連載事業成長を生むShaperたち

「デジタル名刺」を超え、営業の常識を覆す──プレーリーカード坂木氏が仕掛けるビジネスプロセス革命

インタビュイー
坂木 茜音
  • 株式会社スタジオプレーリー 共同代表 

クリエイティブディレクターやアーティスト、シェアハウスの管理人という肩書きを持ちながらプレーリーカードのサービスを開始。伝統工芸・アート・建築のバックグラウンドをもつ。

創造性を発揮し、新しい価値を形づくろうとする人たちを"Shaper"と呼ぶ(詳しくはスローガン創業者・伊藤豊の著書『Shapers 新産業をつくる思考法』にて)。

Shaperはイノベーターやアントレプレナーに限らず、誰もがなり得る存在だ。一人ひとりがShaperとして創造性を発揮し活躍すれば、新事業や新産業が次々と生まれ、日本経済の活性化を促す原動力となるだろう。

連載企画「事業成長を生むShaperたち」では、現在スタートアップで躍動するShaperたちにスポットライトを当て、その実像に迫っていく。今回は「『出会えてよかった』があふれる世界をつくる」というビジョンを掲げ、デジタル名刺プラットフォーム『プレーリーカード』を展開する株式会社スタジオプレーリーの共同代表、坂木茜音氏だ。

クリエイティブディレクター、アーティスト、シェアハウスの管理人という多彩な顔を持つ坂木氏。伝統工芸・アート・建築のバックグラウンドを活かしながら、ビジネスの世界に革新を起こそうとしている。その独自の視座と戦略から、新たなビジネスの潮流を生み出そうとするShaperの挑戦に迫る。

  • TEXT BY TAKASHI OKUBO
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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「またデジタル名刺?」ではない。
セールス活動をDXする商談プラットフォームだ

提供:株式会社スタジオプレーリー

デジタル名刺のプレーリーカード──。この一言で説明すると、多くの人は「最近増えてきたデジタル名刺サービスの一つか」「クリエイターや個人向けのツールだろう」と受け止めがちだ。プロダクトの存在を知っている読者も、そのようなイメージを持ってはいないだろうか。

しかし、その認識は大きく変わりつつある。2022年9月のベータ版リリース、2023年2月の正式ローンチしたプレーリーカードは、わずか半年で交換回数(プレーリーカードの情報を読み取った回数)が10万回を超えるなど急速な進化を遂げてきた。正式にサービスを開始した直後から、“毎日”500回以上使われていたということになる。その背景には、綿密な戦略があった。

坂木正式ローンチ前のベータ版の段階から、たくさんの方が応援してくださいました。共同代表の私と片山は、戦略的にエンジニア向けのイベント、スタートアップのCxOが集まる場、社会起業家のコミュニティなど、特定のジャンルに絞ってアプローチしてきました。

各業界のイノベーターやアーリーアダプターに直接働きかけ、「これはいいプロダクトだ」と感じてもらえれば、そこからコミュニティ内で自然と広がっていく。プレーリーカードは使えば使うほど、ユーザー自身がPRしてくれるサービスなんです。

口コミで広がり、SNSでの盛り上がりも手伝って、個人向けサービスとして確かな一歩を踏み出したプレーリーカード。

そこから法人向けサービスへと展開していく中で、ある事例が転機となった。島根県の海士町(あまちょう)との取り組みだ。

坂木海士町と連携協定を結び、島民同士の関係性や、島外の関係人口とのコミュニケーションツールとしてプレーリーカードを活用しました。例えば、アンバサダー制度を通じて、自分の好きな街や地域の魅力を広めること。これは単なる名刺交換ツールではなく、コミュニティ形成や情報共有のプラットフォームとしての可能性を示しています。

「取り組みの構造図」出所:「デジタル名刺がファンづくりに寄与。地方創生のトップランナー、海士町が行う「出会いのDX」の仕組みとは

こうした事例は、プレーリーカードの本質が単なるデジタルツールではないことを示している。では、その本質とは何か。

坂木プレーリーカードの本質は、ビジネスコミュニケーションを一気通貫で実現するプラットフォームだということです。

紙の名刺やこれまでのデジタル名刺では、名前、肩書き、会社名、住所、電話番号、メールアドレスといった基本情報の交換が主目的でした。しかし、プレーリーカードはビジネスの入り口から成約までをシームレスにつなぎます。

