連載CxO図鑑
“Chief”を冠する若者に求める、経営者視点──GCP CSO高宮慎一
日本のスタートアップにおいて、独自の CxOを配置する動きが活発になっている。
COOやCFO、CTOといった役職が一般化しつつある一方、CSO(Strategy)、CCO(Culture)、CWO(Workstyle)など、企業体系・事業戦略に併せて独自のCxOを置く会社がみられるようになった。かく言うわたし、長谷川リョーも「FastGrow」のCCO(Chief Contents Officer)を務めている。
こうした企業独自のCxO誕生の背景には、独自の社会の展望・戦略がある──。本連載『スタートアップのCxO図鑑』では、各社のCxOへインタビューを行い、その設置に至った経緯とストーリーに迫る。
第1回のゲストは、独立系VC『グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下GCP)』でCSO(Chief Strategy Officer)を務める高宮慎一氏だ。スタートアップにおけるCxOの効用と本質、“Chief”を冠する若者に求められる視点を伺った。
- TEXT BY MITSUFUMI OBARA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
“所有と経営の分離”が大前提。アンバサダーとしての「CxO」が招く弊害とは?
長谷川日本のスタートアップにおいて、「CxO」ポジションを置く動きが活発になっています。ハーバード大学経営大学院を卒業された高宮さんからみても、こうした動きは海外でも活発なのでしょうか。
高宮わたしの知るかぎりでは、企業の規模に関わらず、10年以上前から当たり前になっています。ただ日本と海外では前提が違うことを、先にお話ししたほうが良いでしょう。
アメリカなどで実際に採られている形を例に挙げると、そもそも取締役会の中で、経営メンバーと執行メンバーが別れています。ガバナンスを担うのが取締役会の経営メンバーで執行を担うキーマンがCxOなのです。
つまり、“経営と執行の分離”が前提にある。片や、日本で”経営”というと、業務執行的なニュアンスがありますが、アメリカ的には大きな方向感(だけ)を決めて、ガバナンスを効かせることだという考え方があります。そして、その大きな方向感を、裁量を持って実現するのが執行だと。
しかし日本は、経営=執行、すなわち取締役が執行のトップ的な認識になっていることが多く、「CxO」が経営を兼ねる事態になっている。日本における「CxO」は、本来的に担うべく役割とは異なる枠組みで語られているのです。
長谷川では、日本でもスタートアップを中心に「CxO」ポジションを置く動きが活発なのはなぜでしょうか?
高宮ひとつには役職が、名誉としての「報酬」として使われているからというのが大きいといえます。また、社内外に向け、その機能が重要だという経営の意思表面をするアナウンスメント効果を狙ってというのもあるでしょう。
たとえば、たまに見かけるようになったCCO(Chief Culture Officer)であれば、組織文化を重視していることの象徴的な存在として社内外への機能を求められます。社外向けに採用ブランディングを行うと同時に、社内にも組織文化を重視するメッセージを発しているわけですね。経営者が、「人事部長に組織文化を強化しろ」とオーダーすることとは重みが全く異なってきます。
それ自体全く悪いことではありませんが、そもそも本来の経営と執行の分離というコンテクストからはやや逸れる印象がありますね。
長谷川本来は「執行する側」に「CxO」の役割が付与されるべきではありますが、日本では事業を代表する「経営する側」の人材が代替してしまうケースが多いと。
高宮コインの裏表なので、表現の仕方が難しいのですが、本来は「執行する側」が最高執行責任者として「CxO」の役割が付与されるべきなのです。ただ日本では経営と執行を一緒くたにして、その部署の一番偉い人くらいの意味合いで、「取締役CxO」という役職がつけられてしまっています。
結果、経営を担う取締役会のメンバーと、執行を担う経営会議メンバーが全く一緒になるということが起こっています。それでは、適切なガバナンスは効きにくい構造になってしまいますし、経営メンバーが執行の各部署部分最適の利益代表になりやすく、全社目線を持ちにくくなってしまいます。
源義経の奇襲戦略にみる、戦略の本質。CSOは、アーティスティックであれ
長谷川高宮さんはGCPのCSOですが、事業会社に求められるCSOの役割と、VCに求められるCSOの役割は同じでしょうか?
高宮そうですね。本来、CSOの役割は戦略を描くことです。事業会社に戦略を考えるCSOが配置されることは分かりやすいですが、VCにCSOがいるケースはユニークだと思いますよ。
言ってしまえば、ファンドにおける戦略としては「投資戦略」が大きな意味合いを持っているので、CIO(Chief Investment Officer)が置かれることがほとんどです。
長谷川たしかに、あまり聞きませんね。その中で、高宮さんがCIOではなくCSOとして戦略を担う違いをお伺いできますか?
