SDGs人材が、理想のキャリアになる?
注目ベンチャー役員たちが語る、最先端の事業価値創出法

登壇者
酒井 里奈
  • 株式会社ファーメンステーション 代表取締役 

富士銀行、ドイツ証券などに勤務。発酵技術に興味を持ち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、09年3月卒業。同年、株式会社ファーメンステーション設立。研究テーマは未利用資源からのエタノール製造、未利用資源の有効活用技術の開発。好きな微生物は麹菌。好きな発酵飲料はビール。東京都出身、 ICU卒業。

松浦 悠介

一橋大学卒業。学生時代4社のベンチャー企業でのインターンを経験。新卒初のテクニカルトレーナー職として、外資系IT企業のVMwareへ入社。2018年11月、ビビッドガーデンに入社。マーケティング統括として「食べチョク」のグロースを担当、社内初のテレビCM放映プロジェクトの全体統括。2021年2月より取締役。

東海林 園子
  • オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部 新規事業開発準備室 グリーンプロジェクト責任者 

短大卒業後、食品会社の商品企画開発を経て、2006年にらでぃっしゅぼーや(当時)にマーチャンダイザーとして入社。らでぃっしゅぼーやのミールキットや、世界各地の料理をご自宅で楽しめる「おうちで旅気分」などの立ち上げを行う。2018年のオイシックス・ラ・大地との経営統合後、2019年よりらでぃっしゅぼーや商品本部長を務め、2021年1月よりグリーンプロジェクトのリーダーに着任。

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年間600万トンもの食品が捨てられていることをご存知だろうか?国民一人あたりに換算すれば、毎日お茶碗1杯分の食料にあたる。

既存流通から外された食品のなかには、いびつな形状や傷物であるといった理由で、まだ食べられるにも関わらず廃棄されているものがある。さらに、食品を扱う工場では、経営効率の視点から再利用できる食材の一部を廃棄にまわしている。

裏返してみれば、実は食品ロスの課題には多くのビジネスチャンスの可能性があるのだ。これらの課題にどう着目し、事業につなげるのか?

2021年7月に開催した「FastGrow Conference for Sustainability」。このセッションでは、「圧倒的ブルーオーシャンを切り拓け!社会問題解決を、事業拡大に結びつける思考法」をテーマに、食品ロスの削減からサステナビリティに取り組む3社に話を伺った。

登壇したのは、未利用資源の再生・循環に取り組むファーメンステーション代表取締役の酒井里奈氏、農家漁師から直接商品を購入できる産直通販サイト『食べチョク』を運営するビビッドガーデン取締役の松浦悠介氏、食材やミールキットの通販・宅配サービス『Oisix』を運営するオイシックス・ラ・大地株式会社経営企画本部グリーンプロジェクト責任者の東海林園子氏だ。モデレーターは、FastGrow Pitchの企画・運営や司会を務める久保里紗が務めた。

なお今回はイベントの模様を、文字起こし形式でお届けする。

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「未利用資源」の活用が当たり前になる社会を実現する

──本セッションでは、「圧倒的ブルーオーシャンを切り拓け! 社会問題解決を、事業拡大に結びつける思考法」をテーマにお話を伺います。

はじめに、自己紹介と事業内容について酒井さんからご説明をお願いします。

酒井簡単にファーメンステーションのご紹介をさせていただきます。

ファーメンステーションとは、「発酵の駅」という意味です。私達は「Fermenting a Renewable Society」というパーパスを掲げ、未利用資源が未利用資源でなくなる世の中を目指しています。世の中には使われていない未利用資源が非常にたくさんあり、それらを独自の発酵技術で価値を高め、新しく使えるものにしています。

私はこの「発酵」が非常に好きだったことから、勤めていた金融機関を辞めて農大に入り直し、起業に至りました。

ファーメンステーションは技術の会社として、世の中で使われていない溢れる資源を発酵・蒸留し、アルコールや様々な発酵物に変えています。それらを原料にするだけではなく、化粧品や日用品など皆さんが毎日使用するような身近な製品につくり変える事業を行っています。岩手に工場があり、製造工程では一切ゴミを出さない取り組みや、使用するエネルギーの削減、節水など環境にも配慮しています。

