連載事業家の条件

「何となく作ったプロダクトは応援されない」
レッドオーシャンで勝ち筋を作るスタートアップのあり方

インタビュイー
手嶋 浩己

1976年生まれ。1999年一橋大学商学部卒業後、博報堂に入社し、戦略プランナーとして6年間勤務。2006年インタースパイア(現ユナイテッド)入社、取締役に就任。その後、2度の経営統合を行い、2012年ユナイテッド取締役に就任、新規事業立ち上げや創業期メルカリへの投資実行等を担当。2018年同社退任した後、Gunosy社外取締役を経て、LayerX取締役に就任(現任)。平行してXTech Venturesを創業し、代表パートナーに就任(現任)。

中村 拓哉
  • 株式会社Meety 代表取締役 

2011年Speeeに入社。デジタルマーケティングのコンサルティング、アドテク事業の立ち上げ、新卒・中途採用に従事。その後社長室にて投資実行したxR関連スタートアップVRizeへ事業開発として出向。2017年、COO事業推進責任者として転籍。大企業とのオープンイノベーションプロジェクトの推進、VRの技術を活用したアドネットワーク事業の立ち上げを推進。2019年5月株式会社Meetyを創業。

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世界を変える事業家の条件とは何だろうか──。

この問いの答えを探す連載「事業家の条件」。数々の急成長スタートアップに投資してきたXTech Ventures(以下、XTV)代表パートナー・手嶋浩己氏が、注目する事業家たちをゲストに招き、投資家の目を通して「イノベーションを生み出せる事業家の条件」をあぶり出す。今回のテーマは、「レッドオーシャンでスタートアップがサービスをグロースさせるには?」だ。

次々と誕生しながらも、成長しきれずに志半ばで消えていくプロダクトたち。

世の中にプロダクトがあふれる中で、サービスを知ってもらうこと、利用してもらうことには数々のハードルがある。こうした状況下で、生き残るために我々は何をすべきだろうか。

そうした疑問を抱えながら、今回は急成長を遂げているMeetyの中村拓哉氏をゲストに招いた。同社が運営するサービス『Meety』は、「カジュアル面談を“もっとカジュアルに”」と謳うプラットフォームだ。プロダクトローンチからまだ1年ほどながら、メルカリやSmatHR、Ubieなど「採用が強い企業」が既にヘビーユーザーとして付いている。しかし、初めからうまくいっていたわけではない。プロダクトをつぶし、途方に暮れる中でヒアリングを繰り返した結果誕生したプロダクトが、いまの『Meety』である。

まだプロダクトも確立されていない2年半ほど前に投資を決め、紆余曲折を見守ってきた手嶋氏は「何度か奇跡があった、それをしっかり掴んだ」と語る。Meetyが掴んだ奇跡やスタートアップが自社サービスを生き残らせるための方法について、中村氏の起業家としての姿勢や経験から探った。

  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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Meetyはスタートアップ産業に育ててもらった

2020年10月にローンチされた『Meety』。2021年夏ごろから、いくつかの有名企業が熱心なファンとなり、盛り上がりを見せている。新着順に表示される仕様を利用し、トップページを1社のコンテンツで埋める「ジャック」を行う企業も続出。「個人と個人をマッチングさせる」という単一機能のプロダクトが、なぜこれほどまで早期に熱狂的なファンを獲得することができたのだろう。

手嶋『Meety』は、ユーザーの多くがスタートアップです。スタートアップ産業に育ててもらっているサービスと言っても過言ではないでしょう。単一機能が刺さったかどうか、実際どうなのか今はまだ判断するには時期尚早だと思いますが、外部の波を活かせたというのはあるでしょうね。

中村特徴的な動きとして、ユーザーとの近さが挙げられると思います。私は意識的に、Twitterでもユーザーに絡みまくっていますし、DMも送りまくってますね。カジュアル面談の募集をまとめて紹介する特集企画を立てる際、界隈で有名な方を調査してお声がけし、僕が自らDMで「こういう特集をやるから出てくれ」と突撃しているんです。そうした動きをローンチから毎月2~3回の頻度でやってきました。

特集に出ていただいたあとも、一緒にイベントをやって仲良くなろうとしてますね(笑)。そんな方たちがTwitterで言及してくれることで、「『Meety』、良いらしいよ」と広がっていった部分もありますね。僕は『Meety』関連のツイートがあればたいていリツイートするので、「中村さん、すごく集客手伝ってくれますね」と仰ってくださる方もいます。

手嶋確かに中村さんはずっとTwitter でRTしているイメージがありますね(笑)。ただTwitter を始めとするSNSを上手く営業ツールとして使えているのは成長要因の一つなのかなと思います。

