飲食店経営は味でなく認知が先!
デジタルマーケでもっと外食産業は成長できる
インターネット広告などデジタルマーケティングに取り組もうとすると、知識だけでなく多くのコストと時間が必要になる。
これらのマーケティングを分かりやすく、またパッケージ化して飲食店向けに提供している企業が株式会社favyだ。
同社のサービスは、単純なデジタルマーケティングを越え、日本の外食産業における既存のビジネス構造を変容させる可能性を示している。
- TEXT BY KEI TAKAYANAGI
- PHOTO BY HIDEYASU SUZUKI
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
飲食業界はデジタルを拒絶する
外食をする時に、どのような手段で店舗を探しているだろうか。最近は、食べログなどインターネット上のサイトを利用して新しい店舗を見つける機会が多いかもしれない。また、GoogleやYahooなどの検索エンジンに「新宿 焼き肉」といったキーワードを入力して、出てきた店舗をチェックする場合もあるだろう。
この検索エンジンを使って店舗やモノを探す際に、検索結果の上部に「広告」をいう見出しと共に表示される「リスティング広告」は、近年、あらゆる分野でマーケットを広げていくために活用されている手法だ。
1兆円規模に達したと言われるインターネット広告市場において、リスティング広告は大きなシェアを占めているが、一方で前述の「新宿 焼き肉」というキーワードでは広告が表示されない。
「リスティング広告に限らず、インターネット広告における飲食店業界の動きは、他の分野に比べ活発ではありません。これはインターネットやデジタルマーケティングのリテラシーの問題よりも、この業界特有の気質も影響しているのではないでしょうか」と語るのは、株式会社favy(ファビー)代表取締役社長の髙梨巧氏。同社は、インターネットを用いた飲食市場マーケティング支援を軸にサービスを展開する企業だ。
髙梨私を含めた弊社コアメンバーの半数は、もともと飲食関連ではなく、ネットマーケティング分野に携わってきました。
2002年にGoogle AdWords(Googleによるクリック課金広告サービス)が日本に上陸して15年以上経ちましたが、飲食業界におけるインターネット広告へ対する遅れは、拒絶反応とも言えるかもしれません。
日本の飲食店は、美味しいものを作って、それが少しずつ周知されていき、市場における信頼感を地道に築いていくことが正しいという文化が根底にあると感じます。
もちろん、サービスや料理の質は、修行や日々の研鑽によって磨かれるもの。しかし、その一方で、マーケティングなどのビジネス的な努力はあまり評価されない。
料理人は長い下積みを経て独立をするケースが多いが、そこで培われた職人的気質が、提供しているモノで評価されることが美徳とされる文化を形成している一因だろう。
髙梨レベルが高い飲食店がひしめき合う都市において、新しく店舗を開く人や、市場を拡大していきたいと考えている中小規模店のオーナーが、既に地位を確保している老舗や巨大なブランドと同じステージで戦わなければいけないという決まりはありません。
新しいコミュニケーションやマーケティングを活用して、別次元のポジションをつくっていくことが重要だと思います。
味より認知が成功店への第一歩
現在、同社ではエンドユーザー向けに「favy」という食の検索とキュレーション的な提案を行うメディアと、「飲食店サポート」という飲食業界支援メディアを運営している。
一般向けのfavyは、ラーメンや肉、バーといったテーマでセレクトした複数の店舗をまとめた特集記事や、新店舗の魅力をアピールするPR記事などによって、単純な店舗検索では届きにくかったユーザーへの情報発信を実践している。
一方で、飲食店サポートは、「飲食店向けITサービス」「集客のアイデア」「食材のご紹介」「開業・経営ノウハウ」といったコンテンツにより、飲食店経営者の悩みの解決やアイデアを生むプラットフォームとして機能している。
そして、これらのメディアと並行して、同社ではより具体的かつ実質的な支援サービスを複数展開している。その一つが、同社が持つデジタルマーケティングのノウハウと、インターネットメディアで蓄積してきた情報を活かし、インターネット広告や店舗のウェブサイトなどをまとめてコンサルティングするサービスの提供だ。
髙梨飲食店がデジタルマーケティングを本格的に取り組もうとすると、やるべきことがたくさんあります。