私達は事業を行う中で、事業性と社会性の両立が非常に大事だと考えており、製造工程では様々な原料から発酵・蒸留し、製品をつくるだけでなく、残った発酵粕も化粧品原料として利用したり、地域の鶏や牛の飼料にします。そこから卵が生まれ、クッキーなどのお菓子ができたり、お肉をいただいたりと、循環型の事業を地域の皆さんと一緒に行っているんです。

今日は食品ロスがテーマなので、どういった未利用資源を活用しているか、事例をいくつかご紹介させていただきます。

一つ目は、JR東日本スタートアップ、アサヒグループと一緒に取り組んだ事例です。シードルというりんごのお酒を製造する工程で必ず、りんごの絞り粕が出ます。これらは産業廃棄物になっていることがほとんどですが、私達にとっては宝の山なんです。醸造してアルコールをつくり、アロマ製品やウェットティッシュに使用するだけでなく、残ったカスをさらに牛の飼料にしています。つまり、最後は牛肉までいただくことになります。これらの過程を見学するツアーも実施しました。

二つ目は、ANAグループと規格外バナナについて取り組んだ事例です。流通の過程で傷んで捨てられてしまうバナナを活用し、同様に醸造するなどし、「お米とバナナの除菌ウェットティッシュ」という製品にしました。

その他にも、私達の事業の原点でもある休耕田を未利用資源と捉え、オーガニックのお米から様々な化粧品や日用品を製造しています。

例えば象印マホービンが炊飯ジャーを開発する際に、炊飯試験で余ったご飯を「試食ごはんの除菌ウェットティッシュ」という商品に変えたり、ゆずの搾汁残さや雑穀のヒエヌカを化粧品の原料にしたりするなど、未利用資源を原料化し製品にする取り組みを行っています。

酒井このように、開発・製造したサステナブルな原料を、化粧品メーカーに販売するだけでなく、自社ブランドでも化粧品として販売しています。それ以外にも、アパレルやメーカーに向けて製品を製造したり、大企業と事業をつくったりしています。

これらの活動を通して、未利用資源を様々な形で人々の生活に浸透させていきたいと思っています。ファーメンステーションは、まさに「駅」です。想いを共有する事業者さまと一緒に、未利用資源の活用が当たり前になる世の中をつくりたいです。

様々なベンチャーキャピタルからご出資いただき、現在は東京と岩手の2拠点で活動しています。さらにこの仲間が増えたら嬉しいなと考えながら事業に取り組んでいます。

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農家や漁師と“チョク”でつながり、一次産業をサポートする

──続いて、松浦さんお願いします。

松浦ビビッドガーデンの松浦と申します。生産者から直接商品をお取り寄せできるオンライン直売所『食べチョク』を運営し、一次産業の農家や漁師をサポートしています。

ビジネスモデルはシンプルで、『食べチョク』というアプリまたはwebサイトから注文。農家・漁師が直接梱包を行い、配送します。現在、全国から5000軒以上の農家や漁師が登録しており、毎月約300軒ずつ増えている状況です。扱っている商品は、野菜や果物、肉、魚、乳製品、加工品、お酒、お花などです。

特徴は、農家や漁師と“チョク”でつながれること。一般的に、私達はスーパーで商品を購入します。ご存知の通り、スーパーなど既存の流通経路は、様々な業者や市場を通してスーパーに商品が届きます。商品を作っている生産者は、何キロ何円と価格が決まるため、大量の商品をつくって出荷するのが一般的です。しかし、少し傷があったり、珍しいものだったり、こだわっていて何キロ何円より高い金額で売りたいものだったりと、流通から外れてしまう商品があるのではないかと思っています。

そこで新しい流通経路として、既存流通とは異なる商品を取り扱えないかと思い、農家や漁師が“チョク”で販売できる取り組みを行っています。価格も農家や漁師が自分で決めて販売できるので、食べチョクの手数料を省いた約8割の利益率が手元に残ります。

