FastGrow厳選7社──教育業界を変革するのはどこか。今注目のEdTechスタートアップ特集

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今、若い世代を中心にEdTechへの注目が集まっているのをご存じだろうか。

様々な教育(Education)現場の課題をテクノロジーの力で解決する領域だ。学校教育を支援するもの、生徒を指導する教師や学校組織を支援するもの、他にもプログラミングや英会話など、各教科をオンライン上で学習できるようにするものもEdTechの一種だと言える。EdTechの市場規模は2023年でも3,000億円程度であり、約2.5兆円と見られている教育産業全体の規模からすればまだまだ少ない

しかし、大学生向け学習管理SNS『Penmark』を運営するペンマーク社が、2023年6月にZ世代スタートアップ就職 意識調査を行った結果、今の大学生達がもっとも注目するスタートアップはEdTechだ。また、日経クロストレンドが調査した、「今後伸びるビジネス」2023年下半期ランキングでは、テクノロジー部門の将来性においてEdTechが1位を獲得している。

若い世代を中心に注目を集めている理由。ひとつには、学校をはじめとした教育現場での人手不足があげられるだろう。若者は今まさに教育を受けていたり、最近まで教育を受けていたりと、教育を身近な自分ごととして感じやすいことも影響しているのかもしれない。だが、それ以上に若者を惹きつけているのは、教育の可能性ではないだろうか。

外国人とコミュニケーションが取れたり、これまでにないサービスを発明したり、教育によって得た知識は自分をこれまで触れたことのないまったく違った世界へ連れていってくれる。また、教育によって価値観も形成されていく。たとえ同じ人間であっても教育方針が違う国で育てば、まったく別の人間になるだろう。インターネットを通じて世界中のあらゆる情報に触れられる今、若者たちは自分たちが受けてきた教育とは違った、新しい形の教育への興味。そしてその教育によって生まれる可能性に期待しているのではないか。

我々FastGlow編集部は、今の時代を読み解く鍵がEdTech市場にあると感じている。そこで今回、注目すべきEdTechスタートアップを7社をピックアップし、業界の最前線を紐解いていく。

  • TEXT BY ENARI KANNA
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学校・塾・リスキリングetc.多様なアプローチで教育を変革しようとする企業群

学校教育はEdTechの根本であり、もっともイノベーションを求められている部分であるのは間違いないだろう。しかし、EdTechが向き合うEducationは学校教育だけではない。大事なのは、EdTechはこの国の“教育の課題”を解消するためにあるのであって、“学校教育の課題だけ”を解消するのではないということだ。

Educationという言葉を単なる教育と捉えず、「人が持つ能力の開発」や「潜在能力を引き出すこと」と捉える人もいる。学校教育以外でも、この国の教育を変えていくことは可能なはずだ。いや、むしろ“教育の課題は学校以外を変えなければ変わらない”という発想もできなくはない。

学校教育以外の教育といえば、多くの人が真っ先に思い浮かべるであろう老舗が、学研とベネッセだ。教育に取り組むことは共通していながら、この2社の教育に対するアプローチはまったく異なっている。

出版コンテンツ力と全国一の塾・教室グループを擁する学研に対し、ベネッセが取り組んできたのは通信教育だ。

顧客IDを利用したマーケティングに強い企業でもある。直近の経営戦略も対照的だ。ベネッセが上場廃止を行った上で、デジタル化を含めたドラスティックな経営改革を行う一方で、学研ではデジタル化を加速させるための企業であるGakken LEAPを設立。外部からのタレントの取り込みを行い、着実にデジタル化を進めていく方針だ。EdTech業界を席巻するのは、学研かベネッセか、はたまたまったく別の会社か。

以降は、先述の学研グループから生まれたGakken LEAPを皮切りに、エンターテイメントと学習を融合させ、学生のプログラミング教育に取り組むライフイズテック、学校教育以外の場所で教養を高める場として期待される塾などの教育機関と向き合うPOPERとアタマプラスなど、まずはEdTechの本丸といえるスタートアップを紹介しよう。

