「属人的で当たり前」を覆す。
インフルエンサーマーケティングを仕組み化するBitStarが描く、業界トップへのロードマップ
「インフルエンサーマーケティング」について、どのようなイメージを持っているだろうか?
2018年に219億円だった市場規模は、5年後の2023年には500億円を突破し、10年後には933億円規模に成長するという予測もある。
一方で、「ステマ」や炎上問題など、ネガティブなイメージもつきまとう。イメージを払拭するためには、コンプライアンス体制の整備やインフルエンサーの倫理観を是正することが必要だ。
2014年に創業された株式会社BitStarは、インフルエンサーを全方位から支援するためのプラットフォーム構築を目指す。ステルスマーケティング、炎上対策は当然のこと、代表取締役の渡邉拓氏がエンジニア出身ということもあり、テクノロジーや「仕組化」で「インフルエンサーマーケティングの脱・属人化」を実現すべく奮闘している。
「5年後までに、『活躍する個人』に最も選ばれる会社になりたい」と語る渡邉氏だが、逆風も吹くインフルエンサーマーケティング市場で、どのような勝ち筋を描いているのだろうか。BitStarの成り立ちから5年後に見据える「業界トップ」に至るまで、ロードマップを訊いた。
- TEXT BY YUKO TAKANO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「YouTube配信にはこだわらない」インフルエンサー支援に身を捧げると決めた
孫正義、Elon Musk(イーロン・マスク)に敬意を抱き、「新たな産業・文化を創り人々に幸せや感動を提供する」ことを目指す渡邉氏。大学時代に起業し、新卒で入社したスタートアップ企業でも新規事業開発を担った。
しかし、独立後に自分の専門性を活かしつつ、世の中に大きなインパクトを与えられる事業を生み出せている手応えはなかった。
渡邉新卒で入社した会社を起業のために辞めたあと、1年ほど「どんな事業をやろうか」と模索していた時期がありました。そんな折、たまたまYouTubeで配信している友人のタイアップ動画を手伝うことになり、YouTuberが抱える悩みに触れたんです。
「友人を助けてあげたいな」と思ったと同時に、ピンと来ました──動画は今後、確実にコンテンツの主流となっていくし、SNSのおかげで個の力が強くなっている。YouTuberを支援することで、世の中に大きなインパクトを与えられるのではないか、と。
渡邉氏はYouTubeを軸にしたインフルエンサーマーケティングにコミットすると決意し、BitStarを創業。インフルエンサーには「コンテンツの作り手」「メディア」「タレント」の側面があると考え、それらを支援する体制を整えた。
渡邉特に直近では、「コンテンツ制作」のニーズが高まっていると感じています。テレビなどのマスメディアや、ブランド企業からのインフルエンサーを起用したYouTubeチャンネルの制作依頼も増えていますね。
また、YouTube配信だけにこだわらず、マスメディアやリアルの場にも進出することで、インフルエンサーがより活躍できる環境を構築できればと考えています。あくまでも軸は「インフルエンサーが活躍するための支援」ですから。
インフルエンサー業界異例。テクノロジーでインフルエンサーマーケティングの脱・属人化を目指す
BitStarが立ち上がった2014年当時、「インフルエンサー」と呼ばれる人物はほとんどおらず、「インフルエンサーマーケティング」という言葉も認知されていなかった。そこから5年も経たないうちに市場は急成長し、プレイヤーも続々と参入。資本力に強みを持つ競合も複数現れるなかで、BitStarの競合優位性はどこにあるのか。
渡邉BitStarの強みは、「仕組化」と「テクノロジー」。僕が大学時代にエンジニアリングを専攻していたこともあり、エンタメ業界としては珍しいのですがテクノロジーを駆使して効率化や再現性の高い型を作り、「脱・属人化」するのが得意なんですよ。
たとえば、インフルエンサーマーケター向けの日本最大のインフルエンサーデータベース「IPR」では、「どのインフルエンサーの再生数・登録者数が、1週間でどれだけ変動したか」「どこの企業が誰に依頼しているのか」といったデータを取得。それらのデータを分析することで、ネクストブレイクするインフルエンサーは誰なのか、どのカテゴリに投資するべきなのかを推測できるんです。
