連載事業成長を生むShaperたち

“選考経験”を資産化する!?──『キミスカ』創業者・現Hajimari執行役員の仲真氏に訊く、「生成AI×メンター」で描く人材業界の次代

仲真 良広

2006年に外資系ヘッドハンティンググループに入社。24歳で独立し、株式会社グローアップを設立。2013年、学生の就活状況をシェアできる日本初のスカウト型Webサービス『キミスカ』をリリース。1学年15万人(就職希望学生の3人に1人)が利用するまでに成長させた。その後、コロナ禍での出向支援サービス『ロンデル』など複数の求人サイトを立ち上げる。2022年、「自立した人材を増やし、人生の幸福度を高める」というビジョンに共感し、Hajimariに参画。経営全般と就活Craftの立ち上げ・同社主力事業であるプロパートナーズ事業の統括している。

創造性を発揮し、新しい価値を形づくろうとする人たちを“Shaper”と呼ぶ(詳しくはスローガン創業者・伊藤豊の著書『Shapers 新産業をつくる思考法』にて)。

Shaperはイノベーターやアントレプレナーに限らず、誰もがなり得る存在だ。一人ひとりがShaperとして創造性を発揮し活躍すれば、新事業や新産業が次々と生まれ、日本経済の活性化を促す原動力となるだろう。

連載企画「事業成長を生むShaperたち」では、現在スタートアップで躍動するShaperたちにスポットライトを当て、その実像に迫っていく。今回は「自立した人材を増やし、人生の幸福度を高める。」をビジョンに掲げ、起業家やフリーランスの自立を支えるお仕事紹介サービス『ITPRO PARTNERS』を展開する株式会社Hajimariにて、執行役員を務める仲真 良広氏だ。

24歳で起業して以来、10年以上人材業界に従事。グローアップ時代に手掛けた新卒向けのスカウトサービス『キミスカ』は、サービス開始から1年2ヵ月で参画企業100社、登録会員数10,000人の大台を突破し、15万人規模にまで成長させた経験も持つ。現在はHajimariで、生成AIを活用した就活支援サービス『就活Craft』を立ち上げ、3,000人の学生が利用するまでに急成長させている。人材業界で連続的にサービスを立ち上げてはヒットさせてきた仲真氏。その独自の思考と行動力を武器に、新たな価値創造に挑むShaperの軌跡に迫る。

  • TEXT BY TAKASHI OKUBO
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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学生からの支持を集める『就活Craft』を始め、人材業界の「労働集約型のビジネスモデル」を変革する

仲真昨今の人材サービスは他業界と同じく効率化や自動化が進んでいますが、本当に必要なのはテクノロジーと人の温かみを組み合わせることです。

テックと人の温かみの融合──。その実態は後述するが、Hajimari執行役員の仲真氏は、自身が手がける就活支援サービス『就活Craft』についてそう語る。2023年4月のリリースから約8ヵ月で3,000人近い学生が利用するまでに成長したこのサービスは、生成AIとメンターによる支援を組み合わせ、人間味のある支援を重視する点で、他社との明確な差別化を図っている。

AIを活用した就活支援サービスが続々と登場する中、『就活Craft』が学生から支持される理由はどこにあるのか。その秘密は、仲真氏の人材業界での豊富な経験に基づく独自の視点にある。

仲真新卒採用市場には大きな歪みがあります。多くのサービスは有名大学出身者や高いスキルを持つ上位数パーセントの学生向けに最適化されていて、本当に支援を必要としている層にリーチできていない。この課題に気づいたのは、前職で新卒スカウトサービスを運営していた経験があったからこそです。

この気づきを起点に、仲真氏は生成AIの可能性に着目。大手企業への就職を目指さない学生や、自己分析に苦手意識を持つ学生など、従来は個別支援のコストが高くつくために十分なサポートが受けられなかった層にも、質の高い就活支援を届けられるのではないかと考えた。ここでいう質の高い支援とは、学生一人ひとりの状況や志望に応じた、きめ細やかなアドバイスの提供を指す。

