マーケティングの核は「獲得」から「エンゲージメント」に。
バーガーキングに学ぶ顧客との関係性づくり
【Customer Engagement Conference レポート】

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登壇者
平田 祐介
  • Repro株式会社 代表取締役 

1980年、東京都出身。戦略コンサルタント出身のシリアルアントレプレナー。大手コンサルティングファームに入社後、主にメーカーに対して経営戦略立案支援や成長支援業務に従事。2011年から複数の立ち上げに関与する。2014年にReproを創業し、世界66か国7,300のサービスに導入(2020年1月時点)されているカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Repro(リプロ)」を提供。

米田 匡克
  • Amplitude, Inc. Japan Country Manager 

三菱電機株式会社情報技術総合研究所で技術者としてキャリアをスタート。
Gemstar TV Guide で取締役副社長、Entropic Communications で代表取締役社長、Chartboost、LEANPLUM でカントリーマネージャーとして日本代表を歴任。
2019年よりグロースハック向けプロダクトアナリティクスを提供する米 Amplitude の初代日本カントリーマネージャーに就任。

Jeffrey  Wang
  • Amplitude, Inc. Co-founder, Chief Architect  

スタンフォード大学出身。学生時代はGoogleやMicrosoftでインターンをする。
ビッグデータ解析のPalantir Technologyに新卒で入社、分散ログ処理システムを構築に携わる。
Amplitude創業後は、Chief Architectとして、企業が高度な行動分析を使用し、より良い製品を構築できるよう推進中。最先端の技術で自社製品の革命加速を担う。

Preston Nix
  • BurgerKing Inc. Manager, BK US Mobile App 

広告やマーケティングで数々の受賞歴をもつ世界的ファーストフードハンバーガーチェーン米Burger KingのCRMおよびオンライン上の顧客コミュニケーション設計を手掛けるチームにて責任者をしている。
世界の広告最高峰を競うカンヌ・ライオンズ2019ではモバイルアプリ2冠を達成。自社のモバイルアプリを活性化するために仕掛けた斬新でユニークなキャンペーンが評価されている。

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人びとの購買行動が「所有」から「利用」へと移ろいつつある昨今、購入はゴールでなくスタートになる。企業には、顧客との長期的な関係構築を見据えたコミュニケーションが求められるのだ。

このような変化に対応すべく、App / Web向けのマーケティングプラットフォームを開発・運営するReproは「カスタマー・エンゲージメント(CE)」を提唱している。マーケティングにおいて、購入ではなく、顧客との関係性強化を重視する考え方だ。

2020年1月、国内外におけるCEの最先端を探るべく、Reproは「Customer Engagement Conference TOKYO」を開催。基調講演『世界の“Customer Engagement”の潮流』では、世界の広告賞で数々の受賞歴を持つ、世界最大規模のハンバーガーチェーンであるバーガーキングのMobile App Manager・Preston Nix氏と、グロースハック向けユーザー行動分析ツールを提供する次世代ユニコーン企業・AmplitudeのChief Architect Founder・Jeffrey Wang氏、同社のJapan Country Manger・米田匡克氏をゲストに招いた。Reproの代表取締役・平田祐介氏がモデレーターを務め、CEの最新トレンドを探った。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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世界有数のマーケティング巧者・バーガーキングと、裏側で支える次世代ユニコーン・Amplitude

平田氏は、バーガーキングをゲストに迎えた理由を「世界各国で、CEを高めるための巧みなマーケティングを実施しているから」と語る。

Repro株式会社 代表取締役・平田祐介氏

たとえば、スペインでの事例。レジの横に隠しカメラを設置して顧客の顔写真を撮り、人気商品『ワッパー』の包装紙にその場で印刷し、注文商品に用いるキャンペーンを実施。この“ドッキリ”施策は世界中で話題を呼び、作り置きではなく、注文後に商品をつくり、提供している点を効果的にプロモーションした。

また、ノルウェーでもユニークなキャンペーンを実施。Facebookページに「いいね!」を押してくれているユーザーに、「本当のファン」か「裏切り者」かを選ばせた。「本当のファン」は新しくローンチしたファンサイトに招待された一方、「裏切り者」はファンサイトから削除され、マクドナルドのクーポン券が配られた。「いいね!」数は約38,000人から8,000人に減ったが、エンゲージメントの高いユーザーを選別できたという。

