ユーザーファーストを突き詰めれば、PdMとマーケターは一体になる──リブセンスが試みる「P&M」という職種の定義
SponsoredHRテック領域に新たな潮流が生まれようとしている。プロダクト開発とマーケティングの融合を目指し、サービスのあり方を根底から見直す取り組みだ。注目すべきは、その核となるのが職種の定義そのものを再考することにある点だ。この革新的な試みを行っているのが、リブセンスという企業である。
「プロダクトマネジメントトライアングル」が業界で提唱されて約10年。リブセンスでも、その頃からプロダクトに関わる企画職の認識を「Webディレクター」から「プロダクトマネージャー(以下、PdM)」へと改めた。広範な領域をカバーするPdMになりたいという憧れや意思も多分に含まれていた。
しかし、個人が業務でトライアングルの全域を担当するケースは稀だ。加えて、デジタルマーケティングの分野で複雑性と専門性が高まる中、自らを「マーケター」と認識するメンバーも増加した。スタートアップを中心に、PMM(Product Marketing Manager)という新たな概念も生まれ、浸透している。
こうした状況下で、リブセンス社内では数年前から独自の取り組みを続けてきた。PdMとマーケターを「Product & Marketing(以下、P&M)」という1つのロールとして束ねるものだ。単に2つの領域を寄せ集めて兼務させているわけではない、リブセンス独自の発想に基づく期待役割の設計である。
そして現在、社内では「Project Montage」(詳しくは後述)として、P&Mの役割の再定義に乗り出している。SEOの勝ちパターンを確立し、急成長を遂げてきたリブセンスが、なぜ今、両職種のあり方を問い直すのか。
その背景には、同社が長年培ってきたノウハウが通用しなくなるほど、事業環境が激変していることがある。本インタビューでは、創業期からリブセンスの変遷を見続けてきた加藤氏と、新卒で入社してその後一度転職し、スタートアップにてCPOやフリーランスを経験した中垣氏が、P&Mへの思いと狙いを赤裸々に語る。
先んじて公開された同社代表村上氏のインタビューでは組織論が、続く2記事目では『マッハバイト』のV字回復劇を通じて現場がどのように「変化」しているかが明かされた。今回は現場の視点から、「あたりまえ」を更新し続けるために必要な、プロダクト開発とマーケティングのあり方を問う。
ユーザー視点に立ち、両職種の知見を掛け合わせる。“P”と“M”の化学反応から生まれる独自の方程式には、次の時代を勝ち抜くためのヒントが隠されているはずだ。
- TEXT BY YASUHIRO HATABE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
変化し続けるビジネス環境に合わせて「職種」の領分は変わる
リブセンスでは現在、「プロダクト&マーケティング(P&M)」という役割の再定義に取り組んでいる。社内で「Project Montage」と呼ぶこの試みは、同社が長年設けてきた「P&M」という独自の職種概念に新たな光を当てようとするものだ。
「P&M」という聞き慣れないことばを耳にすると、「プロダクトマネージャー(PdM)とマーケターを単に合体させただけでは?」「プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)とほぼ同義なのでは?」といった印象を抱くかもしれない。確かに、一般的な理解に照らせば、そのような見方もできるだろう。
しかし、リブセンスがこのタイミングでP&Mに着目するのには、もっと切実な理由がある。それは、同社独自のプロダクトを生み出し、時代の変化に合わせて成長させていく過程で、PdMとマーケターが分断されていては、最適なソリューションを提供できないという課題が浮き彫りになってきたことだ。
例えば、マーケターの領分だと思って取り組んでいた施策が、いつの間にかプロダクト開発の意思決定に影響を及ぼしていたり、逆にPdMが手掛けるはずの案件がSEOやSNS施策ばかりになってしまったりする。事業環境が目まぐるしく変化する中で、「誰が(どの職種の人間が)」「何をするのか」を柔軟に再定義する必要性が高まっている。だからこそ、P&Mのあり方が問われているのだ。
