独自の「絶対軸」を考えキャリアチェンジへ──著名VCが語る成功の秘訣とは

登壇者
根岸 奈津美
  • STRIVE株式会社 パートナー 

東京大卒業後、大和証券にて上場株のアナリスト、アシックスにてIR、野村証券にて非上場株のアナリストを経験した後、2016年にグリーベンチャーズ(現STRIVE)に参画。投資先のラブグラフやノインへの出向経験もあり。現在はパートナーを務める。投資先は他にRadiotalk、カケハシ、ミナカラ、YOUTRUSTなど。

コンシューマ、ヘルスケア、デジタルの投資を担当。Forbes日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。東京大学経済学部卒、ハーバード経営大学院MBA。投資実績にはIPOはアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズなど、M&Aはしまうまプリントシステム、ナナピ、クービックなどがある。アクティブな投資先はタイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アル、MyDearest、アルプ、ジョーシス、AnotherBallなど。

澤山 陽平
  • Coral Capital 創業パートナー 
  • 500 Startups Japan マネージングパートナー 

Coral Capital 創業パートナー。2015年より500 Startups Japan マネージングパートナー。シードステージ企業へ60社以上に投資し、総額約150億円を運用。500以前は、野村證券の未上場企業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)にて IT セクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事し多くのテックIPOを手がけた。さらに以前はJ.P. Morganの投資銀行部門でTMTセクターをカバレッジし、大規模なクロスボーダーM&Aのアドバイザリーなどに携わった。東京大学大学院 工学系研究科 原子力国際専攻修了。修士(工学) 。

朝倉 祐介
  • シニフィアン株式会社 共同代表 

兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社を経て、大学在学中に設立したネイキッドテクノロジー代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、シニフィアンを創業。同社ではグロースキャピタル「THE FUND」の運営など、IPO後の継続成長を目指すスタートアップに対するリスクマネー・経営知見の提供に従事。主な著書に『論語と算盤と私』『ファイナンス思考』。 株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。

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「スタートアップはリスキーだ」と言われた時代もあったが、現代では大手企業やメガバンクから転職する人も増えている。手堅さよりも開拓精神が彼らの心を動かすのか。

2月8日に開催された『Startup Aquarium by Coral Capital』では、スタートアップの働き方をテーマにトークセッションが行われた。パネルディスカッションの最終プログラムを飾るのが、本記事で紹介する『ベンチャーキャピタリストが語るスタートアップの未来』だ。

登壇したのは、シードからレイター期まで、様々なスタートアップに投資するベンチャーキャピタリスト(以下、VC)の面々。彼らから見たスタートアップの人材動向は現状どうなっているのか。転職を考える際の心がけを学ぶことができた。

  • TEXT BY SUZUKI GAKU
  • EDIT BY EMI KAWASAKI
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フェーズで変わる魅力、「自分」を投資する先の見極め方

左からモデレーターを務めるCoral Capital Founding Partnerの澤山陽平氏、シニフィアン株式会社共同代表の朝倉祐介氏、グロービス・キャピタルパートナーズ代表パートナーの高宮慎一氏、STRIVEパートナーの根岸奈津美氏

会場には800人以上が集まり、メインステージはほぼ満席状態だ。登壇者はこの賑わいを見て、時代の変化に驚いていた。

高宮僕が学生だった2000年前後は、大手外資系でインターンをして、経歴に箔をつけたレジュメを用意してから就活に進む人が多かった。今ではスタートアップでインターンをして、そのまま就職するケースも増えています。スタートアップに関わることが、キャリアにおいてマイナス要因になっていないんです。

朝倉こうして1,000人規模のスタートアップのキャリアイベントが開かれるのを見て、時代が変わったと感じます。

7〜8年程前に東京大学を訪れた際、学生課の求人掲示板に「ベンチャー説明会」のチラシが貼ってあったんです。どんな新興企業が並んでいるのかと見てみたら、「リクルート」や「楽天」などの大きい企業でした(笑)。今ではシード・アーリーの企業にもスポットが当たっていて、隔世の感があります。

スタートアップへの転職や働き方に興味を持っている来場者のために、モデレーターの澤山氏から質問が投げかけられた。「スタートアップに転職するなら、どのように会社を選ぶべきか?」。

高宮スタートアップに入社したり、副業で関わったりする場合は、自身のスキルアップを目的にするべきだと思います。

各自が人材市場の中で価値を高めていく時代になりましたが、市場価値を高めるためには、時間やお金なども含め各個人が持つ自分自身を「資源」と捉えて投資しなければいけません。