著名人にコミュニケーションを取って仲良くなり、SNSで発信してもらうことで認知度向上を図れる――そう捉えるのは少々短絡的だ。著名人による発信でサービスの存在を知ったところで、サービスに登録したり、継続利用をしたりしてくれるとは限らない。そうしたハードルを越えてMeetyが伸びを見せた理由は、サービスのコンセプトにあると、二人は見ている。

中村Meetyが掲げている「カジュアル面談を”もっとカジュアル”に」というコンセプトが効いていますね。「もっとカジュアルにした方がいいよね。」と皆さんが思っていたからこそ、応援してもらえたんじゃないかと。

サービスが目指す矢印が僕たち作る側に向いていると、ユーザーとしては「知らないよ」となってしまう。あくまでスタートアップのプロダクトは、「ユーザーに応援されるコンセプトを作れるかどうか」が、非常に大切なんじゃないかと思います。

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「当てに行く」プロダクト作りをやめ、原点回帰へ

読者にとってはイメージ通りかもしれないが、ローンチから順調に成長しているように見える。しかし、現在の好調に至るまでの道のりは決して平坦ではない。「起業当初から、応援されるプロダクトを作ろうと思っていたわけではない」と語る中村氏。事実、前身となるプロダクトとして“Meetupをコンセプトにしたプラットフォーム”が存在していた。

手嶋当初、中村さんが作ろうとしていたのはオフラインのMeetupプラットフォームでした。そこにコロナ禍がきてしまったため、計画を変更せざるを得なくなったんですね。相当悩んだ時期もあったと思いますね。

今、振り返ってみると、中村さん自身が法人営業も含め器用でいろいろできてしまう分、最初の動きの優先順位を間違えていた部分はあったかな。立派なコンテンツを作りにいったりとか、営業で集めてきたりだとか。いざとなったらそれらができることは大事なんですけど、事業立ち上げの際の優先度という観点で今思うと間違っていた動きがあったかもしれません。

手嶋氏の指摘に対し、中村氏は思い当たる節があると苦笑いする。

中村当時は、プロダクトに向き合えていなかったですね。プロダクトがマーケットに刺さっているかどうかを曖昧にしたまま、小手先の営業と言いますか、力業で使ってもらおうとしてしまっていました。

ここ数年、企業が自ら起案して企画するイベントが増えてきましたよね? そのほとんどが、Peatixやconnpassのようないわゆるイベントプラットフォームを利用しているんです。ページ制作や集客が楽だからです。

でもこういったプラットフォームって採用用途には最適化されていないんですよ。参加者の評価管理は別で行う必要があり、ATS(採用管理ツール)へのデータ連携が自動で出来ないので、手打ちで入力をしていたりする。だから、採用活動に最適化したイベントプラットフォームをつくろう、と考えたんです。

そうして創ったプロダクトをお客さんに当ててみると、「中村はがんばってるから、一度は使ってあげよう」みたいな営業獲得くらいしかなかったんです。実際のところマーケットにプロダクトはそんなに刺さってなかった。

採用担当者が抱える課題に刺さるプロダクトは、採用活動がちょっと楽になるものではなく、まず集客力が重要で、次いで手軽さだったわけです。

事業立ち上げの第一歩は、本質的なユーザーペインを理解し、芯を食ったプロダクトを作ること。表層的なペインに執着し、力技で広めようとしても成長に限界がある。その真実に痛いほど気づかされたことが、今のMeetyのプロダクト作りに生きている。

ピボットを意思決定したあとも、現在のコンセプトに行き着くまで右往左往する期間が続いた。迷走が終わるきっかけとなったのは、相方である共同創業者からかけられた一言だったという。

中村「何のために起業したの?」と言われたのは大きかったですね。「スタートアップらしく、世の中を変えるようなチャレンジができないなら、俺は起業した意味がないんだよね」とも言っていました。彼は技術力が高く、自分で起業してサービスを作れる人材なので、そんな彼に納得感のないチャレンジをさせる訳にはいかない、と強く思いました。

それらの言葉を受けて、確かに「当てにいこう、置きにいこう」とする事業の作り方をしていたなと気づかされたんです。採用市場を変えるようなことをやりたい、今の時代に合った採用プロダクトを作りたいという初心に立ち返ることができましたし、せっかくならそこでフルスイングしなきゃなと。

前回のサービスクローズからここに至るまでに7ヶ月ほどかかっています。その間は散歩をしまくっていました。満足のいくプロダクトができるまでの間は、ビジネスサイドの人間は手を動かせることがなかったですし、アイデアを出すには歩くのが1番で。散歩のしすぎで、むちゃくちゃ日に焼けましたね(笑)。

