“ニュース知ったって仕事はできない”と思うあなたに、人生のリスクが減る情報収集を教えよう──ストックマーク林が教える「アウトプットが変わる良質なインプット」

インタビュイー
林 達

東京大学文学部宗教学科卒業(–2011年)
伊藤忠商事(2011–15年)
大学時代にアジア向けのインバウンド旅行サービスを提供するスタートアップを設立し、大手旅行代理店との提携、行政との共同事業を成功させる。尚、卒論のテーマは「宗教としての企業組織文化」。伊藤忠商事では投資企画業務、投資先の経営管理や新規M&A推進業務に従事。2016年にストックマーク株式会社を共同創業。

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起業家やイノベーターはもちろん、企業で働く会社員にとっても必須と言える「情報収集」のスキル。その重要性はわかっていても、「具体的にどうすれば効率的な情報収集ができるのかわからない」「ニュースが多すぎて全くついていけていない」という人も多いのではないだろうか。

しかしそれは当たり前のことでもある。世の中に流通する情報の量は指数関数的に増え続ける一方、人間が処理できる情報量には限界があるからだ。今後もますます情報量が増えていくことは明らかである以上、そろそろ今までの情報収集の方法を見直すべきタイミングなのかもしれない。

そこで今回は、最先端のAI技術を活用したナレッジシェアサービス『Anews』を展開するストックマークに取材を依頼。直近では10億円超の資金調達を完了し、自然言語処理技術と呼ばれるAIの分野においてトップレベルの技術力を誇る、勢いのあるスタートアップだ。

そんなストックマークの代表取締役CEO・林達氏に、なぜ現代において情報収集は重要なのか、AIによって情報収集はどのように変わるのか、お話を伺った。

  • TEXT BY MARIKO FUJITA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「良い情報収集」を知れば、あなたも至る“自己変革”

そもそも何のために情報収集をする必要があるのか。改めて考えてみると、そうした「情報収集の目的」について、深く考えないままに日々のニュースを追っているという人も少なくないだろう。「ニュースを知ることがすぐに仕事に活きるわけではない」とあなたが感じる原因も、このような姿勢にあるのではないだろうか?

もちろん、具体的にどのような情報をどのように収集すべきかは人によって異なるが、「イノベーションが“知と知の組み合わせ”でしか生まれない以上、さまざまな分野の情報を収集し、他人とナレッジをシェアし続けることは今後も必要不可欠である」と林氏は語る。

入山章栄先生(早稲田大大学院経営管理研究科教授)が繰り返し仰っていることですけど、イノベーションとは、“知と知のかけ合わせ”です。だから、イノベーションを起こしたいのなら、このかけ合わせの機会を増やしていくしかないんです。

そのためには、まず自分が今よりも幅広い情報を受け取っていくこと。次に、他のメンバーとのコミュニケーションを通じて、チームで情報収集をしていくことが重要です。自分自身が知見を持っている分野だけでは、基本的には足りませんから。

そのためストックマークが展開する『Anews』は、個人による情報収集だけでなく、社内のメンバー間におけるコミュニケーションの設計にも力点を置いている。

僕たちが目指しているのは、企業のDXを推進し社内でイノベーションを生み出せるような体制を整えていくこと、そのために必要な企業文化の変革を進めていくことです。情報収集とコミュニケーションは、いわばそのための足掛かりです。

従って『Anews』は、ニュースを起点に社内のオープンなコミュニケーションを支援していくためのツールでもあります。そうして、今まで関わる機会がなかったようなメンバーとも積極的にナレッジをシェアしあうカルチャーを作ることが、イノベーションの創出につながっていくんですね。

日本マイクロソフトの会長を務めた樋口泰行氏が、パナソニックCNSの社長に就任してまず最初に行ったのは、会議室の席順を廃止して「上座にいる人が発言する」という暗黙のルールを壊し、「誰が発言しても良いんだ」というカルチャーを作ることだった。

