ご自身のバイブルとなっているような、何度も読み返す書籍はありますか?
「UX戦略」という書籍は創業期にすごく読んでいました。C向けの内容が多いのですが、競合調査の方法やプロダクト・バリューの置き方、ユーザーインタビューの方法などが書かれており、とても参考になる一冊でした。実は初期のコミュニティ運営の戦略も、この本から影響を受けている部分があります。
布川 友也氏の回答
プロダクト開発や事業づくりにおける「失敗」を教えてください。また、その経験から得られた学び、もしくは今だったらどう回避するかなども教えていただけると幸いです。
お話できるものとしては2つあり、1つ目はハードワークのしすぎで心と体を崩してしまいそうになったことですね。創業期は会社に寝泊りしていましたし、もちろん結果的にこの時期の頑張りがログラスの成長に寄与している部分は大いにあると思いますが、このような話は生存者バイアスな側面もありますし、あまり美談的に語るのは良くないなと感じています。スタートアップは短期勝負だけでなく、長期的に良いアウトプットを生み出す考え方も持つ事が重要だと学びました。回避する方法は特にないので、ハードワークで走りながら、キツイ時は休むことも戦略の1つだと理解することが大事かなと思います。
2つ目はプロダクトづくりにおいて、リリースが遅れてお客様にご迷惑をお掛けしてしまったことがありました。原因は最初の方は多くの機能を全部つくろうとしたからなのですが、開発要件を小さく切ることの重要性や、優先順位の大切さを痛感しました。これは簡単に回避することが可能なものだと思っています。とにかくお客様のBurning Needsにひたすら絞り込んで、不要なものは開発しないことです。これこそがスタートアップの強みであり、逆に言えばこれができなければスタートアップは失敗します。
布川 友也氏の回答
事業アイデアや構想が「イケる」と思った瞬間はいつですか?
前提として、私の中で「イケる」というラインが5段階に分かれています。時価総額はあくまで株式価値という1つの指標ですが、今回は簡便化して時価総額で表現します。
- 時価総額1兆円を超える企業になれる(国内トップ100クラス)
- freeeやラクスさん等の、時価総額3,000億円を超える、成長性の高い企業になれる
- 時価総額1,000億円を超える、ユニコーン企業になれる
- M&AでExitできる価値のある企業になれる
- 何者にもなれない
そしてこの一番下の「何者にもなれない」をようやく脱したのが、ここ2ヶ月くらいの話です(笑)。とある商社系の会社様にご導入いただいたことがきっかけでした。もともと投資家の方からも言われており、自分でも一つの壁だなと思っていたことが、経営管理業務におけるペインにお金を払う企業が国内にどれだけいるのか、ということ。しっかりと数字を扱い、さらに、報告をしなければいけないという経営環境でなければ使ってくれないのではないかと。ここの課題がクリアではなかったのですが、その商社系企業にご導入いただいたことで、「同じような課題を持たれている会社様にあと100社ご導入頂けたら少なくとも上場はできるな」と明確になりました。
布川 友也氏の回答
いまのマーケットを選定した理由は何ですか?
大きく3つ理由があります。「自分に専門性があり、特筆して熱量を注げる」「既存のマーケットに大きな資金を投下できるプレイヤーがいない」、そして「マーケットにモメンタムがある」という3つです。
前職のGameWithはおよそ4年で上場したのですが、代表の今泉さんがひたすら「自分が得意な領域、かつ圧倒的に伸びるマーケットに張ること」の重要性を説いていました。すでにTAMが大きい領域では資金勝負になってしまうので、今はニッチだけど将来伸びる可能性がある市場にかけることがスタートアップの肝だと考えています。
経営管理というマーケットに関しては、私自身が投資銀行や経営企画の業務を通じて理解してきた得意領域であり、リアルなペインへの理解もありました。また競合は存在するものの、この市場に大型の資金を投下したり、圧倒的な資金調達を行うようなプレイヤーは少ないとリサーチで認識しており、マーケット自体の成長性に関しても、SaaSのモメンタムから市場の伸びは間違いないと確信できていました。海外の事例を見ても、競合であるアメリカのAnaplanが2018年に上場をしていることから、正しくやれば勝てると感じ、このマーケットを選びました。
布川 友也氏の回答
Githubのワークフローを参考にしているとのことですが、逆になぜこれまで属人化されていたのでしょうか?また、なぜログラスはここに入り込むことができたのでしょうか。
属人化していた原因は、管理会計自体の特性にあります。管理会計はそもそも明確なルールが定まっておらず、各企業が最終的には同じようなものを生み出しているにも関わらず、オリジナルのテーブルを組んでおり、さらにそれを自由に運用できてしまうエクセルという存在が属人化を生んでしまっていました。実は20年近く前から同じようなソリューションをオンプレミス型で提供しているサービスはあったものの、このタイミングでログラスが展開できたのには3つの理由があります。
1点目は、BtoB SaaSに優秀なエンジニアがジョインしてくれるようになったこと。ほんの5年前までは、優秀なエンジニアはC向けサービスにいくことが一般的でしたが、SaaSのエンタープライズ化が進む中で、セキュリティやパフォーマンス面でより高度なエンジニアリングが求められるようになり、彼らにとって魅力的な働き口になってきています。
次に重要なのが、マーケットのモメンタムです。大手企業も積極的にSaaSを導入していこうという機運が高まっていますよね。例えば5年前だったらまだタイミングとしては早かったのですが、今ではDXがバズワード化していることからもわかるように、企業規模問わず経営管理を改善できるタイミングであると感じています。
最後は、先駆者たちの存在です。具体的には、GoogleやMicrosoftなどが展開するクラウドグループウェアが大手企業にも導入されるようになり、さらに浸透してきていることが大きな要因の一つです。予算情報をはじめとするインサイダー情報を他社へ渡すのは、セキュリティが担保されているとはいえ大手企業からすると怖いはず。しかし、すでに社内でクラウドの導入事例があると意外と抵抗なくLoglassも導入してくれると感じています。
布川 友也氏の回答
初期から経営企画のコミュニティをつくっていたように記憶しているのですが、どのような目的・意図で運営していたのでしょうか?
実は、もともとは半分趣味のような形で始めました。ビジネス的な意図を強く持っていたわけではなく、横の繋がりが欲しいなと。当時からCFOのコミュニティはいくつかありましたが、経営企画とCFOを横断したものはまったくありませんでした。なので、結果的に事業にも良い影響があったという方が適切かもしれません。
具体的には3つメリットがあり、1つ目は「同じペインを持った母集団の獲得」です。もともとは私自身もですが、参加してくれる皆さんが横の繋がりをつくれたら良いなと思っていたものが、皆さん同じような業務に従事されていて同じようなペインを持っているので、気付いたらヒアリング先のユーザープールのようになっていたんです。さらにコミュニティ内での口コミをはじめ、擬似的にネットワークエフェクトが生まれているという利点もあります。
2つ目は、「ナレッジシェア」です。これは直接的に自社の事業にインパクトのあるものではないですが、これまでクローズドだった情報やノウハウが共有されることで、日本の経営企画全体が底上げされる。さらにコミュニティ内で転職先が決まるという事例が起こるなど、基盤自体のレベルアップに貢献できていると感じています。
最後は、「応援」ですね。コミュニティの皆さんが応援してくれるので、自分たちのやっていることをより強く信じられています。また、目の前にターゲットとなる方々、つまりペルソナがいることは力強い支えになります。