そして、プログラミングのテックピット、ゲーミフィケーション×AIのDuolingo、歴史という観点から日本人の社会的教育を促すCOTENと、注目のスタートアップが続く。ぜひ楽しんで読んでほしい。

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Gakken LEAP──教育コンテンツの編集者とエンジニア、そして事業家人材らが手を組み、教室事業に切り込み、リスキリング領域にも進出

日本の教育を率いてきた学研グループが、EdTechに2020年頃から本格的に取り組みはじめたのは先述の通り。これまでIT・デジタルには取り組んでこなかった同グループの、IT・デジタル化を強力に推し進めるべく設立されたのがGakken LEAPだ。

教育というと、少子化や物価高による家計の圧迫など、逆風も吹いているように感じる。しかし同社の代表である細谷氏は、過去2回のインタビューで「私は楽観主義者なので、教育業界は今後飛躍的に拡大していく可能性があると思っています」、「実際に、2023年10月の家計調査では、それまで減少傾向だった教育出費が前年同月比プラスに反転しました」と語っており、まったく悲観していない。明るい見通しばかりではない社会に生きるからこその危機感が醸成され、学習への意欲が高まるのではないかと考える。今後教育が大きく飛躍していく可能性を見据え、Gakken LEAPの成長を力強く牽引しているのだ。

Gakken LEAPが目指すのは、学研グループの長年の知見を武器に、子どもや大人など年齢に関係なく、日本の教育の残すべき部分は残し、変えるべき部分は変革し、多様化するニーズを満たすこと。具体的には、教育コンテンツのデジタル化や、ユーザー向けサービスにデジタルを活用して、より教育の質を高めていこうとしている。

参考書や問題集など学生向けのコンテンツを多く世に出してきた印象のある同グループだが、Gakken LEAPの設立を機に、学研グループが手がける教育・医療福祉事業の分野でDXに取り組むとともに、これまで取り組んでこなかった大人向けの事業にも着手している。2023年にはその一環として、自社プロダクトである『Shikaku Pass』をローンチ。ファイナンシャルプランナー2級・3級や基本情報技術者、ITパスポートの資格取得に向けた学習ができるサービスで、最大の特徴はコンテンツづくりのプロである編集者たちとデジタル領域のプロであるエンジニアたちが力を合わせて作った点にある。

リリース当時に学習できたのはファイナンシャルプランナー3級と基本情報技術者のみだったが、現在は先述の4講座に増えており、2024年春~夏には「TOEIC」「韓国語」「宅建」「AWS」の講座もスタートする予定だ。

『Shikaku Pass』は、中期経営計画にも掲げられている「リカレント・リスキリング領域の強化」に向けて重要なプロダクトであるものの、ユーザーは40〜50代の男女と学校に通う子どもがいることが多い年齢層が中心で、これまでの顧客層と似通っている。今後、学校を卒業して以降は学研の教材から離れているであろう20〜30代の利用をいかにして伸ばしていくかが課題だ。

このように、リカレント・リスキリング領域ではまだ手探りの状況だが、長年積み上げてきた知見とデジタルが結びつくことで、計り知れない可能性が生まれることも期待できる。学研では、もともと「ワクワクしながら学べるコンテンツづくり」を得意としてきた。これをデジタルと組み合わせることで、ユーザーに喜ばれているポイントや、逆に離脱されやすい箇所のデータを得つつ、高速でコンテンツの質を高められるようになるのだ。これにより、今までとはまったく違った形のコンテンツが生まれるだろう。

リカレント・リスキリング領域は、多くのサービスが誕生している群雄割拠の状態ではあるが、まだ明確な勝者は登場していないといえる。もしかすると、Gakken LEAPがその栄冠を手にする日は遠くないのかもしれない。教育業界の老舗はいかにして教育業界を変えていくのか、長年の叡智をもとにどんな新しいプロダクトを生み出すのか。日本のEdTechのゲームチェンジャーとなりうるGakken LEAPに、今後も注目したい。

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ライフイズテック──教育とエンターテイメントを融合させたEdTechの立役者

日本のEdTechを語る上で外せないのが、ライフイズテックだ。2021年、シリーズDラウンドとして、海外機関投資家から約20億円、株式会社クレディセゾンから約5億円の投資を受けた。この資金調達により、累積調達額は55億円に達している。