もし勤め先のスタートアップが潰れても、転職先はいくらでもあると考えて、一度はチャレンジしてみても良いと思います。

では、どのような企業に「自分という資源」を投資すれば良いのだろう。VCの視点から根岸氏は、シード・アーリー期の企業であれば「市場」と「ポジション」、そして「創業者の魅力」で選ぶべきだと話す。

STRIVEパートナー 根岸奈津美氏

根岸我々は5〜10人規模の会社に投資することが多く、投資対象は「市場」と「ポジション」を見て選んでいます。市場自体が成長するか、その中でどのような地位を築いているかは、今後の成長を占う指標になります。

また「この人と働きたい」と思わせる魅力的な代表(創業者)がいる会社は、採用力がある。高い採用力で優秀な人材を獲得できれば、その人がまた別の優秀な人材を連れてきてくれるので、好循環が生まれます。

転職市場では、上場間近のスタートアップも注目を集めている。この時期に入社すれば倒産のリスクは少ない。その一方で、体制が整い切っていない企業ならば、組織や風土づくりにも関わることができるので、魅力的に感じる人も多いだろう。ミドル・レイター期の企業への転職では、同領域に投資する朝倉氏の意見が参考になる。

朝倉レイターステージの場合は、プロダクトの競争力だけではなく、上場に耐えうる管理体制も見るべきです。

もしも人事・経理・財務・法務といった機能が不安定であれば、次のステージに進むのに苦労することになります。IPOはゴールではなく、その後も事業は続いていきます。

スタートアップが上場後も着実に成長していくためには、攻めだけでなく、守りの体制も重要なポイントだと考えています。

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転職失敗も起こりうるが、退路も多く存在する

スタートアップに転職する際、気になるのは「どのように会社を選ぶべきか」だけではない。「どのようなスキルが必要か」「入社後のキャリアパスをどう描くか」と疑問は尽きない。

根岸必要なスキルについて、中途採用の場合は得意領域を持っていることが前提だと思います。私は金融業界からスタートアップに転職しましたが、得意な“事業モデル作成”や“ファイナンススキル”をベースに徐々に担当領域を広げていきました。

ただ、リソースが限られているスタートアップでは、専門外の業務を求められることもあるので、幅広い業務に対応できる柔軟性も必要です。

ここから、話題は入社後のキャリア形成に移った。高宮氏は「あまり身構えず、フットワークを軽くした方が良い」と話した。

グロービス・キャピタルパートナーズ代表パートナー 高宮慎一氏

高宮スタートアップに限ったことではありませんが、転職の際は一発必中を狙わなくてもいいと思います。定年まで30〜40年のスパンで考えた時に、キャリアのピークを転職先に定めるとハードルが上がってしまう。

「どこかでピークが来ればいい」と考えると、転職にチャレンジしやすくなると思います。

それでもスタートアップへの転職に、一抹の不安を感じる人も少なくない。実際「会社が潰れるのでは?」「キャリアチェンジが難しいのでは?」という声を聞くこともある。

朝倉「失敗が怖くて、思い切ってスタートアップに転身できない」という人もいると思います。そういう人はあらかじめ“逃げ道”を用意しておくのがよいでしょう。スタートアップに転職しても、残念ながら活躍できない場合はありますし、会社の成長が止まる可能性だってゼロではありません。

在職中の会社と良い関係性を築いて「いつでも戻っておいで」と言ってもらえるよう努めたり、資格を取得して食いっぱぐれるのを防いだり。

「逃げ道」と言うとネガティブに響くかもしれませんが、「もしも」に備えて代替案を用意しているからこそ、安心して挑戦することができるのだと、私は思います。経営にも言えることですが、一か八かの勝負を毎回していてはいけません。

うまく行かなかったときの“逃げ道”には「次の転職先を確保する」ことも考えられる。澤山氏は「スタートアップ間で転職する人も多く、人材の流動性は高くなっている」と話す。

朝倉氏も同様に「現在、多くの企業は“とにかく人が欲しい”状態」と論調を合わせた。

一方、根岸氏からは別の意見が飛び出した。「会社を変える前に、社内で新しいポジションづくりを試みても良いのでは」と。

根岸スタートアップでは事業転換で部署そのものがなくなってしまうケースもあります。メンバーの配置転換が行われますが、試行錯誤をするうちに新たなポジションを獲得し、活躍できるようになった方もいます。

