「自分だけが戦える市場ドメインを攻め続けろ」
資金調達直後の起業家3名が語る、初期スタートアップの事業・組織構築論

インタビュイー
矢部 寿明

1993年生まれ。大学卒業後、GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)に入社。ファイナンスのリーダー育成プログラムであるFMPに所属し、北アジア3ヶ国のファイナンス業務などに従事。2018年3月より、BASEへ入社。子会社BASE BANKの立ち上げ、将来債権譲渡のスキームを活用した「YELL BANK」の企画・開発や融資事業の立ち上げなどを行なう。2019年2月退社し、Crezitを創業。慶應義塾大学卒。

牟田 吉昌
  • 株式会社wellday 代表取締役社長CEO 

1993年生まれ、幼少期に6年間中国の長期滞在経験あり。 大学卒業後、リクルートホールディングス新卒入社で新規決済事業「AirPAY」の開発ディレクションおよび事業推進等に従事後、取締役COOとして学生時代から参画していた株式会社フラミンゴに再ジョイン。2019年4月に株式会社wellday(旧株式会社Boulder)を創業。エンプロイーサクセス事業「wellday」を開発・運営。

浅香 直紀
  • 株式会社Spectra 代表取締役 

1993年生まれ。学生時代にTechouseでJEEKのマーケティング・新規事業開発を経て、メルカリに入社。メルカリJPのグロースとソウゾウの立ち上げメンバーとしてメルカリ アッテの開発を担当。大学卒業後に新卒1期としてメルカリに入社し、メルカリ アッテのグロース・メルカリ メゾンズの立ち上げを経験。2018年3月にSpectraを創業、代表に就任。中央大学卒。

相良  俊輔
  • 株式会社ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 

1990年生まれ。大学在学中より複数のベンチャー企業でインターンを経験したのち、日本発シリコンバレー・スタートアップであるTreasure Data(現:Arm Treasure Data)の日本法人に新卒で入社。インサイドセールスの立ち上げ・運営を経て、エンタープライズ企業への直販営業及び既存顧客へのアップセル業務に従事。2019年2月、ジェネシア・ベンチャーズに参画。慶應義塾大学卒。

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“破壊と創造”を必要とするスタートアップの立ち上げ期、その成長過程における課題は数えきれない。しかし、特にアーリーフェーズに起業家が突き当たる壁を突破するための情報はまだまだ多くないのも事実。起業家たちはどのようにして創業へのヒントを得たのか、そしていかにしてプロダクトと組織をつくり、次への一歩を踏み出しているのか。

本稿では、シードアーリーステージのスタートアップへ投資を行うベンチャーキャピタル(VC)「ジェネシア・ベンチャーズ」と「FastGrow」が共同開催したイベントをレポート。直近3ヶ月以内にシードラウンドの資金調達を終えたばかりの若手起業家3名が集結した。

リクルート、ゼネラル・エレクトリック(GE)、メルカリと、それぞれ異なるバックグラウンドを持つ彼らが、どのようにしてスタートアップという道を選び、創業前後に何を考え、初期フェーズに実際に何に取り組んでいるのかに迫った。

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「起業」という選択。背景にあったのは「自己実現」

これからは「個の時代」だ、そう叫ばれて久しい。物質的に豊かになる社会の中で、組織から個人へのパワーシフトは加速している。いわゆる「自己実現」がベースとなることで、必然的に個々人の「キャリア観」も変化してきていることを実感している方も多いのではないだろうか。そして「自己実現」の手段として、起業という道を選んだのが今回イベントに登壇した3名だ。

彼らはそれぞれ学生の時に抱いていた自己実現のビジョンこそが、社会人経験を積む中で再び沸き起こり、自らの起業のきっかけになったと語る。

矢部氏は、GEでコーポレートファイナンスに携わった後、BASEの子会社としてスモールビジネス向けのレンディングプロダクトを立ち上げるなど、金融やファイナンスに従事してきた。3月に株式会社Crezitを立ち上げ、デジタルクレジットサービスを通じて消費者信用産業の改革を目指している。

矢部学生時代にケニアやルワンダで活動していた時、Mコパというスタートアップの創業者と知り合ったんです。その出会いによって、テクノロジーやスタートアップの力で国際協力に携わることができるんだと実感しました。それがきっかけで、国際開発、途上国開発の領域で、マイクロファイナンスに関わる仕事をしたいと考え、金融やファイナンスのキャリアを歩んできました。

牟田氏は、リクルートに新卒入社後、決済サービス「AirPAY」の事業開発・PMを担当し、CtoC語学サービス「フラミンゴ」の取締役COOを経て、4月にBoulderを創業。日本初のエンプロイーサクセスプラットフォームとして、組織・従業員が自分たちの現状を客観的に可視化できるサービスを立ち上げた。

