メルカリ小泉氏がエンジェル投資した、
製造業ベンチャー“アペルザ”とは何者か
2016年7月に誕生した株式会社アペルザ。
製造業の複雑なバリューチェーンをリデザインし、グローバル展開を目論むスタートアップだ。
元ソニー会長の出井伸之氏、元楽天副社長の島田亨氏、メルカリ取締役社長兼COOの小泉文明氏の3名がエンジェル投資していることでも話題となった同社は、17年7月までにGMO VenturePartnersとJAFCOから総額約7.5億円の出資も受けている。
アペルザの何がそこまで投資家たちを惹き付けるのであろう。
同社代表取締役社長の石原氏、メルカリ取締役社長兼COOの小泉氏に話をきいた。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
大きなビジョンと経営陣に惹かれ出資
率直に、小泉さんがアペルザに出資すると決めた理由は何でしょうか?
小泉2つあります。1つ目は、目指している世界観の大きさに惹かれたからです。製造業という産業全体の非効率性に対するソリューションに、大きな完成イメージを持っている。ToBの法人向けビジネスって小さな規模でもいくらでも改善点があると思うんですが、そこを敢えて、製造業というグローバルな巨大市場自体をダイナミックに変革しようというところが非常に魅力的に感じました。
2つ目は、それを実現させようと思っている経営陣の、実績も含めた人間力です。
石原さんは対応はものすごく誠実で柔らかい方なんですけど、考えていることはものすごく破壊的なんですよ(笑)。初めてお会いした時に少し話してすぐわかりましたが、「本当に腹を括ってやっているんだな」という経営者としての意志の強さを感じました。
石原ありがとうございます(笑)。私のことはさておき、経営陣に関しては“組み合わせ”が良いと思っています。私はもともと新卒でキーエンスに入社して、「iPROS(イプロス)」というサービスを2001年に社内ベンチャーとして立ち上げ、その経営に14年ほど携わった後、独立しました。
当時キーエンスの先輩と一緒に起業していた田中(現・アペルザCOO)に「どうせやるならスケールするビジネスやろうよ」と声をかけて一緒のチームになり、「ネットビジネスやるならCTOがいないと始まらないよね」ということで、(当時)楽天でシンガポール赴任中だった塩谷(現・同社CTO)を誘ってアペルザがスタートしました。
それぞれが「極めて優秀」かはわかりませんが、経営力とエンジニアリング力の両面を押さえられている良いチームだと自負しています。
小泉僕もアペルザの経営陣は、業界を変革するような大きなビジネスを作っていく上で非常にバランスが良いと見ています。経営チームは強みが異なる人の組み合わせがいい。(メルカリ代表取締役会長兼CEOの)山田と僕の強みも全く違いますし。
事業って車で例えると、左の車輪がプロダクトやサービス。右の車輪がマーケティング。良いプロダクトじゃないとマーケティングしても意味がないし、マーケティングばかりやっていてもプロダクトがダメだったら意味がない。両輪のバランスが大事ですよね。
そこにガソリンとなるファイナンス(資金)が投下されて駆動力が出てくる。そして最後、ハンドルを握っているのが経営陣なりメンバーなりという「人」です。
この全てがどこか欠けてもダメで、全てパーフェクトに揃うと一気に加速するものなんです。アペルザは今のところサービスも順調にグロースしていて、資金調達もうまくいっていますし、このパーツ全体のバランスがいい気がします。
特に、優秀なCTOがいることは大きな魅力です。ToB領域の会社って営業力で事業を伸ばせることが原因で、CTOが経営チームに欠けていることが多いと思うんです。
小泉しかし例えば(工業用間接資材のECを運営している)モノタロウ社のように業界構造を変えるような巨大プラットフォームを構築していくプレイヤーになるには、ToB領域であっても優秀なエンジニアが必要ですよね。
人生の最後に「永続する会社」を創ろうと決意
石原我々も今まさに、「情報流通」「コミュニケーション」「取引のあり方」という3つの製造業における課題を解決するため、理想のプラットフォームを創り上げている最中ですが、相当に忍耐力がいるなと日々感じてます。
正直手っ取り早く儲けたいなら、プラットフォームなんて作らずすぐに利益を上げる方法も思い付きはしますよね。
