大阪万博で花開くか。 2018年の資金調達から見る、国内VR/AR市場の“両極端な動き”
調査会社「IDC」の発表によると、アメリカやヨーロッパ、アジアを含む9地域において、VR/AR関連サービスの合計支出額は2017年の140億ドルから2022年には2,087億ドルに達し、CAGR(年間平均成長率)は71.6%という高い成長が見込まれている。
対する日本市場はCAGR17.9%とアジア圏内でも低い成長に留まっているが、VRアトラクション施設の増加やスマホのAR対応、さらにその両方を組み合わせたMRのビジネス利用が進むなど市場成長が見込まれ、関連スタートアップの資金調達も続いている。
本記事では、2018年に資金調達を行った国内のVRスタートアップの動向を見ながら、今後のVR/AR市場を考察していく。
- TEXT BY YUKO NONOSHITA
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
体験型施設の投資は好調。触覚再現などの技術にも注目
専用HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を着用して没入型コンテンツをプレイするVRは高価な機材や運用技術が必要で、開発コストもかかるため参入障壁が高かったが、技術革新で状況も変わりつつある。
映画やゲームセンターに変わる集客装置として、VR/AR体験施設を設置するケースはこの1年で増えた。体験型知育デジタルテーマパーク「リトルプラネット」を開発する株式会社プレースホルダは、2018年2月に6億円を調達。ワイヤレス型VRで自由に歩き回れるVRエンターテインメント施設「TYFFONIUM」を提供しているTYFFON inc.は、みずほキャピタルなどより217万ドル(約2.4億円)を2018年10月に調達し、お台場に続く2号店のオープンを発表した。
そうした施設で今後期待されているのが触覚型コントローラの導入だ。コントローラやスーツを通じて身体に直接動きを伝える「ハプティクス」と呼ばれる技術は、VR/ARで不可欠な技術として開発が進んでいる。スマート義肢の開発で世界からも注目されるexiii株式会社は、VR空間を触れる触覚ウェアラブルデバイス「EXOS」を開発しており、2018年4月にグローバル・ブレインが運営するファンドを通じて約8,000万円を資金調達している。
他にもVR/ARの触覚再現に関しては、映像にあわせて動くシートや乗り物、風をあてたり香りを出すなど様々な技術がスタートアップによって開発されている。
不動産業界もVR/ARを積極的に活用へ
エンタメ以外でVR/ARの導入が国内で進んでいるのが不動産分野だ。
「Retech(Real Estate Tech)」と呼ばれる不動産向けの技術革新を進める市場が形成され、内覧会や家具販売などにVR/ARを活用するサービスが増えている。
クラウド上の3D不動産データをVRで内覧できるシステム「RooV」を開発する株式会社スタイルポートは、グリーベンチャーズなどが運営する投資事業から2018年1月に約2.5億円を調達。同じく不動産物件をVRやパノラマで見られる「VR内見」を提供するナーブ株式会社は、東急不動産ホールディングスなどから2018年10月に資金調達を行った(調達額は非公開)。
360度撮影カメラの普及やスマホ写真から3Dデータを生成するツールの登場で、室内データの制作も簡素化されつつある。コクヨはオフィス向けに、ベルメゾンは一般家庭向けにインテリアコーディネートをリアルタイムでシミュレーションできるサービスを提供している。
VRコンテンツの制作支援を行う株式会社スペースリーが、2018年4月に総額約1億円を資金調達したというニュースもある。同社は研究機関としてSpacely Labを設立し、不動産や空間VRコンテンツの制作に必要な画像データや解析の研究開発を進める。VR分野のAI実用化も進めており、新たなサービス開発を目指している。
教育、人材育成など様々な業界とのコラボに投資が集まる
VRによる人材育成プラットフォームを提供する動きも始まっている。
世界で3万社以上に導入されているVRアプリ作成ツール「InstaVR」を開発するInstaVR株式会社は、YJキャピタルなどから総額5.2億円を2018年6月に資金調達。海外では運用が始まっている人材育成VRプラットフォームの日本への提供を進める。
同社は人材採用でもVRコンテンツを活用し、わかりやすい情報の提供を行っているというが、こうした動きは国内でもすでにいくつかあり、ビジネスとして拡大する可能性はある。
VR空間で大人数が同時参加できるVRイベントを行うプラットフォーム「cluster」を開発しているクラスター株式会社は、2018年9月にシリーズBラウンドで約4億円の資金調達を行い、2016年からの合計到達が約6.5億円となった。
開発アプリがOculus RiftやHTC VIVEなどの高機能HMD向けなので、額としてはこれでもやや不安が残るが、ユナイテッド株式会社の取締役などを務めた手嶋浩己氏が社外取締役に就任して経営体制を強化している。今年はVTuberがいよいよ活躍の場を拡げる動きもあり、営業先をどれだけ開拓できるか注目したいところだ。
ここまで紹介した以外で、VR/AR活用するスタートアップの参入が増えているのが医療分野だ。VRでリハビリテーションを支援するソリューション「RehaVR」を開発するスタートアップ・silvereye株式会社は、2018年11月にTISから出資額非公開で資金を調達。リハビリや福祉施設、フィットネスジムへの道入を目指している。
課題は運動中に装着するHMDだが、前述したように新たなデバイスを安価で開発する環境はできており、今後世界中で深刻化する高齢者のQOL対策として、VRを活用するノウハウを提供しようとする動きは増えるだろう。
いち早く活用が進みそうなVTuber市場
今後のVR/AR市場は、5Gの登場と低価格のデバイスの組み合わせで成長するのは疑いようがない。高速で大容量のデータが利用できる5Gを使えば、3DCGや立体映像を滑らかに動かすことができ、没入感も高まる。HMDの低価格化と軽量化も進み、高品質のVR/ARを手軽に楽しめる機会が増えそうだ。当然ながらスマホ向けにもコンテンツが提供されるので、関連アプリやコンテンツ制作が増え、ゲーム業界でもVR/AR対応が進むだろう。
それ以前に活用が進みそうなのがVTuber市場だ。ドワンゴは人気VTuberが出演するオリジナルアニメ作品『バーチャルさんはみている』を1月から放送開始した。現時点ではまだ通常の2Dディスプレイに向けた放送だが、今後VR/AR用HMDやデバイス向けにも提供されるだろう。
誰もが手軽にVTuberになれる機材やツールも開発されており、VTuber専用ライブ配信アプリ「REALITY Avatar」のスマホ版も配信が始まったところだ。スマホの顔認識機能を応用し、アバターをリアルタイムに動かすことができる。
2025年に大阪での開催が決まった国際万国博覧会では、ARが活用されるという。会場内5カ所に設置される「空(くう)」と呼ばれる大広場では、AR技術を活用した展示などを行い、来場者同士が交流できる仕組みを作るとしている。そこではVTuberのようなインタラクティブなキャラクターが、ガイド役やコンパニオンとして活躍しているかもしれない。
現時点でVR/AR市場は、普及までにはまだ数年かかると判断して撤退を決めるところと、先駆けて投資を進めるところで両極端な動きになっている。日本の市場が成長するかどうか、どのような投資の動きがあるかを引き続きウォッチしておく必要がありそうだ。
こちらの記事は2019年01月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
野々下 裕子
編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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