ただし、AIに全てを任せるわけではない。その特徴的な機能の一つが、企業ごとの志望動機添削だ。学生が志望企業名と志望動機を入力すると、AIがその企業のリクルートページを参照し、より効果的なアピールポイントを提案する。このAIによる支援に加えて、実際のメンターによるフォローも提供。「テクノロジーによる効率的なアドバイスとメンターによる共感的な理解や励ましを組み合わせることで、より多くの学生に寄り添える支援が実現できる」と仲真氏は確信している。

ただ、あくまでもこの取り組みは、Hajimariにおける仲真氏の様々な挑戦の一つに過ぎない。同氏はITフリーランスのマッチング事業を中心に、複数の事業を統括する執行役員として、会社全体の成長戦略も担う。

仲真人材業界では、多くの場合テクノロジーは既存の業務フローの効率化や生産性向上のために活用されているように思います。一方、Hajimariは異なるアプローチを取っています。社内に30人規模の優秀なエンジニアチームを抱え、高度なプロダクト開発が可能な技術力を持つ私たちは人材ビジネスのモデル自体を変革することを目指しています。

従来の労働集約型のビジネスモデルから脱却し、テクノロジーを活用して新しい価値を創造する。そうすることで、より多くの人にこれまでにない形での支援を届けることができると考えています。

その理念は、『就活Craft』の開発にも貫かれている。現在は実験的な面もあるサービスだが、将来的にはAIメンターの機能を強化し、リアルな人間によるメンタリングではなく、AIの力で仮想メンターがより広い層の学生に価値を提供できるプラットフォームへと進化させる構想を描く。仲真氏の視点には、テクノロジーと人間性の調和を追求する姿勢が表れている。それは、次世代の就活支援の在り方を示唆するものと言えるだろう。

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「申し訳ない気持ちでいっぱい……」。仲真氏の起業家マインドに火をつけた、とある人事の言葉

仲真氏の原点は、24歳という若さでの起業にある。2008年、外資系ヘッドハンティング企業を経て株式会社グローアップを設立。順調に事業を拡大し、グループ全体で150名規模の組織へと成長させた。

しかし、単なる事業規模の拡大だけでは満足できなかった。人材紹介という労働集約型のビジネスモデルには限界があると感じていたのだ。

仲真人を増やせば増やすほど、組織の問題は複雑化し、一人当たりの生産性は下がっていく。このジレンマをどう解決するか。それが常に頭の中にありました。

その答えを模索する中で生まれたのが、新卒向けスカウトサービス『キミスカ』だ。立ち上げのきっかけは、ある人事担当者との何気ない会話だった。

仲真最終面接まで進んだ学生を不採用にすることになり、申し訳ない気持ちでいっぱいだと相談を受けたんです。その学生は能力が高く、人事側も採用したいと考えていたものの、最終的に会社との相性が合わないと判断した。そこで私は、この選考プロセスで企業と学生の双方が得た経験を、次のキャリアの選択に活かせないだろうかと考えました。

この気づきから、「受けた選考を無駄にしない」をコンセプトに掲げた『キミスカ』が誕生する。当時の新卒採用市場では、ある企業の選考で高い評価を得た学生の情報が、他の企業に共有される仕組みはなかった。

例えば、他社の選考で最終面接まで進んだ学生は、別の企業にとって魅力的な候補者となり得る。この情報が企業間で共有されていないという課題を解決するため、選考のプロセスや到達段階を可視化し、企業が優秀な学生を見つけやすく、学生も自身の強みを活かせる企業と出会えるプラットフォームを目指したのだ。

仲真大手企業の最終面接まで進んだ学生は、その選考プロセスを通じて高い能力や可能性を示しています。例えば、銀行の最終面接で「とがりすぎている」と評価された学生は、むしろベンチャー企業が求める主体性や革新性を持ち合わせている可能性が高い。