ホームページやランディングページの作成、CRM(顧客管理)、DMの発信、リターゲティング広告といった見込み顧客へのアプローチなど手掛けるべきことが多岐にわたり、一つひとつ構築していこうとすると数千万円の費用が必要となることもある。
これらのデジタルマーケティング手法をパッケージにして、定額で提供することで、大きなコストがかけられない個店のオーナーなどを支援できればと考えています。
外食ビジネスをハックする
今年3月には、シェフが企画した食に関するイベントとユーザーをマッチングするプラットフォーム「ReDINE(リダイン)」がスタートした。同サービスは、390店の店舗を運営する株式会社subLimeと連携し運営される。
シェフからは料理やコンテンツの提供、飲食店からは場所の提供、協賛企業からは訴求した商材が提供され、参加者からの売上がそれぞれに循環する仕組みだ。最近、ニューヨークを中心に話題となっている、店舗を持たずに様々な場所でシェフが腕を振るう「ゴーストレストラン」のトレンドにもフィットするシステムだ。
髙梨多くの飲食店が、店舗で食事を提供して飲食代を利益とするという一つのキャッシュポイントだけで成立させようとしているのが現状です。
しかし、営業時間外はもちろん、外的な要因でお客さんが来なければ収入が得られず、更に維持費でマイナスになってしまうという課題があります。
ReDINEは、独立希望のあるシェフや、イベントを通して新しい顧客へのアプローチをしたいシェフと、休業日にも売上を確保したい飲食店、自社の商品やサービスをイベントによって参加者に発信したい企業それぞれをマッチングする、新しいマーケティング・チャネルとしての機能が期待される。
また、同社では複数の「定額会員制飲食店」を直営している。定額会員制飲食店は、その名の通り、月会費、年会費を設けて食事を提供する店舗のこと。新宿にあるコーヒースタンド「coffee mafia (コーヒーマフィア)」では、通常メニューの他に月額3000円、6500円のコースがあり、会員であれば一部の商品を0円や低価格で手に入れることができる。
その他には、会員しか予約できない住所非公開の焼かない焼肉店「29ON(ニクオン)」が注目を集めている。
髙梨定額会員制の飲食店のメリットは、季節や天候に売上が左右されず、経営の安定につながる点です。
会員は、せっかく会費を払っているからという心理によって、来店する機会が増える。その結果、常連客が多くなり、相手に応じた質の高い接客などを提供できるようになる。
また、会員との関係性を強化していくことで、クロスセル、アップセルの売上を生み出せる可能性があります。
これらの店舗は、B to Bでサービスを提供しているクライアントとの競争相手としてではなく、新しいビジネスモデルやサービスの効果検証を行う場としての目的がある。これらの定額制店舗での経営のノウハウを活かし、定額制店舗の経営を模索するオーナー向けのサービスもスタートしたばかりだ。
髙梨先人たちの努力により、美味しくない店はないと言えるほど、日本の飲食店業界は成熟しています。
一方で、お客さんが来店する理由は味だけではありません。テレビで見た、ネットで話題になっていた、家族や友人が教えてくれたなど、『美味しそうだから行ってみたい』という印象的なものに左右される。
認知から比較検討のフェーズを経ないのが特徴です。それは食は1日に数回必要になるもので、日用品やペットボトル飲料のような消費財的な側面もあるからでしょう。
飲食店もデジタルマーケティングによって、来店誘導を促すことが可能で、それはズルいことではありません。
サービスや味が評価され、多くのリピーターを獲得することは大事ですが、新しく飲食店を始める人が同じ道をたどっていっても成功するとは限らない。
競争の激しいなかで生き抜くために、まず認知をさせることにも注力してほしい。
売上の面から考えれば、リピーターも初めての来店者も同じであり、その来店者の気持ちを掴み、評価を得るのはその後の店側の努力次第だ。しかし、そのきっかけすら得られないのであれば、店舗経営を継続していくことは難しい。
高梨氏の言葉を借りれば、デジタルマーケティングの活用は“ズル”ではなく、ビジネスにおける“努力”の一つであり、自店舗の価値をより多くの人に届けるための第一歩といえる。
こちらの記事は2018年03月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
高柳 圭
写真
鈴木 秀康
編集
海老原 光宏
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