手嶋振り返ると、いろいろ見ていった結果、他のものじゃないとわかったってことじゃないのかなと。そのプロセスを経たからこそ、いまの形にしようと腹を決められたっていうのもある気がする。「失敗を恐れずまずはやってみよう」といった、「当てにいく」のではなく、「全く新しい提供価値で顧客を集める」という事業の作り方ができたってことかなと。

中村そうですね、失敗を恐れずにビジョンを優先したって感じです。チームメンバーもやりたいと思って集まってきているので、せっかくならやりたいことをやろうよ、っていう感じでしょうか。

Meetupプラットフォームをクローズし、「やりたいことをやろう」と切り替えたあと、実は現在のMeetyとは形の違うプロダクトも作られていた。

しかし、結果的にその『形違いのMeety』は、中村氏の友達100人程度に試験的に利用してもらった段階ですぐにやめる決断を下されている。撤退した理由は「ユーザーの何のインサイトにも刺さっていない、何となく作ったプロダクトだったから」。では、この経験を経て生まれたいまの『Meety』が捉えた“ユーザーのインサイト”は、どのようにして掴んでいったのだろう。

中村ユーザーへのN1インタビューをやり続けていましたね。1日3〜5人にインタビューさせていただき、得られたインサイトを徹底的に言語化する。

そうして行き着いたのが、カジュアル面談です。このカジュアル面談を良くするサービスを作ろうと。というのも、カジュアル面談自体は皆さんご存知の概念なんですが、ヒアリングをしてみると、人によって答えが違うんですね。定義が違いすぎて、その人の定義で運用されてしまっているんですよ。

カジュアル面談と言いつつ、その実態は選考というところもある。だから「カジュアル面談なんで、気軽に遊びにきてください」と伝えられても、候補者側の立場では、どこか疑わしい気持ちになってしまう。信用度の低い、良いイメージのない言葉になってしまっていたんです。

そこで、最初は別の言葉を開発して、「カジュアル面談ってダメだよね」と言おうと考えました。しかし、マイナスの側面があるものをプラスにしていくメッセージの方がユーザーの共感を得られるんじゃないかと思い、「カジュアル面談=きな臭い」という市場認知を活かしたサービスにしようと決めました。ここまで思い至れたのは、ユーザーインタビューを繰り返してきたからかもしれません。

また、紆余曲折あって辿り着いたカジュアル面談ですが、実はMeetupプラットフォームをやっていたときに抱いていたビジョンとほとんど同じなんです。要するに、「ゆるっと接点を取ってからコミュニケーションを深めていくことが、これからの採用に必要」というコンセプトですね。ここは変わらないので、Meetupプラットフォームで得た顧客の声やユーザーインサイトは、いまのプロダクトでも活かせるんじゃないかと踏んでいました。

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奇跡を掴む「準備」をしていた者にこそ、奇跡は起こる

ところで、手嶋氏は、Meetyの躍進には何度か奇跡があったと語る。前身となるMeetupプラットフォームは、対面を想定していたこともありコロナ禍の影響を受けクローズする運びとなったが、オンラインで気軽に会える手段へのニーズを増やしたという意味では、コロナ禍も会社にとって「奇跡」のひとつと言えるのだ。

手嶋協力的な会社がいくつかあり、最初のロイヤルカスタマーとしてLayerXなど影響力の強い会社がいたことも奇跡のひとつ。創業したときには、LayerXが今のような成長を見せているなんてわからなかったわけですから。コロナもそうですが、創業時に想像だにしなかったことが起きており、それがMeety にとっては奇跡的に追い風になっています。

ただ、奇跡が起きたところで会社、事業が躍進するとは限りません。重要なのは“奇跡を逃さず活かせる心の準備”です。今、Meetyを見ていると、外部の波をうまく活かせて乗れている感覚がありますね。

中村これは後付けになりますが、市場の中で上手くポジショニングができていたのは成長要因として大きかったのかなと感じています。企業にとって、『Meety』のカジュアル面談は1番ハードルの低い受け皿なんです。他のサービスとは役割が違うと思ってもらえているから、他サービスで募集を出していても「『Meety』にも出しておこう」と思ってもらえる。

初めから多機能開発をしたり、複数のプロダクトをつくったりするのが難しいスタートアップこそ、独自のポジションを打ち立てることが初期の成長角度を左右する上では大きい要素なのではないでしょうか。