小学校では2020年度、中学校では2021年度、高校では2022年度よりプログラミングが必修化された。社会でも技術的な知見の重要度が日増しに高まっているが、学校でもこれまでの5教科に加えて、プログラミングの教育が重要なものとなりつつある。同社はその学校に通う子どもたちを、メインターゲットとしてプログラミング教育に取り組んでいる。

ライフイズテックの特徴は、ディズニーとコラボした教材「テクノロジア魔法学校」に象徴されるように「楽しむ」を重視していること。

『「教育×IT×エンターテイメント」で、子ども達の未来を変える!』との言葉を掲げ、中高生を対象としたサービスを軸に、楽しく学べるプログラミング教材を提供する。「ユーザーが夢中になって学べる体験」を表す「ラーニング・エクスペリエンス(LX)」を重視し、単なるゲーミフィケーションにとどまらないエンターテイメントとの融合を目指している点が他社との大きな違いだろう。

また教材だけでなく、3〜5日かけて行うキャンプでの学習も提供しているのもユニークなポイントだ。これらのサービスにより、子どもたちは勉強に苦痛を感じることなく、むしろワクワクしながらプログラミングに関する知見を獲得できる。

こうした楽しさ重視のプロダクトが生まれるきっかけとなったのは、子ども向け職業体験テーマパーク『キッザニア』だった。このテーマパークが人気となっていくのを見て、代表の水野雄介氏は、「こうした新しい教育の形が求められているのかもしれない」と感じ、そこから発想を広げていったという。水野氏はもともと、教育に関心が高かった。そして次第に「日本の教育全体を変革したい」と考えるようになり、ライフイズテックの創業に至った。

教育と一口にいってもさまざまな分野があるなかでプログラミング教育を選んだのは、「スポーツが得意な人や成績のいい人だけでなく、技術的な知見が高い人も憧れられる文化を作り出せば、子どもたちの未来はより明るくなる」と考えたからだ。創業当初はキャンプ事業をメインに行っていたが、2014年に主軸をオンライン教材に移し、現在に至っている。

今後は、2019年に進出を果たしたディズニーの本拠地であるアメリカを起点に、グローバル展開にも取り組んでいく予定だ。現在はガーナなどの国への進出を計画しているという。世界には日本とは比較にならないほど、教育格差の大きい国も多い。この格差をプロダクトで埋めていくのが、ライフイズテックの野望だ。日本初のスタートアップが世界の教育格差を埋める未来が来るかもしれない。

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POPER──教育そのものではなく、教育に専念できる環境作りに取り組む

教育の舞台は学校だけではない。「文部科学省 令和3年度 子供の学習費調査結果」によると、公立中学に通う中学生の約7割が塾に通っている。POPERでは、そんな子どもの教育に大きな影響を及ぼす塾に対し、先生たちが教育や生徒とのコミュニケーションに専念できる環境をつくるためのサービスを提供している。

EdTechと聞くと、エンドユーザーである学習者に対してのサービスを思い浮かべる人が多いのではないかと思う。実際に、EdTechに参入するプレイヤーの多くが取り組むのもその領域だ。現在は類似サービスを提供する企業もあるが、なかなか目がいきづらい教育者の環境に、最初に目をつけてサービスを開発したことが同社のユニークな点だといえるだろう。

教育者が教育に専念するためのプロダクト作りに取り組んだ理由には、代表の栗原氏自身の経験が影響している。友人からの誘いで塾を立ち上げ、経営だけでなく講師としても働いた。そのなかで、紙の出席簿での出欠管理や、手書きでのテスト結果の記入などのアナログさとそれが講師たちに強いる負担を身をもって感じた。

また、塾の提供価値が、ただ知識を生徒に身に付けさせることだけではないことにも気づいた。以前、FastGlowの取材に栗原氏はこう答えている。「学習塾を経営するなかで、思ったんです。生徒が塾・予備校に来てくれるのは、『この人に教わりたい』と信じられる教師がいるからだと。知識の伝達そのものではなく、教える人が果たしてくれるコーチング機能こそが価値なんです」

