インキュベイトファンド厳選!買い手の見えるM&Aマッチング、与信サービス構築基盤のスタートアップが登壇──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
今回は、創業期のスタートアップに特化して投資を行うVC・インキュベイトファンドとのコラボレーション企画として、インキュベイトファンドの投資先のみが集まる限定回を開催した。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社M&Aクラウド、Crezit株式会社の2社(登壇順)だ。インキュベイトファンドの寿松木充氏も登壇し、クロストークセッションも開催した。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY HARUKA MUKAI
インキュベイトファンド
資本と人材の両面から事業成長に伴走する
インキュベイトファンドは、創業期のスタートアップに特化し、投資・支援を行う独立系VCだ。現在は、特にDX、パブリックセクターイノベーション、ディープテックの3領域に注力し、投資を行っている。
資本と人材の両面からスタートアップの成長を支援すべく、コミュニティやイベント、HR支援なども実施。資金調達を目指すシード・アーリーステージ起業家向けの合同経営合宿『INCUBATE CAMP』や、半日がかりで事業相談の1on1を実施する『CIRCUIT MEETING』など、複数のコミュニティの場を提供している。他にも、大学生・大学院生を対象とした、VCに関する講義イベントも実施。
日本のスタートアップエコシステムをさらに盛り上げようと、多様な取り組みを展開している。
株式会社M&Aクラウド
買い手の顔が見える、よりスムーズなM&Aマッチングを実現
続いて登壇したのは、M&Aクラウド代表取締役CEOの及川厚博氏。同社は、オンラインM&Aマッチングプラットフォーム『M&A クラウド』の開発・運営をしている。
M&A クラウドは、買い手企業がM&Aや出資ニーズ、投資実績を公開。それを見た売り手企業が直接コンタクトを取れるサービスだ。
売り手企業は着手金・成約手数料が一切かからず、買い手候補探しから売却完了まで無料でプロのアドバイザーに相談できる。
また、M&Aに深く精通したプロフェッショナルによるアドバイザリーサービスも提供している。
及川氏は、学生時代にマクロパスを創業し、受託開発を主軸とした事業を展開した。その後「インターネットに情報が少ないため、安く会社を売却してしまった」経験から、M&A業界の課題を解決したいと、2015年にM&Aクラウドを立ち上げた。
M&A業界の課題として、及川氏は「M&Aの数と効率」を指摘する。
及川例えば、大手のM&A仲介会社は3社ほどで、合わせて約800人のアドバイザーしかいません。
現在、黒字で後継者のいない企業は52万社程度あると言われています。にも関わらず、年間で成立するM&Aは1人あたり1.2件程度、合わせて1000件と非常に少ない。
事業承継などの問題を本気で解決するならば、人ではなく仕組みにアプローチしなければいけないと考えました。
M&Aの市場規模はおよそ5兆円。事業継承系のM&A、スタートアップ・IT企業のM&Aと、2つの市場がある。前者に特化しているM&Aプラットフォームが多いのに対し、M&Aクラウドは「アーリーアダプターの集めやすい、スタートアップ・IT系のシェアをいち早く獲得したのが強み」と語る。
また、及川氏はM&Aを自身が行った際に「社長の転職」だと感じたことから、M&A業界はこれから人材業界のような進化を遂げるのではないかと考えているという。
及川M&Aのマッチングは、売り手を集めたら勝ちのビジネスにも関わらず、これまでは、売り手が情報を載せる形がほとんど。本来、買い手を載せたら売り手が集まるわけですから、非効率な仕組みだと思っていました。
人材業界に置き換えれば、採用したい企業じゃなくて、仕事を探している求職者が匿名で情報を載せているようなものです。
今後は、買収したい会社が買収ニーズを公開し、売りたい起業家がエントリーする。そしてそこでマッチングして問題なければ成約。といったようなモデルになっていくと考えています。
現在、M&Aクラウドは買い手企業数が665社、IT企業の約20%が利用する。売り手登録企業数は5000社を集めている。直近の成約事例として、2020年10月のランサーズによるオンラインメンターサービス「MENTA」の子会社化などを挙げた。
今後は、M&Aのワークフローを最適化させるほか、新規事業の立ち上げも検討している同社。「PdMやビジデブ、エンジニア、デザイナーなど全方位で採用募集中です。ご興味ある方はご連絡ください」と及川氏は語り、ピッチを締めくくった。
採用情報
Crezit Holdings株式会社
与信サービスの構築をサポートし、金融業界をアップデートする
最後に登壇したのは、Crezit Holdings株式会社代表取締役の矢部寿明氏だ。
「信用を最適化して、人の可能性を解き放つ。」をミッションに掲げる同社は、30年近く変わらない、金融機関の与信にまつわる課題に取り組んでいる。
矢部例えば、大企業を辞めてベンチャーに転職すると住宅ローンが組めなくなるというような話は、よくある話だと思います。僕自身も起業して家賃保証の審査に通らなかったことがありました。