小泉そこはメルカリと似ています。一般的な会社って労力の投下量に比例するような一次曲線で事業を伸ばすことに集中すればいいんですが、プラットフォームビジネスに限っては二次曲線で伸びていかないと未来がない。
しかし二次曲線となるまでのティッピング・ポイントを超えるまでが本当に大変。
そこを超えられるかどうかは、経営陣の信念や粘り強さ、そして社員がどこまで信じて付いて来てくれるかにかかっていると思います。
小泉メルカリも初年度は10億円以上の赤字だったんですけど、ユーザーに対して着実にバリューは届けている自負はあったので、いずれティッピング・ポイントを超えたら巨大なプラットフォームが作れると信じてここまでやってきました。
受託やコンサルティングといった目の前の稼げるチャンスに手を出さないところに、メルカリにも似た胆力、イノベーションを本気で起こそうとする情熱を、アペルザの経営陣にも感じるんです。
石原確かに自分自身、この仕事にかける熱意は設立当初から相当なものでした。
わたしはこれまで3社くらいの経営に関わってきたんですけど、アペルザを始めるときには「これが自分の人生最後(の経営)になるだろう」という予感があったので、「人生をかけてでも最後にやりたいことってなんだろう?」ということをしっかり考えました。
その中で自分の人生を振り返ってみると、いかに製造業にお世話になっているかがわかった。親も自動車関係の製造業だし、キーエンスという企業の内部から製造業を見てきた経験もある。
その結果として産業構造の歪さに気付いたし、インターネットを使ってそれを変えられる自信もあった。だから、製造業という領域はチャレンジしがいがあるテーマだったんです。
石原そこで、「やるからには自分たちの世代だけで儲けるとか、ある程度のビジネスになったら売却しようとかじゃなく、永続する会社を創ろう」と決意した。
そのように大きな視点で考えると、製造業という世界中の国々が連携しあって成立している産業の構造変革のためには、国内だけに閉じこもっていることのほうが逆に難しい、グローバル前提のビジネスを構想しているんだな、ということにも気が付きました。
小泉海外に出て行かざるを得なかったという点でいうと、メルカリも同じです。世の中がガラケーからスマートフォンにシフトして、誰もがスマートフォン1つでグローバルにつながれる時代となると、アメリカで僕らと同じようなサービスが生まれて、そちらのほうが日本を含む世界で人気になる可能性もゼロじゃない。
だから実際、創業した翌年にはアメリカに進出しましたね。
石原今は大きなスケールで考えることが求められている時代です。私たちはよく「半世紀視点」という言葉を使っています。50年先のあるべき姿を考えようとする視点のこと。
ただ、それで実行スピードが落ちてしまってはいけないので、どうやって最速で桁替えの成長を実現するかという「ワープの発想」も社内では大切にしています。
強みを伸ばさなければイノベーションは生まれない
どうやってそのスピードを維持しているのですか?
石原我々は急成長すべきスタートアップなので、「いつまでにどうなっていたい」というビジョンから逆算して経営も事業も進めています。
もちろん非常識なスピード感で会社を成長させないといけないので、どうしたらいいかわからないときもありますが、そんなときこそ小泉さんや島田さん(アペルザにエンジェル投資している元楽天副社長の島田亨氏)、出井さん(同じく投資している、元ソニー社長・会長の出井伸之氏)にヒントをもらうようにしています。
小泉経営ってつまずきやすいポイントがあるんですよ。だからつまずいたら経験者に聞いてみるというのは正しい判断だと思います。
メルカリも経営陣はみんな経営経験者。色んな場面でこれまで失敗を繰り返しているんです。だからこそ「このトラップ見たことあるな」と思う場面はよくあります。
それと、逆算して突き進むにあたっては、「手を抜くポイント」と「大胆に攻めるポイント」の優先度を事業面でも人材面でも考えることが重要です。
たとえば、20代後半くらいになると、仕事を覚えると同時に自分の苦手な部分がわかってくるじゃないですか。だけど、特にベンチャーにおいては、苦手を克服することはキャリアアップにならないと僕は思っていて。苦手なことの克服には手を抜けばいいんです。
小泉それよりも、一点突破するコアな部分を伸ばす事に注力しないとグローバルで成功する人材、「キラリと光る人材」にはなれません。
