スモールIPOで満足する若手起業家よ。
「俺たちにアガリはない」

インタビュイー
牧野 正幸
  • 株式会社ワークスアプリケーションズ 代表取締役最高経営責任者 

外資系企業でITコンサルタントを経た後、エンタープライズ向けパッケージソフトを日本で創ることによって、低迷する企業の生産性に変革をもたらすべくワークスアプリケーションズを創業(1996年)。海外製品が圧倒的であったERP市場に、日本初の大企業向けERPパッケージ「COMPANY」を投入して国内シェア№1を獲得した。2001年にはJASDAQに上場したが2011年にMBOを実施し、2016年の人工知能型ビジネスアプリケーション「HUE(海外名称:AI WORKS)」の販売開始と前後してグローバルな展開にも注力し、実績を上げている。一方、ユニークなインターンシップの実施など、独自の人材採用・育成手法でも早くから注目を集め、学生が選ぶ理想の経営者№1(リクナビ調べ)に選出されるなど、高い支持を獲得し続けている。

金子 英樹

1987年 一橋大学法学部 卒業、同年アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)に入社。外資系ベンチャーを経て、1991年 ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)に入社。1997年 ソロモン・ブラザーズ時代のチームメンバーとともに独立し、シンプレクスの前身であるシンプレクス・リスク・マネジメントを創業。2016年 単独株式移転により、シンプレクスの持株会社としてシンプレクス・ホールディングスを設立。

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国内ERP市場トップシェアのワークスアプリケーションズと、金融フロント領域のシステム開発分野で国内市場№1のシンプレクス。同い年の創業経営者が率いる両社は、ほぼ同じ時期に生まれた後、両社とも上場、MBOを経験している。

独自性の高い経営手法と、極めて高水準な技術力によって国内競合の追随を許さず、グローバルでのブレークスルーを目指している点でも共通しているメガベンチャーだ。

歯に衣着せぬ鋭い舌鋒でも知られる牧野氏と金子氏だが、実は親交が深い2人。そこで、これから天下を取ろうと志している若者たちに向け、2人から“エール”と“喝”をもらうことにした。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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幻の合併話が初対面。それから続く「仕事抜き」の友人関係

まずお二人の関係について教えてください。初めてお会いになったのはいつ頃なんでしょうか?

牧野 意外かもしれないけれど、初対面のタイミングはそれほど昔のことではないんです。

もちろん、彼の会社が上場したあたりから注目はしていました。短期間で急成長していましたし、当社と人材戦略に関する方針が似ているように感じていた。

それでも事業領域は違うし、特に交流を持つようなことはなかったのですが、あるとき懇意にさせていただいていた大先輩からお呼びがかかって会合が開かれ、その席で初めて会ったんです。

金子10年以上経った今だから言える話だけども、そこに呼び出されたのは僕と牧野さんともう1人、いち早くIT業界の異端児として脚光を浴びていた大物経営者。

3人ともその時が初対面でしたが、牧野さんがそうだったように、私も「ワークスって、日本企業にしては珍しく面白いところだな」と思っていたし、もう1社に対しても同様の好感と敬意とを抱いていた。

ちょうどその頃、3社とも時価総額がだいたい500億。

数字面で似ていたばかりではなく、何を目指すのかとか、そのためにどう業界の常識を覆すのかとか、そういう経営の本質部分でのこだわりにも近しさを感じていました。

主戦場こそ違えども、ITを起点に革新的なことをしていた急成長3社のトップがそろい踏みした、ということですよね。

牧野ただ、その席で提案されたのが「3社合併して日本のITを変えないか」という驚愕の内容。

「日本のITはもう駄目だ。どうやっても海外勢に太刀打ちできない。でも君たち3社だけは可能性がある。1社ずつ頑張るのも良いけれど、それでは時間がかかってしまう。いっそ手を組んで成長を加速しないか」とね。

