令和のスタートアップは、“Day1意識”と“半歩先”を同時追求せよ──組織・事業の成長を両立させるX Mile COO渡邉とファインディ CEO山田による経営論対談
Sponsoredテクノロジーの急速な進化と市場の変革が常態化する現代のビジネス環境において、先見性と戦略的柔軟性は企業存続の必須要件となっている。特にスタートアップ企業にとって、この変化の波を乗りこなすことは至難の業であり、多くの挑戦者が道半ばで敗退を余儀なくされている。
我々ビジネスパーソンは高くそびえ立つ壁を前にして、一体どんな手段を取るべきなのか。どんな進化を遂げる必要があるのか──。
当記事では、躍進するベンチャー企業の対談を経て、壁の先にある景色を見るために必要な“鍵”を探していきたい。今回、そのパートナーとなるのが、X Mile COO 渡邉悠暉氏とファインディ CEO 山田裕一朗氏だ。
X Mileは2019年の創業以来、ノンデスク産業の生産性向上を軸に、HRプラットフォームやSaaSなど複数の事業領域で、年率500%という驚異的な成長も見せる。組織規模は300人を突破、1,000人規模の組織に向けて躍進する新進気鋭のスタートアップだ。
一方のファインディも、2016年の創業以来、組織拡大と複数事業を創出し、2024年の5月にはグローバル展開の第一弾としてインドに進出。エンジニアの可能性に焦点を当てIT/Webエンジニアの転職サービス『Findy』や、エンジニア組織支援SaaS『Findy Team+(チームプラス)』をはじめとしたプロダクト群を提供。現在では累計会員登録は20万人、登録企業数は2,700社まで成長し、エンジニアにとって欠かせない存在として確かな地位を築いている(2024年10月時点のFindy 転職、Findy Freelance、Findy Team+、Findy Globalの4サービスの累計での登録企業数及び会員登録数。なお、1社又は1名の方が複数のサービスに登録している場合は、そのサービスの数に応じて複数のカウント)。
両社はともに300人規模の組織へと成長を遂げ、それぞれが独自のマルチプロダクト戦略を展開。多様な社会課題に対し、“人”を軸とした複数のアプローチで解決策を提示している。
本対談では、両社の成功を支える要因を分析しつつ、彼らが乗り越えてきた障壁と、その先に描く未来像について探求していく。
- TEXT BY HARUKA YAMANE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
HRを足がかりに産業改革に挑む、マルチプロダクト戦略の真髄
X Mileとファインディ、この急成長を遂げる2社に共通するのは、人材と事業の相乗効果を最大化する経営哲学だ。
両社ともに、「人材の成長が新たな事業を生み、事業の広がりが人材の可能性を拡げる」という好循環モデルを構築している。しかし、その具体的なアプローチは異なる。
X MileのCOO渡邉氏は組織の将来像から現在の戦略を逆算し、ファインディのCEO山田氏は既存の優秀なメンバーに最適な環境を提供することで新事業を創出するのだ。
渡邉X Mileでは、常に3年後の組織図をイメージして事業戦略を考えています。
思考の流れでいうと、「この事業でこれだけの売上をつくるには数年後に新事業でこれだけの売上規模が必要だ。だから、理想の事業成長のためには毎月数十名は受け入れられる組織になる必要がある。入社したメンバーが活躍するには0→1、1→10、10→100と複数フェーズに係る事業モデルも必要。複数事業があれば個人の特性や成長性に合わせた舞台を用意できるから、さらなる事業成長につながる……」と、将来の“あるべき姿”からの逆算を徹底するようにしています。
では、そもそも、なぜ未来の組織図から考えるのか?それは、X Mileが『令和を代表するメガベンチャーを創る』というミッションを掲げ、創業当時から「1,000億円規模の企業になることを本気で具体的に目指しているから」です。本気で実現するには“社員が活躍できる場”をどれだけ持てるかが重要なので、新規事業は今後もより一層、積極的に立ち上げていきます。
もう一つ、ポジションを増やしたい意図もあります。当社では、20代若手と30代以上の経験豊富な人材をペアリングしてチームを組成し、僕もフォローに入りながら事業を推進するスタイルを取ることが多いです。
