「1億円を調達し、SleepTechのプラットフォームをつくる」
ニューロスペース小林が睡眠ビジネスを選んだワケ
17年10月11日、総額約1億円の資金調達を発表した睡眠解析ベンチャー、ニューロスペース。
最先端睡眠テクノロジーをもとに、睡眠改善プログラムの提供や独自プロダクト開発を続けている同社の創業のきっかけは何だったのか?これから何を目指すのか?
代表の小林孝徳に独占インタビューを行った。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
睡眠に関する自分の悩みが出発点
まずはニューロスペースを立ち上げた経緯を教えてください。
小林会社立ち上げの原点は、自分自身が受験生のころから睡眠障害で苦しんでいたという経験にあります。今でもトラウマなんですけど、センター試験の前日、机につっぷして寝てしまって試験当日は結果を出せずに終わってしまったんです。日ごろから授業中もよく居眠りしてました。
当時は睡眠に対してそこまで真剣に考えていなかったんですが、社会人になってからは睡眠不足の影響が身体に如実に表れるようになり、ようやく真面目に対策法を考えるに至りました。
具体的にどんな状態に陥っていたかというと、10秒前に上司から言われたことが思い出せなかったり、自分のことを思ってアドバイスしてくれた人に対してネガティブな感情を抱き、人格否定されたかのように思ってしまったり。
「どうしてこんなに物事を悪いほう悪いほうに考えちゃうんだろう?」と思っていろいろ調べたところ、十分に睡眠をとれていないことによる脳への悪影響が原因ではないか?ということに行き着きました。
小林さらに調査を進めると、睡眠不足による日本の経済損失額が年間3.5兆円ということもわかり、「睡眠にまつわる問題は自分だけの問題じゃない、根本的な社会問題なんだな」と思い、睡眠ビジネスへのチャレンジを決めたというわけです。
睡眠の情報ギャップを埋めたい
起業したいという想いはずっと持っていたのですか?
小林そうですね。でも、3つの条件を定めていただけで、具体的に何をやりたいかは見えていなかったんです。
条件の1つ目は、自分が熱意を持ってやり続けられるビジネスであること。2つ目は、科学技術を活かした事業であること。僕は大学では理学部の物理専攻だったので、基礎研究と呼ばれる研究領域の発見を応用化するビジネスがしたいと思っていました。
そして最後の3つ目が、社会の根本を変えるようなビジネスであること。その全てを満たしたのが、結果的に自分自身が昔から悩んでいた睡眠に関するビジネスだったというわけです。
テーマが決まってから不眠や睡眠不足についてリサーチを重ねる中で、一般消費者が触れられる情報の多くでは「高級な枕や薬に頼りましょう」という解決策ばかりが提供されていることに気が付きました。
つまり、根本的な解決策になっていない。睡眠そのものを改善して、生活や仕事の生産性を上げるノウハウは、世の中に浸透していなかったんです。
それともう1つの問題点は、睡眠業界においてはダイエットでいうところの体重計がないということです。
体重計なら、1か月前からどのくらい痩せたかなどの数字の変化が一目瞭然です。しかし睡眠に関しては、改善に取り組んだ結果が見えづらいんです。ベッドの横にスマートフォンを置いて睡眠の質を計測するアプリも登場していますが、まだまだ精度が低いのが実情です。
小林この2つの問題点に気付いたことで、「睡眠改善プログラムの構築」、「最先端睡眠テクノロジーと睡眠ビッグデータを用いた、睡眠改善のためのデバイス研究開発」という、ニューロスペースが取り組むべき事業の大きな骨子が決まりました。
プログラムの作成や研究開発はどうやって行っているんですか?
小林大学の研究者や専門の医療機関と連携して行っています。筑波大学の睡眠研究は世界でもトップレベルで、世界中から優秀な研究者が集まっています。そして心強いことに、今年(17年)の6月からはその研究者の一人である佐藤牧人がニューロスペース社の技術責任者に就任しています。
吉野家を筆頭に大手企業との取り組みも加速
睡眠領域は消費者や企業にとっても馴染みがない領域です。立ち上げ時は苦労しませんでしたか?