まあ、結局その話は流れ、金子さんとは、その後しばらくはつながりがなくなったんだが、ひょんなことで再会することになったんです。

金子未上場企業が集う会合が開かれることは珍しくないんだけれども、あるときそういう会合で「スピーチしてもらえませんか」と主催者に頼まれた。

聞けば「ワークスの牧野CEOもいらっしゃるので、ぜひご一緒に」と言う。

もともと僕はそういう場には極力出たくない人間なのだけど、彼が来るのなら例の一件以来だし、行ってみようと思って引き受けた。ところが、あろうことか牧野さんはドタキャンして……

牧野私は「行けたら行きます」と返事しただけだし、金子さんが来るとも思っていなかったんだけど、突然電話してきて「なんで来ないんだ!」と、怒り始めたんだよ。

金子結局、牧野さんが「わかったから、今から一緒に飲もう」と言い出して飲みに行ったら、妙に意気投合してしまい、それ以来ずっと友だち付き合いをしている。

「経営者同士」ではなく「男同士」という間柄で親しくなって、しょっちゅう会っている。

牧野ただ、仕事の話は全然しない。まあ、この数年は一緒にプロジェクトを組んだこともあって、たまにそういう話も出るけれども、基本的にはプライベートな友人だね。

ビジネス上で群れるのを嫌う金子さんと違って、私は結構昔から起業家仲間は多いんだけれども、むしろ「友人になる対象」にはこだわりがあった。今だって本当の友人は金子さんを入れても5〜6人しかいない。

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これから成功してみせようというヤンチャ坊主たちへ

お二人から見た、昨今の若者の起業動向についての率直な気持ちを聞かせてほしいのですが。

牧野ひところは、日本は起業家の数も少ないし、成功事例もまた少ないと言われてきた。

そんな中、最近では若い世代を中心にビジネスを立ち上げるムーブメントが盛り上がってきている。

その事実は素晴らしいと心底思っています。

それでもまだ世界的に見れば、起業の事例は少なくて、理由として「ベンチャーキャピタルが多く揃っていない」とか「シリコンバレーのようにベンチャーが集中する環境がない」とか「産学連携がまだまだ進んでいない」といったものが、よく挙げられている。

たしかにそうだとは思う。でも、最も重要な視点はそこではないように私は考えています。

米国などには「起業して、なおかつ大成功した人たち」がたくさんいて、広く認知をされている。

ところが日本には、そこまでの域に到達した者がごく少数しかいない。

一歩手前の水準まで来ている予備軍はあっても、なぜかそれ以上は進んでいかない。

要するに、先人たちの多くが突き抜け切らないで止まっているから、「自分たちも!」という動きが本格化しないのではないかと私は考えています。

牧野さんが考える「突き抜け切った人たち」とは、例えばどなたでしょうか?

牧野一般的に誰もが納得するのは、ソフトバンクの孫さんやファーストリテイリングの柳井さんだと思う。

金子さんや私だって、まだ全然突き抜け切れていないと思いますし、私たち以外にも予備軍ならば大勢いる。

じゃあ、どうして多くの予備軍が突き抜けきれないのかを考えると、一定程度まで成長すると「もうここまで頑張ったからいいだろう」と感じてしまうのではないかということ。

「この先業績が停滞すればすぐに叩かれる。今でも一定の利益はキープできているし、再び頑張ってリスクをとっても自分にはあまりメリットがない」と経営者が思ってしまうんじゃないかなあ、と。

特に20代で上場できた、IT系の30代経営者にはそういう傾向が多い気がする。

もちろん欧米であってもFacebookやGoogle、Apple、Amazonが世間から非難を浴びることはある。

けれども、それと同じくらいの数の人々が「素晴らしい」とも言ってくれる。

「だったら、もう少し世の中のために頑張ろう」と思えるはずなんだけど、日本の場合、何か問題が起こったときには圧倒的に叩く数のほうが多い。

「チャレンジした時に責め立てられるのはイヤだから、このへんでよしとしよう」と考えても不思議ではない。

金子さんは今の日本の風潮をどう捉えていますか?

