連載ユナイテッド株式会社

「個人商店」から「急成長スタートアップ」へ──ユナイテッド流“善進投資”の哲学と、事業価値を高次で引き上げるハンズオン支援“UVS”の全貌を探る

インタビュイー
森 久純
  • 株式会社L&F 代表取締役社長 

野村證券株式会社にて法人/個人向けセールス、IPO支援業務に10年間従事。2003年より大手賃貸管理会社(東証プライム上場)の創業期メンバーとして入社し、営業及び戦略企画担当取締役を歴任。2007年4月、株式会社L&Fを設立し代表取締役就任。

井上 怜

2007年にエルゴ・ブレインズ(現ユナイテッド)に入社後、インターネット広告営業やメディア運営に従事。 その後、採用、育成、広報、人事制度など組織創りを担当。2018年から投資事業に従事、数十社の投資実行及び投資先支援の他、業務提携投資やLP出資も複数実行。2022年より投資事業本部長就任。プライベートでは2007年より私立佼成学園高等学校アメリカンフットボール部コーチを務め、現在はヘッドコーチとしてチーム運営に関わり、5度の日本一に貢献。

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「そんなニーズはない」「絶対に失敗する」──。

他の投資家から一蹴されてきた“空き家管理”事業に、なぜユナイテッドは投資を決断したのか。その答えは、株式会社L&F代表取締役社長・森久純氏の、揺るぎない情熱と挑戦に隠されていた。

本連載では、ユナイテッドの投資先企業へのインタビューを通して、同社の投資哲学の真髄に迫る。第1回は農業(有機米デザイン社 (現:NEWGREEN社) )、第2回は教育(Gotoschool社)の分野で、社会の“善進”に賭けるユナイテッドの熱き想いに切り込んだ。そして第3回となる今回のテーマは、人口減少と高齢化が加速する中、放置された空き家が年々増加の一途をたどる社会課題だ。

他のVCが全く相手にしなかったこの事業に、ユナイテッドはどのような可能性を見出したのか。

森氏の覚悟とユナイテッドの信念が交差したとき、そこには大きなシナジーが生まれた。「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」ユナイテッドのパーパスは、森氏の志と完全に合致していたのだ。

社会的意義と経済合理性。

その二つの価値を高次で両立させる戦略的フレームワーク、誰もが見向きもしない事業に可能性を見出す投資哲学、そして森氏の揺るぎない覚悟とユナイテッドへの深い信頼。それらが色濃く滲み出る、示唆に富んだ対談となった。ユナイテッド流“ハンズオン支援”の全貌に注目してほしい。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「個人商店」から「スタートアップ」へ進化。
ユナイテッドから投資を受ける意味

まずは、ユナイテッドの支援により、L&Fがどのように変貌を遂げたのか。その劇的な変化についてL&F代表の森久純氏は、株主としてユナイテッドが入ったことによる影響をこう語る。

まず一つは社会的信用の強化です。

今までは私一人で切り盛りする、いわば“森商店”だったんです。それがユナイテッドさんに株主として入っていただいたことで、金融機関との提携も非常にスムーズに進められるようになりました。上場企業に株主になっていただけているということは、信用を得るうえで何にも代え難い価値があります。

株主にユナイテッドの名が連なること自体が、L&Fの社会的信用の証となった。詳しくは後述するが、L&Fのように、当時未開拓であった事業領域において、出資を得るのは容易ではない。そんな中、ユナイテッドの出資は文字通り救世主のようで、“森商店”から一気に脱却するチャンスをもたらした。

そして次はユナイテッドのハンズオン支援がもたらした変化について触れていく。ユナイテッドが株主に入って以降、L&Fでは社員の目覚ましい成長と、社内への知見の蓄積が着実に進んでいるとのこと。

一例を挙げると、ユナイテッドさんからデジタルマーケティングの専門家をご紹介いただき、今は広告運用をお任せしています。おかげで大きな効果が出てきているんです。実は社内にもデジタルマーケティングの担当者がいるんですが、その社員も専門家の仕事ぶりを間近で見られることで、もう桁違いに勉強になっているようです。