松浦また、従来の通販とは異なり、食べチョクは農家や漁師と直接メッセージのやりとりができます。「実際に食べた時にこういうふうにしたよ」「美味しかったよ」など感想を言えるだけでなく、「この野菜を初めて見たのですが、どうやって食べればいいんだろう?」と質問することもできます。逆に、農家さんや漁師さんが最近の畑や海の様子を投稿することもあり、本当に温かいプラットフォームになっています。

現在、事業は成長フェーズを迎え、直近1年間で流通額が42倍に成長しています。もともとは野菜のみを取り扱うサービスでしたが、途中から肉や魚も加わり、幅が広がって一次産業全体を中心に展開しています。

国内産直通販サイトとして、2021年に6つのNo.1に選ばれました。やはりこの市場自体が珍しく日常的に使われるものではないため、もっと広めていきたいと考えています。

また食べチョクを通して農家さんや漁師さんの月間最高売上が1500万円近くになっており、儲かる仕組みもつくれています。既存流通だけでなく、産直ECという新しい選択肢も活用できる産業にしていきたいです。

食べチョクはWebサービスのため、利用する農家さんや漁師さんもネットに慣れている人たちが多いです。もっと幅広い方に使ってほしいと思い、地域の農家や漁師がチームになって出品するサービス『ご近所出品』も行っています。先月、94歳のご高齢の方も販売を行いました。チームでご本人のこだわりを聞き、出品できる形に整えます。引き続き継続して幅広い方に活用できるサービスにしていきたいです。

また、SDGs文脈では、一般流通にはない珍しい食材や、規格外だが美味しい食材も多数取り扱っています。SDGsに関わる取り組みを行う生産者さんを紹介するためにSDGs特集を組むなど、発信を強めています。

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廃棄食品を再利用し、アップサイクル商品に生まれ変わらせる

──最後に、東海林さんよろしくお願いいたします。

東海林オイシックス・ラ・大地の東海林と申します。オイシックス・ラ・大地では、食に対する社会課題を解決するために、ビジネスを通していろいろな取り組みをしています。基本的には、食べチョクと同じように、ECマーケットで販売しています。

主要な事業は、野菜や果物などの食材やミールキットなどを宅配する『Oisix』、有機・低農薬野菜や無添加食品などを宅配する『らでぃっしゅぼーや』、有機野菜や自然食品などを宅配する『大地を守る会』の3ブランドです。その他にも、徳島にある移動スーパー『とくし丸』の運営や海外宅配事業も行っています。店舗外販事業では、保育園の給食に食材を提供する取り組みも行っており、約1万4000人の園児が当社の食材を使った給食を食べています。

オイシックス・ラ・大地は、事業そのものがSDGsだと考えています。SDGsが始まったからではなく、もともと生産から消費までつながっていることから、こういった取り組みをしています。

畑から食卓まで顔が見える環境をつくっており、直接契約している生産者数は約4000軒、定期契約会員数は約34万人います。生産者の方には、お客様が求める安心安全を指標化した当社独自の基準で栽培・生産いただいています。その基準を満たした有機・低農薬野菜の出荷量は約1万5000トンです。

またオイシックス・ラ・大地では、トマト生産者同士が集まって語り合うなど、生産者同士の勉強会の場を設けています。さらに、生産者とお客様の交流イベントとして、実際にお客様が畑に行ってさつまいもを掘るなどの体験も行っています。以前開催した際には約6250人の方が参加されました。なお、最近は新型コロナウイルスの影響で実施していません。

食品を扱う企業のため、環境への取り組みは当たり前に向き合わなければいけません。具体的には、食品ロス削減と廃棄プラスチック削減に努めています。川上に当たる生産工程では、従来であれば流通させにくい規格外の野菜を違った商品に加工してお客様にお届けしています。川下にあたる販売工程では、ミールキット『Kit Oisix』のパッケージを包装するためにたくさん使用している袋を、植物由来のプラスチックに切り替えました。