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サービスをグロースさせるには、追い風に乗る必要がある

ピボットに踏み切り、時流も上手く味方につけて躍進を遂げたMeety。波に乗れたのはあくまでも『Meety』というケースが特殊だったからなのではないだろうかという疑問も浮かぶ。他のスタートアップが、手嶋氏の言う「奇跡を掴む心の準備」をするため、できることは何だろう。そもそも、「奇跡」がなければ成功するのは難しいのだろうか。そうした疑問に、手嶋氏は次のように語った。

手嶋やはり、自分たちの努力だけで事業を軌道に乗せるのは難しい。追い風にいかにして乗るかという面があると思います。

そうした点で言うと、やはり『Meety』は時代の要請に乗れた。中村さんの言葉を借りると「みんなに応援してもらえるサービス」であれたことが、成長の大きな要因でしょう。先ほど、コロナ禍も奇跡の一つだと言いましたが、「コロナ禍を受けて減っている緩やかな接点」を提供できるという点で、『Meety』は時代の要請に応じたサービスだったんです。

しかし、ここで疑問が浮かぶ。しばらくはオンラインに対するニーズが高い状態が続くだろうが、それは決して永続的なものではないだろうということだ。今の時代の流れはオンラインだが、そこに固執することで、かえってマイナスの影響が及ぶということはないのだろうか。

手嶋4~5年が経ったころにオフラインへの揺り戻しはくるかもしれないとは考えています。オフラインが活性化した状況下で、いつまで使われ続けるかという懸念はゼロではないです。成長速度に影響が及ぶかもしれませんね。

しかし、時代に合った成長速度を規定していけばいいと思っているので、そこまで強く悲観はしていません。そもそも、時代の変化への対応が問われるのは、サービスである『Meety』ではなく企業としてのMeetyではないかとも思います。

何も今のサービスだけで対応する必要はないので、シナジーさえあればオフラインでの出会いを創出する別事業を立ち上げてもいい。「企業と個人の緩やかな接点」という時代に合っているサービスを立ち上げられたのがMeetyという企業であり、中村さんという起業家ですから、長期的に見ても悲観ポイントはないですね。

withコロナがアフターコロナになったとしても、会社が変わり続けるのであれば悲観ポイントではない。では、順調にも見えるMeetyには、今後を見据える上で何か課題はあるのだろうか。

手嶋サービスにはまる企業、はまらない企業が比較的明確に分かれている点が課題だねと伝えています。『Meety』経由でいい出会いや面談が定期的に入るのが企業にとっての良い状況ですが、現状ではそこがまだ難しい企業が存在している。そんな「いまは『Meety』にはまらない企業」も活用できるよう、ギャップを埋めていく必要があります。

中村今までの段階では、Meety自体の集客力がまだまだ弱いため、どうしてもワークできる企業は企業自体にブランド力、集客力があるケースに偏っていました。「『Meety』に出しさえすれば自動的に人が集まる」のではなく、企業側にユーザーを惹きつける力が求められるわけです。

手嶋さんからの指摘はまさにその通りでありながら、現時点では想定通りでもあります。インフルエンス力のある企業に使ってもらいながら、メディアとして力をつけていくのが初期段階。徐々に集客力を高め、これから控えている新機能によって、これまで「はまらなかった」企業もサクセスできるようになる予定です。

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Meetyは「究極のCtoCサービス」

オンライン偏重の時代が変わったとしても、手嶋氏は「悲観すべきことはない」と言った。果たして、今後Meetyは本当により成長していくことができるのだろうか。

中村今の『Meety』にはまらない企業もサクセスできるサービスを目指すと言いましたが、僕たちプロダクトを作っている側は、どちらかというと企業側ではなく候補者側の目線に立っています。候補者が他にはない価値を感じてくれさえすれば、候補者が集まる。すると候補者と出会いたい企業はおのずと使ってくれるようになると思うんです。

『Meety』の最大の特徴は、人事や採用担当者ではなく“気になる社員”にダイレクトに接触を図れること。インタビューをしていると、特にエンジニアは人事担当者と話したいとは思っていない傾向があるんです。そうしたニーズに応えられるサービスを提供していきたい。

『Wantedly』が7〜8年前にグロースし始めたときも、「求人に条件を記載できないなんて、使うのはスタートアップだけで、大企業は使うわないでしょ」という声が一部であったと聞いています。しかし、転職サイトより『Wantedly』からエントリーした方が有利だと思った候補者たちが集まり、企業側も使わざるを得ない雰囲気になっていった。だから、僕らも候補者に最高のプロダクトを提供ことを第一優先にしています。そうすれば企業も付いてくると思うので。