若手と経験者をペアにする理由は人材と事業の成長サイクルを循環させるため。若手は経験者からスキルを学び、いずれは経験者が就いているポジションへ上がってほしい。経験者には後任となる若手を育ててもらい、ゆくゆくは別チームやプロジェクトを持っていただきたい。だからこそ、どんどんポジションを生み出す必要があるんです。
山田考え方は似ていますが、一つ、決定的に違うかもしれません。というのも、僕の場合は、自分で事業をつくりたくなってしまうのです。
とはいえ、石橋を叩いて渡るタイプなので大きなリスクを取る経営は得意じゃない。戦い方としてはエフェクチュエーション(*)に近いと思います。ポテンシャルを感じるアイデアを見つけたら少しリスクを取ってみる。一歩先ではなく半歩先を目指す感覚で事業を展開しています。あとは、海外を見ると複数事業を手掛けながら勝っている企業が多いことも、マルチプロダクト戦略をする理由の一つです。
また、ある投資家の方と日本のIT企業で海外企業をM&Aして利益を伸ばしている事例についてお話しした際に、その答えは日本と海外の文化の違いにあるという興味深い話を聞きました。
日本では多くの事業で早期のマネタイズを求められるけれど、海外は「とにかくユーザーシェアをとりきれ!」と言われる。海外の競合に対して、マネタイズモデルの磨き込み力の強さで差別化して戦うことで、利益を伸ばし、競争に勝っていったんです。この事例を鑑みると、マネタイズモデルの磨き込みが秀逸な日本の成長企業が赤字で困っている相性の良い海外企業を買って、モデルをうまく輸出できれば、良い収益化ができるかもしれない。こういうことを自分でどんどんやってみたいと思っています(笑)。
当社はグローバルな企業をつくっていこうと本気で思っているので、このような事例を基に常にさまざまな仮説を立てながら今できること・今勝てる道筋を模索しつづけています。その結果、現在の事業戦略が力を持って形を成しているんだと思います。
未来に視線を向けながら複数事業を展開し、業界内でも目を引くプロダクトに成長させている点は両社の共通項の一つであろう。
だが、X Mileはミッション・ビジョン達成に向けた手段として事業を展開し、一方ファインディは現事業を通して新たな気づきを得て事業展開をしている。事業に対して持つ、ものさしの違いは興味深いと言える。
特に、両社ともHR事業を展開しながらも、自らを単純に「HR Tech企業」とは位置付けていない点は印象的だ。この共通の姿勢の背景に、どのような思考があるのだろうか。
山田投資家目線から見るHR領域を俯瞰的に広く見るようにしています。数年前にSaaSブームが起こった背景もあり、投資家目線で見るHR市場とは、ある程度コンプスが固定されて、将来的な成長性を低く見られがちな傾向があると感じています。一方、弊社ではマルチプロダクトでHR領域以外にも挑戦しているからこそ、自らドメインを規定して「エンジニアプラットフォームです」とあえて言い切るようにしているんです。
渡邉当社もHRプラットフォーム事業をポートフォリオの一つに据えていますが、候補者や投資家の方々には「ノンデスク産業の生産性を改善する包括的な事業」という説明をすることが多いですね。
この“包括的”というのは、今は二つの軸です。人口減少フェーズの社会なので、「業界内に人材を流入させる」のと「人が少なくてもまわる仕組みを実装する」という二択となる中、両方にコミットしているわけです。
山田投資家目線で見るHR領域は、利益率が重視される傾向にありますよね。でも海外の機関投資家には、生産年齢人口が下がっている日本で利益率が高くなる構造が理解できないんです。
それに、国によってHR領域の実情にはかなり多くの違いがあります。たとえば、インドは求人を出すと大量に応募が集まるけれど面接してみたら替え玉だった、みたいなことがごく普通に起こる世界。そうしたマーケットとも比較されるわけなので「この投資家の目線から今、日本のHR市場はどう映っているのか」は、常に意識しています。
HR市場の視座から見ると、両社は投資家視点を意識したコミュニケーション戦略を持ち、かつHRやSaaSに限定されない幅広い事業展開をしている共通点が浮かび上がった。ファインディはエンジニアプラットフォーム、X Mileはノンデスク産業の生産性改善と、それぞれ独自の領域で価値創出を目指している。
しかし、事業領域の拡大や新規サービスの創出だけでは、持続的な成長は難しい。両社の急成長を支えているのは、その背後にある組織力だろう。マルチプロダクト戦略を成功させ、複数の事業を同時に成長させるには、柔軟かつ強靭な組織基盤が不可欠だ。そこで次に、両社の組織づくりの哲学に焦点を当てる。