この経験から、講師の行う業務をシステム化することで教育を授ける側を支援しようと考えた。

こうして出来上がったのが、生徒管理や保護者とのコミュニケーション、勤怠や経理まで一貫して効率化できるサービスを提供するComiruだ。ローンチ当初はまったく契約につながらず、契約につながったのは1社のみ。しかし、その1社からフィードバックをもらいプロダクトを成長させていった。そして時とともにほかの企業からも利用してもらえるようになり、現在は塾だけにとどまらず、習い事教室でも導入されている。

そして2022年11月15日に東証グロース市場への上場も果たし、24年10月期の経常利益は前期比84.8%増を見込むなど、成長を続けている。たしかに、教育現場にはアナログな作業が多く残っている。それは裏を返せばシステム化で生み出せるインパクトが非常に大きいということだ。POPERのサービスにより教育者が教育に専念できるようになれば、その教育を受ける子どもたちはこれまで以上に大きく羽ばたき、そのなかの誰かが世界を変えるようなイノベーションを起こす、そんな可能性もある。POPERの取り組みが巡り巡って何を引き起こすのかに、注目したい。

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atama plus──AIを使って、生徒の学習と先生のリソース配分を最適化。この相乗効果で学習の効率化を目指す

同じく塾を舞台としながらも、POPERとは対照的に学習そのものの効率を高めることに強くフォーカスしているのがatama plusだ。同社は、AIを用いたラーニングシステム『atama+』を提供している。

同プロダクトは、目標や弱点、強み、過去の学習歴などからパーソナライズしたカリキュラムを生成し、学習者の学びをサポートするものだ。これにより、効率的な学習を実現する。しかしatama+の機能は、これだけではない。生徒の学習状態を先生がリアルタイムで把握でき、問題を解くのにいつもより時間がかかっていたり、解き方がわからずに手が止まっている生徒を的確にサポートできる。またサポートを勧めるアドバイスもAIから送られるのだという。

AIが先生の役割を完全に奪うのではなく、先生リソースを適切に配分することにAIを活用し、教育の質を高めようとしている点がatama+の特徴と言えるだろう。手段はまったく違うが、「先生がもっとも価値を発揮できる状態」の実現に取り組むという点では、POPERとの共通項も感じられる。

また、atama plusはただプロダクトを提供するだけでなく、直営塾の運営にも取り組む。現在はオンライン塾のほか、長野県内に3校を構えている。代表の稲田氏は、以前FastGlowのインタビューにて「生徒のモチベーションを上げるためには、『良い教材、良い人(コーチ)、良い場(教室)』の3つを揃える必要があります。我々は、学習塾と提携しながらその全ての組み合わせを実現しています」と話していた。

この「良い場」作りに、自らが乗り出した形だ。テクノロジー一辺倒ではなく物理的な場を重視していることも、同社の特徴のひとつと言えるだろう。この思想は、500坪の広さにもかかわらずワンフロアで、かつ人工芝が敷かれたオリジナリティの高い「Park」と呼ばれるオフィスにも表れているように思う。

こうしたユニークさゆえか、創業まもない頃から注目を集めていた。atama plusが創業したのは2017年。そこから2年あまりで調達した資金は総額20億円。その後も順調に発展を続け、2021年にはシリーズBラウンドにて約51億円の資金調達を実施。シンガポール・テマセク・ホールディングス傘下のPavilion Capital、米運用会社大手であるT. Rowe Priceなどから投資を受け、累積調達額は約82億円となった。

atama plusが学習の効率化の先に目指すのは、効率化によって余った時間で子どもたちが思考力やプレゼン力、コミュニケーション力などの「生きる力」を高めていける状態だ。atama+で基礎学力を身に付けた先の「生きる力」の向上へも今後取り組んでいく予定だという。

子どもたちが、基礎学力だけでなく社会人としてのスキルを身に付けた状態で社会に出るようになれば、企業の成長に寄与するのはもちろん、一人ひとりの仕事への充実感も高まり、飯田氏の目指す「笑顔の総量の多い社会」にもつながるだろう。現在は閉塞感を感じることも多い日本社会がatama plusの教育改革でどう変わるのか、10年後20年後が楽しみだ。