牟田リクルートを経てジョインしたスタートアップでは、事業のグロースやビジョンの実現に集中したかったのに、それを実現するために最も大事な部分であるメンバーのマネジメントやケアに大きな課題を抱えていました。

一人で15名ほどのメンバーのマネジメントを担当していたのですが、組織サーベイやone on one等の施策を導入していても正直メンバーのケアを充分にできていませんでした。気づいたら大事にしていたメンバーが持っている課題や不満をケアできず、会社を辞めてしまう状況になったんです。

こうしたことはあらゆる会社で起こりうるのではないかと危機感を覚え、誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分で解決しようと思い起業しました。

浅香氏は新卒でメルカリに入社し、メルカリ アッテのグロース、さらにメルカリ メゾンズの立ち上げを経験した後、3月にSpectraを創業。アーティストを中心としたエンタメの情報流通の最適化を目指している。もともとコンサルティング・ファームを志望していた彼は、いざ就活をする際に、「自分が本当に向き合いたいキャリア」に気づいたという。

浅香大学3年の時に一瞬コンサルに行こうと思う瞬間が来たのですが、頭脳を使って仕事をしてカッコイイとか、給料が高いとかに興味をそそられていることに気づいたんです。「自分が本当にやりたいことは何か」を突き詰めた結果、学生時代から軸足を置いていたインターネット、エンタメ領域に戻ってきました。

メルカリに入社してからは、プロダクトマネージャーや子会社の立ち上げなど貴重な経験をさせてもらいました。でもある時、スタートアップを経営している友人と話したことがきっかけで、起業を意識するようになったんです。事業への想い、仮説の質、行動のスピードなど、あらゆる点で自分がまったく至ってないと気づき、結局自分の尖れる領域で起業しようと決心しました。

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「その仮説は”自分だけ”のものか?」事業ドメインとマーケット選定のポイント

続いて、話題は「事業着想とグロースにおけるマーケットの選択」に移り、マーケットを選定する上で欠かせないポイントが明かされた。3者揃って声をあげたのは、「自分がそのマーケットで他の誰よりも価値を発揮できるポイントがあるかどうか」だ。

矢部僕がコンシューマーファイナンスの事業で、消費者金融・消費者信用というドメインにした理由は3つです。1つ目は課題感。自分がアフリカで感じた消費者信用の課題感を掘り下げていったときに、このドメインで変えなくちゃいけないものが見えてきたので、それを大事にしています。

2つ目は、その事業ドメインに対して自分だけが持っている仮説があるかどうか。当時「金利はいらない」という仮説を持っており、そこは大きいポイントかなと思います。

そして矢部氏は最後に「その領域が好きかどうか。自分がやり抜く理由があるか」が重要だと語った。これには浅香氏も頷く。

浅香結局どの事業ドメインでも、起業してばらくやり続けないと結果が出ないもの。3年でほとんどの会社が潰れるなどといわれる苦しい世界の中で、ミクロレベルで、自分がなぜその市場で戦う必要性があるのかを考えることが大事だと思っています。

参入しようとしているマーケットに余白があるか、欲しているユーザーは存在するかというポイントをロジカルに分析し、突き詰めていくことも当然ながら重要だ。実際に3者ともに、そのファクトを集めることを欠かしてはいない。ただ、長い戦いを勝ち抜いていく上では、自分がやり切れる領域かどうかという点が明暗をわけるのであろう。

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仮説検証フェーズは、極限まで小さく×データへの執念で戦い抜け

立ち上げたプロダクトも、グロースする上では様々な仮説検証を踏んでいく必要がある。グロースのポイントに到達するまで粘り強くプロダクトを磨き続けるために、まず最初に意識すべきポイントが、3者の話から明らかになってきた。

相良初期の戦略を立てていく上で、最終的に解決したい課題を最初から攻めるのではなく、いくつかフェーズを切って、山の登り方を工夫するということも必要だと思います。最終ゴールのビジョンから逆算した上で、足元のサービスソリューションをどのように作っていったのでしょうか。

牟田一つ目は、小さく始めること。小さく始めていってもどんどん大きくなっていけば、小さい時に想像していなかった大きな壁をも越えられる。またプロダクトが大きくなる中で無駄な部分も生まれてくるので、そこを削っていくことも必要です。

もう一つはビジョンから逆算してズレないこと。ビジョンに対して一番大事にするべきポイントは何なのかということを徹底的に整理した上で、そこに対してリソースをフォーカスしていく。気づいたらビジョンに反しているということがないよう、株主も含めて常にディスカッションし、ズレていないかを見直してもらうようにしています。

一方で、本当に必要な「データ」を見極め、中長期で活かせるようプロダクトとして設計していくことが大事だと矢部氏はいう。

矢部我々の場合、個人の与信を最適化させる未来のために必要なデータを考えて、必然的にコンシューマーファイナンスの領域にたどり着きました。そこをずらしてしまうと未来に必要なものが欠けた状態で企業が成長し、存在する意味がなくなってしまいます。