組織哲学の核心は、「人材」と「事業」の共進化
HR Tech、SaaS、そしてそれぞれの独自領域。多岐にわたる事業を展開しながら、なぜ両者は急成長を維持できているのか。“人”に着目して、成長を生む組織づくりの哲学を紐解いていこう。
まずは、Day1から1,000億円規模の企業を想定した組織づくりを行うX Mile。ミッションに『令和を代表するメガベンチャーを創る』を掲げ、組織文化の醸成や人材育成に投資する意思決定をしやすい構図をつくっている。
渡邉1,000億円規模の企業を目指す中で、マインドはずっと創業1日目、“オールDay1”なんです。ただ、それは単に結果だけを追い求めるということではありません。私のテーマは「コトに向かいながらも人を大切にするメガベンチャーをどうつくるか」です。
前職までの経験から、やると決めたらやり通すワークマネジメントが強いITベンチャーと、人を大切にする大手企業、それぞれの良さと課題を見てきました。前者は成長は続くものの離職率が高くなる恐れがあり、後者は温かみはあるけれど生産性・成長性に課題が増える可能性がある。そこで、ドライとウェットのバランスが取れた組織が必要だと感じたんです。
たとえば、新卒のメンバーに新規事業を任せる時も、「根拠は?」「数字は?」とファクトに関してはシビアにフィードバックします。それと同時に、失敗を絶対にその人のせいにしない仕組みをつくるんです。経営陣が柔軟にフォローに入れる体制を整えたうえで、信頼して任せるんです。この明確な評価・FB制度と温かいコミュニケーション、この両者のバランス感覚が大事だと考えています。
“性弱説”を起点としたドライとウェットのハイブリットな組織論について、同氏は過去のインタビューでも詳しく語っていた。
ドライとウェットの言い換えとして、性善説・性悪説といった言い方ができると思うんですが、僕自身はそのどちらでもなく、「性弱説」だと思っているんです。その前提には、「人間ってそんなに強くないよね」という思いがあって。
ごく一部の強い人間は、すごくドライに淡々とビジネスのことだけを考えられて、共感が得られなくてもびくともしない。でも普通に生きていたら、人は共感を求めたくなるものだし、承認されたい。自分が頑張っていることに対してフィードバックがほしいと思うものなんです。
そうした一定の感情の満足のうえにプロフェッショナリズムを求めるべきだと思うので、感情部分はすごく大切にしていますね。
次に『つくる人がもっとかがやけば、世界はきっと豊かになる。』という経営理念を掲げるファインディを見ていこう。
豊かさの源泉はテクノロジーの発展とイノベーションにあると考え、テクノロジーによる社会変革の時代に最も必要なエンジニアの可能性を拡げる活動に力を入れるファインディ。
加えて山田氏は、設立以来“学びと仕事をつなげたい”思いがあると、過去のブログで語っている。
日本の経済成長が鈍化し一人当たりのGDPが伸び悩む中で購買力平価ベースの賃金が下がっていく現象が起きています。つまり、若者からすると将来稼げるようになるのか、食べていけるのかが不安になる時代です。
また、経済成長が確かな時代は英数国理社をしっかり勉強して、良い大学に入り良い会社に入ればだいたい定年まで良い生活ができる時代でした。ある程度どこでも成長しているので、一定以上の能力があれば収入に繋がった時代です。
一方で、今後は自ら自分の身につけるべき能力を見極める必要があります。
どんなスキルを身につければ安定的に稼いでいけるのか、その指針にGitHubを解析して算出する「スキル偏差値」が少しでも役に立てば良いと思っていますし、将来的にはエンジニア領域にはなりますが教育など次世代の育成に関わる事業も展開していく予定です。
一貫して、つくる人の豊かさの体現を追いかける山田氏。その姿勢は組織のなかでもあらわれている。
スタンスは「とにかく任せる」。
もちろん、事業として可能性がありそうだと判断したうえで、フォローできる体制も保ちながら社員自身の成長性を大事にしているのだ。
山田スタートアップの世界では、「ハードシングスを乗り越えた経験」がやや美化されすぎていると感じるんですよね。それはそれで素晴らしい経験だとは思いますが、私は、人の成長は事業の成長と密接に結びついていると考えているんです。事業が停滞すれば、人の成長も止まってしまう。20代~30代という貴重な時期を我々に託してくれている社員に、そんな経験をさせたくありません。
