管理・分析システムは内製、でも物流は早期外注せよ──D2Cビジネスの勝ち筋を、麻田製薬の軌跡から学ぶ
D2Cはもはや「トレンド」の域を超え、ビジネスモデルの一つとして一般化しつつある。その先駆けとも言えるD2Cメガネブランド『Warby Parker』がアメリカでその事業を開始したのは、2010年。D2Cというビジネスモデルは、10年で新たなスタンダードとしての地位を確立したのだ。
日本国内でもさまざまなブランドが登場しているD2Cマーケットの中で、ユニークなプロダクトで注目を集めている企業が、CBDブランド『THE CBD』を展開する麻田製薬だ。
CBDとは、健康維持に役立つとされる大麻草由来の成分である。しかし、「原料が大麻草である」という事実から、ネガティブなイメージを持っている読者も少なくないだろう。一方で、CBDは多くの消費者に小さくない価値を提供し、市場規模を拡大していることもまた事実である。
麻田製薬は、CBDにつきまとう「怪しい」イメージをいかに払拭し、事業を拡大しているのだろうか。本記事では、同社の創業者であり、代表取締役である山田賢氏にインタビュー。ブランディングの徹底重視、管理・分析システムの内製、梱包・発送の早期外注……彼が語る麻田製薬の軌跡からは、「ビジネスの総合格闘技」であるD2Cビジネスの要諦と醍醐味が大いに伝わってきた。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「規制が緩くなったから、CBDが流行っている」は誤解
正式名称はカンナビジオール、略称「CBD」。
ECサイト、あるいは町中でこの文字を見ることが増えたと感じている読者も、少なくないのではないだろうか。
CBDは、体に不足しがちな栄養を補給して、健康を維持できるとされる物質だ。健康維持を目的としてCBDを含むオイルを日常的に服用する人も増えている。
しかし、CBDにはどこか「怪しい」イメージがつきまとう。
その理由は、CBDが大麻草由来の成分だからだろう。言うまでもなく、日本において大麻の所持は法律によって禁止されている。「イリーガルな存在」である大麻草由来の成分だという事実が、CBDという言葉に含まれるアンダーグラウンドなイメージを形作っているのだろう。しかし、山田氏は「そこには大きな誤解がある」と指摘する。
山田CBDを含む製品が増えてきたことで「規制が緩くなった」と思っている人もいるかもしれません。しかし、そもそも日本の歴史上、CBD自体が規制されたことは一度もなく、以前からずっと合法なんです。
「怪しい」イメージを作ってしまった原因は、CBD製品を取り扱うプレイヤーたちの売り出し方にあると考えています。アメリカなどで生産されているCBDを輸入して販売したことが国内マーケットの始まりですが、その際「合法大麻」といった文言を使ってプロモーションを展開したプレイヤーがいたんです。
そんな謳い文句を使えば「怪しい」と思われて当然ですよね。私自身も最初はあまり良いイメージを持っていなかったのですが、調べていくうちにCBD自体には違法性がないどころか、健康維持によい成分であることが分かり、認識を改めました。
自浄作用が発揮できなければ、マーケットの成長は止まる
大麻草にはCBDの他に、THC(テトラヒドロカンナビノール)という成分が含まれている。
THCの効果は、高揚感や幸福感をもたらすこと。この効果は大麻への依存につながる危険性をはらんでおり、THCを含む製品の輸入・製造は日本においては厳しく規制されている。
つまり、大麻に潜む危険はTHCの効果に由来する側面が大きいのだ。同じく大麻草に含まれるCBDは、WHO(世界保健機関)ですら「乱用や害を及ぼさない」と認めている。
山田海外で製造されているCBD関連の製品には、THCを含んでいる製品もあります。それらの製品は当然日本で販売できませんし、CBDだけを含むものに関しても、原材料に大麻草の葉っぱを使用してはならず、成熟した茎と種子からCBDを抽出したものだけが販売を許可されています。
ただ、CBD製品が販売されはじめた2018年ごろは、そうした規制を守っているのかどうか怪しい製品が存在していたことも否定できません。そうした事実も、CBD製品に対する不信感を生んでいるのでしょう。
しかし、我々は「こんな製品を作ろうと思っているから、こんな原材料を輸入しても良いか」と、厚生労働省に確認を取った上で商品開発を進めています。法令遵守を徹底して、健康維持によい製品を提供することで、ユーザーの皆様や当局から信頼されるようなブランドにしていきたいです。
「2021年のCBDマーケットの市場規模は約190億円。今後5年ほどで約1,000億円規模になるだろうと予測されている」と山田氏。
マーケット拡大の背景には、健康志向の高まりがある。サウナが一大ブームとなっていることに象徴されるように、人々の「健康に生きたい」という意識が高まっており、それがCBDマーケットの成長を後押ししているのだ。現代のストレス社会を気持ちよく過ごしたいと考えている人が、そのための手段としてCBD製品を利用しているという。
さらに、より一層CBDマーケットを成長させるためには、業界が一致団結し、「あるべき姿」を築き上げていく必要があると山田氏は考えている。