ストックマークが『Anews』で目指すのも、情報を収集しお互いにナレッジをシェアしあう文化の醸成だ。

しかしながらここで生じてくるのは、「個人に、そして企業で働く一社員に、イノベーションを起こすための情報収集やコミュニケーションは必要なのだろうか?」という疑問である。

この問いに対し林氏は、「個人も企業も、今のまま変わらずにいること自体がリスクであり、自らを変革していくためにはイノベーティブな姿勢を持つことが重要」だと答える。

日本人は海外の人に比べて転職経験が少なく、自分の市場価値を客観的に見る機会も少ないので危機感を持つのが難しいという側面はあるんですけど、今のままのマインドや方法で仕事を続けていると、5〜10年後には「今後のキャリアの展望がまるで見えない」という人が大量に出てきます。

定型的な業務はこれからどんどんロボットやAIに置き換えられていく。そうすると、失敗してもいいから新しいことをどんどんやっていくというマインドや働き方が評価される時代が必ず来ます。

スタートアップでは既にそうですが、大企業でもこうした流れは確実にやってくるので、イノベーティブであることはリスクの回避であり、キャリアアップのチャンスにもつながるわけです。

企業も同じですよね。すでに圧倒的なビジネスモデルを確立しているように見えるAmazonが、突然保険業界に参入してきたり、生鮮食品を売り始めたりするんですよ?変化し続ける環境にいち早く適応し、自身をトランスフォームしていける状態を目指さなければならない時代なんです。

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世界観を広げ、新たな「出会い」を作り続ける方法

すなわち、「変革」のための第一ステップとして、「情報収集」が有効というわけである。それではまず、どのようなマインドを持って情報と向き合う必要があるのだろうか。

林氏は、「今見ている世界から一歩外に踏み出すこと」の重要性を指摘する。

特に大企業においては、これまでは細分化され、オペレーションが決まった業務をこなしていれば良かったわけですから、情報についても自分の業務や業界に関する、ものすごい狭い領域だけを見ていれば良かった。

ところがこれからは、自分の業界の情報に加えて他業界の情報、PEST(※)と呼ばれる政治・経済・社会・技術に関するマクロ情報、日本に限らず海外の情報までを仕入れて、自分の中に取り入れていく必要があります。

そのためには「自分の世界観を広げていく」ことが非常に重要であり、まずは誰でもすぐに取り掛かれるデジタルの情報収集から変えていくのが効果的だと思います。

※……P=Politics、E=Economy、S=Society、T=Technologyを略したもので、ビジネスに対する外部環境の影響を測るマーケティングフレームワーク

自分の世界観を広げられるようになってくると、今までは自分の範囲内で完結していた仕事についても、隣の部署の人と話してみてアイデアをもらってみようとか、コラボレーションしてみようという気持ちになってくる。

そうしたつながりの輪が徐々に広がり、社内全体や会社の外にまでイノベーションが起きる文化的な土壌を作ることこそが、ストックマークが目指している世界観なのだ。

また、「日々の生活の中で世界観を広げるためにやっていること」について林氏に尋ねると、ストイックに「出会い」を求める起業家ならではの習慣について聞くことが出来た。

「同じことをやらない」ということはものすごく意識しています。たとえば、僕は外食に行くのが好きなんですが、「同じレストランには2度行かない」というルールを設けています。会社員時代は、毎日同じ電車に乗るのは嫌なので、毎日路線を変えていました。

あとは、たとえば新幹線や飛行機乗るとき、書店に行って普段は自分が読まなそうな雑誌や本を10冊くらい買います。『週刊文春』や、『CanCam』『JJ』といった女性向けファッション誌、健康系の本や、あまり好きではないけど自己啓発っぽい本などですね。

そうやって、あえて自分に関係のない雑誌や本を読むことで、自分の興味範囲を広げていくみたいなことは意識的にやっていたりします。「変革」というと大仰に聞こえますけど、日々の行動を少しずつ変えていくことが、自己変革につながっていくんです。

