“何でも屋”が、急成長組織の架け橋へ──CS→PMM→VPoRと進化を遂げ、ログラスの急成長を牽引する浅見氏から学ぶグロース貢献
創造性を発揮し、新しい価値を形づくろうとする人たちを“Shaper”と呼ぶ(詳しくはスローガン創業者・伊藤豊の著書『Shapers 新産業をつくる思考法』にて)。
Shaperはイノベーターやアントレプレナーに限らず、誰もがなり得る存在だ。一人ひとりがShaperとして創造性を発揮し活躍すれば、新事業や新産業が次々と生まれ、日本経済の活性化を促す原動力となるだろう。
今回は「良い景気を作ろう。」というビジョンを掲げ、企業のデジタル経営革命を支援する株式会社ログラス。2024年6月の組織改編・役員人事で事業本部長/事業執行役員VP of Revenueに就任した浅見 祐樹氏を紹介しよう。
『Loglass 経営管理』のARR成長率は前年同月比3.2倍(※2023年度)を記録、急成長、グロースしている企業として注目を浴びている。
エムスリーキャリアやLITALICOでの事業責任者の経験を持つ浅見氏は、経営課題を抱える大企業から高く評価されるカスタマーサクセスの立ち上げに貢献した。また、PMMというポジションを社内で初めて確立させるなど、組織の未来を見据えて牽引する力の持ち主だ。急成長を遂げる企業で組織を牽引する、浅見氏というShaperに今回、迫る。
- TEXT BY KANA ASHIHARA
- EDIT BY TAKASHI OKUBO
「VP of Revenue」を設置し、連続的/非連続的な成長を狙う
1990年代のバブル崩壊後、低迷を続ける日本経済。大企業の多くが意思決定のスピード感に課題を抱えており、これを一因として世界の情報化の中で遅れを取っているという指摘がなされて久しい。そんな企業課題の解決に挑むのがログラスだ。同社が提供する『Loglass 経営管理』は、企業内の散在するデータを一元管理でき、AIを活用した予実分析で迅速かつ正確な意思決定を支援するEPM製品。『Loglass 経営管理』を上手く活用すれば、柔軟で迅速、そして合理的なアジャイル経営が行えるようになる。
2024年6月、ログラスは組織改編・役員人事を発表し、浅見氏を事業本部長/事業執行役員VP of Revenueに任命した。創業以来の両利きの経営を行っていたが、グロースするために既存事業と新規事業の分離へ踏み出した。
浅見組織改編前は、経営陣すなわち代表の布川が既存事業と新規事業を担っており、一人で両利きの経営を行うような状態でした。ただ、既存事業を着実にグロースさせていきながら、新規事業を推進して連続・非連続の成長を追求する中で、後者にリソースが割けずに悩んでいたんです。
理想的なSaaSスタートアップとしての成長を実現するためには、連続・非連続の成長をしっかり両立させることが欠かせません。そのため、経営陣は既存事業についての意思決定権をほとんどすべて、現場に権限委譲することを決断しました。私が就任した事業本部長/事業執行役員VP of Revenueはレベニュー責任者を意味します。既存事業の収益に対して責任を持ち、営業やマーケティングなどの部門を統括。顧客ニーズに基づいた製品の開発に関わり売上目標の達成を目指します。
なぜ組織改編というタイミングで、浅見氏がVP of Revenueに抜擢されたのか。その理由は彼の特異なキャリアパスにある。
NPOとスタートアップ、異なる経験が育んだ“何でも屋”の価値
浅見氏は大学生時代に東日本大震災が起き、災害救援・ボランティア活動に励んでいた。その延長線でNPO職員からキャリアをスタートさせている。3,000人もの学生ボランティアに対し、職員はわずか5人。"現場に必要なことは何でもやる"という姿勢が、ここで芽吹いた。
浅見NPO職員だった頃は、学生に向けたプログラムの企画から運営まで、本当に何でも担当しました。学生の受け入れ体制を整えたり、プログラムを評価したり。一人で複数の役割をこなさないと組織が回らない環境でしたね。
いろんな役割を行き来している"何でも屋"は、事業における蝶番(ちょうつがい)の役割を果たせる。… pic.twitter.com/EO69YOdmof
— あさみゆうき|ログラス (@yukiasamin) November 20, 2024
その後、エムスリーキャリアやLITALICOと事業会社でのキャリアを重ねる。新規事業を立ち上げ、業績拡大に向けてビジネスモデルを構築する1→10、ユーザーニーズを満たすためのサービス拡充をしながら成長を加速させる10→100を経験してきた。
浅見エムスリーキャリアやLITALICOでは、売り上げが1億~3億円ほどのフェーズの事業を任されていました。プロダクトマーケットフィット後から、グロースまでを見てきたんです。事業責任者としてセールスやサービスデリバリー、マネジメントと幅広い役割を担いました。事業の数字を見ながら、現場の声も拾い上げる。そういった両面からの視点が必要でした。
一見、正反対に思えるNPOと事業会社での経験。しかし、組織の中で必要とされる役割は何でも担うという共通項があり、“何でも屋”としてのスタンスがさらに磨かれた。この経験は、SaaS企業として成長するログラスで、大きな価値を発揮することになる。