「Project Montage」が立ち上がった背景にはそのような問題意識があったと、同プロジェクトを推進する加藤氏は話す。
加藤プロジェクトを立ち上げたきっかけは、2023年に全社と各事業の中期計画を策定したことです。
現在、社内にはP&Mという職種カテゴリのメンバーがちょうど20名います。中期計画を実現させるには、プロダクトづくりの要であるP&Mをもっと強化しなければならない、という想いからプロジェクトを立ち上げました。
組織上は「P&M」という職種で括られていますが、PdMにはPdMの、マーケターにはマーケターの専門性があり、それぞれ勉強しなければならないことも異なります。また、マーケターの仕事の比重が大きい人もいれば、PdMに大きく寄っている人もいて、まだら模様の状態です。
各事業部にP&Mはいるものの、定期的に意見を交換する機会などは作れておらず、個人の人間関係に依存した弱い連携があるのみでした。「同じ職種のメンバー同士が良い影響を与え合い、強いP&M組織になる」ような環境づくりに向けてはまだまだできることがたくさんあります。
さらに、PdMとマーケターという、一見別の職種だと思われるものがセットになっていることで、「この先自分のキャリアをどう築いていけばよいのか」と悩むメンバーも少なくありません。転職市場では、PdMとマーケター、両方の仕事ができることをアピールできれば高く評価されるはずですが、そういった目線で自身の仕事を捉え、能動的にキャリアを選べている人は少数派です。
「リブセンスのP&Mはこうありたい」という像を言語化すると共に、その言語化のプロセスを通じてメンバー同士の関係を深めようとした取り組みが「Project Montage」です。
「montage」は元々「組み立てる」という意味のフランス語で、転じて映画業界では「撮影したフィルムの断片を組み合わせて1つの作品にまとめること(=編集)」という意味で使われる。
2023年11月に準備を始めた「Project Montage」。取り組みは対話が中心となっている。2024年1月にP&Mメンバー全員に個々人のキャリア観や、現場で感じるやりがいなどをヒアリングした後、2024年の4月〜5月にかけて週1でワークショップを行い、個人のWill・社外の一般的なP&M観・会社や事業からの期待など、多角的な視点で情報を集め、気づきを記録した。それらを総合して「リブセンスのP&Mのありたい姿」を言語化し、7月以降には評価制度も含めてそれを実現する環境を整えていく予定だ。
プロダクトマネジメントとマーケティング、似て非なる2つの仕事を一度分解し、新たな形に組み立て直すことで「これまでにない新しい模様が見えてくるのでは」と加藤氏は期待を寄せる。さて一体、どのような景色を思い描いているのだろうか?
「“村長”が帰ってくる!」。
「外」を知った中垣氏がリブセンスに舞い戻った訳
「Project Montage」について詳しく聞く前に、このプロジェクトを牽引するもう1人の中心人物、中垣氏について紹介しておきたい。社内では“村長”と呼ばれ慕われる存在だ。大学時代には地域おこしの研究を行い(これが"村長"と呼ばれる由来でもある)、2017年に新卒でリブセンスに入社した中垣氏は、2021年に一度同社を離れている。その後スタートアップの執行役員CPOやフリーランスを経て2023年11月にリブセンスへ舞い戻った。
中垣新卒で入社した時は、『マッハバイト』のセールスを担当していました。その後1年目の終わり頃にマーケティングの部署へ異動になり、知識も経験もない中で多額の広告費の運用を主務で任されることになりました。
上長のサポートを受けながら必死に本や記事を読んで勉強したものの、なかなか結果が出ない日々が続きまして。心が折れそうになりながらも粘り強く原因を探っていくと、効果測定のシステムの一部が何年か前から不具合で止まっていたことが判明しました。あらためて動かし始めたら、実は目標に対してずっと200%以上で達成していたことが分かったんです。
僕にとっての“ハードシングス”ではありましたが、問題解決のために調査や学習に励んだことが、今の仕事の土台になっていると感じています。