ユナイテッドさんは、ただ単にプロの方をアサインしてくださるだけじゃない。当社の社員が再現性を持って実行していけるようになるまでしっかり落とし込みをしてくれる。だからこそ、専門知識やノウハウが社内にどんどんストックされていくんです。

確かに、専門家を起用した支援を行ってもそこで得た知見が社内に根付かなければ、契約が終了した後には何も残らず、それ以上の事業成長は望めない。それではユナイテッドが目指す“社会の善進を加速する”ことにはつながらないだろう。同社のハンズオン支援では、「ハンズオフ」を見据えた丁寧な取り組みを心掛けているのだと、投資事業本部長の井上氏は説明する。

井上単に「こうした方がいい」と口で提案するだけでは、なかなかその先の事業の成果や成長にはつながりません。これはユナイテッドのこれまでのコンサルティングや事業運営の経験から痛感しています。

だからこそ、私たちは実施内容が仕組みとして現場に落とし込まれ、きちんと実行に移せるかどうかを重視しています。そして提案した先にある「ハンズオフ」の状態をしっかりとイメージしながら支援に取り組んでいます。

先々を見据えたユナイテッドの手厚い支援は、L&Fの森氏いわく「ここまでしてくれていいのだろうか…?」と思うほどの貢献度だという。

見方によっては、ユナイテッドさんにとっては単なるコストにしか思えないようなことにも手をかけてくださって。つい「こんなにしてもらって大丈夫なのだろうか…」と思ってしまうほどです。

その支援に報いるためには、私たちが事業として、会社として成長して結果を出していくことが一番の恩返しになるはずです。

デジタルマーケティングのスキルにしても、事業計画の策定にしても、ユナイテッドさんが示してくださるのはどれもレベルが高い。だからこそ、そこにガッチリ食らいついて、経営の基盤作りに全力を注いでいるところです。

一体なぜここまで手厚い支援を?その真意を、井上氏はこう説明する。

井上我々がこうした支援に取り組む意図は、ズバリ「成功の確率を高める」「成長の角度を上げる」「成長のスピードを速める」の3つのどれかです。

L&Fさんの場合でも、まずは一緒になって経営基盤をしっかり作り込んでいく。常に経営状況を同じ目線で把握し、経営課題を抽出、やるべきことを洗い出し、優先度を決めて共に実行していく。その積み重ねが後の事業成長につながると考えています。そうなれば結果として、僕らの投資リターンも最大化できるはずですからね。

また、ユナイテッドは事業会社かつ自己資金による“直接投資”というスタイルで投資実行できるので、ファンドの満期や管理報酬などの制約がなく長期的な視点で先行投資ができる。これは僕らの大きな強みだと思っています。だからこそ直近の利益は二の次でも構わない。むしろ思い切って投資先の土台作り、その後の成長にコミットしていけるんです。

ユナイテッドがここまで手厚い支援を惜しまないのは、ひとえに“社会の善進”と投資先の長期的な成長を見据えているからである。「ここまでしてくれていいの?」と投資先企業を驚かせるほどの伴走で、10年先、20年先を見据えた礎を築いていくのがユナイテッド流の投資先支援なのだ。

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投資先にスタートアップ的成長を促す「UVS」の伴走力

ユナイテッドが誇る「投資先支援組織UVS(UNITED Venture Success)」は、キャピタリストチームとバリューアップチームで構成される。これまでの連載ではキャピタリストにスポットライトが当たることが多かったが、今回はバリューアップチームにも注目していきたい。

バリューアップチームは、投資判断の際にキャピタリストと共に特定したバリューアップ領域について、具体的なアプローチ方法を練り上げ、投資先企業とともに課題解決に取り組んでいく専門家集団だ。デューデリジェンスの段階から、キャピタリストや経営者と一緒になって支援の余地を見極め、投資実行後は、その支援領域に対して全力で伴走し、バリューアップにつなげていくことがミッションである。