実際、澤山氏も同様のケースをよく見るという。ファイナンスから経営企画へ、営業からカスタマーサクセスなど、スタートアップではポジション転換が起こりうる。成長期にある企業ならではの特徴と捉えて、想定外の事態に驚かないよう、心の準備が必要かもしれない。

Coral Capital Founding Partner 澤山陽平氏

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キャリア安定のためにも考えたいあなたの「絶対軸」

前段ではリスクヘッジのために代替案を確保することが言及された。そのほかの対処法として、職種や業種が変わっても通用する持ち出し可能な能力「ポータブルスキル」を用いた方法も紹介された。

高宮リスクとは「自分がコントロールできない領域が増えること」だと思います。このご時世ですから、大企業をはじめ、世の中でイケてると言われる企業も倒産のリスクを抱えている。

ひとつの企業の中でしか通用しない“ガラパゴス化されたスキル”を身に着けるか、キャリアを転々としながら汎用性の高い技術を身につけるか。どちらが世の中の変化に対してコントローラブルかというと、後者ではないでしょうか。

スタートアップで成長機会を得てスキルを磨いていけば、コントロールできる領域が広がり、リスクヘッジになるはずです。

朝倉僕はめちゃくちゃ安定志向で、実はリスク耐性が低い人間なので、その話には共感します。ただ安定志向ではあるけれど、安定を求める先は所属する組織ではなく、自分自身であるべきだと考えています。

ポータブルなスキルを身につければコントロールできる領域も広げられます。もし今いる組織がダメになっても、汎用性の高いスキルを身につければ、場所を変えて挽回できるはず。つまるところ、何に安定を求めるかという話だと思います。

シニフィアン株式会社共同代表 朝倉祐介氏

朝倉氏が言う「安定」は、「生活を保障できるスキル」と言い換えても良いだろう。現代は変化が激しい時代だ。今日尊ばれていたことが、数カ月後に価値を失ってしまうことがある。ひと昔前は不変こそが「安定」だと言われていたが、今では変化に適応することが「安定」だと言えるのかもしれない。

変化への適応は既存の価値観を見直すことから始まる。高宮氏は「私たちは今までの価値観に捉われすぎていた」と話す。

高宮セッションで話してきた「金銭的なリターン」や「リスク」はつまるところ、「成功とはこうあるべきだ」という画一的な価値観から生まれたものです。変化に対応するためには、既存の価値観に捉われず、個々人が絶対軸を持って働いてみようと提案したい。

僕自身も東大を出て、外資コンサルに勤めてと、画一的な成功例に捉われていました。でも、留学を機に異なる価値観に触れて、好きなことをやればいいんだと気づけた。

スタートアップなのか大手なのかを考える前に、何が自分にとって幸せか、絶対軸を作ることが先だと思います。キャリアアップになればラッキーですし、ならなくても”楽しいことができていたからいい”と考えればすごく気が楽になる。

朝倉実際、仕事に取り掛かっている時は目の前のことに集中していますし、自身のキャリアなんて考えないものです。後になって身についたものに気づくことが多い。

私も興味のままに「面白そうだからやってみるか」で、ここまでやってきたし、なんとかなってきました。だから最後に、「スタートアップ良いとこ、一度はおいで」と伝えて締めくくりたいと思います。

どこで、どのように、誰と働くか。その選択に正解はない。正解を導き出すためには高宮氏の言うように、「自分にとって何が幸せか」を考える必要があるだろう。その結果、変化に適応する力や成長機会を得たいと思うなら、スタートアップは格好のフィールドになるはず。

スタートアップのビジネスは、まだ世の中にないサービスやプロダクトを広めることだ。道なき道を進む中で、臨機応変に生きる力が身につくだろう。

こちらの記事は2020年04月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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1986年生まれ/日本大学芸術学部卒業 開業から現在まで、400以上のインタビュー記事を手がける。得意領域はスタートアップ・VC・HR・仏教など。著書に『京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)』。

編集

川崎 絵美

編集者。メディアの立ち上げや運営をしています。2006年インプレス入社後、企画営業、雑誌・ムックの編集者を経て、ニュースサイト『Impress Watch』の編集記者に。2014年ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン入社後、スポンサードコンテンツのディレクション、編集、制作に従事。2019年に独立。現在は「ランドリーボックス」などを手がける。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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