2018年のブロックチェーン関連ニュースまとめ──バブルの膿を出し切り、業界全体が前進した1年を振り返る

2018年、大きく市場が冷え込んだ仮想通貨業界。一方で、ブロックチェーン関連の市場は拡大するという予想が出ていたり、ブロックチェーン関連のスタートアップが生まれていたりと、明るいニュースも出ている。ブロックチェーン市場は、これからどのように変化していくのだろうか。また、スタートアップにとって、どのようなビジネスチャンスがあるのだろうか。本記事では、2018年の関連トピックを振り返りつつ、ブロックチェーンに関するコワーキングスペース「HashHub」を運営する平野淳也氏に聞いた2019年の展望を紹介したい。

  • TEXT BY HITOMI YOSHIDA
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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拡大が見込まれる市場、新規参入のプレイヤーも

IDC Japan株式会社の統計によると、国内のブロックチェーン市場規模は、2018年の49億円から2022年に545億円へと急速に成長する見込みだという。

IDC Japanは、「国内は高信頼社会であり社会基盤の整備も進んでいることから、海外と比べてブロックチェーンの必要性に対する意識の高まりはやや遅い。国内における2018年の関連支出額は世界の2.9%に留まった。しかし、今後サプライチェーンへの導入を始めグローバルな取り組みの拡大などを受けて、投資も急速に増加するだろう」と予想している。

国内ブロックチェーン市場 支出額予測(2017年~2022年)

2018年、様々なプレイヤーがブロックチェーンの領域で動きを見せた。発表されたニュースについて、大手IT企業を中心に紹介していきたい。

ヤフー株式会社

2018年4月、子会社のZコーポレーション株式会社を通じて仮想通貨交換業者「ビットアルゴ取引所東京」に資本参加。ブロックチェーン関連領域と仮想通貨事業に参入する。ヤフーグループの持つサービス運営やセキュリティのノウハウを活用して、ビットアルゴ取引所東京が運営する取引所サービスの開始準備や開始後の運営を支援する予定だという。

同年12月には、ブロックチェーンに関する情報を発信する米国のWebメディア「CoinDesk」のライセンス契約を締結し、2019年3月に日本版を創刊することを発表した。

株式会社gumi

2018年5月、仮想通貨とブロックチェーン技術に特化した約30億円規模の投資ファンド「gumi Cryptos」を設立すると発表した。同年12月には、米国の大手ブロックチェーン財団「TRON」のゲーム投資ファンド「TRON Arcade」と戦略的連携を発表している。

株式会社Gunosy

2018年7月、Anypay株式会社とブロックチェーン関連事業を行う合弁会社「LayerX(レイヤーエックス)」の設立について合意。トークンの設計コンサルティングや開発、ハッキングを防ぐコード監査、仮想通貨マイニングに関する事業などを進めている。

同年12月には、韓国を中心にグローバルでブロックチェーンプラットフォームを展開するICON財団との公式パートナーシップの締結も発表した。

株式会社メタップス

2018年8月、同社のグループ会社のUpside Co., Ltd.が、ブロックチェーンプラットフォーム「ProofX」の開発を進めるため、韓国のスタートアップであるDcenty Inc.との戦略的提携を発表。ブロックチェーン技術を活用し、電子データの偽造や改ざんを防止するための仕組みを提供するTSA(Time Stamping Authority)サービスの実現を目指すという。

同年11月には、ブロックチェーン技術を活用したデジタルアセット取引プラットフォーム「TEMX」をリリース。自分だけの惑星を育てるゲーム「DIG STAR」を通して、ゲームキャラクターなどのデジタルアセットが取引されるマーケットプレイスの構築を目指している。また、シンガポールにブロックチェーン関連事業を扱う新会社を設立したことも発表した。

楽天株式会社

2018年8月、子会社の楽天カード株式会社を通じて仮想通貨交換業者「みんなのビットコイン」を2.6億円で買収すると発表。「仮想通貨による決済機能の役割が大きくなっていく」と、買収の狙いを記す。英国に設立した「楽天ブロックチェーンラボ」や楽天コインなどを含めて、独自の「楽天エコシステム(経済圏)」を拡大していく方針だという。

LINE株式会社

2018年8月、グループ会社を通して約11億円規模のブロックチェーン関連ファンドを設立。ブロックチェーン関連のスタートアップ企業に投資を進める予定だ。

また、独自のブロックチェーン上で5つの新サービスを2019年3月までに公開すると発表。ユーザーは商品の口コミレビューや、グルメレビューサイトなどで口コミを投稿することにより独自の汎用コイン「LINK Point」を得ることができるという。LINK Pointは、LINEポイントに交換して、LINE Payでの決済やLINEサービスでの購入時に利用することが可能だ。

株式会社メルカリ

金融事業子会社メルペイで、ブロックチェーン技術に関する社内プロジェクト「Mercari X」が進行中。2018年10月に行われた「Mercari Tech Conf 2018」では、独自通貨を利用し、何らかの社員間取引を行う社内向けアプリを開発していることが明かされた