成功体験を得た中垣氏は、2018年下期の全社MVPを獲得。その後、創業以来最年少でグループリーダーになり、さらにチーフプロダクトマネージャー就任と、みるみるうちに昇進していった。
しかしそんな順風満帆に見えた中垣氏も新しいチャレンジを求めるようになり、スタートアップへの転職を決意する。未知の領域に飛び込み、新しい人間関係の中で自らを試したいという思いが芽生えたのだ。そのスタートアップにてプロダクト部長を務めたのちは、フリーランスに身を移すこととなる。
中垣フリーランスのときは計8社、いろいろな企業と関らせてもらいました。まったく畑違いの業界やビジネスに触れることで、多くの学びを得られたのは事実です。ただ、はじめはよくてもだんだん学びが少なくなるにつれて、「1つのことに最初から最後まで、全ての熱量と時間を注ぎ込んで集中したい」と思うようになりました。
別の企業への転職も視野に入れて活動もしましたが、僕の中で「志を同じくする仲間と一丸となって大きなインパクトを生み出したい」という想いが日に日に強くなり。
その点、リブセンスだったら一緒に働いて楽しい人たちがいることは知っていますし、コトに対する挑戦を思い切りできるのは楽しそうだと思い、戻ろうと決意したんです。
加藤氏によると、中垣氏の再入社が決まり、「“村長”が戻ってくる」とのニュースが社内に駆け巡ったときは、さながら「祭のようだった」という。それだけ中垣氏が慕われており、退職前に頼りにされていたことの証だろう。
加藤リブセンスの外へ飛び立って新たな挑戦をした上で、再び戻ってきてくれる人がいることを、そしてそれを喜んで受け入れるリブセンスという会社を、私は心から誇らしく思います。
「内向き」なP&Mこそ、実はユーザー目線を貫いている
2023年11月、約2年ぶりに馴染みの職場へ戻った中垣氏は、「外」を経験したからこそ、あることを感じていた。
中垣僕のリブセンス“第1期”では、リブセンスのメンバーに対して「みんな目の前の問題を解決できるすごい人たちだ」と素直に思っていました。
でも、一度外に出ていろんな会社の人と働くようになり、リブセンスの、特にP&Mの人たちは「内向き」だと感じるようになりました。他社の人々が、外部のリソースを積極的に活用しながら、スピーディーに成長を遂げていく姿を目の当たりにしたからです。
リブセンスは、自分たちだけでどうにかして解決しようとする文化が強かった。それは組織面における強みだと思っていたけれど、事業成長スピードが遅くなるため、弱みでもあるのかなと思うようになりました。
だから戻って来てからは、自分が社外と社内の間にある「窓」のような立場になろうと意識しています。社外から新しい知見を持ち込んだり、社内外の人をつなぐ場を設けたりして、組織に新鮮な風を送り込もうとしています。
「内向き」「外向き」とは、それぞれ例えばどのような言動に表れるのだろうか。
中垣外向きな人は、例えばカンファレンスや勉強会に積極的に参加したり、同業他社の人と飲み会を開いて情報交換したりしますよね。
PdMの人が集まる会だったら、「最近出版されたあの本のこういうところが良かったよね」みたいな情報がやりとりされる。リブセンスでそういう場所に顔を出す人はあまり多くなく、そういった半ばクローズドな場で話される、リアルな情報を取りに行こうとしない印象があります。
加藤そういう意味では、当社のエンジニアは結構「外向き」ですよね。それと比較すると、確かにP&Mは内向きというか、少し世間知らずなところがあるかもしれませんね(笑)。社内の勉強会は活発なのですが。
これまで中垣氏がリブセンスの強みだと自覚していた部分が、弱みにもなり得るということが分かった半面、新たな「リブセンスの魅力」にも気づかされた。
中垣「内向き」というと自分たちのことしか見ていないように聞こえるかもしれませんが、そういうことでもないのです。
例えば売上を伸ばそうとか、プロダクトの数字を上げようという時に、出てくる発想の方向性が基本的に「ユーザーを向いている」んですね。ユーザーの抱える問題を解決しようとか、ビジョンや事業理念に基づいて考えようとか、使いづらいところはなくそうとか、必ずそういうところから発想が生まれている。
売上を伸ばすことのみに固執し、ユーザーを置き去りにするケースも多い中で、リブセンスの人たちは、「ユーザーは何につまずいているのか」「どこが社会の構造的な歪みになっているのか」といった課題ベースで考える人が多い。