むしろ、たとえ小さくても着実に成長を続ける事業環境こそが、人材育成には不可欠だと信じています。常に新しいチャレンジがある環境で、社員一人ひとりが「ファインディで働けてよかった」と実感できる。そんな組織づくりを心がけています。
また、バーティカルな領域ですから、早くコミットし始めることで、この業界で創出できる価値が相対的にどんどん高まり、市場価値も高まっていくチャンスでもあります。だからこそ、長期的なコミットメントをしてもらえるような環境づくりを大切にしているんです。
さらに、「人材」というのは経営テーマですから、営業現場ではよく、企業の経営陣やハイレイヤーのみなさまと相対してお話をさせていただきます。私もメンバーもみな、非常にありがたい成長の機会だと感じていますね。
より多くの社員が長く働くことで、より社会に意義のある仕事ができる。そんなポジティブスパイラルを生み出す組織にしていきたい。結局のところ、社員の人生の一部を預かっているという責任感。それが我々の組織哲学の根底にあるということですね。
この想いが同社の採用サイトの記事でも熱く語られているので、ぜひ合わせて読んでほしい。
X Mileとファインディ。両社の組織哲学の核心は、「人材」と「事業」の共進化にある。渡邉氏の「ドライとウェットの融合」、山田氏の「成長環境の持続」。表現こそ異なれども、メンバーの長期的成長が企業価値を最大化するという共通の信念が見て取れる。これこそ、両社が組織の求心力と“スタートアップらしさ”を失わずして、組織を急拡大させられている所以であろう。
しかし、競争激化するマーケットで差別化を図るには、さらなる要素が必要だ。
両社がいかにして市場のディープなイシューを発掘し、独自のソリューションを構築しているのか。その戦略的アプローチにも触れていきたい。
“ディープイシューへの執念”こそ、競合ひしめく領域での勝ち筋
組織戦略が両社の成長を支える基盤であることが明らかになった今、次の焦点はプロダクト戦略だ。成長市場において、持続的な競争優位性を確立するためには、単なる機能の差別化のみでは当然不十分。真に顧客価値を創出し、市場を席巻するプロダクトを作るにはどうすべきか。
X Mileとファインディがいかにして市場のディープなイシューを特定し、それを独自のソリューションへと昇華させているかを探っていきたい。
渡邉当社は創業以来、ノンデスク産業──たとえば物流や建設・製造などに焦点を当て課題解決に取り組んでいます。
戦略として、まずは各分野のHR領域から始め、お客さまとのつながり構築や、顧客の業界特性・事業理解にこだわってきました。レガシー産業ならではの複雑性の高い課題に深く入り込むことで、根深い業界の課題や新たな課題が見えてくる。その次に、課題解決の手法としてSaaSをはじめとしたITプラットフォームを構築・提供していく──これが基本戦略です。
今は物流領域でSaaSを展開しているところで、今後は建設・製造・警備など複数展開していくつもりです。業界によって抱える課題やニーズは異なるので単なる“色違い”のサービスではなく領域独自の課題解決を担うプロダクトを提供できるよう真摯に向き合う必要がありますね。
山田やっぱり、顧客のディープニーズって重要ですよね。エンジニア組織支援SaaS『Findy Team+』の開発もリアルな悩みを聞いたところから始まりました。
営業に出向いた先でCTOやVPoE・EMの方々とお話する機会が多く、そこで「プロダクトをつくりたくて入社したのに大体MTGで1日終わる」「マネージャーになりたい人が本当に少ない」と仰っていて。その話を聞き「このままだとマネジメントをやりたい人が日本からいなくなってスタートアップが存在しなくなるのでは」と強い危機感を抱いたんです。
すぐさま定量調査をとったところ、丁度EMになりたい人が減っている時期だったんです。「これはまずい!」と思って、エンジニア組織支援SaaS『Findy Team+』の開発に至りました。
事業を成功に導くための鍵は、顧客の深いニーズを正確に理解して、適切な解決策を提供すること。一見シンプルな戦略だが、顧客との密接なつながりや信頼関係が成り立っていなければ、地中深くに潜っている大元の課題やニーズを探るのは難しい。
それこそHR市場では、課題の根本が実は業界全体に根付く問題だったり、経営課題だったりすることも往々にしてあるだろう。
──どれだけディープなイシューを見つけられるか。