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テックピット──現役エンジニアが作った問題で技術力を高められる。エンジニアtoエンジニアサービス

ここまでは学生の学びにアプローチするものを中心に紹介してきたが、学生への教育だけでなく、社会人の学びにも近年注目が集まっている。なかでも、DXが叫ばれる現代ゆえかプログラミングなどのIT領域の学びに取り組む人が増えている印象である。こうしたなかで学ぶ側だけでなく、現役エンジニアからも人気なのがテックピットだ。

同サービスは、現役エンジニアが作った問題でプログラミング学習ができるというもの。売上に応じて還元が行われる仕組みが敷かれており、学習者からだけでなく、エンジニアからも副業として支持されている。テックピット側で教材は作らずシステムだけを提供し、CtoCモデルを敷いていることが大きな特徴だ。現役エンジニアが出題する実務に則した問題で学べるとあって、「実務レベルへ成長するのに最適だ」とプログラミングの基礎を習得した人に使われることが多い。

自社で教材を提供せず「エンジニアがエンジニアを育てるエコシステム」を作った背景には、代表である山田氏のインドでの経験があった。世界有数のIT大国として知られるインドでは、エンジニアが医師や政治家と並んで三大エリートとされている。そのため、小学生でもJavaの教科書を読んでいるのが当たり前の光景だったのだ。それに対して、日本のプログラミング教育のスピード感はまだまだ遅いのが現状だ。特に、基礎を習得したあとの実践を学べる場所がないと感じた。そこでプログラミング教育を加速させるために、世のすべてのエンジニアが新しいエンジニアを育てるシステムを作ろうと考えたのだ。

2018年10月の正式ローンチから1年後には3,000万円の資金を調達。こうした支援を糧に成長を続け、ローンチから5年を迎えようとしている現在では、リスキリングを行いたい大手SIerや上場企業にも導入されているという。そんなテックピットが今取り組んでいるのが、エンジニアの職種やレベルごとに必要なスキルを明確にする「スキルの定義」だ。このスキルの定義を成し得た企業こそが、リスキリング領域のリーディングカンパニーになる、と山田氏は考えている。

「必要なのは、職種やスキルを定義して、さらにそれを常にアップデートしていく仕組みをつくることです。ここの基準さえとれてしまえば、求人サービスにも教育系サービスにも展開していけますから」と以前のインタビューで話していた山田氏。求められるスキルがあっという間に変わる領域ゆえにハードルは高いが、その分これを実現できれば、他業種だけでなく海外への展開も夢ではない。

インドのプログラミング教育に衝撃を受けて起業した山田氏が、逆にインドや世界のプログラミング教育に変革を起こすこととなるかもしれない。果たしてテックピットは「スキルの定義」を成し遂げるのか。今後も動向を追っていきたい。

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Duolingo──ゲーミフィケーション×AI。世界最大級語学アプリの挑戦

社会人の学びとしてプログラミングと双璧をなすのが語学だ。「総務省統計局 令和3年社会生活基本調査」によると、なかでも英語学習は人口の1割程度、つまり1,200万人以上が学習している。一方で、英語と日本語は言語としての共通点が少なく、日本人には苦手意識を持つ人も多い。

そんな人々の助けになるのが、英語を楽しく学べるアプリケーションだ。生成AIを使った国産英会話アプリ「スピークバディ」など、数多くのサービスがリリースされている。なかでも最大級のユーザー数を誇るのが米国発のアプリ・Duolingoだ。世界最大級のシェアを持つ語学アプリである同サービスは世界中にユーザーを持ち、月間アクティブユーザーは世界で約7,500万人、日本だけでも2,000万人を超える。

報酬が与えられたりほかの学習者との競争があったりと、ゲーミフィケーションが徹底して行われていることがDuolingoの一番の特徴だ。また、一般的な文章だけでなく「Your bear drinks beer(あなたの熊はビールを飲みます)」といったコミカルな文章も織り交ぜられており、単調な学習ではなく、楽しみながら学べるようカリキュラムも工夫されている。この楽しむことを重視する姿勢は、創業者兼CEOのルイス・フォン・アーン氏自身が言語を学ぶ過程で「語学学習を続けることの一番の障壁はモチベーションの維持」だと、痛感した体験から生まれている。

