勝ち筋は「国産の生成AIミドルウェア」にあり──Vol.1 miibo CEO功刀雅士氏【寄稿:DNX Ventures新田修平】
※この記事は新田氏(DNX Ventures)による寄稿です
先日、私がDNX Ventures(以下、DNX)のnoteで公開した「生成AIとSaaSの対比」 生成AIに関するレポートは、ご覧になられただろうか。既存プレイヤーが容易に最新の生成AI技術を導入できるDistribution channelの観点、LLMプロバイダーの動向、生成AIのB2Bにおけるユースケース、ベクトルデータベースなどのミドルウェアの可能性について網羅された、米国のリサーチに基づいた超大作となっている。現在の生成AIに関する情報はすっかり世に溢れているが、スタートアップが戦える領域はどこにあるのか、そしてSaaSスタートアップはそのなかでどう戦うべきか。米国の事例を参照しながら考察をまとめた。
今回から始まる連載では、それらの考察を踏まえ、日本のスタートアップが具体的にどのように戦うべきマーケットを見つけ、どのように生成AIを活用したサービスを提供しているか、その戦い方を見ていく。
連載1回目では、DNXの投資先であり、生成AIスタートアップ第一号として活躍するmiiboの代表取締役 CEO功刀雅士(くぬぎ まさし)氏に、日本のスタートアップの目線から生成AIの変動の様子、日本のスタートアップの勝ち筋、そしてmiiboの挑戦について伺った。
会話型AIをノーコードで簡単に作成できるmiibo
DNX Ventures 新田修平(以下「新田」)miiboの事業概要をお聞かせください。
株式会社miibo 代表取締役 CEO功刀雅士(以下「功刀」)miiboは会話型AIをノーコードで簡単に構築から運用まで行えるプラットフォーム『miibo(ミーボ)』を運営している会社です。『miibo』は最新のLLMを活用し、AIと会話できるアプリケーションを手軽にカスタマイズできます。
非エンジニアでもノーコードで簡単にAIプロダクトを作って配布できますし、玄人であれば既存のデータベースや利用中のコミュニケーションツールと連携することで、かゆいところに手が届く、実用性の高い対話型AI開発をすることが可能です。
新田とすると、『miibo』のターゲット層はかなり幅広いのでしょうか。
功刀そうですね。AI活用のさまざまなアイデアをノーコードで実現できるだけでなく運用まで回せるので、個人から上場企業、行政、地方自治体と、幅広い層が利用できるサービスです。2024年11月現在、累計登録ユーザー数は25,000人を超えました。
生成AIのトレンドは、会話型AIから自律型AIへ
新田最近はオープンソースコミュニティの台頭もあり、トップランナーのOpenAIでさえモデル自体の技術的な差別化が難しくなってきていると感じます。功刀さんは、生成AIの技術トレンドをどう分析されていますか。
功刀技術や性能に差がなくなってきたことで、もはやOpenAIは一強ではなくなりつつあります。Anthropic、Googleなど各社のモデルが、オープンソースモデルも含めて横並びになってきたことで、2025年はコストパフォーマンス勝負になってくると予想しています。そしてさまざまなデバイスに入れるための軽量化や、画像や音声、動画をはじめとしたマルチモーダル化が、LLMのトレンドになるでしょう。
アメリカの近況を見ると、会話型AIから自律型AI(自律型AIエージェント)にトレンドが移り変わってきています。自律型AIはプロンプトを必要とせず、高度で複雑なタスクを実行できる特徴があります。2025年は日本にもこのトレンドが普及してくるでしょうし、それに伴ってLLMが自律的・反復的にタスクをこなしてアウトプット精度を高めていくエージェンティックワークフローが注目されるはずです。
新田生成AIの最先端は米国ですが、日米の違いはしっかり見る必要があると思います。例えば、日本企業は米国企業と違ってインハウスエンジニアが少ないという点や、ソフトウェア開発をSIerに外注する文化が強いことなどが違いとしてあると思いますが、功刀さんは日米の違いを感じることはありますか。
功刀日本では主に「ビジネスサイド」の業務効率化の観点で生成AIが使われている印象が強いですよね。一方で、米国で生成AIが最も使われているのは、まさに「開発サイド」のコーディングの領域だと思います。生成AIによってプログラミングに革命が起こり、開発速度が飛躍的に上がったことで、現場のエンジニアはもちろん、ソフトウェア開発企業はコストパフォーマンスの面で大きな恩恵を受けています。一方日本企業の多くは、まだその恩恵を受けられていないように思います。
業務にフィットした課題を自社で解決できることは、インハウスのエンジニアやPdMがいる米国企業にとっては強力な追い風だといえるでしょう。一方で新田さんの仰るように、外注文化の根強い日本企業では「開発」文脈における生成AIの導入機会がないため、米国よりも活用企業が少ない印象を受けます。