金子僕や牧野さんが起業をした90年代と比べてみれば、はるかに起業しやすい環境は整ってきていると思う。

だから牧野さんもさっき言っていたけれど、起業を目指す人は増えているし、そういう風潮はストレートに良いことだと捉えています。

ただ僕ら90年代後半に起業した者たちは、アジア通貨危機があり、ロシア危機があり、ヘッジファンドによるクライシスもあって、日本自体が弱体化していく渦中にいたわけで、「それでもやるんだ」という決意と勇気と覚悟のある者だけが生き残ることになった。

そういう経験をした僕らにとってみれば、例えば「利益が2億あれば上場できますよ」みたいな今どきの環境がはたして最善と言えるのか、という気持ちは否めない。

正直なところ「もしも利益が2億程度で頭打ちとなるような会社ならば上場する意味なんてないし、そもそも会社なんて設立しなくても、優秀な個人プレイヤーが独力で到達可能なレベルじゃないか」と思うわけです。

何が言いたいのかというと、「会社って何? 何のために複数の人間が集うの?」という点。

「一人じゃできないことを目指すから会社なんだろ? 才能の異なる人間とチームを組んで初めて到達できるところへ向かっていく。そのために起業をするんだろ?」ということは伝えたい。

「自分が2億稼ぐために他人の人生を巻き込むな」と憤りすら感じるね。

牧野さんがおっしゃっていた「突き抜け切らない」傾向が、さらに若年化している、ということでしょうか?

金子起業しやすくなったことや、スモールIPOといって、時価総額が小さくても上場できるようになったこと、そんな環境変化が悪いことだとは思っていません。

でも、人間というのは環境に左右されるところもある。

上場すればメディアから取材もされるだろうし、パーティにも呼ばれたりもする。

最初は2億程度の利益では終わらずに、世の中にもインパクトを出して、社会にだって貢献をしていこうと、熱い想いで目指していたとしても、スモールIPOが可能になったがゆえに、早い時期からちやほやされる日々が始まる。

そうすると、中には「もう十分か」と、まるで何かを成し遂げたかのような「アガリ」気分になる者も出てくる。

もっと言えば、設立後すぐにベンチャーキャピタルから出資を受け、現状まだ利益すら出していないスタートアップのリーダーが、あたかも大成功した経営者のように経営論をセミナーで語っていたりすると、「おい待てよ。働けよ」と思う(笑)。

もちろん、利益ばかりが会社の価値を示すモノサシだとは言わない。

Amazonだって、ようやく黒字になったばかりだし。

でも、彼らは常に社会から評価されるだけの事業をしてきたし、そうして得た信頼を背景にしながら、次の成功のために惜しまず事業への投資をしてきた。

それゆえの赤字だっただけのこと。そこは勘違いするな、と言いたい。

とにかく、今の若い人たちに志があるのは素晴らしいと思うし、リスク覚悟で会社を立ち上げるヤツらがいれば「頑張れよ」と素直に思う。

スモールIPOといったって、誰にでも到達できることじゃないから、そこまで来れたことには誇りを持っていい。

ただ「だからといって初心を忘れるなよ」とは思うわけです。

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モチベーションが続くのは「大志」があるから

まだ「アガリ」だと思わずにモチベーションをキープできている源泉はどこにあるんでしょう?

牧野これは掛け値なしの本音なんだけど、もしもすでに起業をしている若者や、これから立ち上げようという人たちが、私とか金子さんを「目指すべき起業家」としてフォーカスしているのなら、その時点で「違うだろ」と思うんですよ。

金子もっと上を見ろよ、と。

牧野なぜ私が今の時点で「アガリ」だと思わないかといえば、「私ならここまでできる」と思ったところまでまだ到達していない、という気持ちがあるから。

「もしも私がここまでできたなら、きっと後は次の後継世代がもっと伸ばしてくれるだろう」と考えている地点まで、まだ来ていないと考えているから、足を止める気になっていないんだと思う。

具体的に話すと、例えばグローバル。

ようやく当社も世界に出て行くようになったけれども、大成功を収めるかどうかはこれから。

でも「日本のITは世界じゃ通用しない」と言われてきたけれども、1つくらい成功する会社が現れれば何かが大きく変わるかもしれない。

だったらその基礎は自分の手で作っておきたいと強く思う。

もう1つは生産性という課題。

そもそもワークスが日本でERPパッケージを開発したのは、それをたくさん売って儲けたかったからではなく、当社のERPを導入した企業が目に見えて生産性を向上させていくことを目指していた。