OpenAIのGPT-4リリースと同日に、GPT-4を活用した新機能を含んだ新たなプラン「Duolingo Max」をリリースするなど、生成AIの活用にも積極的だ。日本ではまだ非対応であるものの、この新プランでは、AIとロールプレイを行ったり問題を間違えた理由を解説してもらったりすることも可能なのだという。このロールプレイでも、想定外のハプニングが起きるなど飽きさせない仕組みを取り入れている。

https://www.lifehacker.jp/article/2309-duolingo-ceo-interview/

またルイス氏は、教育の不平等を解消したいという想いも持っている。日本にいると分かりにくいが、世界にはお金を持っている人はよりよい教育を受けてさらに富む一方で、貧しい人は裕福になるための教育を受けられずに貧しいままになってしまうという現状がある。こうした社会を見てきたルイス氏は、それを打破して誰もが平等に教育を受けられる社会を目指しているのだ。そのため、Duolingoは無料でも最後までカリキュラムをこなせるように作られている。

今後は2つの面から教育の平等化を進めていく計画だ。ひとつは、Duolingoだけで英語を使った仕事ができるようになるところまでカリキュラムのレベルを上げていくこと。もうひとつは、物理や音楽などの語学以外の領域にも手を広げていくことだ。

いつかDuolingoひとつで、どんな言語もどんな学問も学べるようになるかもしれない。現在のDuolingo=語学というイメージが、Duolingo=何に変わっていくのか今後の変遷に注目したい。

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COTEN──金銭的利益を目的としない資金調達を実施。歴史のデータベースづくりを加速させる

COTENは、世界史データベースの開発に取り組む企業だ。世界史データベースはまだ公開に至っておらず開発途中であるものの、昨年には株式会社ドーガン・ベータ及び株式会社丸井グループなどから1.2億円の資金調達を行うなど、すでに投資家からの注目度も高まっている。

また、同社の運営する「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」のリスナーや、聴いたことはなくとも名前を耳にしたことのある人は読者にも多いのではないだろうか。同ラジオは、2019年には「JAPAN PODCAST AWARDS 」にて大賞およびSpotify賞をダブル受賞し、2023年4月17日時点で約22万人のユニークリスナーを持つなど、人気のコンテンツだ。この取り組みにより、普段スタートアップに馴染みのない層からも認知を獲得している。

COTENの取り組む世界史データベースは、人類のこれまでの歩みをデータベース化することで、歴史からの学びや教訓を万人が得られる状態を作るために開発されている。そしてこのデータベースを通じて、ミッションである「メタ認知のきっかけを提供する」ことを目指す。こうした事業は、代表である深井氏の「人類のこれまでの営みを知ることは、すべての人の意思決定をより良いものにできるはずだ」という熱い想いから生まれている。

教育系の事業は、就職や報酬につながりやすい語学や資格取得、スキルアップなどに関する比較的効果が見えやすいものが多い。そんななかで、人類にとっては重要であるものの、短期的な成果が見えにくい人文知にアプローチするという事業内容はユニークだ。

ただそれだけではなく、会社としてのあり方も興味深い。先述した資金調達はその最たる例と言えるだろう。この資金調達は、金銭的利益を目的とせず行われた。理念への共感を得た投資家からのみ投資を受けたのだという。

こうした従来とは異なりポスト資本主義的とも言える理念共感による資金獲得は、COTENの取り組みに共感した個人や企業からの投資を受ける「COTEN CREW」と呼ぶサポーター制度などでも行われている。

事業内容に資金調達に、COTENの取り組みは、これまでに前例のないものばかり。だからこそ、この取り組みがどんな未来を生むのか未知数だ。世界史のデータベースを人類が手に入れる日はいつになるのか、そしてそれがどんな社会変化を引き起こすのか。その社会変化を目の当たりにする日を、楽しみに待ちたい。

こちらの記事は2024年03月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

えなり かんな

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