バーガーキングのマーケティングを裏側で支えているのが、グロースハック向けユーザー行動分析ツールを提供する次世代ユニコーン企業・Amplitudeだ。2012年にサンフランシスコで創業された同社は、FacebookやZyngaなど、世界的なテックカンパニーをクライアントに抱える。

平田Amplitudeと比べたら、グロースハック向けの解析ツールとして世界的に有名なMixpanelですらレガシーです。現在は約900億円の企業価値と見ています。

特筆すべきは、約300人の従業員のうち、エンジニアが35人しかいない少数精鋭のチーム構成。チームを束ねるのが、共同創業者のJeffrey氏だ。

Amplitude,Inc. Chief Architect Founder・Jeffrey Wang氏

Jeffrey私たちは、世界トップクラスのマーケティングチームに向けてプロダクトをつくってきました。モバイルアプリが普及し、ユーザーのデジタル上での行動が複雑化したいま、従来よりも深く、パワフルな分析ツールが求められるようになっているんです。

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マーケティング戦略の根幹にある“諦め”とは?

バーガーキングのマーケティング戦略は、ある種の“諦め”を前提に立案されている。同社のモバイルアプリのマネージャーとして、UX設計からデジタルキャンペーンまで手がけるPreston氏は、バーガーキングの顧客像についてこう語る。

BurgerKing Inc. US Mobile App Manager・Preston Nix氏

Preston「バーガーキングだけでなく、マクドナルドにも行く人」という顧客像を設定しています。ファストフード業界は、特定ブランドのロイヤルカスタマーが生まれにくいんですよ。

「ファストフード店であればどこでもいい」と考える顧客向けに展開される、バーガーキングのマーケティング戦略の核にある考え方は「Lead with technology」だ。最新テクノロジーを活用したデジタルマーケティングに注力している。

同社のパートナーを務めてきたAmplitudeのJapan Country Manager・米田氏は、バーガーキングのマーケティングプロセスを3段階に分けて語った。

Amplitude,Inc. Japan Country Manger・米田匡克氏

まず、バーガーキングのモバイルアプリから、アプリ行動ログ、位置情報データ、広告計測データを取得。Amplitudeを活用して、ユーザー行動を分析してセグメント化する。セグメントごとにターゲティング戦略を立て、プッシュ通知やアプリ内メッセージ、広告キャンペーンを実施していく。

提供:Repro株式会社

同社の戦略について、平田氏はひとつの懸念を示す。個人情報に関する規制が厳格化している現状を踏まえ、「アメリカでも、位置情報データなどを取得する際は規制が厳しいのでは?」と聞いた。問いかけに対し、Jeffrey氏はこう答える。

Jeffreyもちろん、アメリカでも個人情報の取り扱いはどんどんセンシティブになっています。だからAmplitudeは、匿名化にこだわっているんです。ユーザーの行動データを“個人情報”として扱わずに、価値を生み出していくことが大切です。

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世界最大の広告賞で2冠達成。バーガーキングの好手「寄り道ワッパー」とは?

特にマーケティング業界で注目集めたのが、「寄り道ワッパー」と呼ばれるキャンペーンだ。

マクドナルドの店舗から180メートル以内でバーガーキングのアプリを開くと、1セントでワッパーが買えるクーポンが手に入るというもの。「マクドナルドに“寄り道”することでワッパーが手に入る」ユニークなスタンスが話題を呼び、世界最大の広告賞・カンヌライオンズで2冠を獲得した。

キャンペーンの効果も絶大で、アプリダウンロード数ランキングは、48時間で686位から1位に急上昇。9日間で150万ダウンロードに達し、モバイル経由の売上は3倍に膨れ上がった。

Preston氏は「1年ほどかけて準備した」とキャンペーンを振り返る。2018年夏にモバイルアプリをリニューアルし、クーポン利用だけでなく、注文・決済も行えるようにした。その機能拡充の認知を広げることが、キャンペーンの目的だった。

とはいえ、大きなバズを生むキャンペーンは、一過性に終わってしまうリスクもある。「リテンションやエンゲージメントも高まったのか?」という平田氏の問いに対し、Preston氏はこう答えた。

Prestonかなり高まりました。寄り道ワッパーのキャンペーン終了後も、購入すると旅行や現金を勝ち取れるゲームをプレイできるキャンペーンを12日間続けましたし、ユーザーのセグメントごとにパーソナライズされた通知も出していったからだと思います。

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「KGIをKPIに因数分解」では足りない。大手テック企業で普及する指標“NSM”とは?