新田私も、日本企業は生成AIに手を出すが本格的な活用に至っている事例はまだ少ないように感じます。
日本におけるミドルウェアの可能性と勝ち筋
新田一般的に、企業が本格的に生成AIを活用していくには、その活用をイネーブルするようなミドルウェア機能が必要だと思っています。そして日本では、ユーザー側のITリテラシーの問題や専門人材の不足から、誰でもわかるノーコード・ローコード、優れたUI/UX、日本語による手厚いサポートなど、日本のお客様のニーズに合わせてローカライズされた国産の生成AIミドルウェアが必要だと感じます。
まさにmiiboが実践されている領域だと思いますが、日本のスタートアップ目線で、これからの可能性についてご意見をお聞かせください。
功刀私たちはLLMを開発しないミドルウェアの立ち位置を取り続ける戦略を立てています。将来的には、過去のテック革命(ネット革命、クラウド革命、モバイル革命)のようなゲームチェンジが起こることは確実と言えます。しかしながら、AIが実装される「環境自体」の変化はまだ起こっておらず、現段階では生成AIはWebブラウザやモバイルアプリサービス上にしか普及していません。
スマホ誕生時にアプリの概念が生まれ新市場が確立されたのと同様に、より本質的なゲームチェンジが起こるのは、今後IoT領域などにまで生成AI搭載環境が広がるなど「環境自体」に変化が起こるときだと思います。もうすこし先のことでしょう。
となれば、今取るべき手段は「レバレッジをきかせて顧客の既存事業を成長させる」、または「コストをゼロに近づける」の二択です。現状は事例を多く作ることに注力し、ミドルウェアとしてバックエンドに生成AIを組み込むメリットを発信していくことにポテンシャルがあると考えています。
miiboの代表的な活用シーンは、問い合わせチャットボット(カスタマーサクセスAI)と、社内制度回答ヘルプデスク(アシスタントAI)です。miiboのようなミドルウェアを使って半内製化し、レバレッジを効かせられるようになると、確実に他社との差がつきます。そこを戦略的に攻めていくことで、勝ち筋が見いだせると考えています。
新田非エンジニアでも簡単に、最新のAI搭載アプリケーションを作れることがmiiboの魅力だと思いますが、オンボーディングにはどれぐらいの時間がかかるのでしょうか。
功刀「キャラ設定をしてプロンプトを書いて、チャットボットを作って動かしてみる」というだけなら数分でできます。そこから正解率を上げるためのチューニングをしたり、ナレッジデータベースをしっかり蓄積してRAGとしての精度を高めていったりするのには、すこし時間がかかりますね。私たちがある程度伴走することで、実用化に向けた準備をスムーズに進めるケースも多いです。
miibo公式サイトでは無料アカウントで問い合わせAIチャットボット作成を体験できます。実際に触ってもらうとmiiboのサービスがよりわかりやすいと思うので、ぜひ一度試してみてください。
実用的な「溶けこむAI」の将来構想──新しい開発手法の探索
新田最後に、miiboというプロダクトの将来構想をお聞かせください。
功刀チャットボット、IoT機器、ロボットなど、すべてのテクノロジーに言えることですが、私は人の生活や仕事に「溶けこむAI」という姿こそが実用的で、目指す理想形だと考えています(功刀氏による詳細な言語化はこちら)。誰でも溶けこませられるような土壌を作るために、本当に運用できる実用的なAIを提供し、miiboの認知を拡げていきたいです。
功刀現在miiboでは、パートナー企業とmiiboが共に成長するエコサイクルを実現し、AIビジネスの発展を加速させることを目指して「miibo Partners」というプログラムを推進しています。各ドメインのユースケースを共有し、実用に足るAIが作られる“踊り場”のようなプラットフォームを協業パートナーと共に作ろうという構想です。Hakuhodo DY ONEさんやビービットさん、電通デジタルさんなどに、すでにパートナーになっていただいています。
先ほど自律型AIエージェントの話が出たように、海外ではワークフローを組んでタスクを勝手に処理する自動化の方向に技術が進化しています。miiboもこの自律型AIの世界に踏み込もうと思っていますが、さらに日本で重視される会話の要素を組み込んでいくつもりです。
新田非常に面白い将来構想ですね! そこに到達するにはエンジニアのパワーが必要だと思いますが、miiboのプロダクトサイドで働く面白さはどこにあるとお考えですか。
功刀「10年後の当たり前」を作れる開発組織にいられることが、一番の面白さだと思います。開発領域ではすでに生成AIによる革命が起こっており、miiboの開発組織も生成AIを活用しているからこそ、少数精鋭で異次元の爆速開発ができています。