今日のテーマである、畑・流通・食卓に至るまでの「食品ロス撲滅」についてもお話できればと思います。

畑においては、規格外の野菜を加工してミールキットに使用したり、豊作で取れすぎた野菜を冷凍したりして、お客様に提案します。あるいは、新しく食品ロス撲滅のために始まった『ふぞろいRadish』では、見た目が通常のスーパーでは見かけないような“ふぞろい野菜”を価値として販売するようなご紹介も行っています。さらに今年7月から、普段食べない野菜を違う商品に生まれ変わらせるアップサイクル商品の取り扱いをはじめています。

物流に関しては、当社の努力が必要です。一般的には、流通食材のうち約5-10%は廃棄が生まれると言われていますが、オイシックス・ラ・大地ではサブスクリプションモデルを取り入れ、廃棄量約0.2%と大幅に低い数値を維持しています。

食卓では、お客様のご家庭でミールキットを活用し、必要な材料を必要な分だけ使うことで食品ロスを従来の1/3に削減しています。さらに、お客様の生ゴミを堆肥化してもらい、回収した上で生産者に戻す取り組みもしています。

東海林最後に、先ほど少し触れた「アップサイクル」についてご紹介させていただければと思います。アップサイクルとは、これまで捨てられていたものに付加価値をつけ、新しい商品にグレードアップさせることです。我々は7月8日から『Upcycle by oisix』を販売しています。スニーカーで有名なNIKEが様々なものとコラボしてアップサイクルを行ったり、震災時に使用したビニールシートを袋にしたりなど、様々なアップサイクル商品が最近は生まれてきています。その中で、我々はブレることなく「食」に向き合いたいと考えています。

背景としては、農水省の発表による日本の食品ロスが年間600万トン、うち事業系は324万トンと、約54%を占めており、重大な社会課題と捉えています。これらを解決するための提案として、「地球と身体にやさしい新しい食の楽しみ方を広げ、畑から食卓の食品ロスを減らし持続可能な社会を実現させる」ことをビジョンに取り組んでいます。

ブロッコリーの茎や大根の皮、食べたことありますか?ご家庭で工夫されて召し上がっている方もいらっしゃいますが、廃棄になることが多いですよね。食品事業者の加工現場においても同様で、ブロッコリーは上の部分が使われ、茎の部分は廃棄になっていました。また、漬物を製造する工場でも、大根の皮は処分されていました。これらの茎や皮をいただき、チップスに加工して、2021年7月から発売を始めました。こういった商品のご紹介をしています。

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商品のみならず、仕組みそのものもサステナブルに

──食品ロス問題に対して、それぞれ異なる観点からアプローチされていることが印象的でした。次にどのような背景から食品ロス問題に着目したのか、お伺いしていきます。松浦さん、いかがでしょうか?

松浦弊社は代表の秋元が創業し、5期目を迎えました。もともと秋元の実家が農家でしたが、廃業してしまったと聞いています。

一次産業の中の、例えば農業の構造として、農家自身が商品の値段をつけることはできないため、儲かるためには大量生産をしなければなりません。中・小規模の農家さんにとっては、ゲームチェンジが起きづらく、人によってはしんどいと感じてしまいます。この課題をなんとかしたいと彼女自身が思い、事業展開を考えました。

業界構造として難しい部分があるので、その改革に向けてアプローチするのが我々ベンチャーの役割だと考えています。

──ありがとうございます。東海林さんは、先程ECという点は食べチョクと共通している、とおしゃっていましたが、どのような観点からアプローチしているのでしょうか?

東海林もともと商品加工の開発をしていて、大きな工場に行く機会が多かったんです。食品は単価が安く、数を多く生産できる能力が重要視されています。ゴミはゴミとして処分したほうが経営の効率は良いのですが、生産者からしたら資産なんです。大事に育てた野菜がゴミとして扱われているのを目の前にして、どうにか価値に変えられないかと日頃から考えていました。そこからアップサイクル商品の開発につながりましたね。

──ありがとうございます。酒井さんは、どのような背景があって始められたのでしょうか?