小林もちろん、これまでにないサービスを作ろうというのですから、最初のころは「どうやって営業すればいいんだろう?」と不安もありました。
しかし、株式会社リバネス主催の第3回テックプラングランプリに出場しプレゼンをおこなったところ、審査員をされていた吉野家ホールディングスの河村社長から、「睡眠のノウハウをうちの店長たちに教えてほしい」とお声がけいただきました。
そして大変嬉しいことに、その取組みをプレスリリースとして配信したところ、DeNAやパナソニックといった大手企業からも睡眠研修を行って欲しい、というオファーをいただくことができたんです。
DeNA社では睡眠改善プログラム実施前と実施後の変化の様子をレポートにまとめているのですが、「どれだけ寝ても眠い」、「毎朝起きるのが辛い」といった睡眠の悩みに関する調査項目に対して、被験者の66%が改善できたという結果が出ています。
薬にもモノにも頼ることなく、以前よりもよく眠れるようにするためには生活習慣改善などの行動変異を起こす必要があり、一定の努力が必要となります。しかしそれでもこの改善結果が出た背景には、ビジネスマンの睡眠に対する危機意識が高まっていることが挙げられると考えています。
たとえばどんな生活習慣を見直す必要がありますか?
小林1つは、寝だめの習慣を無くすことです。身体のリズムを整えるためにも、毎日同じ時間に起きることはとても大切。たとえ二日酔いであっても起床時間になったら一度は起きたほうが良いのです。
もちろん夜勤日勤が交互に訪れて生活リズムを整えることが難しい人もいると思いますが、そういう人でも、決められた時間に眠りの質を最高値にもっていくために環境を整えるといった努力をする必要があります。例えばエアコンや寝具で体温を調整したり、室内の明かりを調整したりといったことが有効です。
睡眠に関して世の中に伝えたいことはありますか?
小林睡眠は「スキル」です。補助輪がなくても自転車に乗れるようになるとか、九九の計算ができるようになるのと同じで、特別な能力がなくてもマスターすることができるんです。
不規則な生活でも身体に負担をかけづらいテクニック、4時間しか時間を確保できないときに睡眠の質を最大限あげる技術などを知ることにより、いくらでも睡眠の質は改善できます。上達すれば眠気や眠りをコントロールすることも可能だということを、多くの人に知ってほしいですね。
やはりこの仕事をしていて感じることは、多くの人が「睡眠の質をもっと上げられる」とは思っているものの、どうしたらいいかわからない、ということ。そんな状況が蔓延しているんです。
睡眠解析プラットフォームを実用化させる
今回の資金調達を皮切り、どのような事を実現させていくのでしょうか?
小林個⼈毎の睡眠データを⾼精度に計測し、AIを活⽤した独⾃の解析技術から導き出した個⼈別睡眠解析結果と最適ソリューション、そして改善データを提供するシステム基盤となる「睡眠解析プラットフォーム」の実用化に向けた開発を加速させるとともに、実証実験開始します。
小林実証実験には既に株式会社吉野家の参画も決まっています。吉野家のシフト勤務者を対象に、当社の睡眠計測デバイスで計測したデータを活用し、最適な睡眠ソリューションをモバイルアプリを通じて対象者に提供。睡眠改善効果を検証しながら、有効性をブラッシュアップしていく予定です。
将来的には社員の健康増進・⽣産性向上を目指している企業や、睡眠ビジネスへの参⼊を検討する企業にニューロのプラットフォームを開放し、APIを通じて、睡眠改善データやソリューションを経営の改善や⾃社サービス・IoT対応製品に組み込むことも可能にしていきたいと考えています。
こちらの記事は2017年10月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
松本 玲子
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