サステナビリティ×ビジネスでユニコーンに!
CSO山口が「SDGsを起点にしない事業推進」のプロセスとメソッドを大公開!
持続可能な社会へのシフトは、企業の取り組みとしても不可欠になった。「地球温暖化の防止」「枯渇資源の保全」などは、ビジネスにおいても避けて通れない課題であり、社会問題解決型の事業がより一層注目されている。
しかし、環境性や社会性だけではなく、しっかりと利益を出していくことも当然求められる。この両立に頭を悩ませる経営者が多い、というのが現状だろう。どのように事業開発をすればいいのだろうか。
そこで、2021年7月に開催した「FastGrow Conference for Suainability」のセッション「ユニコーン企業が明かす、持続可能な社会の実現に向けたサステナビリティ✕事業創造のメソッドとは?」の模様をお届けしたい。登壇したのは、日本で数少ない「ユニコーン企業」として知られるTBMで、執行役員CSOを務める山口太一氏だ。
同社は、石灰石を主原料とし、プラスチックや紙の代替となる新素材『LIMEX』や、資源循環を促進する再生材料を50%以上含む素材『CirculeX』を手掛ける。サステナブルな事業創出を行うリーディングカンパニーと呼べる。
サステナブルな事業でユニコーン企業に昇り詰めたその細かなステップ、そしてその中で得られた学びを凝縮した「事業開発メソッド」まで、詳しく聞いた。
時代を超えるビジネスをつくるために、
サステナビリティは必須
2011年に創業し、約10年でユニコーン企業にまで成長したTBM。だが、そのユニークな事業内容を詳しく知る読者はまだ多くはないかもしれない。そこで冒頭、TBMが掲げるミッションやそこに紐づく事業内容について山口氏は説明した。
山口社名のTBMは、「Times Bridge Management」の頭文字から名付けており、この言葉には進みたい未来へ自ら橋を架けるために、何百年でも残るような技術や事業、組織をつくるという想いが込められています。
山口現在、そんなTBMのメイン事業は、『LIMEX』と『CirculeX』の2つです。
『LIMEX』は、当社が独自開発した、石灰石を主原料に、プラスチックや紙の代替となる新素材で、大きな特徴は、プラスチックや紙を製造する際に使用する石油や水など枯渇リスクの高い資源の保全に貢献することができることです。また、石灰石を主原料としているため従来のプラスチックと比較して二酸化炭素の発生を抑え、気候変動の抑制に寄与します。
プラスチック代替としては、レジ袋や食品容器、またハンガーなどの日用品、紙の代替としては、メニュー表や名刺、タグ、ポスターなどに使用されており、現在LIMEXは6000を超える企業や自治体などに採用いただいています。また導入企業や自治体と連動して、一度使って捨てるのではなく、使用したLIMEX製品を回収し、新たなLIMEX製品へ生まれ変わらせるLIMEXのマテリアルリサイクルに取り組んでいます。
もうひとつの『CirculeX』は、使用済みプラスチックやLIMEXなどを回収し、再生材料50%以上含む素材で、2020年7月に始めた新規事業です。一度使用されたプラスチックを回収して、資源として活用する「マテリアルリサイクル」を推進することを目指し、包装資材や物流資材、建築資材など幅広い領域での製品開発を行なっています。
推計企業価値1,233億への、4ステップ
さて、気になるのが、事業をここまで拡大させてきたその経緯と戦略だ。サステナブルな事業を確立していくまで、どのようなステップを踏んで進んできたのだろうか。
山口氏は『LIMEX』『CircleX』を例に、まずは新規事業で商品を提供するまでの「紙代替の技術確立」「プラスチック代替商品」という前半の2ステップを説明した。
山口前提として、TBM初の事業は石灰石を主原料にしたサステナブルな新素材『LIMEX』でした。そして、2020年7月から『CirculeX』事業を立ち上げ、LIMEXの循環モデルを加速させるべく、新たな事業領域での挑戦を開始しました。
まずは、LIMEXの事業展開の変遷についてご紹介します。1つ目のステップは「紙代替の技術確立」です。2015年、宮城県白石市に『LIMEX』を開発・製造する工場を立ち上げました。ただ、新素材の開発ということで、当時は苦労も多く、工場の稼働から製品が提供できるまでかなりの時間がかかりました。
そのため、素材としての開発を進めながら、印刷会社や加工会社と連携して最終製品までを開発・提供することで、スピード感をもってLIMEXの認知拡大を図る方針を取り、初めて世に送り出したLIMEX製品が、『名刺』でした。名刺であれば多くの方々に様々な場所で配ってもらえるため、「1箱で約10リットルの水資源を守る」と表記することで、『LIMEX』のプロモーションとしても有効だと考えました。
