近澤 良
オーティファイ株式会社
CEOソフトウェアエンジニアとして日本、シンガポール、サンフランシスコにて10年以上ソフトウェア開発に従事。DeNAにてOSSゲームワークや、全米No.1となったソーシャルゲームの開発を行ったのち、シンガポールのVikiに入社し、プロダクトエンジニアとして製品開発をリード。その後サンフランシスコへ移住し、現地スタートアップに初期メンバーとして参画。2016年に退社しAutify, Incを米国にて創業。2019年1月米国トップアクセラレーターAlchemist Acceleratorを日本人として初めて卒業。
日本発スタートアップがグローバルで勝負するには何が必要だと思いますか?
間違いなく「英語」です。グローバルで戦えていない企業の多くは、英語がわからないのが理由だと思います。現地のユーザーインサイトがわからない、文化が違うから理解できないというのもよく聞きますが、それはまず言葉がわかっていないからというケースが多いのではないでしょうか。英語なんて当たり前のように聞こえるかもしれませんが、当たり前だからこそしっかりできないといけないと思っています。
会社のトップであるCEOが、現地の言葉で会話し、現地の顧客を理解し、現地に適した戦略をつくる。これは最低限できなければいけないと思っていますし、さらにグローバルスケールするには、CEOだけでなく社員全員が英語を使えないと厳しいと思います。そして僕らはグローバルに挑戦しているので、自社の公用語は英語にしています。日本語がほとんど話せないメンバーもいますし、今後もその比率は増えていくと思います。
近澤 良氏の回答
どんな素養を持った人が、プロダクトマネージャーに向いているのでしょうか?
ご自身のバイブルとなっているような、何度も読み返す書籍はありますか?
Burning needsの原型とも言えるのですが、「ジョブ理論」は何度も読んでいますね。特に冒頭で出てくるバニラシェイクの話は、最初出会った時に感動したのを覚えています。既存のソリューションは、何を解決しているのか?そしてどんなシチュエーションで何を代替しているのか?という、Burnings needsを発見するために大事な要素が詰まっている1冊です。
近澤 良氏の回答
プロダクト開発や事業づくりにおける「失敗」を教えてください。また、その経験から得られた学び、もしくは今だったらどう回避するかなども教えていただけると幸いです。
最初に創業してからの2年間は、失敗続きでまったく事業が伸びませんでした。いくつもの失敗をしましたが、根本原因はBurning needsを発見していなかったこと。顧客の燃えるような課題を見つける前に、先走ってコードを書き始めてしまっていました。Autifyでは、初期はプロダクトすらない状態で受注しているので、いかにBurning needsが大事かを身をもって体感しましたね。
また当時は翻訳の課題をテクノロジーで解決する事業をやっていたのですが、これはマーケット選定のミスでした。スタートアップは「どの山に登るか」が極めて大切とよく言われますが、僕らはとても小さな市場を選んでしまった。翻訳市場自体は大きかったですが、翻訳の技術市場は小さすぎました。
近澤 良氏の回答
もっともグロースに貢献した施策は何ですか?
正直な話をすると、今のフェーズではまだグロースを意識したことはありません。どちらかと言うと、顧客のBurning needsをしっかりと見極め、優先順位をつけてコツコツ積み上げていくことで、着実に最短距離でグロースしているという感覚です。
ただ、「この機能をきっかけにお客さんの反応が大きく変わったな」というのは一つあります。それはスクリーンショット機能なのですが、この機能追加をした直後に導入数が急増したので、ターニングポイントと表現しても良いかもしれません。これは記録したシナリオをスクリーンショット付きで見れる機能なのですが、導入数などの数字以上に、目の前でお客さんに見せたときの反応が全然違いましたね。今のAutifyを形作った機能の一つです。
近澤 良氏の回答
プロダクトマネージャーとして意識していることや「哲学」はありますか?
当然、Burning needsを解決することなのですが、実は3つに細分化していて、会社のバリューにもしています。1つ目は「Problem first」。課題がない状態で議論をすべきではないし、解くべき課題を適切に見つけることが先決です。
次は「Dig deeper」。「ディグる」とも言ったりしますが、表面的な意見ではなく、本質的な根本課題を探るという意味です。なぜその課題は課題なのか?というのを深掘り続ける。根本原因を探ると、わざわざ開発するまでもないようなソリューションで解決できたりすることもありますし、何より最適な打ち手に辿り着くことができるので必須だと思っています。
最後は「最短経路を見つける」ことです。100%の労力を割いたら100%の成果が得られる可能性はありますが、リソースがないスタートアップの戦い方としては間違っていると思います。理想は、50%のリソース投入で80%の価値を生み出すといった、価値の要点を押さえた戦い方です。例えばプロダクト開発でも全部をきれいにつくり切る必要はなく、顧客にとって本当に燃えている課題さえ解決できれば80%の達成度でもいいのです。
近澤 良氏の回答
近澤さんの人生におけるBurning needsは何ですか?
面白いご質問ありがとうございます(笑)。真面目に回答すると、「Autify」自体が僕のBurning needsです。僕自身がずっと求めていた製品ですし、自らが求めるものでようやく世界に挑戦できると思っています。これは僕だからこそできるし、僕にしかできない。そう思えるくらい、過去の経験が積み重なった上に成り立っています。
もともと学生時代から友人と起業したりしている中で、いつかまた起業したいと思ってキャリアをスタートしました。当時から「世界中の人に使われるものをつくりたい」という想いがあったのですが、その実現のために英語を勉強し、シンガポールでエンジニアとして働き、最終的にはシリコンバレーでも働くことができた。それらすべての経験があったからこそ今があるし、今まさに「Autify」で世界に挑戦している真っ最中です。
近澤 良氏の回答
Burning needsは0→1フェーズを超えても大事な概念なのでしょうか?フェーズによってやるべきことは変わると思うのですが、例えば1→10に突入したらBurning needsに代わって意識すべきことがあれば教えていただきたいです。
どのフェーズにおいてもBurning needsは大事です。特に初期は、Burning needsなくして事業成功なしと言っても過言ではないほどですが、グロースフェーズにおいても重要だと思います。先日、ブログでも書いたのですが、自社のバリューにも「Burning needsを解決する」を組み込んだほどです。
指針としてすごく有効だと感じているのですが、例えばプロダクト開発の優先順位についても「Burning needsを解決する」というバリューに則れば、顧客が本当に必要としているものから順番に手をつけますよね。つまり、Burning needsによって、真にユーザーファーストな意思決定が日頃からできるようになっています。社内でも「それはどのくらい燃えているのか?」という言葉が飛び交うほど大事にしています。