連載ベンチャーNo.2サミット──社長とNo.2の関係性と役割分担
【ラクスル CEO×CFO対談】
CEOは万能ではない。創業者ではないNo.2が、組織成長のためにやってきたこと
社長を支える重要なポジションでありながら、普段はなかなかフィーチャーされることのない企業のNo.2。
そんなNo.2の在り方やリアルに迫る、「ベンチャーNo.2サミット」の第4回となる『ラクスル&コネヒト 社長とNo.2の関係性と役割分担』が開催された。
前半セッションに登場したのは、印刷・広告・物流のシェアリングプラットフォームなどを提供するラクスル株式会社。代表取締役社長CEO松本氏が2009年に創業した同社は、5年後の2014年に取締役CFO永見氏を迎え入れた。創業からしばらくして、大きな組織崩壊を経験。事業の存続も危ぶまれる状況のなか、松本氏自ら全力で口説きにかかったのが永見氏だった。 性格もビジネス上の特性もまったく異なる2人が、どのように信頼関係を築き、役割分担をして事業を作ってきたのか。元グロービス・キャピタル・パートナーズの東氏のファシリテーションにより、その秘話が明かされた。
- TEXT BY RYOKO WANIBUCHI
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
自分より優秀な人を採る覚悟
ラクスルのNo.2であり、今年5月に果たした東証マザーズ上場における功労者として、スタートアップ界で注目を集める永見氏が入社したのは、2014年4月。CEO松本氏がひとりで起業してから5年後のことだ。
永見氏の入社前後で、ラクスルの会社としてのステージは大きく変わった。成長フェーズに入ってからのマネジメントが上手くいかず、それまで3名いた役員が全員去ってしまったのだ。「組織づくり」の大切さを痛感した松本氏は、「自分より優秀な人を採る」というミッションを掲げ、採用活動に精を出した。
松本自分がトップダウンですべて決めていくスタイルに限界を感じ、自分より優秀な人を雇わないと会社が成長しないと焦っていました。そこで転職サイトで見つけた永見さんに、スカウトを5〜6回くらい送って。やっと会ってくれたと思ったら、レジュメの経歴がものすごかったんですよね。すべてにおいて自分より数段上。
恐怖感はありましたが、当時のラクスルには永見さんのような優秀な人が必要でした。面会を重ねるうちに、彼の視点はまさに投資家だと思い、投資家へのピッチと同じようにプレゼンをしました。口説いたというよりも、「このビジネスはいける」と思ってもらえるように事業の良さをただただ語ったんです。
想いと事業の可能性が伝わり、「年収5分の1の契約社員」という悪条件ながら、永見氏は入社を決める。入社時には出資の申し出もあったというが、松本氏は自分でスカウトしておきながら「ハゲタカが来た、乗っ取られる」と周りに相談していたと振り返る。そこまでインパクトが大きい人材を引き入れられたからこそ、ラクスルの今があるのだろう。
永見当時はスタートアップの感覚もわからなかったので普通かと思いましたが、今思えばかなりエクストリームな条件でしたね。あとから謝られましたけど(笑)。
スカウトが何回も来たので、最初は「この会社おかしくないか?」という印象でしたが、会って話してみるとビジョンへのフィット感が高かった。周りの経営者からの薦めもあったし、純粋にやりたいと思える事業内容だったので、一緒に会社を成長させたいと思えました。
信頼関係のはじまりは、自分の苦手を理解すること
創業者ではない2番手は、会社を我が子のように育ててきたCEOと、どう向き合うべきか苦戦することも多い。永見氏はどのようにして信頼関係を築いてきたのだろうか。
永見まずは会社をゼロから立ち上げてやってきたことにリスペクトを示し、意識的に関係性をつくっていきました。敬意は示しながらも、間違っていることがあれば感情的になってでも伝えることが必要だし、言うときはきちんと言う。
創業者の性質にもよりますが、松本さんは学ぶ能力が高く変化していける人だったので、 地道に自分の知識や考えていることをインプットしていきました。創業者のご機嫌取りのようなことはしていません。会社の価値を上げることへの貢献を積み重ねていけば、徐々に信頼関係はできていくのかなと思います。