浅見SaaS企業が成長していく中で、必ず組織・役割の分断や衝突が起きます。例えば、セールスとカスタマーサクセスの連携不足で顧客体験が悪化したり、ビジネスサイドとプロダクトサイドで意見が衝突したり……。でも、私は現場もマネジメントも経験してきたからこそ、両者の目線を合わせコミュニケーションを促す役割を担おうとしてきました。“何でも屋”は、さまざまな立場の人に共感でき親密な関係を築くことができ、組織の中でつなぎ目として重要な存在になり得るのではないかと感じます。
カスタマーサクセスを立ち上げ、顧客の経営課題を解決
『Loglass 経営管理』の導入社数が特に伸び始めたのは2021年末。浅見氏は、カスタマーサクセス部門の立ち上げを牽引した。当時、社員数はわずか15名。そのうち、ビジネスサイドは代表の布川氏を含めて、わずか3名だった。
浅見プロダクトが市場にフィットし始めた段階では、『Loglass 経営管理』で顧客の課題が解決できることを理解してもらうことが大切です。お客様からの期待が大きければ、要望も増えていきます。いかに、お客様の期待に応えていくか、頑張りどころでした。
浅見氏は「要望に応えること」だけを考えていたわけではない。お客様へ提供する価値を考えていた。
浅見私が大切にしているのは「プロダクトは、受注・導入されれば良いわけでなく、お客様の中で価値が出て初めて完成していくもの」という考え方です。お客様と向き合うからこそ、さまざまな難しい課題が見えてきます。各課題の優先度や緊急度を理解してもらうため、プロダクト側のメンバーにも、お客様の生の声を届けなければなりません。そのため「要望を解説する会」の運営を務めました。
「要望を解説する会」とは毎週1時間、ビジネス側とプロダクト側が集まり、顧客の要望を深く理解する場だ。人事労務プラットフォームを提供するSmartHRが先駆的に実施していた取り組みをヒントに、ログラスでも経営管理プラットフォームならではの形にアレンジして運営。この取り組みは、全メンバーで顧客と向き合う文化を醸成していった。
浅見お客様からの要望を言語化・数値化してそのまま共有するだけでは、本当の課題は伝わらないんです。「お客様は、これだけ強く望んでいる」という温度感を伝えたくて、直接話し合う場を積極的に設計していきました。
ビジネス側は「お客様の課題をどうにか解決してあげたい」、プロダクト側は「開発は難しいけど、確かにその課題解決は重要だね」と応えてくれる。そうやって両者が歩み寄れる場所を作っていく。それが当時の私の役割でした。
プロダクトの魅力が語られるのが一般的だが、『Loglass 経営管理』の導入事例ではカスタマーサクセス伴走支援に対する満足度を語る企業が非常に多い。
たとえば浅見氏がカスタマーサクセスを担当していたKDDIスマートドローンへの支援事例では、オペレーション事業部(営業部門ではなく、サービス提供を行う間接部門)の貢献度を「調整後営業利益」として数値化する仕組みを共同開発し、経営企画部門に対して投資対効果の可視化のかたちで貢献。それだけでなく、オペレーション事業部の現場に対し、モチベーションやコスト意識の向上という貢献までもたらした。このような伴走支援が行えたのも事業責任者の経験を持ち、「プロダクトはお客様の中で価値が出て完成するもの」という信念を持っていた浅見氏だからではないだろうか。
カスタマーサクセスはこの基盤づくりが実を結び、業界水準を大きく超える顧客満足度に至っている。
初ポジションのPMMを確立、レベニュー責任者へ進化
カスタマーサクセスとして顧客と向き合う中で、業界によって抱えている課題が違うことに気づいた。
浅見例えば、ゲーム会社様では複数のプロジェクトが並行されており、各プロジェクトで切り分けて正しい経営数値を出すことに工数がかかるという悩みが多いようです。同時に、一人ひとりにどのデータまで閲覧権限を渡すのかという管理も悩ましくなります(象徴的なアカツキの事例がこちら)。
また一方で、商社様のような業態では、全国規模でさまざまな業務を担いますから、実績データだけで膨大なボリュームになる。その集計作業だけで大きな工数がかかり、分析作業が複雑という課題を抱えています(象徴的な住商メタルワン鋼管の事例がこちら)。
『Loglass 経営管理』はホリゾンタルなSaaSプロダクトのため、業種や業界を問わずに使用できます。そのため、全業界に向けて一斉にマーケティング・セールスしていくという発想になりがちなのですが、そうではなく特定の業界に価値を提供して徐々にお客様を増やしていく。それが、ログラスにとって本来あるべき姿だと思ったんです。
まずどの業界にアプローチすべきか。プロダクトをどのように見せるのか。そのための責任者が必要だと思いPMMを創設しました。
浅見氏は、ログラス初のポジションであるPMMを立ち上げるために先人の知恵を借りた。
なお、PMMを立ち上げるにあたっては、
— あさみゆうき|ログラス (@yukiasamin) May 12, 2023
SmartHR 佐々木さん @kosasaki7
freee 伊関さん @IsekiYosuke
LayerX numashiさん @numashi_Biz
Salesforce kazさん @kzkHykw1991
と多くの方にヒアリングにご協力をいただきました!