そんなUVSのバリューアップチームがL&Fに提供してきたハンズオン支援の内容は、大きく3つに分けられる。

1つ目は「デジタルマーケティングの支援」だ。ユナイテッドはそもそもアドテクノロジー領域を祖業としているだけに、デジタルマーケティングに関する強みには定評がある。

2つ目は「経営管理の運用支援」だ。経営するために必要な予実管理、計画達成に向けたKPI設定やダッシュボードの構築など、ユナイテッドの豊富なスタートアップ投資の経験と、自社での事業運営のノウハウを余すところなく注ぎ込んだ支援となっている。

そして3つ目が「事業戦略の策定及び実行支援」だ。1つ目、2つ目の取り組みを踏まえながら、投資先の次期以降の事業戦略のブラッシュアップ、具体的な実行までを伴走。将来的な株式上場や、その先の成長戦略についても積極的にアドバイスを行っている。

井上L&Fへの投資を検討していた当時から、私たちは「この会社のポテンシャルを最大化するには何をすべきか」をずっと議論し続けていました。例えば、投下した資金をどのように事業に投資していくのか、経営管理をどう行っていくのか、そのためにはどこにKPIを設定するのが適切なのか。つまりは攻めの経営をどう仕掛けていくかについて、常に話し合いを重ねていたんです。

そんな中で、L&Fへの投資が正式に決定する前の出来事を、森氏は今でも鮮明に覚えているという。

ある時、ユナイテッドさんから「投資の意思決定に必要な資料をいくつか提出してほしい」と言われたことがあるんです。その中に「広告・プロモーション費の配分と使い方」という項目があって、とても印象に残っています。さすがアドテク領域にも強いユナイテッドさんは着眼点が違うなと、つくづく感心した記憶があります。

一般的に、投資家と投資先の関係性はどこかドライなイメージを持たれがちだ。しかしユナイテッドの場合は一味違う。投資実行直後から、UVSのストラテジストを筆頭に、グループ各社の豊富なリソースを総動員して投資先の成長支援に乗り出していく。

特に、ユナイテッドが有する人材マッチング事業(同社の事業詳細についてはこちらの記事を参照)を通じて、必要な人的リソースをタイムリーに投入できる点は、他社にはない大きな強みとなっている。それだけに、ユナイテッドの手厚い支援ぶりは、森氏にとって「いい意味でのギャップ」として感じられたようだ。

ユナイテッドさんは本当に距離感が近くて、定例のミーティング以外でも、何かあればすぐに相談に乗ってくれるんです。相談内容も、人材や資金といったリソースの使い方から、デジタルマーケティングのノウハウに至るまで幅広い。

だからいつも社員には「投資家さんがここまでしてくれるのは当たり前じゃないからね」と言っているんですよ(笑)。まるで経営チームにユナイテッドの皆さんがジョインして下さっているかのようにコミットしてくださって、こんなに手厚くサポートいただけるのは本当に心強いですよね。

おかげさまで、特に幹部クラスのメンバーの成長ぶりには目を見張るものがあります。VCから出資を受けている経営者仲間からは時折「VCとの距離を感じる」なんて声も聞くんですが、ユナイテッドさんとは非常に連携が取りやすくて。むしろ甘えてしまっているところも多々あるかもしれません。

ここまでハンズオン支援の手厚さと、その効果について見てきた。次は、実際にL&Fに伴走するユナイテッドの面々にフォーカスを当てていこう。彼らがどのような思いを胸にL&Fの成長に向き合っているのか。その熱量と覚悟を感じ取っていただきたい。

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「伴走」で終わらず「伝授」してこそハンズオン支援

ユナイテッドがL&Fに提供してきたハンズオン支援の中でも特に効果的だったのが、営業データを整理・可視化するダッシュボードの構築だ。それまではエクセルで手作業にて集計していた営業データをデジタルダッシュボードに移行することで、大幅な業務効率化を可能にした。

当時、我々のバリューアップ支援を担当してくれていたユナイテッドさんの若手ストラテジストから、「営業データをデジタルダッシュボードに移行するのはどうか?」という提案をいただいたんです。

正直、営業データの見える化は以前から喫緊の課題だったのですが、日々の業務に追われる中でなかなか着手できずにいました。そんな中での提案はまさに渡りに船となりました。

