渡邉 一治
株式会社ネットプロテクションズ
執行役員CFO公認会計士。朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)に入社、上場会社の監査やIPO支援に従事。監査部門従事の後、朝日監査法人の提携先であるアーサーアンダーセン・ニューヨーク事務所コンサルティング部門を経て、日本にてコンサルティング会社㈱朝日アーサーアンダーセンのスタートアップに関わり600名超の体制に。JSOXにより監査部門とコンサルティング部門の分離が求められることを契機に、事業会社に転出。半導体製造装置メーカーの㈱ディスコで経営戦略グループリーダー、家庭用ゲームメーカーのスクウェア・エニックス・ホールディングスのCFO(最高財務責任者)を歴任後、2020年7月に株式会社ネットプロテクションズに入社。
ご自身のバイブルとなっているような、何度も読み返す書籍はありますか?
スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」です。
この本は1996年初版で、私はコンサル時代にこの本が出されてすぐに手に取りました。
成長するためには、まずは自己を確立し、次に相手と関係を築き、常に刃を研ぐという考え方は、他のご質問で回答した私の座右の銘3点セットと本質的に同じです。
アンダーセンの日本法人の社長が当時ご子息との関係に悩まれていたので、この書籍を薦めたところいたく感動し、全社員に社費で一人一冊配布されました。また、その後入社したディスコでは社員教育の副読本として社員全員が保有し、ネットプロテクションズでも新卒教育の副読本として活用されていました。私の入社前からディスコ、ネットプロテクションズでは「7つの習慣」が採用されていたのですが、これらは決して偶然ではなく、私のポリシーと私が選んだ会社のポリシーが合致していた証左だと思っています。
私も何回か読み返していますが、その時その時の自分が置かれている状況により、心に刺さる場所が変わりヒントをもらいます。良い書籍とはそういうものだと思います。
渡邉 一治氏の回答
経営者としての哲学を教えてください。
私の座右の銘は、「Think straight, Talk straight」、「誰が正しいかではなく何が正しいか」、そして「Respect」です。3つになってしまいますが、これで1セットです。
「Think straight, ・・・」は私が所属していたアーサーアンダーセン、「誰が正しいかではなく・・・」は同じくディスコの経営理念を表わす言葉の一つです。いずれも、相手が誰であろうと正しいと思ったことは勇気を持って伝えていこうという姿勢を表した言葉です。
「Respect」は、これに私が付け加えてセットとしたものです。摩擦を恐れず発言をすると、望まない軋轢が生じることがあります。それを避けるためには、発言者も発言を聞く者も相手を「Respect」する気持ちを持つことが大事です。また、その前提として、「Respect」されるような人間になることも大事だと思います。
お互い自己研鑽して高め合い、相手を尊重しながらも言うべきことを言って、ただの「言い争い」、「喧嘩」ではなく「議論」をする、議論により内容が高まり、議論が終わったら相手への尊敬の念が更に深まる。こんな美しい関係を、社内、社外とも築いていきたいですね。
渡邉 一治氏の回答
経営者として活躍するために必要なことはなんでしょうか?それらはどのように身に付けられるのでしょうか。
こちらのご質問に回答したものと重複しますが、知的好奇心を持つこと、研鑽を継続すること、そして常にチャレンジすることの3つです。その中でも、やはり一番大切なのは知的好奇心を持つこと。日々の業務をただ「こなす」のではなく、その目的や上流から考える癖をつける。自分の考えを持ち、いま目の前にある仕事のひとつ上の仕事をすることが大事です。
例えば、メンバーの「これどうしたらいいですか?」という質問に私は答えません。なぜなら答えを教えても成長できないから。自らその仕事の目的を考え、仮説を持って提案する姿勢がなければ、いつまでも仕事を「こなす」だけになってしまいます。
渡邉 一治氏の回答
将来起業や経営者を目指す20代にアドバイスをするなら、どんなキャリアをおすすめしますか?
若いうちに起業するとか、会社内で着実に階段を上っていくとか、キャリアパスは様々だと思います。私は、ほぼ10年ごとに会社や業種を変えて現在に至っていますので、その経験に基づいたアドバイスをさせていただきます。
私の経験の中で申し上げると、まず必要だと思うのは知的好奇心を持つこと。与えられた日々の業務を目的意識なく「こなす」だけでは、成長は望めません。その業務の本来的な目的は何なのかを考え、今のやり方はそれでよいのか、他によいやり方があるのではないかと常に考えることが日々の成長につながります。
次に、研鑽を継続すること。業務で未知のテーマが出てくることがあると思いますが、私はそのたびに集中してそのテーマを勉強し、マスターしていくことを心がけてきました。関連する書籍を短期間で5冊くらい読み漁り、実務を併せて行うと、そのテーマの要諦が理解できて「黒帯」レベルに達することができます。「π型」人材とよく言われますが、この「黒帯」レベルでマスターしたテーマがπ型の縦坑にあたります。縦坑の数が増えてくると、それまで別々のものであった縦坑の本質は同じであるということにある日突然気づき、縦坑が全部一気に音を立てて横につながって、全体として大きな1つの縦坑になる時が来ます。会計学、ファイナンス理論、経営学、組織論、そして文学、歴史、スポーツ理論も繋がっていると実感できると経営者としての幅が広がると思います。
そして、常にチャレンジすること。私は監査法人からキャリアをスタートして、コンサルティング会社のパートナー、半導体製造装置メーカーの経営戦略グループリーダー、ゲーム会社のCFOを経て、現在は後払い決済会社のCFOを勤めています。事業内容も異なれば社風も異なり大変だったでしょうと言われますが、私はそれにより新しいことに出会えるので常に楽しかったです。大小色々な失敗も経験しましたが、その経験が次のチャレンジに活きています。若い皆さんには、色々なことにチャレンジし、そして失敗を経験してもらいたいと思います。
渡邉 一治氏の回答
今の会社に参画(もしくは共同創業)された後、一番はじめに取り組んだことは何ですか?