改めてこちらでお礼申し上げます https://t.co/5BY9Wl1ZFz
SmartHRのPMMコミュニティイベントに参加して立ち上げの苦悩や工夫を聞き、PMM経験者5名にヒアリングしポジションの立ち上げ方をまとめあげた。そして、社内関係者が理解できるように図に起こして同意を得た上で、PMMを創設。こうした工夫により、ログラス初のポジションを確立させた。PMMが「どの業界にプロダクトをどのように見せるのか」を決定したことで、さまざまな効果が得られたと語る。
浅見「今、向き合うべきお客様は〇〇業界です」と伝えると、営業メンバーも開発メンバーも業界について学んだり、業界の人の声を聞きに行ったりするようになりました。このような習慣ができたことは非常に大きかったですね。また、業界別のトークスクリプトを作成することができて、オペレーションを磨くことができました。
浅見氏のnote「誰も教えてくれない、新ポジションの立ち上げ方」では、新ポジションの立ち上げ方がわかりやすく解説されている。興味がある方は読んでみて欲しい。
ログラス初のポジションを先人の知恵を借りて確立する推進力、未知の領域への対応力は周囲を驚かせるものであり、事業本部長/事業執行役員VP of Revenueに任命されることへとつながっていく。
レベニュー責任者として描く、良い景気への道筋
連続的/非連続的な成長を狙い続けるために、スタートアップがグロースしていく中では、適切なタイミングで信頼できる人物に権限移譲しなければならない。先述の通り、ログラスは浅見氏を事業本部長/事業執行役員VP of Revenueに任命した。
浅見氏はレベニューの責任者として、売上目標に責任を持ち事業に向き合う。1年後のARR見通しを聞けば、即座に答えが返ってくる。
浅見ARRを着実に成長させていくために、2つの指標を重視しています。1つがパイプラインです。SaaSのモデルってファネルで動いていくので、どれだけお客様に会えていて、どれだけの期待をもらっているかを把握しています。ここの金額により、1年後のARRが見えてくるんです。
2つ目が継続率です。前年からのお客様がどれだけ現在も継続してくれているかという指標ですね。これは、シンプルにSaaSビジネスにおける成績表だなと思っています。
自分自身を成長させ続けて、組織や社会にインパクトをもたらす。原動力が必要になるものだが、浅見氏を突き動したのは、ログラスのビジョン「良い景気を作ろう。」だ。
浅見私は、自分自身を成長させて価値を提供できるようになりたいと思っていました。これは持論なのですが、「価値を提供できる=責任が持てる範囲が広がる×責任が持てる時間軸が伸びる」ことだと考えているんです。
大きな価値を提供できるようになれば、組織や社会にインパクトを与えられるようになれるので、常に半年先の自分はどうあるべきか?を意識するようにしています。
私のこれまでのキャリアで、事業本部長/事業執行役員VP of Revenueに就任して、100人以上のマネジメントをするのは未知の領域。「何をすればよいかわからない」「何がわかっていないのかわからない」みたいな状態に陥るとパニックになり組織も自身も成長が止まるため、常に1歩先を見るように意識していますね。そして、先人の知恵を借りて、コンフォートゾーンを広げるというのを意識しています。
「良い景気を作ろう。」というビジョンに共感できてログラスに入社を決めたので、組織や社会にインパクトを与えられるように成長していきたいです。
カスタマーサクセスからPMM、そしてVP of Revenue。“何でも屋”として培った経験を武器に、浅見氏の挑戦は続く。日本企業の意思決定スピードを変え、良い景気を作る──。その壮大なミッションの実現に向けて新たな一歩を踏み出している。
こちらの記事は2025年01月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。