITやソフトウェアがトレンドになっても、多くの日本企業はヒト・モノ・カネの配分をこれらに集中投下することなく、子会社やお抱えのSIer企業に業務を委託していたんです。アメリカのSIer市場の規模が日本の4分の1程度に過ぎないことを鑑みると、まさにこうした日本企業の構造がよくわかるのではないでしょうか。

つまり、大企業がITやソフトウェアに関してオーナーシップを手放してしまったことが、1990年代のはじめから今にかけて日本経済が停滞し「失われた30年」と称される1つの要因になっているのだと捉えています。

こうした日本のエンジニアリングに関する扱いは、一般社会の中でもみてとれる。岩佐氏は小学生時代、「将来はシステムエンジニアになりたい」と作文に書いたことがある。しかし、周囲の大人たちはいい顔をしなかった。今と異なり、「エンジニアは、激務でブラックな職業だ」というネガティブなイメージが世の中に定着していたのだ。僅か15〜20年前の話である。

とはいえ、冒頭に挙げた通り今や多くの大企業がエンジニアリングを活用した企業変革、事業変革に取り組むようになっている。昨今では、こうした大企業の経営層もエンジニアに対する意識が変わってきているのではないだろうか。

岩佐変化の兆しはありますが、経営層の根本的な思想に変化をもたらすことができているかと言えば、まだまだこれからではないでしょうか。

確かに大企業の一部ではDXを推進するための子会社を設立したり、 社内でCCoE(クラウド活用推進組織)を立ち上げたりという動きが見られるようになってきました。また、日本は「テクノロジーが遅れている」とよく言われますが、意外にも大企業におけるクラウド利用は約8割です。中でもAWSにおいては、日本はアメリカに次ぐ2番目に大きな市場となっています。

それなのに、日本にはクラウドを適切に使える人材が足りていない。これが問題なんです。

ある企業では、「機密情報を載せなければクラウド利用は問題ない」という方針が設けられていたのに、いつの間にか機密情報をクラウド上に保存するようになってしまったなど。セキュリティ面に関しては依然として後手に回っているという印象を受けます。

ですので、私たちはこうしたクラウドセキュリティのサービスを提供しながら、日本の大企業の経営者がより一層、テクノロジーやエンジニアリングといったものを経営課題として捉えていただけるよう、啓蒙していきたいと考えています。

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「クラウドセキュリティ × 大企業」こそが、日本再興のキーになる

そんなCloudbaseが掲げるミッションは、「日本企業の世界を変える時代をつくる。」だ。

岩佐私は生まれてからずっと、日本経済が右肩下がりで低迷していくのを見て育ちました。野球に例えるならば、10対0、20対0と、経済成長を続ける国にどんどん大差をつけられていくような状態です。このままだと、確実に負けてしまいますよね。

しかし、ここで一打同点のチャンスや逆転ホームランで試合の流れを変えることができれば、勝負はまだひっくり返せると思っています。逆転のチャンスでグッと心が熱くなるような、そんなわくわくするような変化を日本企業に起こしたい。そんな想いをCloudbaseのミッションに込めました。

気づけばiPhoneのアプリにせよ、開発ツールにせよ、身の回りのサービスは海外発のものばかり。岩佐氏が起業家としての道を選んだのは、日本から新しいサービスが生まれていくことが少ない現状に、寂しさや悔しさを感じてのことだった。

岩佐日本企業はかつてものづくりで世界を台頭してきましたが、その後、シリコンバレーを中心としたアメリカのIT企業に追い抜かれ、世界から遅れをとってしまいました。では、どうすれば再び日本が世界をリードできるのか?それは、大企業がITを活用する際のアクションスピードを加速させることであると考えています。

ベンチャー / スタートアップに身を置く方は驚くかと思いますが、多くの大企業では、サービスをリリースするまで半年ものセキュリティチェック期間があったり、リスクを恐れるあまり行動が制限され、本来の活躍ができていなかったりといった現状がままあります。

これが、大企業においても開発段階からセキュリティをチェックしたり、パブリッククラウドが提供するサービスをもっと自由に活用できるようになれば、ものづくりのスピードは格段に早まるはずです。その結果、日本の大企業から偉大なサービスが次々と生まれていく。私たちはそんな未来を夢見て、Cloudbaseの事業を展開しています。

手段としてはセキュリティ対策によるインフラ支援だが、目的はあくまで「日本の大企業の再興」にあるCloudbase。そんな日本の大企業を変えていくためには、「なにより大企業がITによる成功体験を積むことが大事だ」と岩佐氏は語る。

岩佐学生時代、インターン先のある大企業で25億円の経済効果を生み出したことがあり、それによって経営層の意識が大きく変わるのを目の当たりにしました。

私はメンバーと共にWeb上でその企業の採用応募フォームを開発していたのですが、応募者1人当たりのCPA(顧客獲得単価)を1万円削減することができたんです。つまり、毎年応募が来る約25万人に対して、25億円相当の経費削減が実現できたわけです。