ユナイテッドのUVSチームは外部ベンダーの選定からデータ設計、ダッシュボードの構築までプロジェクト全般を力強くリード。森氏はこう振り返る。

スタートアップ・ベンチャー企業に特化した支援は、一般的なコンサルティングとは一味違うと感じます。L&Fのメンバーの力量を見抜いた上で、『伴走』と『伝授』のバランスを絶妙に取ってくれるんです。

ゴールを見失わずにコツコツ積み上げる地道さと、変革を仕掛けるスピード感。まさに私たちが目指す成長の道筋を、ユナイテッドさんの支援によってより明確に描くことができました。

リリースされたダッシュボードは経営に大きなインパクトをもたらした。単に営業の管理工数が大幅に削減されただけでなく、データを起点とした議論が劇的にしやすくなったのだ。

「問い合わせ数が伸びているのに受注率が落ちているのはなぜか」「広告経由の申込と紹介経由の申込でLTVに差が出るのはどういう理由か」──。以前は仮説が立てづらかった論点も、ダッシュボードを見ながら議論できるようになりました。

事業をスケールさせていく上でデータの力は欠かせません。お客様の声にもっと耳を澄まし、サービスの改善につなげていく。そのためにもこのダッシュボードを積極的に活用していきたいですね。

そしてこのL&Fとのハンズオン支援はユナイテッドのUVSチームに属する若きタレントたちにとっても学びの宝庫だったという。これまでの連載でも紹介してきたように、同社には若くして活躍するキャピタリストやストラテジストが多数在籍している。そんな彼ら彼女らがL&Fでのプロジェクトを通じて得た学びとは──。森氏がその一端を明かしてくれた。

今回のダッシュボードのプロジェクトを推進してくれたUVSのストラテジストの方を始めとして、ユナイテッドさんには優秀な若手が多く揃っています。初めてお会いしたときのことは今でも鮮明に覚えています。

私の話に真剣に耳を傾けた後、キャピタリストやストラテジストの方から矢継ぎ早に鋭い質問が飛んでくるんですよ。当時はハッとさせられましたね。自分の考えの甘さと視野の狭さを痛感する一方で、ユナイテッドにはこんなにも志高い若手たちがいるんだと心強く感じたことを覚えています。

若き才能との対峙は、森氏に自身を見つめ直す機会を与えてくれたようだ。だが一方で、ユナイテッドの面々もまた、ベテラン経営者である森氏との議論を通じて、多くの学びを得ていたという。

井上正直、ビジネスパーソンとしてのキャリアとしては、UVSの若手たちから見れば森さんは大先輩。ですので森さんとのミーティングが終わると「今の提案で大丈夫だったかな」と気にすることもしょっちゅうあったようです。

それでも森さんはいつも我々の提案に真摯に耳を傾け、前向きに議論してくださる。ユナイテッドの若手メンバーにとって、そうした森さんの姿勢はかけがえのない学びの機会になっています。本当に感謝ですね。

年次や立場の壁を越えて、お互いに学び合える関係性がL&Fとユナイテッドの間には築かれている。こうした相互成長を促す環境こそが、ユナイテッドの投資先支援における真骨頂であり、投資先から厚い信頼を寄せられる所以なのかもしれない。

井上ユナイテッドの投資先スタートアップ支援は、経営チームの一員になったつもりで投資先の成長にコミットすることが最重要と考えています。机上の空論を説くのではなく、徹底的に寄り添い、転ばぬ先の杖を提供すること。投資先の事業に本気で向き合い、リアルな課題にも臆さず向き合っていく。投資家ではあるものの「コミットする力」にこそ、ユナイテッドの強みがあるんです。

UVSチームの伴走力と、L&F経営陣の柔軟かつ積極的な姿勢から生まれた、営業データの見える化という成果。このように、両社の相互成長を促す関係性こそが、ユナイテッド流支援の真骨頂と言えるだろう。

