優秀な人材を採用するためのキーワードは「惹きつけ」。Sansan×FastGrowが語る、転職潜在層を引きつける採用設計とは?
近年、転職の方法が多様化している。
知人に紹介された会社に入社する、副業で勤めていた会社で正社員になるなど、エージェントに登録し企業を紹介してもらうだけの時代ではなくなった。
転職するためのチャネルが増えたことにより、「現職で活躍している人ほど、従来の方法では接点を持つのが難しくなっている」と悩む企業も少なくない。
では、転職市場に出てこない優秀層に対してはどのようにアプローチしていけばいいのだろうか。企業側はどうしたら優秀な人材を惹きつけられるのだろうか。
2021年8月に開催したウェビナーでは、「優秀人材採用の勝負は『転職活動前』事例に学ぶダイレクトリクルーティングと採用広報の惹きつけ方法」と題し、ダイレクトリクルーティングのプロダクト『Eight Career Design』を運営するSansanをお招き。彼らとFastGrowとのセッションが実現した。
登壇したのは、Sansanで『Eight Career Design』のマネージャーを担う橋本 剛氏と、スローガンのメディア『FastGrow』で営業責任者を担う渡辺 浩史だ。
当日は、ダイレクトリクルーティングに関するプロダクトを持つSansanと、クライアントの採用広報を支援するFastGrow、2社それぞれの目線から見る「優秀人材を採用するためのアプローチ方法」について語ってもらった。成功の鍵はターゲットが転職する前の「接点」の中にありそうだ。
- TEXT BY HARUKA FUJIKAWA
『優秀層へ向けた』採用広報で成功するために、
踏むべき「8つのステップ」
まずはスローガンから登壇した渡辺がマイクを握り、『優秀層へ向けた』採用広報における大事な要点を語り始めた。
渡辺採用広報で大事なのは、単発の施策に走るのではなく、戦略的にステップを踏むことです。
候補者、特に一般的には転職市場に出てこないような人材を惹きつけるために重要なことは二点あると考えています。一つは、点ではなく線での情報発信を行うこと。もう一つは候補者が求めている情報を正しく出し続けることです。
採用広報において重要な点は、ゴールを設定し、そこに登っていくためにどのような情報を提供するのか細かく分けて考えること、つまり「ゴールから逆算した設計がされていること」が何より重要です。
FastGrowでは様々なクライアントの採用広報を支援する上で、「点ではなく線での情報発信を行う」ために、8つのステップで定義付けをしている。
順番に、課題の整理、目的設定&ゴールイメージの共有、これまで発信してきた情報の整理、ターゲットインサイトリサーチと、発信情報の企画策定、各企画毎に最適な発信チャネルの選定、実行スケジュール策定、実行の8つだ。
8つの中の「これまで発信してきた情報の整理」のステップでは、企業側に対し必ずしも「採用活動のために、採用コンテンツを新しく作らなくてはいけない」わけではないと述べる。。
渡辺採用広報をする場合、企業は新しくコンテンツを作らなくてはならないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。例えばWantedlyやnoteなどで今まで書いてきた記事ももちろん使えます。
これまでの採用広報になりうるコンテンツは全てリストアップし、記事ごとに記事概要、ターゲット・主題、カテゴリなどラベル付けし、分類してみる。そうすると企業側が重点的に出すべき情報が分かり、どのような情報が不足しているのかも理解できます。
あくまで重要なのは、『今我々は何を発信していて、逆に何が発信できていないか』を把握することが重要だと考えています。
一方で渡辺は、新しくコンテンツを作り情報発信をするメリットの説明を付け加える。企業の認知を取りに行くものだけではなく、コンテンツは企業の「アセット」にもなりうると言う。
渡辺コンテンツの作るメリットは認知向上だけに留まらないと考えています。時に、コンテンツは人事の代弁者としての価値も担います。例えば、ダイレクトリクルーティングの際にDMの中にコンテンツのURLを添付する、人材紹介の際にエージェントを通じて候補者に渡すなど多岐に渡ってコンテンツを活用することができます。
コンテンツのおかげで、候補者の企業に対する解像度は高くなります。だからこそコンテンツを作る際には、継続的に付加価値として活用できるものを作るという意識が大事です。
選考中のポイントは、見極めではなく「惹きつけ」
渡辺の話を踏まえ、Sansanの橋本氏は「企業側は転職潜在層に対して、直接対応していけないと生き残れない時代になっている」と話し始めた。ここから橋本氏は、ダイレクトリクルーティングで培った目線を語る。
同社は選考中でも特に、カジュアル面談やフォロー面談を重要視している。カジュアル面談に関しては「弊社もずっとやってしまっていたのですが……」と言い、話を続ける。
橋本カジュアル面談はいわゆる“面談”にもかかわらず、志望動機を聞くなど「見極め」をしてしまっている企業がとても多いです。そもそもちょっと話を聞いてみたいという方が、見極めをされてしまうと「もういいや」と面接に進まなくなる可能性があります。候補者の方は我々が思っている以上に敏感で、そういった「見極められている空気感」を感じ取られます。
ですから、カジュアル面談は志望動機を「作る・熟成」する場であり、面接の志望動機を作るための材料を渡す場です。企業はここで「惹きつけ」をすることが肝心です。
ここから橋本氏は「惹きつけ」をキーワードに話を続ける。Sansanは惹きつけを「候補者に面談で入社理由を与え、自社のファンになってもらい、その会社に入りたいと思わせること」と定義している。
カジュアル面談での「惹きつけ方」の例として、識学やグロービス、freeeの3つの会社を上げた。
