データ化して淹れるコーヒー?
Google出身者のカフェ「Alpha Beta Coffee Club」
東京・自由が丘の「Alpha Beta Coffee Club(アルファ・ベータ・コーヒー・クラブ)」は、Googleの元マーケターである大塚ケビンがオープンさせた異色のコーヒーショップ。
月額9000円でのドリンクのサブスクリプションサービスが有名だが、他にもドリップの過程などにIT的な発想を持ち込む斬新さで注目されている。
大塚に、飲食×ITの可能性について聞いた。
- TEXT BY MISA HARADA
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
ドリップの過程をすべて数値・システム化
大塚は、Googleにてアジア太平洋地域のデジタルマーケティング責任者を務めた後、退社して2014年に起業。「Alpha Beta Coffee Club」を立ち上げた。なぜGoogleのマーケターが、カフェをオープンさせるに至ったのか? 大塚は、「テック産業で学んだものを、ポジティブな社会変革に活かしたいと思ったんです」と語る。
大塚Googleは大きな成功を収めた企業ではありますが、私は、病気などのせいで社会的に弱い立場にいる人々をエンパワメントするためにできることが、インターネットにまだあるはずだと感じていました。私は大好きなコーヒーに対して情熱を常に持っています。そして、“コーヒーを通じた社会貢献”というアイデアが生まれたのです。
「Alpha Beta Coffee Club」は、音楽や書籍の配信サービスで広がってきているサブスクリプション方式を飲食業界に持ち込んだ。月額9000円を支払って会員になれば、コーヒーが飲み放題になる。さらに、その会員カードには、IoTには欠かせない非接触IC(RFID)チップが用いられている。他にも、豆のひき方から、湯と粉の比率、抽出時間、湯を注ぐ速さに至るまで、ドリップの過程はすべて数値化されて、専用機器でコントロールされている。
大塚『Alpha Beta Coffee Club』のオペレーションは、我々がゼロから開発したNFCハードウェアに依拠しており、さらにそのハードウェアは、サブスクリプションサービスに対応するように我々がカスタムしたソフトウェアと連携しています。このようなシステムを構築することは、他のコーヒーショップにとっては、なかなか難しいことではないでしょうか?
大塚は、自信をのぞかせる。徹底的に“おいしさ”を分析してシステム化することにより、安定したサービスが実現する。「Alpha Beta Coffee Club」のリラックスできる雰囲気は、綿密な論理思考によって生み出されたものなのだ。
なぜITワーカーたちはコーヒーを好むのか?
先述の通り、もともと自身が大のコーヒー好きだったという大塚。それにしても、なぜITワーカーたちはコーヒーを好むのだろう?ノマドワーカーたちがコーヒーショップでパソコンを広げる光景は、日本でも、もはやジョークで揶揄するのも陳腐なほど当たり前の光景となった。大塚は、「ブルーボトルコーヒーのような企業が、シリコンバレーから生まれたことも確実に影響していると思います」と指摘する。
そもそもシリコンバレーには、若いITワーカーたちがコーヒーのようなグルメトレンドを楽しむ傾向があった。また、クラフトコーヒーの発展と、スケール可能な規模のファンを集めるのに成功したブランドの存在により、投資家にとっても“コーヒー”は魅力的な領域に映ったことだろう。大塚は、そのような持論を展開した後、「しかもコーヒーは本当に美味しいのですから」と茶目っ気たっぷりに続けた。
フード×テックの発想により、成功を収める「Alpha Beta Coffee Club」。大塚は、「世界的な食糧不足の解決や、消費者たちの食習慣の再形成、飲食業界全体の再創造において、テクノロジーは非常に大きな可能性を秘めています」と主張する。
とはいえ、フードテックというイメージが具体的に思い浮かばない人もまだ多いことだろう。だが、その可能性は幅広い。たとえば大塚が例に挙げるのは、スーパーマーケットの商品棚がモニター可能なスマートセンサーを開発している米サンフランシスコ「Samsara」。また、稲作に用いるセンサーを開発する千葉県鴨川市「Hackerfarm」や、ロボットがコーヒーを淹れるコーヒーショップ「Cafe X」もある。料理を出力できるフード3Dプリンターだって、すでに存在しているのだ。大塚は、「フードテックのアイデア、継続的な発展には、多くの道があります」と述べた。
彼自身としては現在、AIと機械学習に興味を抱いているらしく、「飲食業界に大きな波を起こす可能性を感じます」と期待を込める。
大塚私は『Alpha Beta Coffee Club』が非営利のパートナーシップを拡大しながら、より多くの人々にコーヒーを届けて発展していくための、さまざまな道を見つけていきたいと思っているのです。
シングルオリジンコーヒーの芳香がITという翼を生やし、世界を魅了するのかもしれない。
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