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バブルの膿を出し切り、現実的な議論が活発化した2018年

一方で2018年は、いわゆる「コインチェック事件」を受けて、サイバーエージェントがビットコイン事業への参入を断念するなど、ネガティブなニュースも多かった。

これらを踏まえた業界の動向について、ブロックチェーンに関するコワーキングスペースやLightning Network(ライトニングネットワーク)関連の自社プロダクトを展開する「HashHub」を運営する平野淳也氏にメールで取材を行った。平野氏は「2017年の過剰なバブルの膿を精算しながら、業界全体は明らかに前進した」と、この1年を振り返る。

平野氏2017年はICOバブルでしたが、2018年は一転して市場が冷え込みました。しかし、その中でも継続的に投資を行う海外のVCが多数存在し、活発に開発しているプロダクトも増えています。加えて、バブル時には夢ばかり語られていた議論が一気に現実的となり、米国を中心として規制の議論も活発に行われました。

国内の動きに関しては、多くの企業が参入して仕込みを始めた1年でした。企業以外のコミュニティやブロックチェーン開発者も増えており、HashHubのコワーキングスペースでも、具体的なプロダクトを開発する人が非常に目立つようになりました。

HashHubのWebサイト

ただ、平野氏は「楽観的すぎる姿勢もよくない」と話す。

平野氏ブロックチェーン市場は絶対に成長するという未来を予想し、信じ続けることは難しくありません。しかし、より難易度が高くなるのは、その後です。

インターネットの普及時にも、適切なタイミングではない参入があったといえます。たとえば、2000年にビデオストリーミングのようなサービスを始めたり、多くの人が一斉に検索エンジンに乗り出したりという失敗が積み重ねられてきました。同じことがブロックチェーンの文脈でも繰り返されています。

マネタイズできている事業ドメインはまだ限られていますが、ユーザー像や行動フローの仮説を立て、自身の今あるリソースで「何ができるか」をミクロレベルで判断し、実行できなければなりません。自分自身もこうしたことを意識して、日々意思決定をしています。

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2019年の大きなテーマは「Ending era “only” fat protocols」

平野氏は今まで挙げてきた現状を踏まえて、2019年の大きなテーマとなるのは「Ending era “only” fat protocols(プロトコルだけに価値がつく時代は終わる)」と語る。

ブロックチェーンにおいて信じられている概念の一つに「fat protocols」があるという。インターネット領域では、TCP/IPやHTTPSといったプロトコルに価値がつかなかったが、ブロックチェーン領域においては、プロトコル(最も代表的なものがビットコインやイーサリアム)にこそ大きな価値がつくという考えだ。

要するに、「いかにしてデータをやり取りするか」という仕組みを構築したものこそが、この領域の覇者になる。乱暴に言えば、あらゆるアプリケーションは、その仕組みを利用したものに過ぎないからだ。これまでインターネットの覇者であったGoogleやFacebookといったサービスの場合は、いかにそのサービス上でユーザーが行動するかに価値が置かれる。根幹の仕組みか、仕組みの上でのサービスか。両者は極端な価値観のもとにあるといえる。

しかしながら、ブロックチェーン領域においても、今後は仕組みよりもアプリケーション側の盛り上がりが必要だ、と平野氏は見る。

平野氏fat protocolsの理論をもとに、ブロックチェーン領域ではプロトコルに多くの投資が行われてきましたし、現在もプロトコルトークンに最も価値が置かれています。取引高の多いビットコインを使うエンティティ、あるいはイーサリアムの上に乗るアプリケーションが増えれば、さらにプロトコルの価値は高まる。つまり、アプリケーションよりもプロトコルの価値が常に上回っているということです。

しかし、プロトコルの価値をドライブさせるためには、アプリケーション層も当然に必要となり、VCは自身の投資をするプロトコルの上にあるアプリケーション層も応援するという動きが増えるでしょう。2018年にもその動きはありましたが、2019年前半はそれが形となるはずです。

今年前半に形となると予想されるアプリケーションの成果は、ブロックチェーンのことを深く知らない人にとってもイメージしやすいため、そこから空気感はまた変わるという。一方で、業界全体の景気が悪くなると、トークン価格によりレバレッジを効かせているプロジェクトが多いことや、マイニングというビジネス構造の特殊性があるため、キャッシュフローが回らなくなる企業も多くなる「ブロックチェーン業界の脆さ」も平野氏は指摘した。

しかし、平野氏は「懸念点として挙げられるのは“この脆さ”くらいで、ブロックチェーン業界全体や技術の発展、その技術が世の中に価値を提供するプロダクトとして利用される未来としては、非常にポジティブな予想をしている」と結んだ。

こちらの記事は2019年02月19日に公開しており、
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執筆

吉田 瞳

1994年生、上智大学文学部新聞学科卒。PR会社で働きつつ、フリーランスのライターとして複数媒体で執筆中。記事を通して、自然、体験、歴史など、「カタチのないもの」の姿を伝えていきたいです。山が好き。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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