のちにそのインターン先の社長さんから、「岩佐さんたちが生み出してくれた実績があったからこそ、我が社ではエンジニアを100名まで増やす方針を打ち出すことができた」と伺いました。また、「この実績がなければ、他の経営陣には提案すら聞いてもらえなかったかもしれない」といったお言葉も頂き、ITが生み出すインパクトの大きさを実感しました。

つまり、大企業の経営陣を振り向かせ、納得させ、ITやシステムに対して大きく投資を促していくためには、まず目に見えた実績が求められるということだ。では実際、Cloudbaseを導入した大企業ではどのような変化が生まれているのだろうか。

岩佐とあるクライアント様では、Cloudbaseの導入により、セキュリティチェックの時間が大幅に短縮され、新しいプロダクトのリリースが数ヶ月短縮されるケースも出ています。

私たちは単に守りとしてのセキュリティ提供だけが目的ではなく、顧客の事業を加速させる意味でもセキュリティを活用していただきたいと考えています。ですので、こうした結果が出ていることは非常に喜ばしいことです。

パブリッククラウドの活用でセキュリティリスクを感じている大企業にとって、各社の実態に合わせたセキュリティ運用が可能な『Cloudbase』は、まさに救世主のような存在だ。一方で、大資本であるAWSやGoogle Cloud、Azureなどが、自社でCloudbaseと同様のセキュリティサービスを提供するといった可能性はないのだろうか。

岩佐パブリッククラウドでは既にセキュリティチェックが可能なサービスはあります。例えば、一部署における簡易的なチェックや、単独のクラウドサービスに対するチェックであれば対応できるかもしれません。

しかし、Cloudbaseが提供するのは、AWSもGoogle CloudもAzureも“全て一元的に”管理し、かつ顧客企業内に“セキュリティエンジニアがいなくても、自分たちで直せる”というもの。

世の中で起きるあらゆる事故とは、監視の目が行き届かず、体制の甘い部分で発生します。特に大企業には多くの事業部が存在しており、全社を通じた管理統制が重要になるため、その組織構造に対応できるソリューションが求められる。『Cloudbase』が選ばれる理由は、まさにこうした大企業のニーズにピッタリと合致しているからだと思っています。

また、パブリッククラウドの主戦場は、「いかにクラウドの利用者を獲得していくか」にあります。そのため、AWSやGoogle Cloud、Azureなども、セキュリティ面に関してはサードパーティのサービスに任せようというスタンスであり、そこに私たちの勝機があると考えています。

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“ものづくり”から始めるな。
6度のピボットから得た事業づくりの要諦

「岩佐 晃也」で検索すると、ネット上では彼が「East Venturesの金子氏から1,000万円の出資を得て、身一つで上京した話」や「起業後の6回のピボットを経験した話」など、起業家として非凡な道を歩んできたストーリーが目に飛び込んでくる。

そこで今回、FastGrowの取材陣は、岩佐氏にこれまでの経験を振り返ってもらい、「起業家としてのターニングポイントはどこだったのか?」「そこで何を学んだのか?」という質問を投げかけてみた。

すると岩佐氏は、「エゴを出さずに取り組んだこと」「すぐに開発をしないこと」「問いを立てること」の3つではないかと迷わず答える。

岩佐これはある起業家の先輩が後におっしゃった言葉です。「多くの起業家はアドバイスを受けてもエゴを出して自己流のやり方となり、それで失敗する人が多い。しかし、岩佐君は素直に話を聞き入れ、実行に移していた」と。

私がCloudbaseの前身となる事業を始めた際、想定していたよりも市場が小さいことに気づきピボットを考えていたときに、その先輩から次のアドバイスを受けました。

「まずは大きな問いを立てる。そこから逆算して、アイデア段階で事業をピボットしていく。もしリサーチしてわからなければ仮説検証をする。それでもわからなければ、専門家を尋ねる。こうしたアクションを取らずに事業を始めるということは、“地図を持たずに暗闇で航海をするようなもの”だ」と。

私自身、上京して2年半は「こんなサービスがあったら面白いだろう」と思った瞬間、すぐに開発に取り掛かるタイプでした。例えば、人狼ゲームができるビデオチャットや、音声SNSなどさまざまなプロダクトをつくったものの、ビジネスとして成り立たせることはできなかった。そのような失敗があったからこそ、先輩のアドバイスは藁にもすがる思いですんなりと受け入れられたと思っています。

そして「すぐに開発に着手してはならない」というアドバイスを受け、岩佐氏は事業のつくり方そのものを根底から見直した。

事実、岩佐氏は『Cloudbase』のプレリリースを発表した際、まだその瞬間にはプロダクトの開発を始めていなかった。が、プレスリリース後には約20社からの商談申し込みが入り、その手応えを感じた後に、1ヶ月あまりで開発に取り掛かったのだ。