経営陣も、メンバー毎の “優れた部分”をいち早く見抜いて、“強み×強み”で構成されたチームを作り「大胆に攻める」経営をすることがスタートアップでは重要です。
それに、自分の苦手な領域って知見がなくてうまく目標地点までの逆算ができないので、常識を破壊するイノベーション的発想も起きづらくなってしまいます。
石原徹底的に強みを伸ばすべき、というのは私も同感です。自分の20代後半を振り返ってみると、同僚でも25歳から29歳の間に大きく成長した人とそうでない人がいるなと感じるんですよね。
この違いってなんだろうって考えるとやっぱり、自分が得意なもの、没頭できるものを見つけて愚直にそれをやり続けてきたかどうかだな、と。
だから当然、20代後半くらいの人で、私たちのビジネスや描くビジョンに共感して “没頭できる”と感じてくれる人を採用したいし、将来はリーダー・幹部となって、いまの経営陣が想像もつかないような企業の成長に寄与してもらえることを期待したいです。
製造業の刷新は世界中の人にインパクトを与えられる
小泉自分たちのバリューにどれだけ共感してもらえるかっていうのは本当に大事ですよね。例えばメルカリではバリューの一つに”Go Bold”を掲げて破壊的創造を目指している。会社を通じて世の中を変えよう、ライフスタイルを変えようとしているのに、発想が保守的な人が入社してもお互いに不幸です。
現代はインターネットの登場によって個人がもう1回エンパワーメントされる時代、組織や会社に縛られずにその人らしく生きられる時代になってきました。しかしそれと同時に、社会の仕組みに時代にそぐわず古くなってきた部分が出始めている。そこを変革するために色々な事業をやっているわけですから。
石原私も、製造業における“老朽化した部分”を改革していくことが自分たちの使命だと思っています。
製造業って古くから製販分離で流通していたので、例えば工場の人が何かを仕入れようと思ったら、いつも出入りしてくれる業者や身近な商社から仕入れて、その業者自体も実はさらにその上流から仕入れていて、それらが行きつく先は問屋さんで、その先に製品の販売主となるメーカーがいる、という非常に複雑な構造でした。
石原でも、この長く複雑なバリューチェーンが終わりかけています。短縮されたり、オンラインシフトが起こったりしているんですよ。この製造業のバリューチェーン最適化を実現する仕組み、プラットフォームの構築こそアペルザの当面の課題です。
メルカリのように売り手と買い手がダイレクトにつながる仕組みができれば理想的ですね。
小泉製造業の上流過程を変革することってどの産業にも影響力があるから、社会的にもすごく価値があること。大手メーカー1社1社が「生産性アップ」、「効率化」って叫ぶことも大切です。
しかし、その数%の改善をメーカーごとに必死に達成するよりも、業界全体にまたがるもっと上流の工程、仕組みそのものを変革したほうが、産業全体に数十倍のインパクトが出せるはずです。
石原その通りですね。私は製造業は日本が世界に誇れる分野だと思っています。当社に入社したメンバーにも「もともと製造業には詳しくありませんでした」と言っているメンバーも多いんです。
しかし、日本や世界で製造業に関わる人が豊かで快適になることで、そこで生産されたモノを使用する我々消費者の生活も間接的に豊かにできるのがアペルザの仕事の醍醐味。
製造業はBtoBビジネスで日常生活からは見えにくいですが、最終的には自分たちの生活に大きな影響を与えている、ということに面白みを感じながらメンバーも日々活動しています。
石原今は企業フェーズとしても、会社がぐんぐん伸びていく一部始終を肌で実感しながら自分自身も成長できる、やりがいがあるフェーズなはず。米国にもラボを開設し、海外展開を加速させるタイミングでもあるので、国内にも海外にも幅広いキャリアパスがあるのも当社の魅力です。
石原最終形としてアペルザが目指しているのは、製造業を変革していく事業体のコングロマリットなので、1つのサービスやプロダクトだけではなく、新しい事業もどんどんやっていこうとしているんです。
将来は新規事業や子会社経営に挑戦したいという人にもジョインしてもらって、グループ全体の未来を創ってほしいと思っています。
こちらの記事は2017年10月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
松本 玲子
写真
藤田 慎一郎
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