インフルエンサーが作り出すコンテンツは、「属人的であり、当たり外れも本人の力量次第」と捉えられがちだ。しかしデジタルコンテンツである以上は、あらゆる情報をデータとして取得し、分析できる。
渡邉氏はエンジニア的な知見を活かし、データ取得を徹底。「当たったコンテンツ」「外れたコンテンツ」の傾向を分析し、コンテンツ制作の“正攻法”を構築しようとしている。
渡邉創業当初から、「仕組化」「効率化」「再現性」にはこだわっています。そのため、エンジニア採用にも注力してきました。具体的な明言は避けますが、インフルエンサー業界で当社ほど技術投資しているところは、まだないと思います。
インフルエンサーのステマや炎上対策は、「仕組化」と教育で対応
インフルエンサーを支援していくにあたり、避けて通れないのが、ステマ問題や炎上対策だ。
広告表記なしの商品紹介、法に抵触する行為、誹謗中傷を含む発言が出るかどうかは、インフルエンサー自身の倫理観にゆだねられる範囲も大きい。最も脱・属人化が難しいと思われる領域に対して、BitStarが講じている対策は主に2つある。
渡邉まず前提として、クリエイター自身が「心から良い」と思える商品のプロモーションだけをお受けするようにしているんです。我々が強制的にやらせるということはないので、おかしなトラブルや炎上は起こりにくい。
また、広告表記の義務化も徹底しています。タイアップ動画に関しては、全て事前確認するだけでなく、コンプライアンスに反する内容になっていないか、著作権侵害していないかも、タイアップである、なしにかかわらず法務がチェックするフローになっています。
ただし、炎上を完全に防ぎきれるところまでは、まだ到達できていません。結局は、インフルエンサーにプロとしての自覚を持ってもらえるよう、社内で培った知見をもとに地道に教育していくことが大切だと思います。
インフルエンサーと共創する「デジタルスタジオ」を創り、 YouTubeクリエイティブ集団NO.1を目指す
そのための教育はマインドセットだけではなく、コンテンツ制作の領域でも行われている。渡邉氏は「今後、確実に人とコンテンツのプロ化が進んでいく」と踏んでいるからだ。
渡邉今は無数のインフルエンサーが存在し、芸能人も進出してきています。ありふれたコンテンツしか生み出せない人は成長が難しくなり、一芸を持つ者が生き残れる世界に変わりつつある。
また、人だけでなく、コンテンツの品質そのものもプロ並のレベルを求められるようになるでしょう。たとえば、ゲームアプリ業界を思い返してみてください。数年前は簡易なカジュアルゲームアプリが主流でしたよね。でも今は、数億円かけて作り込まれた大作群がランキング上位を占めています。
インフルエンサーマーケティング市場で先行するアメリカでは、デジタルチャネルに特化したコンテンツを制作、配信する機能を持ち合わせる「デジタルスタジオ」が台頭してきているという。日本でも、近いうちにデジタルスタジオが必要とされるだろう。
渡邉氏も2年以上前から予見しており、コンテンツに投資してきた。マスメディアや芸能人との共同でのYouTubeチャンネルのコンテンツを制作し、業界トップクラスの実績も出してきた。今後はインフルエンサーと共創するYouTubeクリエイティブ集団No.1を目指していく。
これだけ「求められるもの」が多岐に、そして高度化する環境で、そもそもインフルエンサーたちは何をモチベーションとしているのだろうか。真っ先に浮かぶのは「承認欲求」だが、実はそうではないようだ。
渡邉「自分が好きなことをアップしてみよう」「楽しいからやってみよう」と、「好き」をベースに始める人が多いんですよね。最初から、人気者になりたい、どんどん稼ぎたいと考えている方は、案外少ないんですよ。
だから僕たちは、彼らの純粋な「好きなことを発信していきたい」という気持ちを大事にしたい。インフルエンサーの卵がちゃんとプロとして食べていけるための、道筋を引いてあげたいんです。
5年で業界トップを獲得、その先に見据える新産業の創出
BitStarは、2年後に上場、5年後に国内インフルエンサー業界のトップに立つロードマップを描いている。