最初期のプロダクトを作っていくにあたって、まずは必要なデータを見極めて徹底的に集めていくということは、浅香氏も同様だった。マネタイズや今後の展望などに対して風当たりも強い中、彼がユーザーのデータを集め続ける理由を明かした。

浅香先日リリースしたFreaxというPhase1のプロダクトでは、現在バラバラに存在しているファンの行動と嗜好性のデータを、事務所、チケットサイト、聞いているストリーミングサービスなど関係なく集めようとしています。

ミッションに「情報流通経路の最適化」を掲げているので、そのために必要なデータは何で、それをどのような切り口で取っていくのかを意識してPhase 1を設計していました。

最初にファンのデータを持っていないとアーティストのサポートはしづらい。だからこそ、一番最初にユーザーに利便性を感じてもらってデータを集めるというところをPhase 1としてやっています。

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磨き抜かれたコーポレート・アイデンティティ。機能するのは、採用だけじゃない

最後に、「組織・カルチャー」に話題がうつった。ジェネシア・ベンチャーズの相良氏は、自己資金がない状態からでも起業が可能になってきていること、更に起業後の資金調達の環境も整備されてきていることを受けて、いかにして優秀な人材を採用し、強い組織を作っていくかが、明確な差別化の要因になると語る。

相良いわゆるトップダウン、上意下達で命令が落ちてきて、ひたすらメンバークラスはそれを実行するだけの組織は、今後優秀な人材から選ばれにくくなっていくと思われます。これから作っていく企業組織において、メンバーがWillで仕事ができる環境をいかに作っていくかというところも大事になってくると思うのですが、いかがでしょうか。

牟田トップダウンであろうとボトムアップであろうと、カルチャーはインプットするものではないと思っているので、妥協でカルチャーに納得して欲しい、インプットして欲しいというのはいらないと思っています。キーワードにまとめると、相互理解と共通認識、この二つの言葉だと思っています。

会社のかたちや、トップダウンかボトムアップかは関係ない。それよりもまず、徹底的に話し合うというプロセスを含めて、一緒に共通認識を作っていくこと、これをやりたいと語れるものを作れることが重要なのだと言う。

牟田例えば弊社のカルチャーづくりは、インターン生も含めて全員で朝から夜の11時半くらいまで徹底的にディスカッションしました。キーワードを全部まとめて、一つ一つ類義語とか単語を調べ、しっくりくるカルチャーが作れるまで帰れま10のようなことをやっていました。

矢部僕らが大切にしているのは「透明性」です。コンシューマークレジットの領域では、今月いくら金利を払うのかなどを非常にわかりにくい状態でユーザーに対して提示しており、そんな不透明性を基にビジネスモデルが成り立っています。

その領域でプロダクトを通してユーザーに透明性という価値を届けたいと考えた時に、自分達自身も透明で誠実であるべきだと、一つの大事なキーワードに「透明性」を掲げました。

相良組織づくりを進める上で、マネージャーがいない時でもバリューを共通認識で持てていたら、それを通じて同じ方向を向いて仕事ができるため、組織の再現性を担保できます。また新規の採用で「一緒に働きましょう」とオファーをかける時にも、このビジョン・ミッションが魅力的であればあるほど、魅力的な会社に見えますよね。

そうした意味でジェネシア・ベンチャーズが支援先のバリューアップで非常に重視しているのは「コーポレートアイデンティティ」の領域だという。浅香氏は、現場への浸透や採用基準だけでなく「経営サイドにおける意思表明」という観点から、この概念の重要性について言及した。

浅香コーポレート・アイデンティティは、僕ら起業家・経営者サイドの決意表明や意思表明という側面も大きいと思っています。自分たちの未来をイメージするための共通認識が必要で、そのための言葉という位置づけが一番大きいと思っています。

バンドでいうと、音楽性の違いでよく解散しますよね。何を目指しているか、どういう方向に対してどういうふうに走るかというのが、一致していないと意味がない。そもそもロックがやりたい人とクラシックをやりたい人が一緒にやっていても合うわけがない。

何かあった時に迷わずに意思決定をするためには、そういうものが前提条件・共通認識として持っているべきだし、根付くといいと思って決めています。

スタートアップにおいて企業側もメンバー側も、採用する際に必ず気をつけるべきことは何かという問いに対しても、3者揃って出てきた答えはやはり「カルチャーフィット」だった。

事業の形態は違えど、各々のバックグラウンドは違えど、3者が事業づくりに置いて着目するポイントは一貫して共通していたようだ。まさに「自己実現」を追求し、より良い社会の実現を目指す彼らの成長に、これからも注目していきたい。

こちらの記事は2019年11月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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