橋本例えばグロービスさん。彼らが徹底しているのは、最初のカジュアル面談の際には必ずインパクターと呼ばれる、事業責任者クラスの方が面談をするようにしています。企業側はどんな質問に対しても柔軟に答え、そこで候補者の興味付けをすることに力を入れています。
また彼らの場合は、採用成功のスピードを全く焦らず、社員との接点を増やすことを重視しています。多くの社員との接点を増やし、よりグロービスを知ってもらう機会を増やしていくことを大切にしているそうです。一定人数規模が大きい会社だからこそ持ちうる余裕では無いか、と感じられる方も多いと思いますが、ある程度のゆとりは競争が激しいからこそ重要だと考えています。
橋本氏は残り2社を含め、共通している点として「採用側の人間だけではなく事業部側を巻き込みをしながら、自社の等身大の姿を伝えている」ということを挙げた。
さらに橋本氏はカジュアル面談に加え、もう一つのフォロー面談についても補足する。
橋本フォロー面談とは面接をした30分以内に、面接の感想や希望年収、転職想定時期、配属希望などをヒアリングする場です。カジュアル面談だけに留まってしまっている企業も多い中、フォロー面談はぜひ導入を検討していただきたいと考えています。
候補者の方に取っては、希望年収や配属希望などの面接では言いにくいことを伝える場にもなりますし、入社後に説明を受けていなかったなど認識の齟齬が起こる可能性も減らせます。
フォロー面談のメリットは候補者側にとどまらず、企業側が候補者をより解像度高く理解できるようになることにも繋がるという。橋本氏は「候補者と認識齟齬のないようにフォローしながら、ここでも惹きつけを大切にしている」と述べた。
潜在層の惹きつけには、
採用手法と「受け皿」のセットが鉄則
続いて、採用広報やダイレクトリクルーティングなどの採用手法はそれだけで成り立つものではなく、他の手法の「組み合わせ」で成り立つという話題が上がる。渡辺は情報発信をする際の「受け皿」の必要性を語る。
渡辺情報発信したら必ず受け皿がないといけません。家を買う際に、家の情報は不動産・住宅サイトで見て、その後に住宅展示場へ行きますよね。それと同じで、採用も情報を見て「いいな」と思ったときに、すぐ行ける場所があった方がベターです。
例えばミートアップやカジュアル面談など、記事に出ている人と直接会える機会を用意しておく。採用広報でリーチした方には、企業を好きになってもらう導線を作っておくべきです。
ダイレクトリクルーティングと採用広報、それぞれに強みを持つSansanとFastGrow。見ている景色は違うが、「同じ目的を違うチャネルでやっているだけですね」と橋本氏も渡辺の発言に同意した。
橋本ダイレクトリクルーティングに関しても、企業は流行に乗り、ただ導入することが目的になってしまっていることがあります。結果上手くいかない会社もよく見てきました。
候補者にメッセージを送るだけでは、伝わらないものも多いです。候補者は会って、話を聞いてみて「入社したい」となります。その点では、ダイレクトリクルーティングには、カジュアル面談とのセットが必然で、非常に大事なものだと思っています。
KPI=採用数は失敗に繋がる?
採用広報における正しい測定方法
ウェビナーの終盤では、「それぞれの採用手法のKPIについて」へとテーマが転換する。まず橋本氏は「採用広報の効果の測定方法についてノウハウはありますか」と問いかけた。
渡辺は「採用広報に取り組むにあたって、KPIを採用数に置くと失敗します」と応え、話を続ける。
渡辺採用数=KPIとします。すると企業を知らなかった方が、いきなりそこに応募して、他の企業を見ずに入社するという確率をKPIにしていることになります。
しかし選考までの流れとは、まず認知した人が興味を持ってくれ、興味を持ってくれた人が応募に至り、応募してくれた人が選考進んでくれる。長い時間をかけて一つひとつのステップを継続して見なければなりません。
そこでFastGrowでは、効果測定において認知度や好意度を計ると言う。例えば、記事を出した企業に対し「どれくらい認知度が伸びたか」「どれくらい好きになってくれる人が増えたか」とアンケートをとっています。
単年度の応募数や採用数などはもちろん重要ですが、担当者の方には「継続的に自社に対する認知を広げていくにはどうすればいいのか」など、ブランディングの意識を強く持って頂く事が重要です。
採用広報に取り組むのであれば直接的な採用数ではなく、認知度や好意度などより上流の指標を追うべき、と渡辺は語る。認知度や好意度の総量が増えていけば、候補者が転職を考えた際、想起する可能性も合わせて高まり結果として応募数も増えると考えているのだ。
また橋本氏も、定性的に自社に対する認知度や好感度を効果測定することは有効であると同意する。
橋本我々はエージェントには自社の採用広報記事を「これを候補者に見せてください」とお願いし、直接会話する際には「これ見ておいてくださいね」と渡します。
その後、内定承諾を出した人には記事の感想を伺ってみるんです。そうすると候補者からは「この辺りに惹かれました」など声が上がってきます。そこで候補者の変化を定性的につかみに行くことができるんです。
数字に表れるまでに時間がかかる領域だからこそ、こうした日々の中でいかに求職者の声を聞き取り、具体的な改善につなげることができるかどうかも重要だと考えています。
この発言を受け渡辺は、「測定の指標は目的によって違うと思いますが、認知・興味を特に強化していきたいフェーズでは認知度や興味度を測るべきですね」とまとめ、ウェビナーを締めた。
こちらの記事は2021年10月26日に公開しており、
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1998年生まれ、広島県出身。早稲田大学文化構想学部在学中。HRのスタートアップで働きながら、inquireに所属している。興味分野は甘いものと雑誌と旅行。
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