山田基準を満たしていない製品は減りましたが、まだグレーな製品が根絶したとは言えないと思っています。そうした状況が続くようであれば、CBD自体がより厳しく規制され、マーケットがシュリンクしてしまう可能性もある。
そうならないためにも、良識を持って規制を遵守した製品を作っているメーカーの経営者たちが集まり、業界団体を結成することも検討すべきだと思っています。業界を適切な姿にしていくために何ができるのかを、議論すべきフェーズに来ているのだと認識しています。
「グレー」を払拭するブランディングが、成長の鍵
麻田製薬がCBDブランド『THE CBD』を立ち上げ、CBDオイルの正式販売を開始したのは、2020年9月。発売から約半年が経過したが、月次の継続率は90%を超えている。「発売当初の目標は継続率60%だったので、想定以上の成果が得られている」とその手応えを語る。
高い継続率を維持できている理由の一つは、プロダクト・アウトでの製品開発にある。
山田もちろん、競合製品を分析したうえで製品を開発しましたが、何よりも重視したのは「ユーザーとして満足できる製品であるかどうか」です。
私自身、2018年ごろからCBDオイルを飲用していたのですが、毎日飲みたいと思える製品がなかった。そこで、THE CBDのオイルは誰よりも私が欲しいと思える製品にしたいと思ったんです。
そうして毎日飲みたいと思える、すっきりとした味わいの製品を作り上げたことが、多くのユーザーに受け入れられ、使い続けてもらえている要因だと感じています。
飲みやすさのみならず、ユーザーの満足度も重要だ。使用するユーザーの健康維持のための配合にも、徹底的にこだわった結果、多くのユーザーから「とても満足している」という声が寄せられているという。自らがユーザーとして心から「欲しい」と思えるものを開発し、ユーザーの声を製品の改良や新製品の開発に活かしているというわけだ。
徹底的にこだわったのは製品開発のみではない。「ブランディングを重視したことも、想定以上の成果に寄与したと考えている」と山田氏。
山田ブランディング面で最重要視していたのは、クリーンなイメージを押し出すこと。先程も申し上げたように、CBDにはどうしてもアンダーグラウンドなイメージがつきまといます。“脱法ハーブ”のように、CBD製品を「本来違法なものを、合法的に使用できる」といった打ち出し方をするメーカーもありますが、私としては絶対にそういったブランディングはしたくなかった。
むしろ、グレーなイメージを払拭したいと考え、THE CBDは徹底してクリーンでシンプルなブランディングを展開してきました。その想いは、ウェブサイトや製品ページ、製品のパッケージにも反映されています。そうした私たちの考えが多くのユーザーに受け入れられたからこそ、THE CBDは想定以上の成長を遂げているのだと感じています。
管理・分析システムを「基本は内製」にした理由
また、迅速で正確な意思決定を下すために、社内システムの構築にも注力してきたという。
山田インターネットビジネスの肝は、多くのデータを集めて適切に処理し、そのデータをもとに高速で経営判断を下すことだと考えています。だからこそ、私たちは判断の根拠となるデータを集め、まとめるための仕組みを、創業当初から整えてきました。
スタートアップにおいては、顧客管理やマーケティングに関する数値分析を行うためにSaaSなどの外部ツールを導入するのが一般的だろう。しかし、麻田製薬では数値管理や分析に用いるシステムはすべて内製しているという。
決済や、個人情報を扱うシステムなど、一部は外部ベンダーが提供するサービスを利用しているそうだが、ビジネスの根幹をなすシステムについては、創業当初から基本的に自らの手で構築してきた。
山田その日の売り上げ、性別や年代といったユーザーの属性、新規流入の数や継続ユーザーの数などをモニタリングしています。それだけでなく、売り上げの予想値や事業の成長率、そして課題を抱えている業務フローなども定量的に把握できるシステムを構築し、メンバー全員が見られる状態にしているんです。
D2Cビジネスにおいては、多くのユーザーに「ちょっといいかも」と思ってもらえることより、一人のユーザーに深く愛されるようなプロダクトを作ることが重要だと考えています。ですから、特に継続率を日次でモニタリングし、解約が発生したときはその原因を即座に分析して改善することが大切。そう考えて、システムを内製するためのリソースやコストを、積極的に投下することを決めたんです。
「商品の梱包と発送」はすぐに外注せよ──D2Cビジネスの勝ち筋
創業当初からシステムの構築を進める決断を下し、実装する。既存のSaaSを使いこなす、スタートアップの定石から外れているようにも見える選択が取れた理由は、山田氏のキャリアを聞けば納得できるだろう。
山田私はエンジニア出身なんですよ。大学ではコンピューターサイエンスを専攻し、新卒でサイバーエージェントに入社しました。退職後、暗号資産(仮想通貨)取引所向けのソフトウェアを開発する企業を立ち上げ。その後、麻田製薬を設立したんです。
私がエンジニア出身だからこそ、経営におけるシステムの重要性は理解しているつもりです。経営基盤を支えるシステムをいち早く構築しなければならないという共通認識を持っていたからこそ、創業直後からシステム開発にリソースを割けたんです。