酒井消費者としての視点が始まりかもしれません。金融で働いていた時に、何かのきっかけで生ゴミが世の中に溢れていることに対してイラッと来たんです。そこで、生ゴミの活用を考えた時に、バイオ燃料に変えられることを知りました。技術を学ぶために、発酵の勉強をしましたが、いざ生ゴミを燃料にしようと思ったところ価格が合わず、エタノールに変える技術だけが私のもとに残ってしまって。どう活用するか考えた末に、化粧品や日用品にたどり付きました。

すべての未利用資源をなんとかしたいという想いが一番のきっかけで、「こういうことをやりたい」と発信していました。そしたら、いろんな事業者や飲料メーカーなどが「活用できていない、こんなゴミがあるんですけど...」とお声がけくださって。ようやく念願の原料を手に入れ、最近は様々な食品ロスや、製造工程で出てしまう未利用資源を取り扱っています。

──ありがとうございます。続いて、サステナビリティという文脈において、どのように取り組まれているのか。東海林さんからお話を伺えればと思います。

東海林当社のビジネスモデルが、もともと会員制かつ生産者とは契約関係でつながっているという、この構造自体がサステナブルな活動を基準にした運営になっています。野菜の旬によっては豊作で大量収穫できるものがありますが、単に野菜としてお客様にお届けするだけだと、ご家庭で使いきれずゴミになってしまう可能性があります。また、その野菜をお客様が食べたいと思っているとは限らないので、別の価値に置き換える活動も行っています。

わかりやすいのがミールキット『Kit Oisix』です。野菜そのものではなく、メニューとして提案することによってお客様がメニューを考えることなく、たくさん野菜を取ることができます。また、生産者にとっては、つくった野菜をいい状態でお客様に食べてもらうことができ、結果的に食品ロスが減ります。

こういったサステナビリティの考え方を提案しているところが大きいかなと思います。

──商品の生産から消費まで様々な工夫が隠されているのですね。商品提供の文脈で、先程酒井さんがお話しいただいたことと近いかなと思うのですが、酒井さんはどのようにサステナビリティに還元しているのでしょうか?

酒井事業全体として、「サステナブルでありたい」と思っています。未利用資源を扱っている時点で何らかの活用はできており、サステナブルと言えるかもしれません。しかし、実はそれだけでありません。

例えば、りんごの絞り粕をエタノールにすると、そこでまた粕、残さがでるんです。カスのカス問題と言ったりもするのですが、製造工程全体でゴミを出さないように100%活用しています。また、元の製品よりも価値ある商品をつくらなければ単なる商品になってしまうため、続かないと思います。

先ほど東海林さんがおっしゃっていたミールキットのフィルムを植物由来にすることも素敵です。製造工程から製品提供まで全て徹底することで、サステナブルな製品であることが伝わってほしいですね。

──消費者としての課題感が大きく事業内容にも表れているんですね。松浦さんはいかがでしょうか?

松浦3社ともに共通すると思うのですが、SDGsやサステナビリティを意識してサービスをはじめたのではなく、もともとそういうものであるという考えが大きいと思っています。

食材の観点では、生産現場でロスをなくしていくこともできるかと思っています。たとえば、たくさん収穫した魚の中で、形やサイズが不ぞろいなことなどが理由で、とれても市場にほとんど出回らない未利用魚と呼ばれる魚があります。あるいは、味には全く問題がないものの、定められた規格に合わず、出荷できない野菜があります。こうしたものにも、しっかり評価して食べてくれる人とマッチングさせることで、販路を確保してロスを減らすことができます。

また、農家や漁師が食べチョクに出品する上で梱包をエシカルにするなど、いろいろとチャレンジされています。そのチャレンジに対して我々もサポートすることが必要です。

さらに、農家や漁師という職業自体もサステナブルな形にしていく必要があります。食べチョクを運営していると「もう農家を継がないので、やめます」と言われることもあり、非常にショックを受けています。小さい畑しか持っていなかったり、中山間地域だったりといった不利な条件であっても、こだわりを持って頑張って続けていれば、しっかりと収益を得て継続できるような仕組みをつくっていきたいです。

そういった観点からサステナブルな一次産業をつくっていきたいと考え、事業展開しています。

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お客様を喜ばせるために、廃棄食材を“圧倒的な商品”に

──3社の違いがわかったところで、具体的に事業に落とし込むフェーズについてお伺いしたいと思います。先程、東海林さんからアップサイクルの話がありましたので、事業に落とし込む過程や考え方を教えて下さい。