これまでは、渡邉氏が全事業の意思決定を担ってきたが、よりスピード感を持って事業をグロースさせるために役割を分割。各事業のヘッドを、新たに執行役員に就任した泊大輔氏、矢澤孝明氏に託した。
メディア制作事業を担う泊氏は、株式会社毎日放送での制作業務やC Channel株式会社での国内メディア統括役員を経験。インフルエンサーマーケティングにも明るく、メディア事業グロースの担い手として適任だと判断した。
広告・プロダクション事業を担う矢澤氏は、2016年にBitStarの7人目の社員として入社。以来、広告事業を牽引し、「広告周りを任せるなら彼しかいない」と抜擢したという。
渡邉泊は、マスとデジタル双方の制作経験があり、ビジネスの視点も持ち合わせています。マス向けコンテンツも含めた制作全般を見てもらいつつ、ちゃんと事業をグロースしてくれるだろうなと。
矢澤に関してはこれまでの実績があるので、安心してヘッドを任せられます。業界で圧倒的No.1を取るために、広告事業とプロダクション事業をどんどん牽引していってほしいですね。
また上場を見据え、CFOには監査法人出身で、株式会社ミクシィやPEファンドでの投資・経営経験を有する寺谷祐樹氏を配置。さらに社外監査役には、株式会社メルカリの役員として上場経験もある掛川紗矢香氏が新たに就任した。
渡邉CFOの寺谷は、上場を見据えた管理体制の構築に加え、上場後の資金調達やM&A、IRを高いレベルで牽引できる人材です。攻守にバランスの取れたCFOを探していたので、これ以上の適任者はいないと思いましたね。また、彼は私と同世代でもあるのですが、こんなにインターネットやYouTubeが好きなCFOはいないと思います(笑)。
社外監査役の掛川からは、メルカリで得た知見をBitStarに注入してもらい、経営体制を強化してもらいたいです。
事業責任者もファイナンスも、全て自分で推進してきた渡邉氏は、今回の人事で多くの業務を他メンバーに権限委譲できた。今後は、アライアンスの獲得などを通して、BitStarの非連続的な成長にコミットしていく。
強力な人材を揃え、より成長を加速させる体制を整えたBitStar。ロードマップ通り、5年後に業界トップとなり、インフルエンサーが活躍する社会を形成できた後は何をするのか。
渡邉氏の答えは、孫正義やイーロン・マスクを敬愛する、起業家らしい答えだった。
渡邉いまBitStarで描いているゴールを達成した後は、また新たな産業を生み出すことに挑戦したいんです。孫正義が通信キャリアに参入し、イーロン・マスクが電気自動車や宇宙事業にチャレンジしたように、課題解決のレイヤーをどんどん広げていきたい。時代に合わせて、大きな課題を解決できる産業にコミットしたいんです。
もともとインフルエンサーマーケティングのことを全く知らない状態で参入してここまで来れたので、未知の領域での実行力は、それなりにあると自負しています。
ゼロベースでも事業推進できる彼の強さの秘訣は、どこにあるのだろうか。
渡邉ビジネスに関する嗅覚を向上させるために、気をつけているのは2点です。
1つは、いろんな業界の人に話を聞いて、世界を立体視し、解像度を上げていくこと。自分がいる世界や同業界だけを見ていては、確実に視野が狭くなるし、物事の一側面しか捉えられなくなる。したがって、できる限り自分と異なる領域に従事する方や専門家たちの話を聞いて、複数の視点を持って事象を見るようにしています。
もう1つは、顧客と徹底的に向き合うこと。当社の場合、最重要顧客はインフルエンサーなので、彼らと向き合うことが重要です。彼らのインサイトを引き出し、抱えている課題を把握できれば新たなビジネスに繋がり、何より彼らの活躍の場も広げられますから。
こちらの記事は2019年08月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
高野 優子
フリーの編集、ライター。Web制作会社、Webマーケティングツール開発会社でディレクターを担当後、フリーランスとして独立。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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