しかし、新卒採用では中途採用のような職務経歴書がないため、そういった学生の持つ可能性が企業に伝わりにくい状況でした。

客観的なデータがないから、新卒向けのスカウトサービスも存在していなかった。だったら、その学生が受けた選考のプロセスや到達段階を可視化すればいい。それを見て企業がスカウトを打てるようにすれば、企業は効率的に採用でき、学生も自分の選考経験が次の機会につながる。そう考えたんです。

しかし、道のりは決して平坦ではなかった。当時、中途採用市場では大手スカウトサービスが台頭しており、新卒市場への応用は時間の問題だった。案の定、『キミスカ』のローンチを契機に、半年の間に10社近くの競合サービスが立ち上がる。技術的な参入障壁が高くなかったことも、新規参入を加速させた理由だった。

こうした新規参入の増加は広告費の高騰を招き、差別化のための開発費も重くのしかかった。市場の先駆者として、様々な困難に直面することとなる。

仲真でも、ユーザーの反応は良かった。一度使った人が「これはいい」と言ってくれる。だから踏ん張れました。他社が諦めていく中、投資を続け、最終的に業界に定着できたんです。

その結果、キミスカは1学年あたり15万人(民間就職希望学生の3人に1人)が利用するサービスへと成長。2022年10月にはプライム上場企業に売却され、大きな成功を収めた。

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TV放映もされた、緊急事態宣言から僅か3日で実現した新サービス

『キミスカ』での成功に満足することなく、仲真氏は新たな課題に立ち向かう。

2020年、コロナ禍という未曾有の危機が訪れた。緊急事態宣言の発令により、多くの飲食店が営業停止を余儀なくされる中、仲真氏は発令からわずか3日でサービスを立ち上げ、『ロンデル(2024年5月31日サービス終了)』という形で飲食業界への支援を開始。企業間の人材シェアリングを可能にし、フジテレビを筆頭に多くのメディアで取り上げられた

仲真飲食店のオーナーから続々と悲痛な声が届くなか、何かできることがあるはずだと考えました。飲食店は休業を余儀なくされ、一番のコストである人件費の負担に苦しんでいる。一方で、食品スーパーなどでは人手が不足している。この歪みを解消できれば、双方にとって価値があるはずです。危機の中にこそ、新しい可能性があると確信していました。

そんな仲真氏が2022年、新たな挑戦の場として選んだのがHajimariだった。きっかけは代表の木村氏との経営者仲間としての付き合いだったが、その決断の背景には、より深い理由があった。

仲真40歳を前に、自分は何を残せるのかを考えました。自分自身、映画やドラマを見て感動するように、事業を通じて誰かを感動させたい。そう考えた時、一人で新しく始めるより、Hajimariという可能性に満ちた舞台で挑戦する方が、より多くの人に感動を届けられると思えたんです。

若くて優秀なメンバーが多く、主力のITフリーランスのマッチング事業も、デジタル化の加速やリモートワークの浸透を背景に急成長中でした。さらに、AIやテクノロジーを活用した新しい働き方支援への可能性も広がっている。このチームと一緒なら、人材業界に新しい価値を創造できると思えたんです。

人材業界の常識を覆す新サービスの創造から、コロナ禍での機転を利かせた支援まで。仲真氏の歩みは、チャンスとリスクを見極めながら、果敢に挑戦を続けるShaperの姿を体現していると言えるだろう。

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「人を信頼し、任せきる」事業成長の本質

『キミスカ』や『ロンデル』、そして『就活Craft』と、次々と新しいサービスを生み出してきた仲真氏。その豊富な経験から、新規事業を成功に導くためのポイントを聞いた。

仲真新しいサービスを作る時、「なんとなくあったら良いな」では絶対に売れません。

そう語る仲真氏の事業開発哲学は明快だ。プロダクトやサービスは、「これがなければ困る」という強烈な必要性を生み出すか、使う人をワクワクさせるものでなければならない。特にBtoBの領域では、この二つの要素のどちらかがなければ、市場に受け入れられることは難しいという。

