事業を担うBizDev人材はどう育成すべきか?
ラクスル、メルカリ、マネーフォワードの経営者と若手が明かす育成と組織設計のリアル
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スタートアップ界隈で頻繁に耳にする職種、BizDev。しかし、「その定義は?」と聞かれて明確に答えられる人はそう多くないであろう。
そんなFastGrow読者の問いに答えてくれるかのように、2019年6月6日「事業家はどんな環境で生まれるのか?BizDevを牽引した経営者と若手リーダーに問う」と題したイベントが開催された。メルカリ小泉氏、ラクスル永見氏を筆頭に、BizDev組織をリーダーとして牽引してきた20代3名が登壇。
ラクスル、メルカリ、マネーフォワードという急成長スタートアップの組織内におけるBizDevの役割とは何なのだろうか?また、20代という若さでBizDevとして成長できる環境は、どこにあるのだろうか?そんな疑問にお答えしていく。
BizDevに定義はない?ミッションは「事業成長にとことんコミットする」こと
第一部は「急成長スタートアップにおけるBizDevキャリアのリアル」と題し、ラクスル株式会社 渡邊氏(印刷事業本部 事業部長)のモデレートの下、株式会社メルカリ 石川氏(Biz Dev Team)、株式会社マネーフォワード 高垣内氏(事業推進本部)、FastGrowでも取材したラクスル株式会社 木下氏(印刷事業本部 )の3名が、20代BizDevの仕事のリアルを教えてくれた。
渡邊まず最初に、皆さんの自己紹介と、BizDevとしてのお役割を教えてください。
石川私自身も、2年ほど前はBizDevって何?って感じでした。新卒で京セラに入社しまして、その後ディー・エヌ・エーに移り、EC事業のディレクターをやっていました。その事業部がKDDIに買収されまして、その後ECサイトの立ち上げや運営に関わった後に、メルカリのBizDev、事業開発部にジョインしています。色々な仕事に関わってきていますが、メルカリチャンネルを法人に開放したり、物流網の強化、オフラインUXの改善を担当してきました。
石川BizDevって何だろう?ということが今日のテーマだと思いますが、BizDevってどこにでも当てはまる正確な定義はないと思うんですよね(笑)。営業とは違うんですか?と聞かれることもありますけれども、メルカリの場合、外部との戦略的提携やパートナーシップの強化に向けて、社内外の関係者と利害調整し、うまく推進する役割を背負っている職種のことをBizDevと呼んでいます。戦略的提携やパートナーシップ、そのマネジメントによって事業グロースに貢献する、ということです。
例えば物流系に関して私がやってきたことでいうと、「らくらくメルカリ便」をセブンイレブン全店2万店で使えるようにしたり、「売れた商品を手ぶらで持ち運んで発送できたら嬉しいだろう」という理想から生まれた「つつメルすぽっと」を日本郵便さんと実現したりなどです。
このようなパートナーシップを構想し、スキームを考え、P/Lへのインパクトを試算しながら関係者と円滑にプロジェクトを進めていくリーダーとなるのがメルカリBizDevの役割です。
高垣内私はマネーフォワードの中でカスタマーサクセス(以下CS)を担当しているのですが、自ら一歩踏み出してBizDevの役割を背負っています。
マネーフォワードというと家計簿アプリの印象が強いと思うのですが、私はマネーフォワードビジネスと呼ばれるBtoBのサービス領域でCSを担当しています。
高垣内企業様の管理部門、経理業務の効率化を実現するためのクラウドサービスを提供しているのですが、実際に導入してくれたクライアントに対して、どのように活用していくか、どの課題がマネーフォワードによって解決可能かなどをコンサルティングしているイメージです。
木下ラクスルは“印刷の会社”だと思われがちなのですが、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンとして掲げていて、レガシーでITがまだ浸透していない産業を変革していく会社である、と覚えてほしいと思います。
木下ラクスルでのBizDevの位置付けは、「事業のPL責任をもち、事業グロースにコミットする」というもの。マーケティング、SCM(サプライチェーン・マネジメント)、テクノロジーなどあらゆるものを包括して管轄します。
特徴でいうと、正直なところ、ストック型のビジネスモデルであるため、BizDevが何もしなくても、ある程度事業は年次で成長するんですよね。ですからBizDevは、その成長角度を変えることがミッションとなっています。
意外にも「BizDevになろうと思ったこと」は全員ない
渡邊なぜ皆さんは今の企業をBizDevでの活躍の場として選んだのでしょうか?