これってすごく「リブセンスらしい」と思うし、そういう人たちと一緒に働けることが魅力だと感じます。
リブセンスのP&M人材が持つ“内向き”な特性は、ユーザー目線を常に意識するマインドにつながっているようだ。一見すると弱みに思える要素が、実はリブセンスならではの強みの源泉になっているのかもしれない。中垣氏のこの指摘は、P&Mという職種の本質を探る「Project Montage」にも示唆を与えているのかもしれない。
“勝ちパターン”が通用しなくなり。
創業期メンバーが見たリブセンスの変化
中垣氏のこれまでの歩みを振り返ったところで、一方の加藤氏の経歴にも触れておこう。加藤氏は大学1年生だった2008年にジョインし、当初はカスタマーサポートを中心にいわゆる“何でも屋”のような役割を果たす立場だったという。
加藤複数の新規事業の立ち上げ時に、オペレーション構築やSEO、動作テストや契約周りなどに広く携わり、事業部横断のSEOグループを担当していたこともありました。
ただ、2016年にマッハバイトのSEOを担当していたころ、仕事にのめり込みすぎて体調を崩し、休職を余儀なくされたんです。ある大きなプロジェクトのリリース直前のことで、悔しく、不甲斐ない思いで落ち込んでいました。
「心がへし折れた状態が治るイメージが湧かなかった」という加藤氏に配慮してか、会社は宮崎オフィスへの赴任を薦めた。
加藤いろいろなことをリセットしてチャレンジする機会を用意していただけたのが本当にありがたかったですし、新しい環境で別の仕事に一から取り組めたおかげで、「自分にはまだやれることがあるんだ」と自信を取り戻すことができました。
1年ほど後に本社に戻り、PdMとして経験を積んだ後、2023年に転職会議事業部の事業部長に就任しました。
それまでも自社のプロダクトには強い愛着を持っていましたが、市場の大局観を捉えたり、営業戦略を練ったりといった事業/経営視点の仕事はほぼ経験がありませんでした。それでも、「やってみる?」と言われたときに「やってみます」と答えられたのは、宮崎でのチャレンジを経て「今度もきっとなんとかなるはず」という前向きな思いがあったからだと思います。
創業期から長年活躍してきた加藤氏から見て、リブセンスが志向するプロダクトの方向性に「変化」の兆しが見え始めているという。
加藤2011年に上場するまでにもいくつかサービスは立ち上がっていましたが、いずれも同じ勝ちパターンでした。「アルバイト」「正社員転職」「賃貸住宅」など、領域こそ違えど、圧倒的なSEO力によって無料でユーザーを集客し、企業には広告を低価格で提供して両者をマッチングする、これがリブセンス初期の強みだったんです。
ところが、事業環境が大きく変化する中で、従来のモデルだけでは立ちゆかなくなってきました。一定の利益は出せるものの、大胆な投資によるさらなる成長は描きにくく、集客基盤が崩壊するリスクも高い。
そのことに気づいてから、『マッハバイト』はSEOへの注力は継続しつつも、広告モデルでの収益拡大も見込めるような料金体系を模索したり、その価格に見合う価値を提供できる新たなプロダクト開発に乗り出したりと、事業の舵を大きく転換していきました。
別の視点でいうと、「検索需要が旺盛なDB型メディアが適合しやすい業界を攻める」ことが勝ちパターンだったことから、単発のライフイベント系のサービスが中心でした。転職や不動産購入は、人生で数回しか経験しない重要な意思決定ではあるものの、目的を果たせば情報サービスは不要になります。体験の良し悪しはあれども、サービスのファンになるということは考えにくい。P&Mとしては、やや寂しい気持ちもありました。
でも今は、企業向けの面接最適化クラウド『batonn』を立ち上げるなど、ユーザーとの長期的な関係性を築けるサービス、選ばれて愛されるプロダクトを生み出そうという方向にシフトしています。
リブセンスが描く事業の長期ビジョンが大きく変化しつつある今、加藤氏が見据えるのは、後述するP&Mという職能が担う新しい役割だ。SEOの強化だけでなく、ユーザーとの絆を育むプロダクト開発を通じて、リブセンスの未来を切り拓く原動力となることを期待しているのだ。
社長が引っ張るリブセンスから、みんなで創るリブセンスへ