高宮VCがユニークなところは、投資戦略はファンドごとに紐づくのに対して、複数ファンドを超えてVCという事業体としての事業戦略が存在している点です。
それをうけて、ファンドとしての投資戦略だけではなく、GCPという企業が、どう長期的に成長して、どう競争に勝つのかというのを考える役割も包含しているという意味で、CIOでなくCSOだと思っています。
高宮CSOの役割の戦略策定は、ロジカルで “左脳的”と思われがちです。でも、本当に戦局を左右する決定的な戦略って、“右脳的”だと思っています。ロジカルに考えて戦略を導くこともひとつの方法ですが、もうそうした“左脳的”な戦略は、周りも当たり前に考えてくる定石になりがちで、他者と差別化することは難しくなることが多いです。
たとえば、源平の時代は、大将同士が「やぁやぁ、我こそは……」と名乗りを上げて開戦することが合戦における暗黙の様式で、全員がその中でどう勝利するか左脳的に考えていたわけです。
しかし、源義経は名乗りを無視して、崖の上からいきなり騎兵で奇襲をしかけ、決定的な戦果をあげた。暗黙のうちにあるだろうと思った様式を無視して、しかも下ってくることが不可能だと思われた崖から、攻撃をしかけたわけです。
どうロジカルに左脳的に考えたところで思い浮かびませんよね。右脳的に、発想を柔軟に飛ばし、前提条件や制約となっていることを一つひとつ外していかないと、思いつかなかったわけです。義経の戦略のように、大上段にある“Why”に紐付く、相対的に勝つための“How”を決定することに、CSOの責務があります。
長谷川「戦略」と聞くと、多分に左脳的な印象を持ちますが、実は非常にアーティスティックな側面があるのですね。
高宮むしろ、最もアートな領域だと思いますよ。
肩書きとしての「CxO」は無意味。“Chief”の本質は、経営者目線の有無
長谷川若くして企業の「CxO」を担うことは、個人のキャリアパスに有益だとお考えですか?
高宮たとえば、CFOを名乗ることで「ファイナンスが専門です」とタグラインとして打ち出すことはできると思います。また、銀行やVCと交渉するときに、ファイナンスの最高責任者が出てきた、として話をまとめやすくなるケースもあるでしょう。とはいえ、肩書はあまり本質的ではないと思います。肩書だけになってしまい、実力が伴ってないと本末転倒でしょう。
長谷川役割分担がはっきりしていない、もしくは実力が伴わない状態で、あえて「CxO」を名乗るべきではないと?
高宮先ほども申し上げましたが、「CxO」はアメリカで生まれたコンテクストです。日本は役割が明確に分けられたアメリカ的な発想とは違い、複数人が役割をオーバーラップしていることが往往にしてよくあります。なので、役割分担としての「CxO」を、必ずしも謳う必要はないと思います。
長谷川名誉のためにChiefを名乗ることはおすすめしないと。
高宮そう、Chiefを名乗る以上は経営者目線がなければいけません。これは、コンテクストに添えば当たり前の話なのです。「CxO」である以上、その肩書きを堂々名乗れる人物であってほしいと思います。
長谷川ちなみに、わたしのように企業の「CxO」を担う若い人材が、経営者目線を持つにはどうしたら良いのでしょう?
高宮究極的には、みたことない、経験したことないものは、身に着けられないと思っていますので、自分が最後の砦として、最終責任と権限を持って、組織を動かし、何かをした経験をしてみるのが最短の学びだと思います。
たとえば、サークルの会長でも「CEOの仕事」が経験できます。予算が足りなければ、会費を募ったり、学園祭で収益を上げるように工夫したりしますよね。たとえば今の立ち位置が、いちメンバーで、自分で権限と責任を持つことが難しくても、部長に逆提案するというのはあります。
実体として責任と権限があるに越したことはないのですが、最終的なケツを持つつもりで腹を括り、今の立場より上の立場の目線で仕事をするというマインドだと思っています。
こちらの記事は2018年08月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
オバラ ミツフミ
1994年、秋田県出身。大学在学時よりフリーランスのライターとして独立し、ビジネスを中心に幅広い領域でブックライティングや記事の執筆を手がける。日本最大級の学生メディア「co-media」編集長。
写真
藤田 慎一郎
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