スコープの鋭さが独自性と価値を合わせ持ったプロダクトを生み出し、HR Tech市場で勝ちつづける要素になっているのかもしれない。
さらに、競合の多い市場で戦うための施策について問うと“若手層とシニア層のバランス”の話が上がった。
山田エンジニア領域に関心を持つ人材が若手に寄っていた背景もあって、これまでは若手採用とその育成に注力していました。先ほどもお話しした通り、なるべく長く活躍してもらえるよう社員一人ひとりの成長環境をどうつくるかには今でもこだわっています。
一方で、人数が増えてくるとシニア層の手が不可欠でマネジメント層をもう一段引き上げる必要がありますよね。
渡邉当社も以前までは比較的若手のメンバーが集まりやすい傾向でした。私と代表の野呂は創業当時まだ20代中盤だったので自分たちの年齢からしても、若手採用のほうが向いていたこともありました。なので、若手をなるべく多く採用して、未経験者でも活躍できるオンボーディングの仕組みづくりに注力していましたね。
若手を積極的に採用・育成して成長してきた両社。だが、現在はミドル層〜シニア層の採用にも力を入れ、若手層とのバランスを重視していると話す。
しかし、スタートアップと聞くとやはり今も「キャリアダウンしてしまわないだろうか」と不安を抱く人は多いだろう。
だが、両社が展開するマルチプロダクト戦略によって、実績を積んできた30代やCxO経験者にとっても挑戦しがいのある多様な機会が提供されており、やりがいは十分な環境となっていることもわかる。
渡邉面接では、その人がどんな経験を積んできて、今後やりたいことは何なのかを聞いたうえでポジションにとらわれず対話をしています。そのなかで「こういう役割を担ってほしい」とか「こんなミッションはどうですか?」と、その人の能力を最大限発揮できる円と企業が目指す方向の円が交わる場所を議論しています。
実際に、SaaS事業のポジションで応募が来た候補者の方と複数回の面談でのすり合わせを経て、最終的にはHR側の事業責任者としてオファーを出したというケースもあります。0→1から1→10、10→100と様々なフェーズの事業があることで、さまざまなポジションをご用意できるようになるというメリットを最近、強く感じます。以前、ラクスルでCOOをされていた福島さんからもお聞きしたのですが、人によって得意な事業フェーズがやはり違ってきますよね。
X Mileにはノンデスク事業者向けの人材採用システム『X Work』をはじめ、『ドライバーキャリア』や『建職キャリア』といった領域特化の人材紹介サービス、ノンデスク事業者向けのSaaS『ロジポケ』など、あらゆるフェーズを迎えるプロダクトや新事業が多々あるためお互いに合う形を一緒に決めていきたいですね。
山田当社では自身の経験を活かしてもいい、全く違うことをやってもいい、というスタンスを取っています。たとえば、この間あるグローバル企業の人事役員にお会いしたら「M&A担当として入社した1ヶ月後に人事になって10年目」と仰っていて。でも、担当領域が変わっただけで企業にコミットするという軸は変わっていないんですよね。だから、ある種“自由”でいいんです。
もちろん、エンジニアの場合はやりたいことが明確な人が多いのでプロセスは職種や候補者によって最適化は行う前提です。ただ一つ、共通して大切なことは「テクノロジーを軸に、世界規模のスタートアップを目指そう」という想いに共感してくれること。ここだけは外せません。
ソフトバンクのような大企業も参考に。
令和に通用するバリューの作り方
ここまでの二人の対話で「成長性を大事にする」「とにかく任せる」といった言葉が頻出したように、組織で働く人々の価値を重んじている両社。
どんどん新規事業が誕生するなかスケーラブルな組織にするため必要なことを問うと、声をそろえて“バリューだ”と語る。
渡邉当社は創業4年目で、事業成果を最大化するために必要な振る舞いや考え方を10のバリューとして定義しなおしました。
渡邉創業1年目につくったバリューは社員のなかで解釈がぶれてしまい、真逆の解釈が生まれてしまうこともあったんです。そこでバリューの改定を行いCulture BOOKも作成しました。10のバリューそれぞれの意図を言語化して行動に落とし込んでもらえるよう試行錯誤しています。
直近も、X Mileのマネージャーに求められる考え方・行動をまとめた『はじめてのリーダーの教科書』というハンドブックを作成しております。40ページほどの大作となっており作成に時間はかかりましたが、バリューに紐づいた組織創りができる工夫は今も継続しています。