たしかにシェアは№1になったけれども、導入いただく企業の生産性をどこまで向上できたかといえば、まだまだ足りていないと考える。

海外製品を使って3時間かかっていた企業のオペレーションを短縮することはできたが、無駄な業務をなくすことでさらに抜本的な効率化も可能なはず。

一方、コンシューマー市場のITを見てみると、もっと劇的に進化している。

例えばスマホであれば、これまでコンピューター上でしかやれなかったような動画の視聴やデータの送受信をはじめ、様々な作業を容易な操作で可能にしてしまうほどになった。

企業内のシステムはまだそこまで到達できていない。

そのジレンマがあったから、ワークスはMBOを断行したとさえ言えるんです。

1つの領域で突き抜け切る、というのはそういう圧倒的なイノベーションを起こすことだし、過去の例を見ても、トヨタもホンダもソニーもパナソニックも、創業経営者が健在な間に突き抜け切っていた。

私はまだそこまで行っていないんだから、アガるわけにはいかないんです。

金子牧野さんが最後に言ったように、僕もまだ対クライアントの面でも、自社の事業の進捗にしても、「ここまではやるぞ」と起業時に目指した地点まで到達していない。

だから、モチベーションもいっこうに衰えていないんだと言える。

彼が触れなかった点として、僕の個人的側面を言うと、きっとアドレナリン中毒になっているから、やめる気にならないんだろうな、という気持ちはある。

チームとして何かを成し遂げるために、ヒリヒリした心理状況で仲間と突き進んでいく時の快感というのかな、そういうものに取り憑かれているんだと思う。

お行儀良く、世のため社会正義のためにこれを成し遂げます、とまで綺麗事は言わないけれども、少なくとも自分たちが「これが正しいんだ。こうあるべきなんだ」と思っているものに向かって突き進み、その結果としてまだ誰も足を踏み入れていなかった未開の領域に立った時。

あるいは、すでに誰かが到達した領域があっても、そこへ出向いていって、自分たちの力で旧勢力を押しのけて先頭に立った時。

どちらのケースでもいいんだけれど、とにかくアドレナリンがあふれるように分泌される。これは、中毒になる。

もう1つは牧野さんのワークス同様、シンプレクスもMBO直前の3年くらいは成長が鈍化した。

この状況をなんとかブレークスルーしないと、アドレナリンを味わえないどころか、創業時に目指した地点に近づくこともかなわない。

ちょうどその当時、会社には潤沢な手元資金があった。それをブレークスルーのために投資したいけれど、株主の皆さんは、僕らの長期的成功にかけてくれている一方で、短期的な収益確保も求めている。

「ブレークスルーのために大胆な先行投資を行うため、短期的な業績・株価の停滞リスクが株主の皆さんに及ぶ可能性があります」という主張はなかなか通らない。

それならば、MBOによって自分たちの責任のもとでリスクを背負い、なんとしてでもブレークスルーを成し遂げ、その上で然るべきプロセスを経て株式市場に戻っていく道筋を求めよう、と考えた。

ここで是非理解してほしいのは、僕個人ばかりでなく、他の経営陣も社員の皆も同じ道を望んでいたということ。

さっき、「2億で満足してアガリなんて言うな」という話をしたけれど、経営者だけでなく社員の皆も納得した選択だというのなら、1人ひとりの人生観の問題だし、僕だって目くじらを立てたりはしない。

だけど、「経営者の君はそこでアガリでいいのかもしれないけれど、社員の皆がもっとチャレンジしたい、と思っているのだとしたら、それでいいのか?」と思うから、先ほども強い調子で言ったまでのこと。

チャレンジの好きなアドレナリン中毒の僕のもとに、やっぱりチャレンジがしたい若い人たちが集まってきてくれて、創業から20年、ともに戦ってここまできた。

金子みんな、本当によく働くんですよ。

世の中では「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が叫ばれていますが、なぜワークとライフを対立軸に置くんだと問いたい。