手嶋今の話から考えてみても、『Meety』の本質的な強さは、BtoCではなくCtoCサービスであるという点にあると思いますね。その中でも、メルカリのような究極のCtoCサービスです。

究極のCtoCとは、提供する側と受ける側がほぼ一致していて、ひとりの人間がどちらの立場にもなり得るサービスを指します。Twitterを見ていても、『Meety』は面談を受けてきた側の人が「自分も面談募集をしてみようかな」と動く流れが自然発生している。

この点の強みは、ユーザー獲得価値が高まることです。ひとりのユーザーがいれば、提供側にも受け手側にもなり得ますからね。メルカリの強さもそこにある。ドライな言い方をすると、集客した一人当たりの経済的価値が高いんです。

中村CtoCの構造じゃなかったら登録しなかった人もたくさんいますね。手嶋さんもそのうちの一人でしょうし。一般的な転職サイトなら登録しない方がたくさん登録されていることで、特異なデータベースになっています。

手嶋氏の言うように、CtoC色が強く、必ずしも転職、採用につなげることを目的としないカジュアルさは、『Meety」にしかない独自のカラーだ。その気軽さがユーザー増につながっていると言えるだろう。

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スタートアップに求められる人物像に紋切型はない

最後に改めて「そもそもなぜ手嶋氏は中村氏への投資を早期に決めたのか?」という疑問を投げかけてみた。

手嶋初めて中村さんに出会ったのはFastGrowと一緒に開催した起業家合宿で、絶対的にも相対的にも「地頭がいいな」と思いました。他の参加者と大きく違うと感じたのは、経営者目線で物事を見ていると感じられたことですね。前職でCOOを経験されていた分、いわゆるインターネット企業のいち社員として働いていた人とは感覚が違ったのかなと。

投資しよう、とはその場でほぼ決めました。地頭の良さに加え、行動力があり、前向きで明るい。中村さんがOKしてくれるならしたいという判断でした。

他の人との違いに「COO経験を活かした経営目線」を挙げながら、出資の決め手は中村さんという人そのものへの人物投資だったという。スタートアップ企業の人間として、中村さんのような行動力や前向きさは必須なのだろうか。その問いかけに、手嶋氏は否と答えた。

手嶋これはあくまでも中村さんの場合です。いろいろな人がいるので、紋切型はないでしょう。めちゃくちゃ根暗でハイレベルの技術力を誇る人というパターンもありかもしれません。

人物投資は、文字通り「その人自体に投資する」ということだ。事業内容や可能性ではなく、起業家そのものに投資をした場合、事業がスムーズにいくまでの間の投資家の目線はどういったものになるのだろうか。

手嶋今日お話ししてきたように、いまの『Meety』が誕生するまで、コロナ禍の影響やピボットなど、さまざまな山や谷がありました。しかし、僕らは中村さんを人物的に買っていたため、最初から2回くらいは失敗しても支援しようという心づもりだったんです。だから、事業内容に関しては常にニュートラルな立場だった。

前身のMeetupプラットフォームを継続してもいいし、他のものに変えてくれてもいい。変えるのであれば壁打ち相手になるし、といった具合で伴走してきました。仮に失敗するなら何かを掴んでほしいなとは思っていましたが、基本的にはずっとニュートラルな気分で見守っていたという感じですね。

中村失敗に関して言うと、起業家合宿に参加したときから僕も「仮に失敗して恥をかいたとしても、少しでも自分の信じる方向に進みたい」と思っていました。30歳を過ぎたし、腕試しをしてみたいという気持ちが勝ったんです。これは僕がもともと起業したいけどくすぶっていたタイプの人間だからでもありますね。

新卒で20人くらいのベンチャーに入り、その後に数人のスタートアップでCOOを務めましたが、ずっと満足できずにモヤモヤしていたので。起業してから後悔したことは一度もないです。起業後に味わう辛さは、自己責任の辛さで、自分でコントロールできるものですよね。

手嶋モヤモヤしている人は、1回やってみた方がいいということですね。プロダクトもそうですが、結局やったり出したりしてみないとわからないわけですし。

中村『Meety』は少しづつ注目をいただけていますが、もちろんまだまだ成功したとは言えないです。事業でのマネタイズを始めるのだってやっとこれから。勝負所を見極めながら、スタートアップらしい価値のあるチャレンジをし続けられたらと思います。

「まだ成功するかはわからない」「1年後くらいにインタビューを受ければよかったかもしれない」と笑いを交えながら語った中村氏。順調な滑り出しをした『Meety』というプロダクトと、難しいピボットを経験したMeetyという企業、そして中村氏は、これからも新たな挑戦をいくつも続ける。

こちらの記事は2021年11月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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