キャパ超え窮地にこそ、最大の成長チャンスが眠る──未経験から1人目マーケターへ転身、ソーシャルインテリア大和田美和子の“エースたる所以”
会社のなかでひときわ活躍している社員がいる。群を抜いて優秀な社員がいる。そんな“エース”と呼ばれる人間は、いかにしてエースになったのだろうか──。
20代エースの正体に迫る連載企画「突撃エース」の内容を元に、本記事ではそのエースたる所以を考察した。
第13回は、ソーシャルインテリアで営業から「1人目マーケター」への転身を果たし、BtoBマーケティングの戦略立案から実行までを遂行する大和田 美和子氏。自分のキャパシティを超えた時こそ成長が加速する絶好の機会と捉える彼女の姿勢には、“ピンチをチャンスに変える”を具体的に実践するための示唆が眠っていた。
- TEXT BY SHO HIGUCHI
「キャパがなくてもやり切る」を繰り返し、成長してきた
スタートアップでは常に、どの職種においても「一人目」のチャンスがある。中でも、売上トップラインの維持という至上命題に直結する“マーケター”というポジションであれば、やはりその人選が慎重になる。
大和田氏はソーシャルインテリアにて「一人マーケター」として、今では目覚ましい活躍を遂げている。しかしもちろん、最初から活躍できていたわけではない。3社目としてさらなる飛躍の場を求めた大和田氏は、一体どのような変遷を経て今に辿り着いたのだろうか。
「大学時代はあまり勉強などはしていなかった」と語る同氏は、就職活動にあたって「無形商材をしっかりと売れるようになりたい」「挑戦できる環境で働きたい」などの思いから、広告代理店や人材系の企業を中心に就職活動を行い、Webマーケティングコンサルティングなどを事業領域とするヴァンテージマネジメントに就職。営業として、とにかくお客様と向き合った。
テレアポやメールフォームからのフォーム営業など、地味な活動を地道に繰り返し、少しでも反響があった企業のもとにはすぐに訪問して直接話をする。顧客企業の売上アップのため、何時間も話し込んで帰ってこないということも少なくなかった。そうして新規案件をコツコツと勝ち取っていった。
しかし大和田氏はここで初めての壁にぶち当たる。「お客さまのためになることだけ」を考えてしまっていたのだ。そもそも、ビジネスにおいて「クライアントファースト」は当然すぎる大前提。しかし、目先の「クライアントファースト」によって利益が出なくなっては本末転倒だ。それどころか、新たな売上拡大のために割くことのできるコストや時間が少なくなってしまうことにもなった。
「クライアントファースト」と「売上・利益の継続的な成長」、どちらかのみを追求するのではなく、そのバランスが大事なのだが、それが難しい。そんな壁に、大和田氏も社会人デビューからそう遠くない時期に挑戦し始めたのだ。
さらなる経験を求め、次に選んだのはハートラス(現デジタルホールディングス)。「より規模の大きなクライアント企業のマーケティング活動をサポートしていきたい」という思いで転職を決めたのだが、さっそく正念場を迎えた。
クライアントのオフィスに週3回常駐してマーケティング活動をインハウスで支援しながら、初めて持つ直属の部下7人のマネジメントも担当することになったのだ。
大和田前職で感じた課題に挑戦ができる、そう感じて高揚していたのもつかの間、自分のキャパシティを超えていることにすぐ気づかされました(笑)。精神的にも一番キツかった時期です。ここでもう無理だ、と逃げ出すこともできたかもしれませんが、逃げ出せずにやり切れたことが、今の自分の成長に大きく繋がっています。
いかに少ない時間で大きなインパクトを生み出せるか、つまり濃度の高い時間を過ごすかについて、半年間ほど真摯に向き合いました。その結果、やはり思考の解像度が格段に高まりました。クライアントへの提案の精度も同様です。
ここから「キャパを超えている時こそ、自分が飛躍するチャンス」と考えられるようになりました。
昨今、創業期のスタートアップであっても「寝る間を惜しんで働く」という価値観は明らかに時代遅れになっている。自身のキャパシティを見つめなおし、状況によっては「もう無理だ」と考えることも重要だ。
そしてそのうえで、向き合うべき課題に対しては、真摯に逃げずに取り組む。そんな時間が、自分の将来の糧となるわけだ。もし貴方がエースを目指すのであれば「長く働く」という選択を今すぐにやめよう。「いかに濃い時間を過ごすのか」について考えることが、何より重要だ。
情けは人の為ならず。
常に信頼の貯金を作っておきなさい
クライアントワークに数年携わってきた中で、「より深く、売上にコミットしていきたい」と考え、28歳のときに事業会社のサブスクライフ(現ソーシャルインテリア)に転職を決めた大和田氏。ここで「一人目マーケター」のチャレンジが始まる。
重要だったのが「信頼貯金」だと振り返る。もちろん「信頼」という言葉がビジネスにおいて重要であることはいうまでもない。「先義後利を忘れざるべし」を常に胸に秘め、同氏は仕事に向き合い続けてきた。
例えば前述のように、自身のキャパシティを超えた仕事を抱えている時。読者のみなさんもそういった経験が少なからずあるだろう。「乗り越えるのが大事」というのはわかるが、具体的にどのように考えるべきと考えているのか。