このように、まずは世の中に製品を送り出し、お客様の反応を確認しながら技術開発の改善を進めていきました。加えて、『LIMEX』のプロモーションも並行させることで認知も少しずつ高めていけるよう戦略的に進めていました。
2つ目のステップは、「プラスチック代替の開発」です。『LIMEX』の技術を活用して、プラスチックの代替としての用途を開発しようと決めました。その背景には、紙代替製品を製造する際に生じる多くの端材を有効活用できないかという課題があったんです。端材をもう一度熱で溶かし、金型に流して成形すれば、プラスチックの代替製品ができる。
『LIMEX』を製造する際の資源を有効活用するだけでなく、その当時熱を帯びてきたプラスチック問題を解決できる事業に発展させられるのでは、と考えました。
そこから研究開発を進め、スマホケースやボールペンといった身近な製品の開発に成功。『LIMEX』が、紙の代替だけではなく、プラスチックの代替としても活用できる可能性を切り開いたのです。今では、紙の代替としてよりプラスチックの代替としての『LIMEX』への引き合いや普及が上回っています。
ここまでは、技術を発展させ、プロダクトを生み出せるとわかった段階だ。次のステップとしては、販路を拡大させ、事業を大きくしていく術を考え、実行していかなくてはならない。それが、ここから語られる、後半にあたる2つのステップだ。
山口次のステップが「TAM(=到達可能なマーケットの大きさ)の確認」です。新興国を中心とする人口増加や経済発展が進むにつれ、プラスチックの生産量も増加する予測で、2050年には2018年時点の3倍以上となる見込みです。
『LIMEX』のような環境配慮型素材に加えて、さらなるマーケット開拓で着目したのが、リサイクル領域でした。
欧州では、2025年までに少なくとも1,000万トンの再生プラスチックを利用するという目標設定を掲げるなど、今後のプラスチックリサイクル市場は、グローバルで拡大すると予想されており、環境配慮型素材とリサイクルをかけ合わせるとさらに大きなマーケットと見ることができます。これらの領域に挑戦する事業として、『CirculeX』を立ち上げたわけです。
そして、最後のステップが、「事業コンセプト・技術確立」です。真の意味でのサステナビリティを実現するためには、製品をつくるだけの事業で終わってはいけません。もう一歩先、資源循環モデルの構築まで実現すべきです。そのために必要な「使用済みプラスチックの回収」は、我々だけで取り組めることには限りがあります。そこで、従来からリサイクル関連事業に取り組む多くの会社とパートナーシップを結んで、連携しながら事業を確立してきました。
さらに、これから大事になってくるのは「プラスチックを回収することが何に繋がるのか?」という消費者や企業側の意識醸成です。実際に、市中の小売店と連動して、新たな資源となるペットボトルキャップの回収BOXを設置し、消費者参加型の回収モデルを実装したり、またファミリー向けのイベントでCiruleX製品のプロモーションを行うなど、消費者を巻き込んだ取組も推進しています。
このようにして、社会課題の解決に大きく繋がる廃プラスチック事業へ参入し、事業コンセプトや技術を確立してきました。
「SDGsを出発点にしない」こそ、TBMの視点
具体的に語られた、エコロジーとエコノミーを両立させた事業拡大手法。しかし、なぜこうした取り組みを、ブレることなく進めてこれたのだろうか?そんな疑問も湧く。
そこで次に語られたのが、同社の事業開発において、根本となる思想だ。TBMが創業時から事業開発において常に意識しているという、3つの視点が共有された。
山口1つ目が、「SDGsに紐付けるという発想で事業を考えない」ことです。我々は、1から17番まであるSDGsの項目をチェックリストのように事業を展開していません。あくまで、TBMの事業開発における最上位概念は「社会課題の解決、サステナビリティ革命の実現」です。その結果として、SDGsの目標の貢献につながっている、ということです。
2つ目が、「エコロジーとエコノミー、一見相容れないものを両立」することです。どれだけ地球に良い取り組みをしていても、商品が高額になってしまったり、導入方法のハードルが高いものになってしまうと、結果として広がらず、意味がありません。地球規模でインパクトを与えられる、サステナビリティに資するものづくり、仕組みづくりを行なっていきます。
3つ目が、「コミュニケーション施策で仲間を増やす」ことです。メンバーや消費者、パートナー含め、TBMの取り組みに共感する仲間を増やすうえで、世の中に対してコミュニケーションをしていくことは大切です。なので、TBMは、素材の開発や商品の販売、提携企業との資源循環の取り組みを、積極的にプレスリリースやメディアでの紹介など発信しています。