山田ファインディでは、とにかく“覚えやすい”をコンセプトに社員数が10名程度のときに今のバリューをつくりました。バリューを楽しみながら体現できる組織でありたいなと考えていたんです。
山田私の場合、バリューをつくる際はソフトバンクさんを意識していましたね。そのバリューでは根底に「努力は楽しい」というメッセージがあったんですよね。その考え方がすごく良いなと。
実際、孫正義さんと働いた経験がある人の話を聞くとみんな楽しそうなんですよね。だから僕も「難しいことも楽しみながらやりたいよね」という思いが前提としてあるんです。
僕自身、バリューにある「前向き」はとくに注視していて、結局「明るく生きていればうまくいくんじゃないか」って思っているんですよ。過去にフィリピンやブラジルで働いた経験があるんですけど現地の人々って本当に明るいんです。僕は凹みやすいタイプなので、あえて自分に“前向き縛り”をして行動するようにしています。
すると、思ったより物事が好転したり、気持ち沈まず頑張れたりするんです。
自身の経験もあって、5つのバリューのなかでも「前向き」はとくに大事にしています。企業の成長段階では、この思いをカルチャーに反映させることにかなりこだわりました。
バリューを体現するカルチャーの浸透においては、両社ともに“総会を重要視して力を入れる”点も共通していた。総会は、経営陣が社員に直接メッセージを伝えられる絶好の機会。たとえば、最もバリューを体現した人を称える賞を設けたり、豪華な会場による特別感でモチベーションを高めたり、さまざまな工夫を凝らしながら企業のミッション・ビジョン・バリューや経営戦略を伝えることで社員の心に訴えることができるのだ。
また、カルチャーの浸透において渡邉氏は過去の取材でも、急成長に対応できる柔軟な組織をつくるために“組織OS(コミュニケーションや組織カルチャーからのアプローチ力)の強化に取り組んでいる”とも話していた。
「自分たちならこの会社をより良くできる」「この目標を達成できる」「社会に貢献してメガベンチャーになれる」と全員が信じられるような組織にすべく、日々試行錯誤し施策に落とし込んでいます。
具体的には、メンバーの良い部分をきちんと認めることもその一つです。その習慣を組織に浸透させることで、称賛するカルチャーが醸成されますし、チームや会社に対するエンゲージメントも高まり、個々の能力がさらに発揮される、という好循環が生み出せると思うのです。
事業を成長させようと考えたとき、どうしても売上利益に視点が寄ってしまうが、事業を動かすのは他でもない“一緒に働く社員”だ。まずは、社員が活き活きと成長を楽しめる場をつくり、カルチャーという手法を用いて組織全体を育成していく姿勢が欠かせない。
マーケットで評価される=海外を獲ること
最後に、日本発のプロダクトを世界に広めようと野心を抱く両社の挑戦についても伺っていこう。
渡邉X Mileが第一にやるべきことはもちろんノンデスク産業の生産性を改善すること。ただし、中長期的にはグローバルに出ていくことも考えています。代表の野呂が創業期からずっと「海外で挑戦したい」という思いを持っている背景もあり、海外も含めて新規事業をつくりながら利益を出していきたいです。
X Mileでは、グローバル展開を見据えた組織づくりがすでに始まっているという。
事実、他社で海外事業の立ち上げ経験を持つX Mile吉田氏の取材にあった『X Mileの手厚いオンボーディングに、海外展開への布石を感じている』との発言が印象的だった。
海外、特に欧米企業だと、入社後のオンボーディングを1カ月ほどしっかり時間をかけて行う企業も多いです。
X Mileでも、私は1カ月ほど、動画を見たりレクチャーを受けたりしながらオンボーディングをしてもらい、入社後のプロセスもかなり細かく仕組み化されていることを感じました。
もちろん実際には、海外仕様に変えるべき部分はたくさんあると思います。しかしX Mileのオンボーディングのベースは、世界的にも有名なHR企業にも引けを取らない印象があり、ある程度通用するのではないかと思っています。
たしかに、日本企業の多くはオンボーディング期間が数日程度と短いケースが多い。一方で、海外企業は1カ月かけてビジネスマナー、コンプライアンス、企業文化の浸透まで丁寧に教育する傾向にある。グローバル展開を見据えるならば、今からオンボーディングの仕組み化していくことは重要だろう。
