大塚 雄介
コインチェック株式会社
共同創業者/執行役員早稲田大学大学院修了、物理学修士号取得。株式会社ネクスウェイを経てレジュプレス株式会社(現:コインチェック株式会社)に参画。2014年2月に取締役に就任。2018年4月に執行役員に就任し、マーケティング・事業開発などを統括。現在は、バーチャル株主総会支援のSaaS事業を統括するほか、2022年1月に立ち上げたWeb3時代を牽引するスタートアップを支援する「Coincheck Labs」に従事し、当社におけるWeb3領域への投資活動や啓蒙をリードしている。
起業家・経営者として視座を上げるという観点でオススメの書籍はありますか?
私はソニーの盛田 昭夫さんを尊敬しているので、「盛田昭夫学校」と「MADE IN JAPAN」をオススメしています。もう最初から視座が違いますよね。よくあるのは「時価総額1,000億円を目指す!」や「上場目指します」などだと思いますが、彼の場合、最初からニューヨーク証券取引所での上場を狙っていますから。普通そんなことできないし、考えもしないですよね(笑)。彼のエピソードを聞いていると、自分の悩みや問題はまだまだ小さいなと感じられます。
大塚 雄介氏の回答
創業オーナーとしての経営と、M&A後の経営では、大きな違いがあると思いますが、何にもっとも「差」を感じましたか?またM&A後に、新たに成長実感のあったエピソードや良かったことなどあれば知りたいです。
やはりガバナンスの大切さを実感しています。スタートアップだと特に創業オーナーとの相性で決めたりするシーンも多いかもしれないですし、阿吽の呼吸で社内コミュニケーションを済ませることもあると思います。
そのやり方も否定しないですし、私もその方法は好きです(笑)。ですが、本当の意味で成長し続ける会社は、ガバナンス経営にしっかり取り組んでいるので、この点に関して視座が上がったのは一人の経営者として良かったと思っています。
執行役が執行し、取締役は報告を受けて取り締まるという構造は、昔は「成長スピードを遅延させる要因になる」と思っていたのですが、これはこれでやりたいことが言語化され、迷いなくクリアな意思決定ができるという利点もあると気付けました。また、このようなプロセスを経るとスピードが落ちてしまうものですが、逆に言うと、スピードを落とさず仕組みをつくることこそ経営者の仕事なのかなと思っています。
大塚 雄介氏の回答
M&A後に買主と上手く付き合うために大塚さんのポジションで意識されたこと、行動されたことでうまくはまったもの、逆効果だと思ったものなどありましたら伺いたいです。
No.2として意識されていることはありますか?
現在、COOのようないわゆるNo.2という役職ではないのですが、「トップの最大のフォロワーであること」と「いつでもトップになれるよう準備すること」の2つは常に意識しています。社長と現場では、得られる情報量と考えている時間軸も視座も違うことが多々あり、どうしても乖離が生じます。その時に、トップのフォロワーとして、まずは自分がしっかりアクションを取ることが事業成長において重要だと考えています。
もちろん意思決定の際にはトップをはじめいろいろなメンバーで議論はします。しかし、最終的にトップが行った意思決定後は最大のフォロワーとして最短で最大の結果を出す努力をしています。その姿勢が組織を1つの方向に導くと考えています。
また、いつでも社長に変わって判断できるよう準備していることも大事です。常に自分だったらどうするか考え、意見を持っておく。No.2自身が「社長としての意思決定」を意識することで、ボトムラインが引き上げられると思っています。
大塚 雄介氏の回答
事業をつくるにあたって、企業分析や過去の事例をリサーチすることは意味ありますか?この世にないものを生み出すゼロイチだと意味がないのではないかと思っています。
これまで立ち上げられた3つの事業は、どれも時流を読み、タイミングよく社会に求められるサービスをつくられているように思うのですが、どのように事業アイデアを考えているのでしょうか?
コロナという大きな変化要因によって、人々の価値観はどう変わり、市場やビジネス環境はどのようになっていくと考えますか?もしくは貴社においてコロナ前後で変わったこと・変わらなかったことがあれば教えていただけますと幸いです。
変化することと不変なところを見極めることはもちろん大事ですが、むしろ「コロナだから」と悲観する必要はないと思っています。そもそもマーケット環境はコロナに関係なく常日頃から変化するものなので、あくまで一つの要因として捉えています。何より、暗号資産のボラティリティを経験しているので、あまり動じなくなりました(笑)。
一方で、コロナによって商習慣や生活が変化し、一気にデジタル化が進みました。コインチェックもこれまでは直接会って話しながら業務した方が効率が良く、いいサービスが作れると考えていたので、原則出社で業務することにこだわっていました。しかし、いざリモート体制に移行してみると、案外変わらないということがわかりました。もちろん、業務を円滑にするための工夫やコミュニケーションを増やすための施策もいろいろ実施していますが、元々Slackでオープンにコミュニケーションをする文化が定着していたこともあり大きなトラブルは今のところ上がってきていません。
コインチェックでは、コロナウイルスの感染拡大をきっかけに「Sharely」を開始しましたが、そのほかにも新規事業を複数立ち上げており、原則オフィスに出社でなくても問題ないなと実感しています。
大塚 雄介氏の回答
事業案/タネを思いついた時に、一旦検証してみようと思うアイデアの条件と検証してこれはいけるんじゃないかと実装を考える条件を具体的に伺いたいです(例えば現在のメインで取り組まれている事業の場合)
私たちの場合は、実際に小さく事業やプロダクトを作りながら検証していくスタイルが多いです。実際にやってみないとわからないことが多いのはもちろんですが、新しいサービスを生み出す場合、いち早く参入したほうが先行者利益を得やすい場合が多いためです。
もちろん、検証する際にマーケットの大きさなども見ます。その上で、あくまで自分の仮説は2割しか当たっていないという前提で、残り8割の間違いの解像度を実際に手を動かしながら3ヶ月程度かけて7割ほどまで高めていくイメージですね。よく言っているのが、この3ヶ月間は「竹槍だけで戦う」気持ちで、何も武器を持たず泥臭くやり続けることです。ポールグレアムが言うところの「スケールしないことをやれ」ですね。
また、これだけは間違えないようにと気をつけているのが、「ニーズがありそうだけど実は全くない領域」に進まないこと。事業成功においてはタイミングが重要とお伝えしましたが、ただトレンドになっているバズワード起点で事業を考えると、誰も求めていないプロダクトを生み出してしまいます。
先日正式リリースをしたバーチャル株主総会支援サービス「Sharely」がまさにそうだったのですが、6月頭にアイディアが出てきてから、プロダクト開発しながらいろいろな企業にヒアリングしそれをサービスに反映させ、約3ヶ月でサービスの正式提供を開始しました。最初の3ヶ月はスピーディーに動くことをが重要なので、3人という最小チームを組成してスタートさせました。