寄り道ワッパーの裏側でも、Amplitudeが活躍していた。施策設計は以下の通りだ。

提供:Repro株式会社

まず、モバイルアプリからの売上をKGIに置いた。Amplitudeが優れているのは、ここで「売上を因数分解してKPIに落とし込む」という手法を採らなかった点だ。かわりに、「North Star Metric(以下、NSM)」と呼ばれる指標を設定。

NSMはプロダクトの本質的な価値を顧客に提供できているかを測る単一の指標で、AirbnbやAmazon、Facebookといった大手テックカンパニーの間で普及しつつある。

JeffreyKGIを因数分解してKPIを弾き出すだけでは、ユーザー目線でエンゲージメントを評価できません。だからこそ、適切なNSMを設定することが大切なんです。

バーガーキングのケースでは「ユーザーごとのデジタルトランザクション数」をNSMに設定した。Amplitudeは、そのNSMを測るためのKPIを「広がり(ユーザー数)」「深さ(エンゲージメントレベル)」「頻度(再訪頻度)」「効率(タスク完了までの速度)」に分解。それぞれの指標を伸ばすため、「いかに実験を繰り返せるかに注力した」と米田氏。

米田1ヶ月に1回しか実験しなかったら、1年に12回しかラーニングできません。でも、1週間に1回実験すれば、48回学べる。さらに5日に1回、3日に1回と、学習のサイクルを早めていくことが大切なんです。

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NSM向上に直結する「マジックナンバー」を見つけよ

NSMに紐づくKPIの数値を伸ばすため、バーガーキングはAmplitudeのカスタマーサクセスチームとも連携し、PDCAサイクルをまわしていった。

グロース運用のステップは3段階。

  1. NSM向上につながるユーザー行動の特徴を分析
  2. それぞれのセグメントのユーザーについて、行動変容を促す「マジックナンバー」を見つける
  3. カスタマージャーニーをもとに具体的な施策を検討

性別などのデモグラフィック分析では不十分であり、「プッシュ通知に反応するユーザー」といった行動でセグメントを分けるのがポイントだ。

Jeffrey行動の分析からは、デモグラフィック分析ではわからないような、想定外のユーザーインサイトが得られます。たとえば、とあるグループはリマインダーが出たときだけ反応したので、もともとは目立たなかったリマインダー機能を目立たせました。すると、リテンションが3倍に上がったんです。

米田行動セグメントごとにキャンペーンの内容を変えることで、パーソナライゼーションを実現しています。自社広告への反応、ウィッシュリストを使うかどうか、プッシュ通知を嫌がるか、何ドルのクーポンが欲しいのか…行動ごとに、異なるメッセージやクーポンを送っているんです。

マジックナンバーを見つけにいく際には、黎明期のFacebookのアプローチを参考にした。Facebookは「最初の10日間に、7人の友人を得る」ことがマジックナンバーだと突き止めることで、急成長のトリガーにした。

Amplitudeは、アプリ上にイベントタグを埋め込んでおけば、自動的に分析してマジックナンバーを見つけてくれる。バーガーキングの場合は、「アプリをダウンロードした後の購入回数」にマジックナンバーを見つけた。

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「獲得」から「エンゲージメント、リテンション」へ

セッションの最後、平田氏はバーガーキングの強みを次のように総括した。

平田CEを高めようとすると、どうしても顧客を囲い込む発想になりがちです。でも、バーガーキングは「うちだけを利用する人はいない」ことを前提にマーケティング戦略を組み立てていました。Amplitudeによってデータを可視化し、コミュニケーション施策に落とし込んでいくプロセスを含め、たいへん勉強になりました。

今後も、バーガーキングとAmplitudeはCEの向上を追求していく。

Prestonバーガーキングは引き続き、革新的なクリエイティブを生み出すことに力を入れていきます。さまざまな角度からデータを見て、より良いUXを提供し続けたいです。

Jeffreyマーケティングのポイントは、「獲得」から「エンゲージメント、リテンション」へとシフトしています。顧客獲得コストは高騰していくばかりなので、今後はより一層リテンションの支援に力を入れていきたいです。

こちらの記事は2020年02月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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