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L&Fの命運を分けたユナイテッド代表・早川氏との60分

ここまで、ユナイテッドがL&Fに対しどのような人材を投入し、どんな支援を展開してきたのかを見てきた。ここで一旦立ち止まり、そもそもの出会いを振り返ってみたい。

L&Fとユナイテッドの最初の邂逅は、2021年12月のこと。このときの出来事を森氏は今でも鮮明に覚えているという。

12月10日のことです。私にとっては絶対に忘れられない日付ですね。この日、ついにユナイテッドの早川社長と初めてお会いして、お話しする機会をいただいたんです。

実は森氏がユナイテッドに出会う前の数年間、L&Fは資金面で課題を抱えていた。事業は細々と継続できてはいたものの、スケールを狙う資金的な余力はなかった。そんな中、藁をもすがる思いであるVCに相談してみたところ、「このビジネスモデルでは上場は難しい」とバッサリ言い切られてしまう。

この経験から森氏は、VCはどうしてもファンドの満期があるため、短期的な成果を求めざるをえない傾向にあり、L&Fのように長期的な時間軸で腰を据えて取り組む必要のある事業には不向きだと確信した。そこで森氏は戦略を練り直し、事業会社を対象とした資金調達にシフトしていく。

VCの方とお話ししてみて、自分たちのやりたいことを自己中心的に訴えて資金調達を行うのは難しいと痛感しました。とはいえ、うちの社員は皆、この事業に誇りを持って取り組んでいる。だからこそ、経営者としてどうすればこの事業を拡大できるのかを必死で考え続けていました。

そんなとき、私の大学時代の後輩からユナイテッドの早川社長をご紹介いただいたんです。正直言えば、これまでの経験から、投資家の方とお会いできたとしても10分ほど話を聞いてもらえたら御の字だと思っていました。ところがなんと、早川社長は1時間もの間、私の話に真剣に耳を傾けてくださったんです。

それだけで涙が出るほど感動したのですが、帰宅後、お礼のメールをお送りしたところ、早川社長からすぐさま返信がありました。「非常に社会的意義のある事業だと感じました。何かお手伝いできることがあればぜひ」とのお言葉を頂いたんです。L&Fの事業の可能性をここまで評価してくださる方がいらっしゃるなんて──。私にとっては一生、忘れられない日になりましたね。

その後、ユナイテッドはL&Fへの投資に向けて本格的な検討を開始。2021年12月の出会いから4~5ヶ月後、早川氏から再び森氏に連絡が入る。

「ぜひうちのブログを読んでください」とのことでした。さっそく見てみると、当時策定したばかりのユナイテッドのパーパス、そしてそれが生まれるまでの道のりを描いた記事があったんです。

「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」というパーパスを拝見して、ハッとしました。L&Fの事業が、このパーパスにぴったりマッチすると。早川社長は初対面の時点でそう感じ取り、投資を決断してくださっていたんだと、そのとき全てが腑に落ちたんです。

井上氏によれば、ユナイテッドがL&Fへの投資を決定した理由は、具体的に次の三点だったという。

井上一つ目が「パーパスとの親和性」、二つ目が「森さん(経営者)の意志とエネルギー」、三つ目が「ビジネスポテンシャルの高さ」ですね。L&Fさんは見事にこの3点を満たしていました。

「パーパスとの親和性」については森さんがおっしゃる通りです。日本の空き家増加は深刻な社会課題で、それでいて管理するインセンティブが弱く、放置されがちだと認識しています。そうした課題の解決に正面から挑む「空き家管理」というソリューションは高い社会的意義を感じますし、我々のパーパスとも親和性が高いと思いました。

次に「森さんの意志とエネルギー」という点では、不動産領域で20年のキャリアを持ち、業界が抱える負の部分を誰よりも研究されてきた。事業を展開する動機にも、その勝負の仕方にも、深く共感を覚えました。まだ市場のニーズが顕在化していない段階からここまで根気強く事業展開されてきたその熱量には並々ならぬものを感じました。

最後に「ビジネスポテンシャルの高さ」についてですが、もちろん申し分ないと感じています。少子高齢化が加速し、政府も国を挙げて空き家対策に乗り出そうとしているのが現状です。社会のトレンドとしても追い風が吹いていることを鑑みても、将来の事業ポテンシャルは計り知れないと見込んでいます。

L&Fが本格的な投資交渉を行った投資家はなんとユナイテッドのみだという。初めての交渉先で投資が決まったことを「奇跡的なタイミング」だと森氏は表現する。しかし、その裏にはL&Fがそれまで積み重ねてきた地道な取り組みがあったことを忘れてはならない。