石川社会を変えられる事業に関わりたいと思ったからです。京セラ時代に2,000億円規模の事業に関わっていたのですけれども、街で少しだけ使われている、といった感覚でした。やはり競合のApple社は兆単位の売上がある。そこまでやらないと、社会を変えることは難しいと感じました。
その後LINEとメルカリの両社から内定を頂いたのですが、最後は出会った方々の質の高さと、開発力の高さに惚れてメルカリを選択しましたね。
渡邊最初からBizDev志望だったんですか?
石川いえ、職種の存在すら知りませんでした(笑)。(メルカリの)小野さんを知ったのが興味をもったきっかけです。
高垣内私は歌手として活動していたのですが、誰かに影響を与えられる人間になりたい、という想いをもっていました。たまたま歌というフィールドを選択していたのですが、ある日喉を壊してしまいまして。裏方に回るよりも、別の世界で人に影響を与えたい、と思いビジネスの世界に飛び込みました。
まずは「英語を話せるセールスパーソンになりたいな」と思い、外資系のイベント会社に入りまして、その仕事をしている中で、「経営者は人材に困っているから支援したいな」と思い、求人広告を扱う会社に転職しました。
2社目でクライアントの採用活動を支援する中で、「少子高齢化社会においては、労働の効率化が重要なのではないか」と思うようになり、労働集約な業務が比較的多いと感じた、バックオフィス業務の効率化をてがけるマネーフォワードに入社しました。
先ほどお話したとおり、BizDevになりたい、という思いは全くもっていなかったですし、存在も知りませんでした。
木下私は「世界を変える仕事がしたい」という想いをもっていました。父が研究者だったため、昔からニュートンやアインシュタインの伝記をよく読んでいたんです。その影響で大学時代には半導体の研究をしていたのですが、研究者と技術者は寝食を惜しんで研究して、論文を沢山書いているのに、なぜか「日本の技術はダメだ」と言われていました。
就活時に「なんでだろう?」と考えたときに、仕組みが古く、悪いからなのだと感じました。
当時はソーシャルゲームやメディアビジネスが全盛期だったのですが、「オフラインと絡んだビジネスをしている企業がいいな」と漠然と思っていたところに、ラクスルのビジョンを聞いて「ここだ!」と共感できたのが入社のきっかけです。特段「BizDevとして働ける企業に就職しよう」と思ったことはありませんでした。
必要なものは「スタンス」と「ビジネス総合力」
渡邊皆さんが多くの人々と関わりながら働く中で、社会を変えるBizDevに求められるマインド、スキルは何だとお考えでしょうか?