一方、ファインディでは世界共通のプラットフォーム開発に今まさにリアルタイムで取り組み続けている。
山田海外展開について言えば、『Findy Team+』はアメリカで類似プロダクトが登場し始めたタイミングとほぼ同時期にスタートしました。これが可能だったのは、既に収益を上げている事業があったからです。資金調達だけに頼っていたら、同時期の事業立ち上げは難しかったでしょう。
私はファインディを「海外市場で高く評価される企業」にしたいんです。私自身、製造業出身なのですが、日本の製造業界とIT業界を比較すると、IT業界はグローバルでの競争力がまだまだ弱い。一方で製造業は今でも世界市場から高い評価を得ています。
新卒で入った会社の所属していた事業本部における売上の約6割が海外だったんです。そこで気づいたのが、「市場から評価されるということは、すなわち海外で成功すること」だということ。ソフトウエアやアルゴリズムで外貨を稼げる企業を増やすことが日本の豊かさにもつながります。ファインディをそのポジションに導くことに、私は人生をかけて“やり続けたい”と思っています。
この“やり続ける”姿勢が本当に重要なんです。例えば、ファーストリテイリングさんはアメリカ市場に3回挑戦していますよね。失敗しても諦めずに挑戦し続けた。また、ブラジルでも成功を収めている『KUMON』の方とお会いした時、「最低でもこの国での成功まで5年は必要だ。私はすでに20年ブラジルにいる」とおっしゃっていて、その覚悟のレベルの違いに衝撃を受けました。
現在は、まずインドと韓国から学びを得ようとしています。両国の企業には、シリコンバレーでの経験を持つ人材が多く、海外でプロダクトが売れ始めている事例も出てきています。私たちも常に学び続け、真のグローバル企業へと邁進していきたいです。
両者は、HR領域を足掛かりに、ノンデスク産業とエンジニア市場のそれぞれの構造的課題に切り込んでいる。単なる人材マッチングではなく、業界全体の生産性向上と人材価値の最大化を目指しているのだ。
では、野心的なミッションを実現するために、両社はどのような人材を求めているのか。マルチプロダクトを起点とした新規事業創出とグローバル展開を見据えた、両社の人材戦略とは。
渡邉事業家人材はもちろん、コーポレートを支えるスペシャリストやエンジニアなど、あらゆる側面で一緒に事業成長を推進する人との出会いを待っています。
とくにミドル層〜シニア層の人や経営人材として興味をお持ちの方は、まずはオープンポジションでカジュアルにお話させてもらいたいです。1度目の面談から僕や代表の野呂が参加するケースも多いので気軽に情報交換しながらお話できればと思います。
山田ファインディは、エンジニアプラットフォーム領域で国内〜海外まで拡張しながら事業を推進していきたいので、自分で事業をつくりたい人や熱量のある人はどんどん来てほしいです。
若手・ミドル・シニアと年齢問わず一人ひとりに成長機会やワクワクできる経験を掴めるチャンスをつくっていきたいと思っています。グローバルを穫れる企業になるために一緒にチャレンジしていきましょう。
X Mileとファインディ。両者のこれまでの軌跡から見えてくるのは、単なる成功の方程式ではない。それは、日本のテック企業が世界で存在感を示すための、新たな在り方を示唆しているのかもしれない。HRという切り口から、「人を軸に据えた組織づくり」と「業界のディープイシューへの執念」を武器に、ノンデスク産業やエンジニア市場という広大な領域に斬り込み、産業構造自体の改革に挑んでいるのだ。
そんな成長と拡大を続ける両社に共通していたのは、事業を生み出しながら優秀な人材を採用・育成し、そして適切なタイミングでミドル・シニア層へ権限移譲をしていくプロセスの徹底だ。社員が自律的に動き、責任を持って成果を生むことで、次なる成長のサイクルが生まれている。
“Day1意識”を持ちながら、“半歩先”の未来を見据えて進む──その姿勢こそ、これからのスタートアップに求められる新たなスタンダードなのかもしれない。
挑戦と成長を求める人にとって、X Mileとファインディは、理想的な舞台と言えるはずだ。
こちらの記事は2024年10月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
山根 榛夏
写真
藤田 慎一郎
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