次項では、ユナイテッドをここまで惹きつけたL&Fの事業がどのようにして生まれたのかを探っていく。森氏の半生にも触れながら、L&Fという企業の原点に肉薄していきたい。

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事業立ち上げから8年の忍耐を経て、いよいよ本格始動

森氏は学生時代から起業家を志望していたが、何のスキルやノウハウもない中でいきなり起業するよりも、まずは社会に飛び込んで学びを得て、人脈も築いてから起業した方が成功確率は高いと考えた。

そこで「修業の場」として選んだのが、野村證券だ。営業職として厳しい環境に身を置き、ビジネスパーソンとしての資質を徹底的に鍛え上げた。10年間の勤務を経て退職し、いよいよ起業への準備を開始する。

私はもとより“食”に興味があり、また当時まだフードベンチャーもほとんどなかった時代でしたので、FCによる多店舗展開の事業構想を練り、具体的な準備に取りかかっていました。ところが野村證券を退職した2001年の秋、社会的にBSE(牛海綿状脳症)問題が発覚。食品業界を中心に大きな社会問題に発展していく中、事業リスクを考慮して断腸の思いで立ち上げを断念しました。

計画を白紙に戻した森氏は起業のタネを探しつつも、とあるきっかけから設立間もない賃貸住宅のサブリース会社の社長から熱烈なスカウトを受け、入社を決めた。

事業立ち上げ経験などほぼゼロからのスタート。それでも野村證券で培った気合と根性をベースに開拓営業に明け暮れ、数百社の不動産会社とのネットワークを築き上げた。営業と戦略企画担当取締役として活躍するなど、順風満帆なキャリアを歩んでいく。

しかしその一方、日本全国を飛び回る中で不動産業界の抱える課題や、地方都市の危機的な実情を嫌というほど目の当たりにすることになる。

地方出張に行くたび、目に入ってくるのは空きテナントビル、空き家の数々。これらは地方衰退のシンボル、いわば負のランドマークと化していました。次の起業テーマを探し求めていた私はそうした光景を見るにつけ、言葉にできないほどの衝撃を受けていました。

新たな事業領域を決めるにあたり、森氏が重視したのは以下の点だ。

  1. 日本の未来に貢献できる事業:後世に渡って価値を認められる事業であること
  2. 日本一になれる事業:圧倒的No.1を獲得できる余地があること
  3. 市場が巨大で拡張性が高い事業:関連市場も含めた市場規模が巨大であること

これらの観点で見た時に、森氏にとって空き家問題は看過できないイシューとして映った。都市部への人口集中による実家の相続問題、地方の過疎化による人口流出。今後、空き家が増加の一途を辿ることは火を見るより明らかだった。空き家の増加が地域の住環境悪化や地価下落を招き、さらなる人口減少に拍車をかける。それは日本全体の大きな損失につながりかねない。

そこで森氏は決意した。「空き家管理サービス」を全国展開し、この社会課題解決に挑むと。ところが、その構想を業界関係者に話すと反応は冷ややかなものばかりだったのだ。

「空き家の管理にお金を払う人なんていない」「空き家はリスクと手間しかない」など、「絶対に失敗する」と言わんばかりの烙印を押されたんです。ほぼ100%が反対意見。誰一人として賛同してくれる人はいませんでした。

しかし、見方を変えれば参入障壁が高く、競合リスクが少ないビジネスとも言えますよね。空き家の管理だけでなく、売却、活用、流通まで手掛ければ市場規模は計り知れない。「この事業なら日本一を目指せる」、そう確信したんです。

とはいえ、当時はまだニーズが顕在化しておらず、市場が存在しないに等しい状態。よって、すぐに空き家事業に乗り出すのではなく、時期を見定めることにした。

事業計画を引き出しの中で温め続けること数年。転機が訪れたのは2010年のこと。埼玉県所沢市で、全国初となる空き家条例が制定されたのだ。「そのときの衝撃は今でも忘れられない」と森氏は振り返る。