入社して一番はじめに行ったのは「旅」です。すぐに実務にあたりたくなるものですが、代表の柴田は「仕事はいいから、まずは旅をしてきてください」と提案してきたのです(笑)。というのも、これはNP後払い、NP掛け払い、そしてatoneの主要事業3部署を回る「旅」でした。
CFOとしてネットプロテクションズに入社したので、最も関係の深い部署は財務経理グループになります。 しかし、入社してはじめに取り組んだのは、1か月かけて各事業を回り、主要会議に出席し、事業について教えてもらったり議論をすること。いま振り返ると、この1ヶ月で事業に対する理解を深めることができました。
「事業を数字で見る」ためには、事業自体の理解が不可欠です。 数字に触る前に事業を理解する機会が得られたというのは、その後の私の業務に非常に活きています。数字が何を表わしているかを考える時に事業の全体像を思い浮かべることができますので、「群盲象を評す」ということが避けられます。
また、この「旅」では私を囲んでの「座談会」が複数回開催され、各部署のカタリストから新卒1年目のメンバーまでプライベートを含めてお互いを知ることができたので、その後の円滑なコミュニケーションに大変役に立ちました。ネットプロテクションズでは、ファーストネームや愛称でお互いを呼び合う風習があり、私も役員から新卒1年目まで皆さんから「一治さん」と呼ばれています。
実は、この「旅」は私だけの特別待遇ではなく、ネットプロテクションズの中途入社者には基本的に行われるものであり、非常によい仕組みだと思います。一方で、通常は中途入社の人材はすぐにでも即戦力として活躍してもらいたいので、1ヶ月も2ヶ月も実務にあたらないというのは経営者としては歯痒い気持ちもあるはず。このような文化を根付かせるのには、経営者として相当な胆力が必要ですね。
渡邉 一治氏の回答
今の会社に参画(もしくは共同創業)された「決め手」はなんですか?また、良い会社・伸びる会社の見極め方を教えてください
まず良い会社・伸びる会社の条件として、以前も取材記事にてお話しした「有望市場のトップシェアを取っている事業の強さ」と「経営理念の浸透した組織」という2点は非常に大事です。そして私がネットプロテクションズを選んだのは、上記の2つに加えて、「企業規模が大きすぎない」という3点が揃ったから。
エグゼクティブサーチ会社からは、ビジネスマンなら誰でも名前を知っているような、魅力的な会社をご紹介いただきました。いずれも東証一部上場でグローバルに事業展開をしている精密機器メーカー、電気機器メーカー、大手小売業等などです。 内定をいただいた会社もありましたが、それでも最終的にはネットプロテクションズを選択しました。
理由の1つ目は、ネットプロテクションズの事業自体の将来性です。主力事業であるNP後払いは、クレジットカードと比較すれば決済手段としてはニッチですが、そこでのトップシェアを持っています。EC市場が主戦場となりますが、日本ではまだまだリアル取引の割合が大きいので、逆にEC市場が今後間違いなく伸びていく、NP後払いはEC市場と共に伸びていくと思いました。実際にNP後払いの伸び率はEC市場の伸び率を上回っていることを面接で聞き、その思いが確信に変わりました。
2つ目の「組織文化」は、何よりも大事です。企業理念をはっきりと打ち出し、それが名目だけではなく全社員に浸透し、社員の日頃の行動指針になっている会社。企業理念が浸透していれば、前線に権限移譲しても正しい判断ができます。いちいち上司や経営陣に伺いを立てなくてもよいので、機動性も向上します。ネットプロテクションズは、Mission、Vision、Valueが浸透し、ティール組織により権限移譲していますので、まさにこれに合致しました。
また、転職先を選ぶにあたって、企業規模が大きすぎないことを条件としていました。数万人規模の大企業やコングロマリット企業で働く醍醐味もあると思いますが、事業の全体像が見えづらくなる傾向があると感じています。ネットプロテクションズの200人規模ですと、キーマンの顔も見え、自分の判断が経営にダイレクトに伝わります。私は経営への手触り感を大切にしたいと思っているので、この条件を重視していました。