この哲学は、これまでの成功体験に裏打ちされている。キミスカは「受けた選考を無駄にしない」という明確な価値提案で企業と学生の支持を集め、ロンデルは飲食業界の切実なニーズに応える形で生まれた。

仲真時流に合っていて、分かりやすく、キャッチーであること。それを聞いた人が「面白いですね」と反応してくれるものは、口コミやメディアでの紹介など自然な拡がりが期待できます。そうなれば、広告投資以上の効果が得られるんです。

ただし、優れたコンセプトを持つサービスを作るだけでは不十分だ。それを成長させ、持続可能な事業として確立させるには、チームの力が不可欠となる。仲真氏の特徴的な点は、自身の強みと弱みを明確に理解し、それに基づいてチームを活用する手法だ。

仲真私は細かい作業があまり得意ではありません。また、スピード感を持ってプロジェクトを進めるためには一人の力では限界があり、チームの力が必要です。だからこそ、自分にしかできない事業の構想を練り、大きな方向性を示して事業作りに集中し、他は信頼できる人に任せています。最終的な成果と期限を示し、そこに至るプロセスは基本的に任せます。中途半端な信頼では、相手も必ず感じ取ってしまう。だからこそ、背中を預けるような気持ちで任せきることが大切なんです。これは経営者として重要な決断でした。

『ロンデル』の発案から3日でリリースできたのも、まさにこの信頼関係があったからこそだと思っています。事業の仕組みや大まかな数字は私が考えましたが、実装や細かい調整は全てチームに任せました。自分一人でやろうとすれば、必ず遅くなる。誰に頼めば最速で回るのか、それを判断することこそが私の役割でした。

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「感動を広げる」を軸に、人材業界の常識を変える

人材業界は今、大きな転換点を迎えている。人材紹介事業は労働集約型で、売り上げを伸ばすには人を増やすしかないのが現状だ。そんな課題意識のもと、Hajimariは新たな価値創造への挑戦を続けている。主力事業であるITフリーランスのマッチングは順調に成長を遂げているが、それは通過点に過ぎない。

仲真先ほどもお伝えしましたが、当社には30人規模の優秀なエンジニアチームがあり、高度なプロダクト開発が可能な技術基盤があります。これまで『就活Craft』で実践してきたように、生成AIなどの最新技術を活用することで、より多くの人に価値を届けられます。でも、それは手段であって目的ではありません。

私が常に考えているのは「感動を広げる」ということ。大谷翔平選手の活躍を見て感動するように、私も誰かを感動させられる仕事がしたい。それが事業を通じて実現できると信じていますし、プロダクトも組織も、全てはその軸で考えています。

こうした彼のビジョンは、次世代のビジネスパーソンへのメッセージでもある。

仲真氏は、これまで一貫して「自分にしかできないことに集中し、他は信頼できるメンバーに任せる」という哲学を実践してきた。『キミスカ』では10社もの競合が登場する中で投資を続け、一学年の3人に1人が利用するサービスにまでグロースさせた。そしてコロナ禍での飲食支援『ロンデル』では事業構想からわずか3日でのリリースを実現。そしてHajimariでは、生成AIと人による支援を組み合わせた新しい価値の創造に挑む。

こうした一連の歩みからは、仲真氏の一貫した姿勢が見えてくる。『キミスカ』では市場を見極めた大胆な投資判断、『ロンデル』では危機を察知した迅速な意思決定、『就活Craft』ではテクノロジーと人の強みを組み合わせる発想。これらは全て「自分の強みである事業構想と意思決定に集中し、実装や運用は信頼できるチームに任せる」というアプローチによって実現された結果だろう。

今、人材業界はAIやテクノロジーの進化により、新たな可能性が広がっている。その中で仲真氏が貫いてきた「自分の得意分野を知り、チームの力を最大限活かす」という姿勢は、シンプルでありながら、実践し続けることの難しさを誰もが知っている。次世代のShaperたちには、ぜひ仲真氏の歩みを模範とし、自らの強みを活かした新しい価値創造に挑戦してほしい。

こちらの記事は2024年12月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

大久保 崇

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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