創業から上場までの急成長を支えた勝ちパターンも、そのルーツを辿れば代表村上氏の卓越した洞察力に由来していた。「最年少上場」が枕詞に付く村上氏が強いリーダーシップで引っ張る、それがリブセンスという会社を外から見たときのイメージだったことは確かだろう。
加藤だんだん「リブセンスらしさ」も変わってきたのかなという気もします。創業初期は村上のアイデアが事業の原動力でしたが、村上が「任せる」ようになった後は、多様なアプローチで新規事業が生まれるようになりました。
たとえば『転職ドラフト』は、もともと別の中途採用メディアを手がけていたメンバーが、そこで見えてきたエンジニアの転職市場における問題を解決したいという思いから企画し、ボトムアップで事業化に漕ぎつけたものなんです。
中垣2018年頃、僕は『マッハバイト』のSEOを担当していましたが、確かにあの頃は「今まさにアルバイトを探そうとしている人」を集客することに注力していました。そういった当時の状況を知っているからこそ、「ブランドを確立して長く愛されるプロダクトをつくる」方向への変化の大きさを実感しているんです。
その変化が起きたのはちょうど僕がいなかった時期なので、戻ってきた時は、浦島太郎のような衝撃を受けました。たぶん、ずっといたメンバーよりもその変化を強烈に感じ取ったと思います。
今は『転職ドラフト』事業部にいますが、『マッハバイト』と同様に短期的な足元の数字はほとんど気にしていません。中長期の視点で、どうすればユーザーに使い続けてもらえるか、心から愛されるプロダクトになれるか、転職を考えるエンジニアにとって「転職ドラフト」が「あたりまえ」の選択肢になるかを常に考えています。
そう考えると、会社全体として意識が変わったんでしょうね。
しかし組織というものは「変わろう」と思ってもすぐには変えられないものだ。そんな中でリブセンスが「変われた」のは一体なぜだろうか。
加藤たぶん、リブセンスに入社した時期によって、その人に見えている「リブセンスらしさ」は少しずつ違うと思います。学生8人のサークルのような環境に入った私、上場に向けて急成長していた頃にジョインした人、上場後に企業として安定感が出てきた頃に入社した人、その後の成長の踊り場を迎えた時期に「むしろそれが楽しい」といって飛び込んできた人、千差万別ですから。
でも、「リブセンスらしさ」に対する複数性があったからこそ、今の時期に「我々は何者なのかを自覚し、共通認識を持たなければ」という機運が高まっているのかなと思います。社外向けにオウンドメディア『Q by Livesense』を立ち上げるといった動きも含めて、「リブセンスが大事にするもの」が、少しずつ削り出されるように明確になってきたのを感じています。
コロナ禍で事業が大打撃を受け、有期雇用の方々に退職をお願いせざる得ない事態に直面したこともきっかけのひとつでしょうか。いろいろなことを諦めなければならない中で、「それでも決して譲れないものは何か?」という問いが生まれたのだと思います。
そこから、私たちのサービスを身近に感じてもらい、愛され、長く使ってもらいたい、つまりもともと私たちが目指していた「あたりまえ」をつくろうという想いが、あらためて組織全体に深く浸透していったのだと思います。
かつては「トップダウン」で突き進んできたリブセンスが、今では「ボトムアップ」の発想で新たな一歩を踏み出そうとしている。そんな転換点に立ち会えていることを、加藤氏も中垣氏も心躍らせながら日々の仕事に向き合っているようだ。変革の真っ只中にあるリブセンスの針路を左右するのは、他でもない、一人ひとりのメンバーなのだ。
SEOの変化が、PdMとマーケターを不可分にした
ここまでリブセンスの変化を見てきたが、いよいよ今回の主題でもある「Project Montage」の話題へと話を進めたい。「リブセンスが目指すP&Mの在り方」を言語化・体系化することが目的ということだが、そもそも「P&M」という言葉自体あまり一般的ではないのではないか、ふと湧いた疑問を投げかけてみた。
中垣P&Mという括り方は他にあまりなくて、当社特有のものです。実はこれ、戦略的にそうしているというよりは、いつの間にか自然発生的に根付いていった側面が大きいんです。