そうすることで、TBMに興味を持ってもらい、他の企業から提携に関するお問い合わせをいただくことができています。適切なタイミングで情報を開示していくことで、より多くの仲間を増やしていくきっかけになっています。
ユニコーンを創る、事業開発5つのメソッド
そして最後に紹介したのは、「事業開発に必要な5つのメソッド」だ。
山口1つ目は、「オープンイノベーションの推進」です。TBMは自社開発や自社リソースにこだわらずに、他社との連携を大切にしています。
例えば、神奈川県と連携して行っている、LIMEX製品を回収し、再資源化、再製品化を推進する「かながわアップサイクルコンソーシアム」では県内の約50パートナーと連携しながら、持続可能な循環型のまちづくりを目指しています。
他にも、プラスチック成形会社と連携させていただく際には、既にある金型や製造機械を利用し、初期投資の費用を抑え、付加価値の高い商品開発をしていこうとしています。
山口2つ目は、「既存の業界との連携」です。組む相手となる企業の規模や影響力が大きくなれば大きくなるほど、社会に対するインパクトが高くなるのは必然です。
例えば、プラスチックをもっと効率的に回収するために、既にルートを持っている運送会社や資源回収事業者との連携をより深めることが、今後の事業拡大には欠かせないものになります。同業界に限らず他業界とも連携を進め、よりインパクトの大きな形で循環型社会の構築を目指すのが大事だと思っています。
3つ目は、「多様な人材の採用、活躍」です。TBMでは、プラスチック、商社、外資コンサル、金融、広告、ITなど業界を問わず多様な業界で経験を積んだメンバーが志を持って活躍しています。TBMに興味を持った人たちが欲しい情報を得られるように、『TBMがどんな会社か』『どんな人たちがTBMで働いているか』わかりすいコンテンツを自社のオウンドメディアで発信しています。
4つ目は、「資源循環×デジタル」です。TBMはモノづくりの会社と認識されることも多いですが、デジタル活用による事業展開も進めています。
例えば、消費者が回収ボックスに使い終わったペットボトルキャップを入れると、LINEアプリにポイントがつくような仕組みで、溜まったポイントでNPOに寄付できたり、弊社が運営するECサイト『ZAIMA』でお買い物できます。消費者の資源循環意識を向上させていくだけでなく、貢献してくれた消費者が経済的なメリットを得られるような形を設計しています。
世界中で「脱炭素」というキーワードが取り上げられていますが、これからは環境負荷の低減の可視化が求められてきます。元々、弊社では我々のサステナビリティの専属チームによって事業活動における環境負荷の算定に取り組んでいますが、我々のもとにも、外部の方々から様々なデータやソリューションのご提案を受ける機会が増えてきています。
こうしたデジタルを活用したマーケティングやコミュニケーションの施策を打っていくことができ多くの人たちを巻き込んだ資源循環を実装できるのだと考えています。
5つ目は、「社会課題へのアプローチ」です。例えば神戸市との取り組みで、回収したペットボトルのキャップを原料にして、市指定のゴミ袋へとリサイクルしています。この取り組みの特徴は、ペットボトルのキャップが具体的にどのように生まれ変わっているかを、市民にしっかり発信できることです。
「社会課題の解決」は我々だけでは成し遂げられません。社会問題を「知る」「共感する」「実践する」という意識や行動の好循環を作ることで、より多くの市民の方々の意識も変わり、効果的な「社会課題の解決」に近づくのではと考えています。
サステナブル×ビジネスの現場は、
「変化が特に激しい」
ここまでの話を踏まえ、「サステナビリティ×ビジネス領域で求められること」を、まとめとして語った。
山口重要なのは、変化に柔軟に対応できるだけでなくその環境を楽しめることですね。ここ数年で世界は持続可能な社会に向けて大きく加速し、日本国内でもプラスチック規制が進み、多くの企業や自治体がSDGsへの貢献を掲げるなど、急速な変化が顕在化してきているのが「サステナビリティ領域」の特徴とも言えます。
また、地球規模の挑戦ですので、グローバル視点で物事を捉えるということに加えて、中長期的な目線を持って挑戦できる人が向いていると思います。新しい事業、新しいマーケットで様々な困難はありますが、こうした環境をポジティブに捉えて楽しめることが、活躍できるかの一番大切な要素になると思います。
こちらの記事は2021年11月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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連載FastGrow Conference for SUSTAINABILITY
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