シンプレクス流に言い換えれば「ワーク・イズ・ライフ」なんです。

「働く喜びも人生の重要な一部」という精神に共鳴して集まってきた人間で構成されていますから、今さら「俺だけアガるから」なんて言えるわけもないし、そういうメンバーに囲まれていたら、経営者としてのモチベーションが衰えるなんてあり得ない。そう思っています。

牧野MBOをした時に、「面白いなあ」と痛感したのは、私よりもさらに大きなことをしているような会社の経営陣の方たちから次々に電話がかかってきて、異口同音に言われたんだよ。

「おまえ、まだやる気あったんだな」と(笑)。

実際、この方たちの言う通りで、大してやる気がないのなら上場をしたまま現状維持さえ心がけていれば、資産的にはリスクも少ないし安泰なわけです。

その辺の事情を知っている方たちだからこそ、こういうエールというか、言葉をくれたんだと思う。

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上場したら採用がラクになるなんてウソ

採用について聞かせてください。一般的な発想からすれば、上場廃止したシンプレクスやワークスのような企業は、上場時よりも採用に苦心するのではないでしょうか?

金子その単純な発想はわからなくもない。

でも、正直なところ、少なくともシンプレクスではMBO後のほうが優秀な学生を採用しやすくなった。

もちろん人事の頑張りもあってのことではあるけれど、考えてみれば当然のことでもある。

未上場あるいは上場して間もない急成長ベンチャーならば、その「チャレンジして頑張っています」という姿勢が1つのブランドになって、共鳴した若者たちが少数とはいえ集まってくる。

ところが、やがて東証一部などに上場して、それなりの規模になり、数百億レベルの売上も立つようになると、「上場している中堅企業」の1つにカテゴライズされる。

たしかにそれなりに成功しているけれども、トヨタやゴールドマン・サックスのような大企業と競い、優秀な人材を獲得するためには、相当強いメッセージが必要となる。

さて、自分たちのアイデンティティや強みをどうやって伝えようか、と必死で考えても、なかなか学生たちの胸に刺さるやり方が見つからない、という事態になる。

ところがMBOを実施したことによって「どうだ。ここまで自分たちでリスクをとって、本気でメガベンチャーを目指そうとしている会社がどれだけある?」という、とてもわかりやすいメッセージを発信できるようになった。

その違いは本当に大きいですよ。

牧野「上場をすれば人材の採用は容易」なんてことは、まったくない。

金子さんも言っていたように、上場企業なんて山のようにあるわけだし、ワークスにしてもシンプレクスにしても、中堅クラスの規模でありながら、上場企業のトップ数社に入るのと同等の優秀な人材に入ってきてもらわないと、チャレンジを続行できない。

そうなると、こと採用に限って言うならば、上場していることには何ら価値なんてないわけです。

実際、MBO後も変わらずに当社を目指してくれる学生は大勢いるし、これまで培ってきた「本当に優秀な人材を見極める」ための独自の採用手法によって求める人材の確保ができています。

もう1つ、当社の場合は海外に注力してきたこともあって、採用の視点もグローバルに変わりつつある。

別に日本人の新卒採用にこだわる必要がなくなったということ。

そうして実感したのが、海外の学生たちの優秀さです。これは日本の学生の皆さんも知っておいたほうがいい。

例えばインドならばIIT(インド工科大学)、中国なら清華大学や北京大学がトップ大学として名を連ねるけれども、そういうところの卒業生たちのレベルが驚くほどに高い。

考えてみれば当たり前な理屈なのだけど、彼らのように競争相手が星の数ほどいる国で生まれると、大学にたどり着くまでがまず厳しい選抜の連続。

しかも、大学入学時点ですでにスーパーエリートの彼らが、大学入学後もさらに厳しい選抜をくぐり抜けなければいけないというんです。

一方で昔から言われているように、日本の場合は大学入学まではスーパーエリートでも、その後モラトリアムな4年間を過ごしてしまう。

だから、同等のポテンシャルを備えていても、日本の学生を鍛え直すのに3〜4年かかるのに対し、大学時代も猛烈に勉強している中国やインドなどのエリートたちはせいぜい半年か1年で即戦力になってくれる。