個人のバックグラウンドとなる出身地や趣味を通じた信頼関係の構築から、会社やサービスの背景、営業資料や説明動画の共有、その場での日程調整まで。「商談を成立させるために必要なプロセスを、すべて一つのプラットフォームで完結できる」。それがプレーリーカードの真価です。

このプラットフォームとしての価値は、わずか1年半で具体的な実績となって表れている。大手生命保険会社や国内有数のIT企業など、法人契約数は数十社を超え、全体での交換回数は50万回を突破。

特筆すべきは、Google Analyticsのデータによると、「デジタル名刺」という検索キーワードよりも『プレーリーカード』というブランド名での検索数の方が多くなっている点だ。これは、プレーリーカードが単なるデジタル名刺としてではなく、商談プラットフォームという新しいカテゴリーの先駆者として認知されつつあることを示している。従来の名刺管理の概念を超え、独自のポジションを確立しているのだ。

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「鉄は熱いうちに打て」。
商談獲得率を5~6倍にするボーナスタイム

なぜプレーリーカードはローンチからわずか1年半で50万回の交換数を達成し、デジタル名刺という言葉以上にプレーリーカードというブランド名での検索数が上回るまでに成長できたのか。その理由を紐解く上で特に注目すべきは、プレーリーカードが商談までのビジネスプロセスをショートカットする強力なツールとして企業に認知され始めていることだ。

通常の名刺交換では、相手の連絡先を入手してから実際にアポイントを取るまでに複数のステップが必要となることが多い。メールを送り、相手の返信を待ち、日程を調整する。この過程で時間が経過し、初回の出会いの際の熱量が下がってしまうことも少なくない。

プレーリーカードはこの課題を巧みに解決している。デジタル名刺の画面上に日程調整ツールを組み込むことで、その場でスムーズにアポイントメントを設定できるのだ。名刺交換から商談設定までのプロセスを大幅に短縮できるため、機会損失を回避できる。

提供:株式会社スタジオプレーリー

この「シームレスな体験」が、ビジネスの現場で驚異的な成果を生んでいる。実際、ある企業は展示会における商談獲得率が6倍に跳ね上がり、ある飲食店では公式LINEの登録数が5倍になったという事例もある。

坂木商談を獲得するタイミングとしては、挨拶して自己紹介をした直後が最も熱い。その瞬間に「ここから日程調整できます」というご案内があると、その場でアポイントをいただける可能性が高くなります。

こうした結果をもたらしている一方、よく「QRコードと何が違うのか?」と聞かれることがあるそうだ。だが、プレーリーカードの場合、相手にカメラを起動してもらって読み取ってもらう必要はない。

坂木QRコードの場合、カメラを起動して読み取る必要があります。その一手間が、実は大きな障壁になっているんです。プレーリーカードは、カメラを起動する必要もなく、画面をタップするだけで営業資料の共有から日程調整まで完結できます。

展示会でよくある「資料を後ほど送付します」という会話が、「今すぐ資料をご確認いただき、その場でアポイントも設定できます」というアクションに変わる。この「興味が最も高い瞬間にその場で次のステップに進める」体験が、成果の大きな差を生み出しています。

提供:株式会社スタジオプレーリー

この「一気通貫」の仕組みは、特に展示会やイベントなど、限られた時間で多くの商談機会を創出しなければならない場面で真価を発揮する。営業資料や説明動画を即座に共有できることで、その場での商談の質も向上。相手の反応を見ながら、適切な情報を柔軟に提供できるのだ。

商談獲得は、顧客が最も興味を持っているタイミングでアプローチできることが重要なのは言うまでもないだろう。プレーリーカードは、その最もホットなタイミングを逃さないために活用できる武器になる。

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大手企業も続々導入。
デジタル名刺はセールス組織をも変革

さらに、プレーリーカードは大規模な営業組織においても活用できる。その代表的な事例が、ある大手生命保険会社での取り組みだ。保険業界は、商品の差別化が難しく、営業担当者の人間性や信頼性が重要な業界として知られる。

坂木保険商品は目に見えず、差別化が困難です。だからこそ、営業担当者への信頼が成約の決め手となります。

こうした業界特性を踏まえ、この保険会社では数百名規模の営業チームにプレーリーカードを導入。法人向けプランで提供される管理画面を活用し、組織的な営業改革を推進している。

坂木管理画面では、営業担当者一人一人のプロフィールページを一括で更新できます。例えば、展示会用の営業資料を更新したり、次回イベントの集客情報を追加したりすることが可能です。これにより、常にベストな状態のプロフィールページで商談に臨めるんです。