東海林アップサイクルは意外にもハードルが高くて難しいです。その理由はいくつかありますが、一つは、ゴミを出している事業者目線では、そのまま廃棄したほうが楽なため、食品として供給する手間をかけてもらえないことです。

私達はもう一度製品にすることを考えているので、食品としてある程度使える状況でもらわなければいけませんが、企業や農家の人手不足により、捨てたほうが良いという判断になってしまう。なかなか商品をつくれないので、廃棄の交渉をして、原料をしっかりいただいて、価値あるものに変えます。地域や現場の方を説得することは難しいものです。

また、先程少しご紹介したように、単なるチップスではなく今までにない圧倒的なチップスにしなければ、お客様にはあまり喜んでもらえません。オイシックス・ラ・大地の強みは、価値を編集し、新たな価値を提案することです。いただいたブロッコリーの芯を単純にチップスにするのではなく、どういうチップスになったらお客様も喜ばれ、感動を与えられるか考えています。

どうしても「捨てられたものだから簡単でしょ」と思われがちですが、通常の商品開発以上に驚きを出す努力がいるという点で実は一番難しい。だからこそ、事業価値があるのではないかと考えています。

──東海林さんがお話してくださったように、サステナブルにビジネスチャンスがあることがよく伝わりました。海外においてもサステナブルの概念があると思うのですが、海外と日本ではサステナブルに対してどのような考え方の違いがあるのでしょうか?

松浦欧米圏と比較すると、日本の生活者の意識にだいぶ差があると感じています。先程東海林さんがおっしゃっていたように、サステナブルというだけではまだ難しい部分があります。まずはモノやサービスとしてシンプルに価値があって満足でき、その上でサステナブルだったらなお良いといった温度感のように感じます。

欧米圏のように、購入や選択の際の軸になってくるまで浸透するには、まだ遠いと思っています。私達も地道に啓蒙していくだけでなく、引き続き良いものをつくった上でサステナブルを提案していかないと、何も変わらないと感じています。

──酒井さん、東海林さんは同じように課題感を感じられていますか?

酒井化粧品や日用品を取り扱うことが多いですが、欧米のほうが進んでいますね。例えば化粧品一つとっても、サステナブルなコンセプトがあったり、エネルギー利用に配慮していたり、様々なバイオプロダクトを活用していたりします。そういったトレンドは、日本にも来ると思います。

ファーメンステーションは欧米でも通用する技術を十分に持っていると思うので、どうやって認知してもらうかを考えています。日本発のアップサイクル商品として、機能性あるプロダクトを出していきたです。

──将来は、欧米のトレンドが日本に来ると想定されているんですね。

酒井そうですね。ただ、トレンドを待っているのではなく、市場をつくっていくのも私達ベンチャー企業、スタートアップの役目だと思っています。

──欧米のトレンドが日本に来るのではなく、逆にどうやったら日本の消費者の意識が先に追いつくと考えていますか。

酒井追いつくというよりも、日本にも独自のネタがたくさんあると思っていて。例えば、日本にしかない原料や、日本の技術である発酵醸造技術など、そういったものは余裕で海外を飛び越せると思うので、考え込む前に挑戦したら良いと思います。

また、食べチョクやOisixのように多くのファンがいらっしゃる事業者が「これはアップサイクルだよ」「こういうほうがかっこいい」など発信してくださると、次の常識になります。私達はそこに乗っかりながら、一緒にサステナブルな視点をつくれたら良いなと思います。

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SDGs人材は、今後最も市場価値が高くなる!?

──別のセッションで、顧客の消費意識が変化しているといった話題がありました。昔は安いものを買っていたばかりでしたが、最近は生産者を意識した行動に変わり始めているようです。現場で働かれている皆さんも実感されていますか?

