連載私がやめた3カ条

異端児の挑戦。レールから外れた常識破りな戦略家が誕生した背景は!?──メディカルフォース代表・大嶋翼の「やめ3」

インタビュイー
大嶋 翼
  • 株式会社メディカルフォース 代表取締役CEO 

ブリティッシュコロンビア大学卒業後、人材系スタートアップ企業勤務、フリーランスを経て2020年にメディカルフォースを創業。「これからの産業の成長プロセスを合理化する」をビジョンに掲げ、美容クリニック向けオールインワンSaaS『medicalforce』の開発・提供を行う。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、自由診療・美容クリニックの現場業務を一つのシステムで管理可能にするオールインワンSaaS『medicalforce』の開発・提供を行う株式会社メディカルフォースの代表取締役CEO・大嶋 翼氏だ。

  • TEXT BY AYAKA KIMATA
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Punk精神で世界をリードする──美容医療の業務効率化で成果を挙げるメディカルフォース代表の大嶋氏

同社は、革新的なDXソリューションを美容医療領域で提供する企業として急速に成長を遂げている。

美容クリニックなどの自由診療を行う医療機関における患者の予約受付や診療記録の管理、会計処理、顧客関係管理(CRM)まで、一つのシステムで統合的に行えるSaaSを提供。このクラウドサービスは、業務と経営を効率し、あらゆる業務を一元管理できるため、多忙な美容医療業界における経営の最適化と業務負荷の軽減に寄与している。

また直感的なUIで、パソコンなどが苦手な方でも簡単に使いこなせる仕様にこだわったプロダクトでもある。

2024年2月にはシリーズBラウンドとして15億円の資金調達を発表。リード投資家はALL STAR SAAS FUNDとグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)という豪華な陣容だ。また、同時に「美容クリニック向けクラウド型電子カルテ導入院数」No.1(*)という結果も伝えた。

*……日本マーケティングリサーチ機構による「2024年1月期 指定領域における市場調査結果」より(調査期間:2024年1月16日~2024年1月23日、調査・検証項目:美容クリニック向けクラウド型電子カルテ導入院数の実績調査、調査方法:ヒアリング調査、調査対象:美容クリニック向けクラウド型電子カルテを提供するサービス5社比較

さらに同じこの2月、保険診療機能のリリースも発表。自由診療向けに閉じることなく、幅広いソリューションとなっていくことを予感させる展開を見せた。

このように最新の技術を活かしたプロダクトで、美容医療業界の既存の枠を超える挑戦を続けている。その背後には、代表大嶋氏の独特なビジョンとリーダーシップがあった。それらをかたちづくった、一風変わった経歴や独自の哲学をまずは見ていこう。

高校を中退した同氏に、大企業や外資系コンサルタントといった職歴はない。だから、なのかはわからないが、会社の理念として「Punk」というコアバリューを掲げている。これは、根拠のない自信や確信に基づく大目標を持ち、地道に目の前のことに取り組む姿勢のこと。メディカルフォースが目指す姿が、このような姿なのだ。

採用選考のカジュアル面談でも、大嶋氏は繰り返し「とにかく世界を代表する会社を作りたい」と語る。この「Punk」な話し方は経営者としては特異で、加えて面談の場で野望的な話をする代表は少ないのではないだろうか。

放たれる言葉やキャラクターは他の起業家と比較しても珍しいタイプであり、独自性をより際立たせている。

美容医療に留まらず、世界をリードする企業へと成長を目指す大嶋氏の野望は、時価総額百兆円クラスの企業として成長すること。これは世界ランキングでトップ10に位置するレベルの目標であり、大胆なビジョンが垣間見える。

この目標を現実にすべく、現在メディカルフォースは変革の時を迎えている。

大嶋今は明確にフェーズが変わってきたなと思っています。

これまでは『medicalforce』というSaaSだけを売ってきましたが、広く大きく成長するためにはシングルプロダクトだけでは難しいでしょう。

そのため、美容医療クリニックが持つ課題の中でも、特に「解決できる」という余地を広げるという意味で、別のプロダクトやマネタイズできる新機能を作ってそれを売っていくフェーズに来ていると考えています。

「新たに創って、それを売る」というのは、これまでにない試みとなる部分も多い。しかもそれを、同時並行で複数展開していく予定です。

それだけではない。さらに「美容医療産業のみにとどまらず、幅広い産業にVertical SaaSを展開しコングロマリットにしていくことを視野に入れている」と目を輝かせながら話す。

経営者としての“進化”も感じている。「若さと勢いで成長を遂げたメディカルフォースだが、規模が大きくなっていく中での守りの姿勢も強化したい」と強調する。

そのため、再現性の高い事業展開を目指し、アンラーン(過去の成功体験に固執しないこと)を重視していく。

大嶋新しい何かを始める時、人間ってどうしても変化を嫌がると思うんです。無意識に抵抗しちゃったりとか。

でもそこは経営者自身が、挑戦マインドを持って、常に挑戦と失敗、反省を繰り返す姿勢でいたいなと思っていて。自分自身がそれを実際に背中見せて、それを会社の中で発信していきたいなと思っています。

経営者でありながらも、常に第一線で社員たちの“ロールモデル”であろうと立ち振る舞う大嶋氏。人生においてどの様な転換期があったのか、「やめたこと」を焦点に紐解いていく。