「たとえ目に見えるプロダクトがなくても、顧客のニーズに沿ったものであれば集客ができる」。そんな気づきを得た瞬間だった。

岩佐エンジニア社長あるあるなのですが、すぐにものづくりをしてしまうと、つくった事業が“成功する理由だけ”を探してしまうんですよ。

「この市場は大企業が占めている」と理屈ではわかっていても、引き返せなくなる。大事なのはサンクコストを抱えないことです。アイデア段階で「この事業は飽和しているか?ニーズがあるのか?」と考え尽くすこと、これは今でも私が大事にしている考え方です。

そして、自分自身の中で問いを立てることができれば、「どうすればこの市場で勝ち切れるのか?」「競合がこんな仕掛けを打ってきたらどうする?」とあらゆる場面に応じてシミュレーションを行うことができます。

事業経営をしていると、時には自身を否定しなければならないシーンにも出くわします。そんな時、シミュレーションであれば痛手はありませんが、すでに事業を始めていた場合は、大きな痛手を被る可能性もある。もちろん、「やってみないとわからない」ということもありますが、そこで思考放棄せず、アイデアの段階から問いを立てる。過去いくつものサービスをつくっては頓挫し、今の『Cloudbase』に至った私が感じている事業の学びは、この3つになります。

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セキュリティは手段に過ぎず。「社会のインフラづくり」と「世界で勝てる事業づくり」に挑め

今回の取材を通じて、クラウドセキュリティ領域はポテンシャルの高い市場であること、そして、国内においてはCloudbaseがその領域におけるトップランナーであり、事実、著名な大企業や投資家からも高い評価を得ていることがわかった。

しかし、それでもやはり「セキュリティ」という言葉に少なからず抵抗を感じてしまうという読者もいるかもしれない。そこで視点を変え、現在、Cloudbaseの事業に参画している人たちは、どういった理由でジョインしているのかを尋ねてみた。

岩佐スタートアップで一通りの事業経験を積んだ後、「より大きな課題に対してインパクトを与えたい」「世界に挑戦できるような仕事がしたい」という理由で参画してくれているメンバーが多いです。

また、先日面接に来られた方は、「これまでは自分自身が成長できる仕事を選んできたけれど、これからは強い使命感を持って他者のために仕事がしたい」と、Cloudbaseのミッションに共感して選んでくれました。

提供:Cloudbase株式会社

岩佐私たちの仕事は、「社会の基盤となるインフラを守ること」です。一般的には電気、ガス、水道などが社会インフラとして挙げられますが、パブリッククラウドも既に社会のインフラの一部となっています。

昨今では、特に災害時におけるインフラの重要性を強く感じて、その環境づくりに取り組もうとする人も多いです。家族や大切な人たちの日常を支える仕事にやりがいを見出している方も少なくありません。

そして話題は組織のカルチャーへと移っていく。Cloudbaseには、同社が大切にしている2つのバリューのうち、「With」というワードに見て取れるように、社内には周囲を思いやり、利他的な行動を取るメンバーが溢れている。

提供:Cloudbase株式会社

岩佐どんなに優秀な人でも、できること、できないことがあります。そのときに「なぜできないのか?」と責めるのではなく、お互いの強みを活かし、足りないところは補い合う。私たちはそんな組織としての強さを目指しています。

ですので、Netflixでは“ブリリアントジャーク”と呼んだりしていますが、有能だけれど協調性がない人は合わないと思っています。例えば、サッカーのシーンで「自分のポジションをしっかりと守っていれば1‐0で勝てる」という状況の中、「ここから一人でハットトリックを決めるぞ」と挑むような人は、私たちの組織には合わないでしょう。

社会のインフラをつくる事業に挑戦していくので、組織においても全体最適を取れる人が活躍していると思います。

最後に、「私たちはセキュリティを扱うスタートアップですが…」とあえて前置きをした上で、「組織においては、がちがちのルールで可能性を閉じてしまうことはしたくない」と率直な想いを述べてくれた。

岩佐私は小さい頃からゲームをハッキングして遊ぶことが大好きだったので、ルールを見るとつい抜け穴を探したくなるんです(笑)。

人から一律で型を押し付けられるよりも、自由で余白がある方が力を出しやすいのでしょうね。

そこから派生して、Cloudbaseでは「Unlock」というバリューも定めており、どんなことでもできない理由を探すのではなく、「どうやって挑戦しようか、これならうまくいくかも」と考えることの重要性を掲げています。なぜなら、人は前提や常識を疑い思考を解放(Unlock)することで、自身の情熱やスキルを最大限に発揮できるのだと実体験から感じているためです。

もちろん、組織として動くためにはルールによる線引きが必要なのは当然ですが、「やらなければならない」と強制するよりも、「こうすれば世界を変えることができるかもしれない。だから自分たちは挑戦するんだ」と熱狂を生み出せる環境の方が遥かにいい。Cloudbaseはそんな組織にしていきたいと強く思っています。

「日本社会のインフラを守る」という、使命感に溢れた事業を推進しながら、「日本発・世界で勝てるスタートアップへ」という挑戦も同時に味わえる。

ここに価値を見出すことができた者は、ぜひ一度Cloudbaseを尋ねてみてほしい。

こちらの記事は2024年02月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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