東海林やっぱり「〇〇さんのトマト」と言われると、急に応援したくなりますよね。

今年はさくらんぼが大不作で、なかなか商品は供給できない状況でした。そこで、お客様にSNSで支援してくれたら、その分を生産者に寄付する取り組みを行ったところ、いろんなお客様から支援活動をいただきました。「〇〇さんのさくらんぼ」を毎年楽しみに待っているお客様がいたからできたので、商品販売だけでなく支援プラットフォームになることも価値あることだと感じています。

──人との温かみが感じられた事例ですね。松浦さんはいかがですか?

松浦去年一年間はとても大きな変化がありました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、飲食店や出荷している生産者も非常に困っていることが、日本中に広まりました。ネットの検索も「応援」というワードが非常に増えて、世の中に新しい動きが増えたと思います。

また、大量消費の時代は随分前に終わり、意味を持った商品をする方が増えていると感じます。。せっかく購入するなら、誰かの役に立つものを買いたい。こだわりをしっかりと理解し、直接コミュニケーションを取って納得感を持って買いたい。新型コロナウイルスの感染拡大により、こうした動きが大きくなった気がします。私達は昨年の一年間でそれらを強く実感した一方で、ブームになってしまうことを懸念しています。一時的に盛り上がって終わるのではなく、仕組みにして継続することを考えています。

また、「応援してあげる」という消費者の想いから、農家や漁師との対等な関係を目指していくことが必要だと感じています。一緒に食を支える体験をつくろうと食べチョクでは力を入れています。

──ブームにしないことは本当に大事ですね。一時的な取り組みで終わらないようにするために、酒井さんはどのような工夫を行っていますか?

酒井弊社は今年創業13年目で、これまでは「言い続ける」「思い続ける」「やり続ける」ばかりでした。むしろ、今まで理解されない時期が長かったのに対して、いきなりブームで終わってしまうかもしれないと懸念するくらいに知られるようになった。それ自体は良かったと思います。

一過性で終わらないようにするためには、真摯に取り組んでいる方が正しく中身を伝え、使用してくださる方や購入してくれる方、応援してくださる方に、意義をより深くご理解いただくことが必要です。これを次の常識にできたら良いなと思っています。

──企業だけでなく、消費者の意識も大事ですね。ここまでサステナブルな事業運営についてお話を伺ったのですが、今後はSDGs人材の市場価値がどのようになっていくのか、お聞きしたいと思います。

東海林サステナブルに対する意識がないと、新しい人材が企業に集まりにくい時代になっていると思います。一過性ではなく、一つひとつの仕事に真剣に向き合うことが大事です。一緒に社会課題を解決できる人材と仕事できると、あっという間に世の中がクリーンになる世界が実現できるのではないでしょうか。

──サステナブルに対する意識が続くことは大事だと私も思います。今後の市場価値も高くなり、必要とされるんですね。松浦さんはどのようにお考えでしょうか?

松浦個人のキャリアという観点で、市場価値を考えてみると、お金にならなかったり難しい社会課題だったりすることをビジネスに紐付けられる人が、こうした業界には求められています。今回はたまたまサステナビリティがテーマですが、ビジネスと噛み合わないテーマを実現する力があるのなら違った業界でも確実に通用すると思います。人材として人気が出ると思うので、サステナブルにフォーカスするのは面白いと思います。

──その観点で、酒井さんは何かご意見ありますか?

酒井この分野で働くことは、チャンスしかないと思います。ウチで働いたほうが良いと言っているように聞こえるかもしれませんが、本当にそうで。事業性と社会性の両立をよく言われますが、これは多様かつ多面的な視点を持たないと実現できません。

もちろん既存のキャリアで全てカバーできる人いないはず。例えば、今日登壇されている3社ともそうだと思うのですが、都会と地域の視点や、技術・資格も必要です。さらに真摯に説明するために環境の数値化やビジネスパーソンとしてのノウハウも欠かせません。こういったものを全て体験できるので有利だと思います。

世界中の企業が環境に配慮した事業をしなければならなくなった時に、これらのキャリアを体験していると、今後において市場価値が高い人になれると考えています。

──多面的に物事を捉えることは、お三方のお話で共通しているキーワードだと感じました。その観点で、SDGs人材は今後必要とされるモデルになっていきそうですね。それではこのセッションはここまでとさせていただきます、お三方ありがとうございました。

こちらの記事は2021年11月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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