大和田他のメンバーを頼ることで、局面を打開できることが少なからずあるはずです。そのためにも、普段から同僚や部下、上司に対して先回りして義を尽くし、信頼の貯金をつくろうと考えています。
社外の関係者とコミュニケーションを取る際に考えることも同じですね。
そう、普段から「先義を尽くす」ことができないかを常に考えているのだ。
自社プロダクトという点では未経験の立場から「一人目マーケター」として転職を果たした同氏は、これまで気づいた「信頼」によって周囲に助けられることが多かった。マーケターという職種は、他の職種と関わることも多い。インサイドセールスやフィールドセールス、カスタマーサクセスなどとは特に密な連携を求められる。
ソーシャルインテリアにおいて“入り口から出口まで”一気通貫でマーケティングを管掌するようになった大和田氏にとって、周囲の助けなくして、効果的なマーケティングは実現できないのである。「信頼は先行投資によってこそ得られる」という理念のもと、信頼を蓄積してきた同氏であるからこそ、周りのメンバーの助けを借りて活躍することができたと言えよう。
マーケティングで成果を出すために大事にしたい3つのこと
「マーケターとして成果を出し続けるために、重要なことは何か?」というシンプルな問いを、ここで大和田氏に投げかけてみた。すると、「三つある」と答え、語り始める。
1つ目のポイントは「現状を整理し、売上達成のためのプロセスを明確にすること」だ。なぜ目標とする売上を達成できないのか。それは受注件数が足りないのか、その前の商談数が足りないのかなど、大和田氏は「『なぜ?』を5回繰り返す」ことにしているという。
しかし、問題解決はそう簡単なわけでもない。ビジネスにおいては、解決すべき課題、考えるべきことが抽象的すぎて、思考が一向に進んでいかないこともある。そんなとき、大和田氏が心掛けている二つ目のポイントが「抽象的なことを言語化・体系化してアウトプットすること」だ。抽象的なままでは見えてこない課題解決のポイントも言語化し、具体的なアクションに落とし込み、さらに体系化していく作業を経れば、はっきりする。
例えば、「何か良い広告を出したい」という問いもそもそも「良い広告とは何か」というをしっかりと定義しないと施策がブレブレになるのはいうまでもない。そこで「コンバージョンレートの高い広告だ」と仮に定義すれば、「そのためにUIを改善しよう」「もっとキャッチーなディスクリプションに変えてみよう」という具体的な打ち手もいくつか見えてくるだろう。このように、日々ビジネスにおいて出くわす抽象的な問いに対して、具体的な問いに落とし込むことが重要なのだ。
また、ステークホルダーが多くなりやすいマーケターという職種にとって「ミーティングのゴールを明確にし、利益を出すために最適な着地になること」は特に重要だという。これが三つ目のポイントだ。
時には効果測定が難しい中、大きな投資の意思決定を迫られるマーケティング。ミーティングにはさまざまな職種や立場の人が参加し、それぞれの利益を主張することもあるだろう。しかしマーケターのゴールはあくまで“売上拡大”だ。そこをあらかじめ目指してミーティングを迎えなければ、実りのないものになってしまいがちだろう。
大和田美和子流、マーケターが成果を出すための3か条
- 「なぜ?」を5回繰り返す
- 言語化と体系化で、課題を特定
- ミーティングのゴール設計にこだわる
健康は大事にしつつ、ワクワクしながら働いていたい
自身の成長を追い求めた結果、過去には寝る間も惜しんで働いていたこともある、という大和田氏。しかし、現在では常に健康には気をつけているという。「精神的に落ち込んでしまうときは体調不良なことが多い」と喝破する同氏は、健康でいるための食事や十分な睡眠の確保に、一切妥協しない。ビジネスパーソンにとって体は最大の資本だと強く言い聞かせているという。
また、一緒に働く仲間も重要。「小学生や中学生の遠足のときのように、ワクワクしながら働いていたい」という同氏にとって、一緒にワクワクできる仲間がいれば仕事はより楽しくなる。「家具をより長くユーザーに使ってもらう」というミッションに対して、全メンバーが強く共感していることもあり、ワクワクしながら働いていると紹介する。こうした話の際に、終始笑顔が絶えない様子が印象的だ。
そして趣味は格闘技観戦。休日にはYouTubeで朝倉未来氏の動画を見ることが多いと語る。格闘家としての側面だけでなく“ビジネスパーソン”としての顔も持つ朝倉氏の姿勢から、リーダーシップの在り方や勝負に勝つことへのこだわりについて、日々学んでいると笑う。
このように、休日は休日なりの過ごし方でビジネスのことを考えている大和田氏。朝倉氏さながら、いやそれ以上のプロフェッショナリズムと矜持を、さらに強めていってほしい。
こちらの記事は2022年07月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
樋口 正
連載エースと呼ばれた20代の正体──若手のノウハウ大全
19記事 | 最終更新 2023.03.10おすすめの関連記事
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