具体的には、営業担当者の個人的なバックグラウンド情報と、最新の営業資料や商品説明動画を組み合わせて提示。顧客との信頼関係構築と、効率的な商品説明を両立させている。

坂木保険の営業担当者は、お客様との信頼関係づくりに多くの時間を費やします。出身地や趣味、価値観など、人となりを知っていただくことが重要なんです。プレーリーカードは、そういった個人の背景情報と、営業資料や商品説明といったビジネス情報を、バランスよく伝えることができます。

この取り組みは、業界内で大きな注目を集めている。別の大手保険会社や、顧客とのコミュニケーション方法に関心の高く、営業に力をいれている大手企業など、何社もトライアル中だという。坂木氏も今後の伸び代に期待する。

坂木保険業界に限らず、営業担当者の個性や人間性が重要な業界や、顧客とFacebookやLINEなどでコミュニケーションを行う業界では、プレーリーカードの効果が特に高いと感じています。例えば、高額商材を扱う業界や、コンサルティング営業が求められる業界など。実際、そういった業界の大手企業複数社で試験導入が進んでいます。

私たちが提供しているのは、単なるデジタル名刺ツールではありません。営業組織のDXを加速させ、組織全体の営業生産性を向上させるプラットフォームです。例えば、数百名規模の営業チームでも、管理画面から全営業担当者の営業資料を一括更新でき、商談の進捗状況もリアルタイムで把握できます。さらに、各営業担当者の商談獲得数や接触回数などの可視化により、組織としての営業活動を最適化できる。これまでの「個人の営業力」に依存した営業スタイルから、「組織的な営業力」の向上を実現するツールなんです。

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紙名刺の歴史、160年。
ここに進化をもたらす挑戦者が、プレーリーカード

日本企業の9割以上が未だに紙の名刺を使用している現状。年間約100億枚もの紙名刺が消費されているという。この数字の裏には、驚くべき非効率が潜んでいる。さらに、役職や部署が変わるたびに名刺を刷り直す必要がある。情報の更新性という観点からも、現状の紙名刺文化には大きな課題が残されているのだ。

坂木現在のビジネスシーンでは、デジタルで作成した情報を紙に印刷し、それを受け取った側が再びデジタル化するというプロセスが一般的です。日本企業の9割以上が未だに紙の名刺を使用し、年間約100億枚もの名刺が消費されている現状を見ると、まだまだDXの余地は大きいと感じています。

紙名刺は160年もの間、ほとんど形を変えていないんです。スマートフォンやパソコンの歴史と比べると、その「変わらなさ」は驚くべきものです。でも、それは裏を返せば、それだけ人々の中に深く根付いた文化だということ。その文化の良いところを残しながら、変えるべき部分を変えていく。それが私たちの挑戦です。

その挑戦は、ビジネスツールの開発という枠を超えて、新しいコミュニケーション文化の創造へと向かっている。プレーリーカードが生み出す可能性について、坂木氏は次のように熱を込めて語る。

坂木世の中には、毎日どこかでなんらかの出会いが生まれています。その中の一つでも多くにプレーリーカードが介在し、「あの時、プレーリーカードで出会って、こんな話をして、今こうなっているんだ」という会話が増えていけば嬉しいですね。単なる連絡先の交換ではなく、その後の関係性まで豊かにしていく。そんなコミュニケーションプラットフォームを目指しています。

取材を通じて印象的だったのは、坂木氏がビジネスの変革者でありながら、常にユーザー目線でサービスを進化させている点だ。「みんながPRしたくなるサービスを作りたい」という思いから、自らが率先してコミュニティに飛び込み、ユーザーの声に耳を傾け続けてきた。そして、得られたフィードバックを素直に受け止め、時にはサービスの方向性を大きく転換することも厭わない。

坂木最初は個人向けのデジタル名刺というシンプルな発想から始まりましたが、ユーザーの皆さんとの対話を重ねる中で、より大きな可能性が見えてきました。プレーリーカードは、ビジネスの“出会い”をより価値のある“機会”へと変えていけるツールなんです。

坂木氏の言葉からは、ユーザーとの共創を通じて事業の可能性を広げていく、真のShaperとしての姿勢が感じられる。既存の商習慣に安住せず、かといって一方的な変革を押し付けるのでもなく、利用者との対話を通じてより良いビジネスコミュニケーションの形を模索し続ける。その姿勢こそが、新しい事業を生み出し、成長させていく原動力となっているのだ。

こちらの記事は2024年11月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

大久保 崇

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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