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斜に構えるのをやめた──リーダーシップへの目覚め

中学時代から常識に疑問を投げかける反骨精神を持っていた。そんな彼がリーダーシップを志したのは、意外なきっかけからだった。

自らの人生曲線を我々に見せながら、中学時代について語ってくれた。

中学3年生の時、合唱コンクールの指揮者を経験した。

大嶋今にして思えば、これは単なる行事への参加ではなく、リーダーとしての自己実現への第一歩だったかなと。

当時は学校行事に対して非協力的で、学校自体好きではなかったんです。でも、自分とは異なるキャラクターのクラスメイトが指揮者に立候補した様子を見て、「いや、自分こそ、クラスのリーダーに挑戦すべきなのではないか?」と、反発心のようなものを覚え、立候補しました。そして無事、選ばれました。

やや意外な動機からだったが、この経験は人生の転機となった。指揮者としてクラスをまとめ「共通の目標に向かって努力することの喜びを初めて味わえた」と、それまで感じたことのない高揚感を知った。

結果的に、個人の感情を超えてチームを一つにするリーダーシップの重要性を理解するようになった。クラスメイト全員で平等に意見を交わし、一位を目指すという明確な目標に集中した。「指揮者に選ばれた以上、目標が達成できるよう、クラスを導くことだけを考えた」と振り返る。この経験が、後のメディカルフォースの代表としてのスタンスを形作ったのだろう。

中学時代に芽生えたリーダーシップと、目標達成に向けた意志の強さが融合し、メディカルフォースを革新的な企業へと導いている。この経験は斜に構える姿勢を捨て、真のリーダーとなるべく歩み始めた旅路の証である。

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頭の良さで勝負するのをやめた──大嶋氏の新たな挑戦

高校生時代は思いついたら行動せずにはいられないタイプで、孫正義氏の著書に感化された。そして孫正義氏のアメリカ留学経験に触発され、通っていた高校を中退し、自らも海外へと飛び立った。

アメリカに単身留学のあと、QS世界大学ランキング(2023年版)で世界37位というブリティッシュコロンビア大学経済学部に入学した。

だがそこで、挫折を味わうこととなる。それまでは自身の頭の良さに自信を持っていたが、あまりに優秀な同級生たちに囲まれ、自己の限界を痛感したのだ。

大嶋経済学部の数式を扱う授業で、なんと9歳の天才少年が隣に座っていました。それだけでも驚いたのですが、なんと普通に挙手して、教授とディスカッションを重ねている。しかも私の理解を大きく超えるような話題で……。

そんな光景を目の当たりにして、自分の価値観を根本から見直そうと思いました。

自身の頭の良さにこだわることをやめ、もっと広く教養を深め、幅広い知識を身につけることに専念した。電子書籍で月に20冊以上の本を読み漁り、移動時間を全て読書に充てるという学びの時間を有効活用したことで、単に知識を増やすだけでなく、思考力をとにかく高めようと取り組んだ。

大嶋本で知識を身につけることももちろん大事だと思いますが、それ以上に、書いてあることを材料として何かを新たに考え続けるというのが、読書の一番いいことなのではないかと思っています。

その力はすごく身につきましたし、その上で、ビジネスモデルや経済学など、起業する上で役に立つ考え方を身につけることができました。当時読んでなかったと思うと、今恐ろしいなって思うくらい、やってよかったことです。

読書の蓄積は、後に美容医療の事業に取り組む際の重要な基盤となった。留学生活で培った知識や教養、そして思考、様々な「点」が1つ、2つと線でつながり、美容医療の事業を前進させるきっかけとなったのだ。

頭の良さだけでなく、経験や教養に基づいた洞察によって、メディカルフォースを「世界を代表する会社」へと成長させていくことだろう。

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人と同じことを求めるのをやめた──独自路線とその展望

自らのキャリアと事業戦略において、既成の道を歩まず、独自の道を切り拓いてきた。伝統的なキャリアパスから外れた上に、初期の頃は周囲から市場規模の狭さを指摘されながらも、ニッチに見える市場での挑戦を続けてきた。

そんな挑戦心と達成意欲、つまり彼の経営における強みは、極端なパーソナリティから生まれていたことが、ここまでの話からも感じられる。

大嶋経営者としての僕の強みは、「極端さ」だと思っています。

レーダーチャートで示したら、1つの項目がずば抜けてて、他は0みたいな。欠けている点は多いけど、大きな目標に向かって本気でやりに行く部分は非常に強いと思っています。一点突破で死ぬほど伸ばしていこうっていう。

自分の武器をとにかく強くしていくスタイルでやっているので、その考えは、人生を通して一貫していると思います。

自分の能力が最大限発揮できる領域を見つけ出す、みたいな感じですね。

加えて、信頼できる仲間の存在についても強調する。

大嶋自分が一点突破というスタンスでやっている以上、補完してもらう人は必要です。だから自分よりその領域に長けている人には、信頼して全てを任せています。

今までメディカルフォースが成長できたのも、補完する人がいたからというのが大きいと思います。

今後の展望に関して、メディカルフォースを美容医療だけに留まらない、より広範な分野へと導く野心を持っている。

独自の視点で新たな価値を生み出し続け、大胆なビジョンがメディカルフォースの未来を形作っていく。

大嶋の言葉からは、自分自身の強みを知り、それを最大限に活かしながら、周囲と協力して目標を達成する重要性が伝わってきた。この熱い思いは人生における「やめたこと」が 教えてくれた教訓とも言えるのかもしれない。

そして今、新たな1ページが、すでに彼らの頭の中に書き綴られていることだろう。

こちらの記事は2024年02月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

木全 彩花

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