こうした状態って20年、30年近く変わっていないんですよね。それっておかしくないかと疑問を感じました。フリーランスやギグワーカーなど働き方も多様化するなかで、あるべき未来と現状のギャップを埋める存在になりたいと考えています。
そのギャップを埋めるためには、スタートアップなどの新興のプレイヤーが参入しやすい共通の仕組みが必要なのではないかと、北米や欧米を例に挙げながら矢部氏は説明する。
矢部特に北米では、よりユーザー体験の優れたサービスを提供する新興のフィンテック企業が、シェアを大幅に伸ばしています。トラディショナルな銀行と市場シェアが逆転しつつある。
こうした変化が起きた背景として、事業者に銀行機能を提供する『Banking as a Service』が挙げられます。既存金融機関がAPIで預金やカード発行など金融サービスの機能を新興プレイヤーに対して提供する仕組みです。これを利用することで、フィンテック企業は金融事業を行うためのオペレーション構築など、裏側を担う負担を減らせているのです。
Crezitが開発している『CaaS(Credit as a Service)』は、事業者に個人向け与信機能を提供する仕組みだ。
CaaSを利用することで、与信サービスを立ち上げたい事業者は、審査や債権管理、督促、顧客対応などに必要な機能の管理を一気通貫で行える。さらにAPIを使うことで、自社のプロダクトに簡単に融資機能を組み込める。
現在立ち上げ中で、すでに複数の導入案件を進めているという。
矢部例えば賃貸仲介サービスが物件を検索するサービスのなかに初期費用の分割払い機能を組み込む、あるいは個人事業主として働く配達員向けに、今後支払われる予定の報酬をローンとして前貸しすることでキャッシュフローを平準化することができる仕組みを提供するなど。ユーザーニーズやビジネスモデルに合わせた柔軟な与信サービスの構築を支援しています。
また、CaaSを利用して金融サービスを立ち上げる事業者は、必要なライセンスを取得する必要がないという。
矢部裏側の消費者との契約や貸付、業務は金融業のライセンスを取得している子会社Crezit株式会社でで行うため、事業者にはライセンスは不要です。なので、最初は表側だけ自社で、裏側でCaaSと連携し、サービスを運用できます。
もちろんスケールした際にライセンスを取得し内製化するといった方法も可能。私たちが開発・利用している与信業務OSの提供に合わせて、CaaSではライセンス取得のサポートやオペレーション構築など内製化の支援も行っています。
前者のような提携モデル、後者のような内製化モデルなど、様々な支援を提供していく予定です。
将来的にはローンや後払い・分割払いのみならず家賃保証やクレジットカードなど多様な与信商品への展開を行行い、総合的な与信サービスを構築可能なプラットフォームにしていきたいと語る同社。「事業開発担当やプロダクトマネージャー、エンジニアなど、採用を強化中です。ご興味あればご連絡ください」と参加者に投げかけた。
採用情報
ミッションドリブンな企業で、世界観を実現する
ピッチ後は、インキュベイトファンドの寿松木氏を交えて、M&Aクラウドの及川氏、Crezitの矢部氏が、組織や会社のカルチャーについてクロストークを行った。
初めに「現在、抱えている組織課題は何か?」という問いを寿松木氏が二人に投げかけた。
及川複数の事業展開を行うに当たり、マネジメント可能な事業責任者が不足しています。また社員数が40人を超え、分業・高度化が必要なフェーズ。高い専門性を備えた人材を集める必要があります。
矢部氏は、金融のなかでもリテールは「ユニークな分野だからこそ、人材不足が起きやすい」点を挙げた。
矢部スタートアップで働くことに関心のある人のなかで、消費者金融という事業に興味を持つ、フィットする人は決して多くはない。
また、私たちはソフトウェアを開発している企業でもあって。ソフトウェアビジネスとライセンス金融業と、二つの領域に関わっている。その両方に取り組みたい人を探すとなると、なかなか一筋縄ではいかないなと感じます。
続いて「組織カルチャーはどのようなものか?」と寿松木氏がたずねると、及川氏は「企業価値最大主義」を挙げた。
及川10兆円企業を目指して会社を大きくしていくにあたって、一般的な常識には囚われないところは特徴かなと思います。例えば、弊社は累計3.5億円ほどあるのですが、そのうち5000万くらいは社員が出資しています。
M&A業界は、個人の売り上げに応じて、大きなインセンティブが発生するため、個人がノウハウをオープンにしない文化がありました。出資をしてもらうことで、みんなが協力する、個人主義にならないようにしています。
矢部氏は「ミッションドリブン」であることを挙げた。
矢部先ほど述べた通り、スタートアップ界隈において、積極的に『消費者金融で働きたい人』はあまりいない印象があるんです。
それもあってか、今弊社にいるメンバーはお金を貸したいというより、今の事業の先に実現したいミッション、見据える世界観に共感して集まっている。そこは現時点で見えている特徴ですね。
記念すべき第53回目となったこの日は、M&Aクラウド、与信サービス構築基盤のスタートアップが登壇した。 今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年08月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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