木下しっかりとスタンスを切ることですね。マーケティング、開発など、チーム内のスペシャリストに対してスタンス・軸をとって決断し、事業グロースにコミットするのが(ラクスルの)BizDevの役割です。
間違ってもいいから、とにかくスタンスを切る。それによって初めてチームが前に進むことができるし、進むからこそPDCAが生まれて、最終的に事業を急成長させることが可能になります。
高垣内ユーザーの課題、求めていることに徹底的に目を向けることではないでしょうか。CSが社内で生まれるまでは、マネーフォワードクラウドをユーザーに提供していただけでしたが、ベストプラクティスをしっかり定義してユーザーに届けたほうが、ユーザーへの価値提供は最大化されるのではないか?という仮説からCSが誕生しました。
CS組織の立ち上げもBizDevの一環だと仮定すると、「ユーザーのペインを見つける力」がBizDev人材には必須だと思います。
石川正直、特筆するスキルがなくとも、ビジネス総合力さえあればなんとでもなると思っています。マインドセットが一番大事で、Willがない人は向いていないでしょうね。
CtoC領域をリードしているメルカリの場合、前例がないですし、不確実な中で意思決定しなければなりません。会社も上司も、答えをくれるわけではない。
そんな不確実な中で外部パートナーも巻き込んで事業グロースを達成しないとならないため、結局Willを強く持てないとスタートアップでBizDevを担うのは難しいと思います。
渡邊ありがとうございます。これまでBizDevとして得られた学び、成長を実感した瞬間にはどんなときがありますか?
石川入社して最初の仕事として、メルカリチャンネルの法人開放に携わったときですね。入社して間もなく小野さんに「1人でやってみて!」と言われたんです。
ECコンサル時代に似た業務を行ったこともあったため、なんとなくやり方はわかったのですが、一つ懸念がありました。それは「(創業者である)山田がこれまで創ってきた世界観を壊すことにならないかな?」ということ。CtoCサービスのメルカリに、BtoCの要素を持ち込むことになるからです。
そこで私は小野さんに「山田さんに稟議取りましょう」と提案したんですが、「お前は山田さんがNoといったらNoなのか?」って聞かれました。たしかに私にも意志があるし、そう言ってくれるなら「もう知らない!Go Boldにやっちゃおう!」と開き直れたんです。
メルカリのマインドセットや凄さを学んだ瞬間でした。
高垣内私も最初は会計、経理業務のフローが全くわからず、CSとしてどの部分でユーザーをお手伝いできるのかわからず途方にくれる日々が続きました。
しかしそのような苦労があったからこそ、今ではユーザーのペルソナを考え、カスタマージャーニーを描き、ユーザーの“本当のペイン”が何であるのかを突き詰めて考えられていると思います。
木下私の場合、より広い幅の、より長い企画の事業グロースを意識して業務に携われるようになりましたね。ラクスルの事業モデルの場合、バリューチェーンが複雑な上に、サービス自体も多機能です。
新卒1年目の入社当初は「1ヶ月で売上10%伸ばして」といった目標だったものが、徐々に3ヶ月、6ヶ月後の事業をイメージして、グロースにコミットできるように成長してきたと感じています。
ラクスル、メルカリ両社のBizDev組織を徹底解剖
第二部では「最強のBizDev集団の作り方!連続的に事業開発人材を生み出す組織とは?」と題し、株式会社メルカリ 小泉氏(取締役社長兼COO)とラクスル株式会社 永見氏(取締役CFO)による、BizDev人材が活躍し、成長し続けられる組織についてのトークセッションが展開された。
永見今メルカリのBizDevって何人いるんですか?
小泉20代〜40代のメンバーが6人います。メルカリでは大手の配送系、決済系事業会社とのパートナーシップが多いのですが、プロダクト、コーポレートなど社内の他部門と連携しないといけない高度なバランス能力が問われる仕事です。社内で一番ドMな部署ですね(笑)。
永見ラクスルのBizDevは役割によりますが、約10名程度です。大人数は必要ないですよね。BizDevに適した人材の要件はあるのでしょうか?
小泉BizDevは総合格闘技ですから、総合力が高い人材でなければ務まらないですね。P/Lも理解できないといけないし、相手を説得させるにはパッションも必要。右脳と左脳の両方を駆使して戦う必要があります。
永見たしかにオンラインだけでなくオフラインも絡めた事業を行う場合、オフラインに強い大手企業も巻き込まないといけません。大手企業との提携を進めるために何かメルカリで意識されていることはありますか?