新田まさに、次の時代を作っていく面白さですね。miiboの開発は、多ければ毎週という頻度で新しい機能がリリースされるなど爆速で進んでいるのを拝見していますが、どんなエンジニアであれば、miiboで活躍できそうでしょうか。
功刀職種として挙げられるのは、プロダクトエンジニアです。「生成AIのノーコードツール」というドメインを面白く感じ、主体的に動いてくれるプロダクトエンジニアの方にぜひ来てほしいと思っています。
一方で、フットワーク軽くさまざまな技術を習得でき、各ドメインに熱狂して取り組めるフルスタックな方も、生成AIとの相性は抜群です。そういった方々と開発チームを組成して、新しい開発の方法を作っていきたいとも思っています。
「可視化・整理」ではなく「課題解決」まで、生成AIで実現するために
新田最後に、これからAIを活用した事業開発に挑戦したい方々へ、アドバイスいただけますか。
功刀まずは実際に生成AIを触りまくって、日常のペインを解消していくことをお勧めします。事業の種が見つかるかもしれませんし、見つからなくても生成AIが肌に馴染み、仕組みが理解できるようになります。
また、簡単なプログラミングを学んで、アプリを組めるようになることも重要ですね。AIのパワーが加わることで、一昔前では考えられないくらい、少しのプログラミング技術であっという間にプロトタイプが作れるようになります。
ただし、大切なのは生成AI自体の「奇抜な使い方」で勝負しないことです。なぜなら、生成AI技術は日進月歩で、今日新しいと思った使い方が明日には当たり前になっているかもしれません。「一晩でテックジャイアントに消される」リスクも多分につきまといます。このリスクと向き合っていくには、AIへの解像度や肌感を養い、日々の情報キャッチアップを続けていくこと、そして、むしろ自分のドメインで、自社の強みとなるコンテンツやデータ、プロダクトを生成AIでパワーアップする方法を探るのが良いでしょう。
一つヒントを申し上げると、生成AIを活用した事業開発で注目すべきは「可視化から解決へ」という流れです。例えばGoogle アナリティクスは、現状ではサイトの利用状況を「可視化」するだけで、実際の改善アクションは人間が考える必要があります。しかし生成AIを活用すれば、分析に基づいて理想的なUIを自動で提案し、A/Bテストまで行うことも可能になるでしょう。このように、既存サービスを見たとき、「可視化」や「情報整理」で終わっているところには必ずAIの事業の種があるはずです。なぜなら、人間が本当に欲しているのは情報整理ではなく、その先にある課題解決だからです。
新田まさに、「可視化から解決へ」という論点は重要ですね。「顧客が欲しいのはドリルではなく、穴である」という言葉があるように、本来手段としての可視化や情報整理の“その先”が重要なのに、そこにはまだまだ踏み込めていないのが実態だと思います。
このように考えると、生成AIを課題解決に応用するには、生成AIの技術的な知識に加えて、顧客の業務理解が重要になりますし、顧客ビジネスを深く理解した上で全体設計ができる人材のニーズは高いと思います。
新田あとがき
先日公開のホワイトペーパーで示した以下3つの重要なポイントを踏まえたmiiboの取り組みは、まさに日本の市場ニーズに応えようというものだ。ぜひ改めて確認いただだきたい。
- 生成AIを本格活用していく上で、汎用的なLLMを企業の実務運用に耐え得るクオリティにするための“後付けカスタマイゼーション”が重要となるが、専門人材の少ない日本企業にとって大きなハードルとなっていること
- グローバルの大手ミドルウェアプレイヤーは技術的には優れているものの、インハウスエンジニアの少ない日本企業にとっては敷居が高く、ニーズに必ずしも対応していないこと
- 日本市場では技術力だけでなく、“敷居の低さ”、“使いやすさ”、“手厚いサポート体制”の3つをバランスよく提供できることが重要
生成AI実用化における “Last One Mile” の課題解決こそが、日本のスタートアップの大きなチャンスであり、miiboのように技術と運用の両面で、日本企業のニーズに寄り添ったソリューションを提供できる企業には、大きな成長機会がありそうだ。
miiboでは、ビジネスサイド・開発サイドともに、メンバーを募集している。ChatGPTなどのAIサービスが普及してもまだ、使いこなせている企業や人は多くない。「生活や仕事に溶け込む」そんな世界を目指し、目まぐるしく進化するAIの世界で挑戦してみたい方、ぜひ功刀氏に問い合わせてみてほしい。
こちらの記事は2025年01月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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