冒頭で加藤さんが話していた通り、実際、P&Mメンバーの専門性は人によって違い、“P”つまりプロダクト寄りの人と、“M”つまりマーケティング寄りの人がいて、その割合も様々です。ワークショップなどで話し合っていても、メンバー間で共通言語が全然違うことがはっきり分かりました。
ただ、「P&M」と一括りになったのは、そうせざるを得なかった必然性があった。リブセンスが力を入れてきた「SEO」に求められるものの変化だ。
中垣先ほど話があったように、SEOが勝ちパターンをつくった時代がありました。このSEOは、一般的にはマーケティングの仕事に分類されがちです。でも、実際にやっていることはサイト改善なので、プロダクト開発に直結します。
逆に、新規でWebサイトをつくるのは一般的にプロダクト側の仕事だとされますが、前もってSEOを施しやすく設計しておくことが必要です。そしてそのためには、プロダクト側がある程度SEOの知見を持っておかなければならないのです。
だから、「PdMとマーケターは表裏一体であり不可分」という認識が、自然と社内に根付いていったのだと考えています。
SEOの特性上、プロダクト開発とマーケティングが密接に連携しなければ成果を出すことができない。加えて、SEOに求められる要件が高度化・複雑化していったことで、両者の境界線があいまいになっていった。こうした状況がリブセンス特有の「P&M」という職種を生み出したのである。
ユーザーに向き合うなら、P&Mは当然「一体であるべき」
改めて、分かりやすくするために極端な言い方をすると、以前のSEOは「被リンクさえ集めれば検索順位が上がる」というようなシンプルな要素が大半を占めていた。しかし近年は、サイト構造やデザイン、そして内容的にもユーザーにとって分かりやすく、受け入れられるサイトを構築しなければ順位は上がらない、より複雑なものに変化してきた。
SEOに力を入れてきたリブセンスだからこそ、これに伴った変化が起こったということなのだろう。
中垣今の僕の役割は、まさに1つの職種としてのP&Mを体現していると思います。メインの仕事は広告運用ですが、同時にブランディング戦略の立案や、プロダクトのアーキテクチャ再構築に向けた要件定義も行う。たぶん他の会社だったら別部署になるような仕事なので、これほど幅広い動きはできないでしょう。
僕はリブセンス“第1期”で、Webマーケティングを担当していて、そこからプロダクト担当へシームレスに移行した経験がありました。また、フリーランスの時もPdMとマーケター、両方の役割を1人でやっていました。だから自分の中でこの2つは分かれておらず、「P&Mという1つの職種」だという感覚です。
しかし、「単なる偶然の産物としてP&Mが一括りになり、それが現場の実情と合致していた」だけでなく、もっと積極的に「P&Mは一体であるべき理由」が「Project Montage」を通じて見え始めているようだ。
中垣結局、ユーザーが僕らのプロダクトと接点を持つ時、つまり広告などを通じて私たちからユーザーに対して何を訴求するかという話と、そこからプロダクトに入っていった後のユーザー体験は、シームレスにつながるべきなんですよね。その間に断絶があってはいけない。そこを分けてしまうと、マーケターはマーケターの、PdMはPdMの最適化を目指してしまうため、連携がなくなってしまいます。
両方の視点を兼ね備えたP&Mという職種の人がいれば、そこを一貫して俯瞰できるので、望ましいはずなんです。
加藤ただ、だからこそP&Mのメンバーが「自分はP&Mという職種の人間だ」という自覚を持たないままに仕事をしていると、「ある時はPをやってといわれ、またある時はMをやってといわれる」かのように、会社の都合で役割をコロコロ変えられているように感じ、ネガティブに捉えてしまう恐れがあります。
ですから、まずP&Mが一体となっていることの意義を理解し、そこには明確な必然性があるということを認識した上で、自分の意志(Will)を持って仕事や経験を選び取りながらキャリアを積んでいきたいという考えが、「Project Montage」の根底にあります。
リブセンスの代表的なサービスは、アルバイトや正社員として転職先を探している個人と採用したい企業を引き合わせたり、家を探している人と不動産会社を結びつけたりするものだ。しかしこれらは、ただ効率のよいマッチングを提供するだけのサービスではない。一番の特徴は、両者が抱える情報の非対称性や透明性に着目し、そのギャップを埋めるための情報を提供することでユーザーの「選択」を支援するところにある。