待ちに待った法整備という大きな“きっかけ”が、ついに訪れたのです。この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいきません。「空家等対策特別措置法」の全面施行(2015年5月26日)に合わせ、2015年7月1日、「日本空き家サポート」事業をついに開始したんです。

もっとも、法律ができたからといってすぐに人々の価値観や行動が変わるわけではない。森氏は「5年は閑古鳥が鳴くだろう」と覚悟を決めつつ、地道にサポーターを集め、知名度を高める活動を続けた。そうして事業を開始してから6年後の2021年、ユナイテッドとの運命の出会いを果たすわけだ。

さらに追い風が吹いたのは2023年。「空家等対策特別措置法」の改正により、空き家管理の自由度が格段に向上。L&Fの事業も新たな段階に入ろうとしている。

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投資先のカルチャーにも浸透するユナイテッドの「パーパス」

ユナイテッドの手厚い支援について、森氏は「これ以上望むことは何もない」と言い切るほど満足感を示す。取材を通して、ユナイテッドへの深い信頼と、そのパーパスへの共感が随所に感じ取れた。ユナイテッドから投資を受けたことへの責任の重さについて、森氏はこう語気を強める。

実は社内で、ユナイテッドさんのパーパスをお借りして「我々も社会を善進させていこう」とよく話しているんです。

ユナイテッドさんの投資哲学の素晴らしさ、その先見性が世間から高く評価されるよう、私たちは責任を持って成長していかねばと強く感じています。

私は、ユナイテッドさんは投資先にこれほどの使命感を抱かせてくれる稀有な投資家だということをもっともっと皆さんに知っていただきたい。本気で志を持ち、社会をより良くしたいと願うスタートアップの経営者がいれば、まずはユナイテッドさんにご相談されることをおすすめします。それが成功への最良の一歩になるはずだと、私自身の経験から確信を持って言えますね。

L&Fとの二人三脚をこれからも続けていく覚悟を、ユナイテッド側もまた明らかにする。

井上森さんが描かれている構想はわくわくするものばかりです。その実現に向けて我々も引き続き全力で伴走させていただきます。

ユナイテッドだからこそ提供できる支援は、まだまだたくさんあるはずです。投資家と投資先という垣根を越えて、一つのチームとして前を向いていきたい。そんな志を胸に秘めた起業家の皆さんからのお声がけを、心よりお待ちしております。我々は全身全霊で、その想いに応えていく所存です。

また、ユナイテッドは日本発のイノベーションを通じて、世界の社会課題解決にも挑んでいきたいと心意気を語る。

井上他国もいずれは直面するであろう社会課題に対し、日本が率先して新しいソリューション、ビジネスで解決していく。このように、日本が社会課題解決のフロンティアになることこそが日本再興のきっかけになると私は信じています。

私たちの「善進投資」を通じて一つでも多くの社会課題が解決され、日本がより前向きで明るい国になっていく。ユナイテッドとしてそんな貢献をしていければと思っています。

かつては誰もが見向きもしなかった「空き家管理」という社会課題に、L&Fは先陣を切って立ち向かった。そしてその市場は今、大きな成長の軌道に乗ろうとしている。ユナイテッドはこれからも、L&Fのような社会的意義の高い事業と、揺るぎない意志とエネルギーを持つ経営者に寄り添い、「善進」の理念の下、社会課題解決に挑戦し続けるのだろう。

今回のユナイテッド、出資の決め手

  • 空き家問題解決の社会的インパクトの大きさ
    人口減少と高齢化により深刻化する空き家問題に取り組み、地域の住環境の改善や地価下落の抑制、さらには地方創生にも寄与するL&Fの事業が持つ社会的意義の大きさ
  • 創業者森氏の揺るぎない意志とエネルギー
    業界から「絶対に失敗する」と言われ続けながらも、10年以上に渡って空き家管理事業に情熱を注ぎ続ける森氏の覚悟と、事業を通して社会課題解決に挑み続ける強い意志
  • 成長が見込まれる空き家管理市場のポテンシャル
    2033年には2,000万戸を超えると言われる空き家の増加と、政府も国策として空き家対策に乗り出す追い風の中、今後ますます市場拡大が見込まれれ、周辺領域も含めた高い事業ポテンシャル

こちらの記事は2024年06月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

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