小泉日本の大手企業は慎重ですから、徹底的に不安を解消することが重要です。メルカリが大手決済系企業と業界初で提携できたのは、どれだけ丁寧にカスタマーサービスをやっているかを説明し続けたからです。
Go Boldなアイデアを生み出すため、ビジネスの歴史を学べ
永見次に、社内でのBizDev育成について聞かせてください。メルカリ社内ではどんな育成の仕組みがあるんでしょうか?
小泉育成制度は正直ありません。どんな環境と仕事を与えるのかが全てだと思っています。もちろん最低限、P/Lの読み方であったり、中期経営計画を理解するスキルであったりといったベーシックなビジネス作法は教えています。
それ以外は本人の「センスや感度」を鍛えていくべき。パートナーにどんなメリットを提供できそうかを、Go Boldに発想していくことでレベルアップしていってもらうイメージです。
永見新しい提携や企画のアイデアはどういうプロセスで出てくるんでしょうか?
小泉大きな方針はマネジメント層から出ますが、施策ベースではボトムアップでメンバーから出てくることが多いです。最近はBizDevチームも拡大し、若手メンバーが提案してくれます。
永見アイデアを出すためには多様な視点を持つことが大事ですが、何か意識していることはありますか?
小泉僕との1on1ではよく「ビジネスの歴史を学べ」と伝えています。若手メンバーに「将来はビジネス創りたい」という者がいるのですが、ビジネスモデルを網羅的には知らない。だから「インターネット企業の決算書、全部読め」と言ったんです。
「iモードはどうやって立ち上がったのか?」、「SNSのオープン化はなぜ起こったのか?」という歴史を知る。うまくいったビジネスのやり方を引き出しとして多く持っているビジネスマンは強いですよ。
サブスクリプションビジネスを提供するなら、やっぱりガラケー時代のコンテンツプロバイダー(月額課金ビジネス)の戦い方を学ぶべきです。
永見特に自社のビジネスドメインの情報をインプットすることは自然に行いますけど、異なる事業ドメイン、異なるビジネスモデルについても研究しておくことは良質なアイデアを出す上で大切ですね。
永見繰り返しですが、BizDevって総合格闘技ですし、異業種の企業と関わることも多いため、事業計画や財務諸表を読めるスキルも大切になります。BizDevの人であるならば、自社の事業に関係なさそうなことも進んでインプットすべきです。
BizDev人材は「ユーザー目線で、楽観的」であれ
永見最後に、BizDev人材に必要なマインドセットや考え方についてご意見があれば教えてください。
小泉大きな仕事を担っているので常に不安は抱えつつも「まあなんとかなるか」と思える楽観性は重要です。「らくらくメルカリ便」は僕が発案、設計したんですけれども、当時は(アプリの)ダウンロード数が数十万くらい、社員数10人ちょっとの頃。
ヤマト運輸の重役に提案にいってから、アプリ内に実装されるまで1年以上かかりました。まだサービスとして今のような実績こそありませんでしたが「メルカリが成功するにはヤマトさんと組まなければ」と思っていたので、諦めなかった。
多くのBizDevが立ち向かう課題はそもそもハードルが高いものが多いですから、「絶対にユーザーにとって良いことをやっている」という自信を持ち、楽観的でいられる素養が必要ですね。
永見ラクスル社内でも「小さなテストを何百回と繰り返すのではなく、顧客の負のセンターピンを抑えよう」と伝えています。
小泉その通りですよね。会社のフェーズによりますが、スタートアップは事業成長のための「センターピン」を的確に狙わないといけません。それこそ、スタートアップにA/Bテストを行っている余裕なんてないケースもあります。
そもそも、「テストしてから考えればいい」と思っていると、真剣に考えなくなってしまうじゃないですか。僕たちも(A/Bテストができない)TV CMでいきなり1ヶ月に5億円使うと決めたからこそ、クリエイティブを真剣に考えることができました。
テストなどしている余裕がない環境で勝ち続ける。これを牽引するのがスタートアップにおけるBizDevの醍醐味ではないでしょうか。
こちらの記事は2019年06月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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