そうした"リブセンスらしい"プロダクトをつくる上で大切なのは、ユーザーと真摯に向き合い、ユーザーを深く理解し、ユーザーの抱える課題に寄り添い続けることだ。
だからこそ、他社や市場の慣例に合わせてPdMとマーケターを安易に分断するようなことはせず、あえて一つの職種として括ってきた。そこにはリブセンスなりの信念があったのである。
そして今後、ますますユーザー視点に立った事業運営が求められる時代において、P&Mの存在意義はこれまで以上に大きくなっていくだろう。加藤氏と中垣氏が進める「Project Montage」の行方が、リブセンスの未来を左右すると言っても過言ではない。
未来の「あたりまえ」をつくるために
リブセンスでは、「Project Montage」を通じてP&Mメンバーの悩みや迷いが取り払われ、メンバーそれぞれが自分の意志でキャリアを切り拓いていく土壌ができつつある。最後に、2人にリブセンスが今取り組んでいることや、今後の展望について語ってもらった。
加藤創業からそろそろ20年、「あたりまえを、発明しよう。」というビジョンを掲げたときから10年近く経ちますが、私たちはまだ、リブセンスが真に「あたりまえ」をつくり上げたとは言えない状況だと認識しています。
コロナ禍からのV字回復を果たし、新たなステージに立とうとしている今、社内ではあらためて未来に向けた投資を進めていこうという機運が高まっているんです。「あたりまえ」をつくることに挑戦したい人には追い風が吹く、面白い環境だと思います。
スタートアップに比べて制度や環境も整っているので、ストレスなく事業に集中できますし、どの部署でも「事業の変革」がミッションになっていることから、大きな挑戦がしやすい環境だと思います。
中垣冒頭で加藤さんから話があったように、2023年に全社と各事業の中期計画を策定しました。そこで、本当に「ユーザーから愛される、使い続けられるプロダクトを作っていこう」「プロダクトの力で事業を伸ばしていくぞ」という意志が示されたことは、リブセンスが変革していく上で非常に大きな意味を持っていると思っています。
やるべきことは山積みで、まさに今僕たちは目の前の課題に全力で取り組んでいるところです。ただ、ここから先に待っているのは、間違いなくワクワクするような面白い変革になると、強い確信を持っています。
以前はマーケットをいかに横串でがっちり抑えるかという視点が強かったのですが、これからは、今まさにサービスを使ってくれているユーザーを徹底的に理解し、ユーザーの抱える問題の本質的な解決を図るという、縦軸で深く掘り下げる視点を磨いていく段階に入ったのです。
そこで求められるのは、PdMでもなくマーケターでもない、P&Mという新しい職能だと考えています。今まで以上に、その存在意義が問われることになるでしょう。
今回はリブセンスにおける、PdMとマーケターが1つの職種であることの意味を見てきた。2人の話を聞くと、ユーザーと真剣に向き合えば向き合うほどに、マーケターはPdMの領域へ、PdMはマーケターの領域へと自然に踏み出したくなるのだと実感させられる。
似て非なる2つの仕事を1人でこなすということは、「セットであるべき」と口でいうほど容易なことではない。しかしそれだけに、PdMだけ、あるいはマーケターだけを経験してきた人よりも、P&Mという職種を経験した人材の市場価値は間違いなく高くなるはずだ。
読者の中には、PdMとして、あるいはマーケターとして日々奮闘している人もいるだろう。普段仕事をする中で、両者の仕事には重なる部分があると感じている人がいるのではないだろうか。そんな人は、一度リブセンスの話を聞きに行ってみると良いだろう。自身のキャリアを見つめ直し、新たな可能性を切り拓くヒントが見つかるかもしれない。
こちらの記事は2024年05月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
畑邊 康浩
写真
藤田 慎一郎
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