松本お互いの出せる価値を理解することで、リスペクトし合える関係になっていきます。永見さんは今でこそ「スーパーCFO」として知られていますが、採用や社員のモチベートなどの組織づくりの面での貢献もとても大きかった。
出せる価値の領域が自分と被っていなかったので、永見さんのやってくれることがどれだけ企業価値向上に寄与するのか、スムーズに理解できました。
永見氏の入社前に組織体制が大きく崩れ、早期に失敗したことで、松本氏は自身の苦手なパートを認識できていたのも大きかった。物事の仕組み化、組織マネジメントに関しては、永見氏の能力が大いに発揮されたのだ。
永見創業者といえど、万能なわけじゃない。最初は抵抗があるかもしれませんが、自分にできないことを認識して任せきるというのは、スタートアップのトップにとっては大事なことです。「助けてくれ」と感情的にも訴えかけることができたのは、失敗経験があったからこそでしょうね。
すべては会社の成長のため。3年後、5年後、10年後を見据え、継続する仕組みをつくり人が動きやすい環境を整えていくためなら、プライドを捨てて自分を見つめることは重要だ。
優秀な人材を活かす、経営陣の評価と組織づくり
永見氏が優秀な人材を次々に引き入れ、現在のラクスル経営陣は「ゴレンジャー」の体制だという。それぞれ能力や役割の異なる5人がボードメンバーとなり、経営の意思決定をしている。
「CxOに序列はない」と、セッションの最後に松本氏が伝えた。あとから入ったとしても「この会社は俺がつくった」と言えるほどに、役員全員がCEOと対等な関係を保ち、高いオーナーシップをもつ。
セッション終盤では、このような強い組織体制をつくるために、意識している評価方法や仕組みづくりについて語られた。
松本今の経営体制は、永見さんがデザインしてくれました。
1on1をやるようにしたり、それが根付いてからは情報格差が生まれないよう、逆に経営チーム全員でのランチミーティングに変えてみたり。社長室をつくりたいと言ったら「ダメだ!」と止められたこともあります(笑)。部署の分け方もミーティングの仕方も、情報流通の設計も、思い切って任せることでいい形に整えてくれました。
もちろん、最初からすべてが上手くいったわけではない。幹部候補として採用した人が組織にフィットせずに辞めてしまうなど、失敗もしてきた。失敗から学び、体制を再構築した松本氏は、役員陣の評価についても調整を繰り返し今の形に至った。
松本現在、役員の評価には定量・定性両方の指標を用意しています。その上で、最初に課した目標に対しての達成度を自己申告してもらい、最終的には私が主観的に判断します。能力に対する短期的評価として給与を上げるのではなく、生活水準が維持できるだけは渡しつつ、会社のステージに合わせて上げていますね。
ミドルマネジャークラスにも、「企業の価値が高まることで自分の生活がよくなる」と、株価に連動した考え方をしてもらいたいと個人的には思っています。評価、給与、ストックオプションなど全体を見て、企業価値を高めるための動きが求められます。
あとから入ってきた役員陣全員が会社を自分事として考え、強い意思を持つというラクスル。この組織は、松本氏のもつ思いや哲学にNo.2である永見氏のテクニックがかけ合わさり、絶妙なバランス感覚によって成り立っているのだと思わされた。
お互いの弱点を認め、リスペクトをもちながら補い合う、まさに理想的な関係性のトップとNo.2。彼らが対等な立場でリードしていくラクスルは、これからも進化を続けていくだろう。
こちらの記事は2018年11月14日に公開しており、
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雪山と旅を愛するPRコーディネーター。PR会社→フリーランス→スタートアップ→いま。情報開発や企画、編集・ライティングをやってきて、今は少しお休みしつつ無拠点生活中。PRSJ認定PRプランナー。何かしら書いてます
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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2記事 | 最終更新 2018.11.15おすすめの関連記事
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