暗号資産取引所向けサービスからD2C、そしてCBDマーケットに飛び込んだのは、前述の通り、山田氏自身がCBD製品の熱心なユーザーだったことに起因する。ユーザーとしてより良いものを求めるうちに、「ないなら作ればいい」と創業に踏み切ったのだ。
順調に事業を拡大している麻田製薬ではあるが、「反省もある」と振り返る。特に、ロジスティクス周りの業務に関しては苦労したそうだ。
山田モノを売るサービスを運営するのは初めてのことだったので、「梱包して、発送する」というロジスティクスのオペレーション構築には手間取りました。最初は注文が入るたびに、オフィスの中で自らの手で梱包し、運送会社に持ち込むことを繰り返していたのですが、手作業で行うのには限界がありますよね。
そこで、在庫の保管から梱包・発送までを代行する業者と契約したのですが、この一連の流れからは多くを学ばせてもらいました。そもそも、物流がどのような仕組みで動いているのかを調べなければなりませんでしたし、物流会社の収益構造も、ここで初めて知ることになりました。
最大の反省点は、早く外注しなかったことですね。一度に発送する量が100個や200個までなら、自分たちの手で作業をした方が、コストを抑えられると誤解していたんですよ。もちろん、数十個レベルであれば内製した方が安上がりかもしれませんが、発送する量が1,000個単位になってくると、外注した方がコストは抑えられるんですよ。システム化してオペレーションが確立できればコストが圧縮できますし、発送量の増大に対応するために、事業のオペレーションを変える手間も省けますしね。
結局、「餅は餅屋」ということなのだろう。「内製した場合、『違う商品を送ってしまった』『住所を間違えてしまった』といったミスが起こりうる。幸いにしてうちではそういったミスは発生しなかったが、物流のプロたちはそういったミスが起こり得ない仕組みを構築しているから、安心して任せられる」と山田氏。
コストの抑制とミスの防止、2つの観点からロジスティクスは「早いうちからプロに任せるべき」なのだ。
D2Cは「ビジネスの総合格闘技」である
ここまでの話には、商品開発やブランディング、マーケティング、そしてロジスティクスと、さまざまなビジネス領域にまつわる内容が含まれていた。山田氏はD2Cビジネスを「総合格闘技」と表現する。
山田インターネットや広告、ウェブマーケティングに関する知見だけでは、戦っていけないのだと実感しています。製造や物流に至るまで、ありとあらゆるビジネス領域を網羅しなければならないのがD2Cビジネスの難しさでもあり、おもしろさでもある。
現在はCBD製品を中心に展開している麻田製薬だが、今後についてはどのような展望を描いているのだろうか。
山田CBD製品のラインナップを充実させることが、当面の目標です。食品や美容品など、さまざまな製品をリリースしていきたいと考えています。また、これから生み出していく新製品は製造を自社で完結させるものもあるとは思いますが、積極的に多様なプレイヤーたちとコラボレーションしていきたいですね。
「ただし、CBD製品のみを展開していくつもりはない」と山田氏。すでにCBD製品のその先を見据えて事業を運営している。
山田現在はCBD製品のみを販売していますが、麻田製薬は「CBDの会社」ではなく「D2Cの会社」なんです。CBD製品で培ったノウハウは、必ず他領域の製造・販売にも活かせると思っていますし、「CBDを売るための仕組み」を構築するだけでは不十分だと考えています。社内のシステムにしろ、ブランディングの手法にしろ、「D2Cを成功させるための仕組み」を作り上げるべく試行錯誤しているんです。
「ビジネスの総合格闘技」で大きな成功を収めるべく、これからも新たなチャレンジを繰り返していくという山田氏。「自分自身がそうであったように、D2Cの世界に飛び込むことで大きな成長が得られるはずだ」と、ビジネスパーソンとしてD2Cビジネスに取り組む魅力を語る。
山田D2Cマーケットでビジネスを手がけるようになると、事業成長のスピードに驚くと思います。その成長スピードに負けないためにも、自分自身が成長しなければなりません。
先程も申し上げたように、私はロジスティクスに関する知識をつけることを迫られ、これまでのキャリアでは全く触れてこなかった領域に関する知見を深められました。D2Cに限らずビジネスを運営していると、必ず「未知の領域」の知識をインプットしなければならない場面を経験することになる。これは、たくさんの成長機会があるということですよね。
また、たくさんのリアクションがすぐに返ってくることも、D2Cビジネスのおもしろさでしょう。ユーザーにとって価値が低い製品は継続して使ってもらえませんし、自らの仕事の良し悪しがすぐに、解約率など定量的な指標に反映されることになります。仮設検証のサイクルを高速で回せることも、ビジネスパーソンにとってはやりがいの一つですよね。
現在、麻田製薬の社員数は2名です。業務委託の方々の力も借りながら事業を展開しており、先程申し上げたように、今後はさらに領域を拡大していきたいと考えています。D2Cビジネスを成長させながら、自らもどんどん成長していきたいという想いを持った方が仲間になってくれると嬉しいですね。
こちらの記事は2021年05月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
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