金子シンプレクスも、もともと多国籍なチームでスタートしたし、MBO以降、グローバルな人材の採用が加速しているけれど、見ていてすぐに伝わってくるのは、彼らの方が日本人よりもずっとマチュアだということ。

人として成熟した大人なんです。新卒であっても、大人と大人という関係性で話ができる。

だから、日本の学生が本当にグローバルな成功を実現している企業に入ろうというのなら、彼らとの競争にも負けない優秀さとマチュアな人間性とが必要とされる時代になったんだと思うべき。

もちろん、僕らの側もグローバルで成果を上げないと、世界各国の優秀な人材を獲得できないわけだから、チャレンジをしていかなければならないと考えています。

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大将が怯んだら仲間はついてこない

経営の仕事を20年間も続けてきて、「挫けそうだ」と思ったことはないんでしょうか?

牧野少なくとも私は一度もない。

もちろん、成果が思った以上に伸びなかったりしたこともあるし、反省をしたことは何度もあるけれども、「もう駄目だ」なんて経営者があきらめの気持ちを抱いたら、会社なんて続かない。

1ミリでもあったら、終わっていると思うし、さっきの金子さんの話じゃないけれども、これだけ優秀な人材を集めておいて、あきらめたり、挫けたりしたら、「ふざけるな」と言われてしまう。

だから私は、一度だって後ろを向いたことはありません。

金子ビジネスというのは戦いだし、経営者はその大将だと思う。

その大将が先頭に立って「一緒に戦おう」という人間も集めて突き進むわけだけれども、戦いの間にはいろいろ困難なこともあるわけです。

でも、大将がもし少しでも怯んだら、皆の戦闘意欲は削がれ、戦う集団ではなくなってしまう。

怯むくらいなら、その大将は厳しい戦いから退くべきだし、幸いなことに僕も牧野さんと同様、一度だって怯んだことはありません。

最後に、これから起業をしよう、あるいは世に打って出ようという発想を持つ読者に向けてメッセージをお願いします。

牧野あなたが成し遂げようとしていることに、社会的な意義はありますか、と問いたい。

「今こういう市場でこういう事業をすれば、会社も儲かるし、自分も稼げるぞ」という発想がきっかけだとしても、それをどうこう言う気はない。

けれども、そこに何ら社会的意義がなくて、単にお金を儲けることだけが目的ならば、個人ビジネスでやってほしいと思う。

間違っても、そういうビジネスに優秀な人材を集めて「一緒にやろうぜ」と言うのはやめてほしいし、素晴らしい能力を持った人たちを集めようというのなら、是非とも社会的な意義のあることをしてほしい。

私はそれが会社を作る人間の必須条件だと思っています。

金子僕はサラリーマンだった時代から、一貫して「金融×IT」というものを追いかけてきました。

日本にはかつて、もの作りの領域でイノベーションを起こしたソニーやホンダのようなベンチャーがあって、世界をリードする存在にまでなったけれども、金融にせよITにせよ、日本は相も変わらず欧米の後追いをするばかり。

だったら、その両方でイノベーションを起こして世界に発信をしていきたい、と思ってシンプレクスを作った。

ただし、それは僕のストーリー。

「一緒に戦おう」と言って集まってきてくれた仲間とは、根底の部分で価値観をともにしているつもりだけれども、彼ら1人ひとりには、それぞれが人生を賭けて掴みたい独自のストーリーがある。

戦う集団の大将になろうというのなら、仲間の数だけ存在する膨大なストーリーを束ね、受けとめながら、共有できる1つの目標を設定するべきだし、時には仲間が抱えていたストーリーを膨らませていって、皆のストーリーにしていくことも必要だと思う。

会社として皆で背負うストーリーと、個々の仲間が背負っているストーリー、その両方にコミットするのが社長という存在の務めだと思うし、これから経営者を目指そうという若者がいるならば、どうかそういう考え方と覚悟とを持って立ち上がってほしいと思います。

こちらの記事は2018年04月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

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金子 英樹
  • シンプレクス・ホールディングス株式会社 代表取締役社長(CEO) 
  • シンプレクス株式会社 代表取締役社長(CEO) 
公開日2023/03/08

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