「人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える。この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは『決意を新たにする』ことだ」という大前研一氏の有名な言葉があるが、自己変革のために自己啓発書をたくさん読んではいるものの、毎日同じようなものを食べ、同じような人とばかり会っているというビジネスパーソンは意外に多いのではないだろうか。

こうした日常の些細なことから行動を変容をさせていくという姿勢は、ぜひとも見習ってみてほしい部分である。

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「誰が何を知っているか」を押さえるただ一つの手段は、他者との活発な交流

情報を収集し、自分の世界観を広げ続けることの重要性はわかったものの、とはいえ世の中のすベての情報を取り込むことは、現実的に難しい。むしろ洪水のように情報が溢れる現代においては、「できる限り情報を遮断すべきだ」といった論調もある。

私たちは、どのようにして情報に優先順位をつけ、自分にとって重要な情報をより効率的に収集していくべきなのだろうか。

この問いに対し林氏は、「個人で集められる情報の量には限界がある」と同意した上で、「誰が何を知っているか(Who knows what)」というスキルがよりいっそう重要になってきており、そのためには「他者と交流すること」がポイントになってくるという。

まず、「情報をできる限り収集すべきか、遮断すべきか」という議論については、「知の探索と深化」というところで、タイミングによると思います。思考を深めたい時には当然遮断した方が良いし、そうでない時は広げた方がいい。どちらか片方に寄るのではなくて、両方を使い分けられるといいのではないかと思います。

そして、自分が持てる知識の量や脳のメモリーにはやはり限界があるので、「自分が何を知っているか(What)」より「誰が何を知っているか(Who knows what)」というところがすごく大事ですよね。よく言われていることですけど。

そのためには、「誰が何を知っているか」というスキルを理解し、自分が情報のハブになること。そしてやはり「交流すること」が大事になってくるんです。

また、人間では不可能な精度の高い情報収集も、AIのサポートを借りることで実現可能になる。林氏は「AIを活用することで、重要度の高いニュースを漏れなく抑えることができるようになる」と語る。

膨大な情報の中から必要な情報を見つけることがどんどん難しくなってきているからこそ、「クイックかつタイムリーに情報をキュレーションするメディア」に価値が生まれているわけですが、AIを活用するのもそうした新しい情報収集方法の1つです。

たとえば僕たちが提供している『Anews』では、興味のあるトピックについてキーワードを設定することで、優先度の高い順にニュースを表示し、完全網羅的に情報を追うことが出来ます。AIがさまざまなアルゴリズムを用いて「重要度が高い」と判断したニュースから読むことができるため、忙しい人でも必要な情報をしっかり抑えることができるわけですね。

それからAIの一番良いところは、「認知バイアスがない」点です。人間は、「自分にとって必要だ」「自分が興味がある」と思った情報しか見ようとしないので、収集する情報が自然と偏っていってしまいます。

AIにはそうした認知バイアスがないので、自分で情報収集していたら気づかないような情報との出会いを与えてくれる。それによって、自分の興味の幅を広げていくことができるんです。

『Anews』を使っている人たちが実際にどんなニュースを読んでいるかを解析してみると、約60%は最初に設定したキーワードに関連するニュースである一方、残りの30~40%はキーワードとは無関係のAIがレコメンドしたニュースだという。

すなわち、人間が「この情報を追いたいな」と思って情報を探しても、実際に追えるのはせいぜい60~70%。それでは追えない情報との出会いを、AIがもたらしてくれるのである。

『Anews』を導入した企業から上がってくる感想としても、「今までの情報収集の中で、いかに自分たちが把握できていないニュースが多かったかに気づけた」といった内容のものが多いそうだ。

「ニュースには、アウトプットを促し、DX意識を醸成する効果がある」と林氏は説明する

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アウトプットが苦手?まずは「引用」を試してみよう

自らが情報のハブとなりイノベーティブであるためには、積極的にナレッジをシェアし、他者と交流し続けることが必要だ。

しかしながら日本人には特に、自分の意見を発信することに対して苦手意識を抱えている人も多い。

そこで最後に「情報のアウトプット」に対して、まず一歩を踏み出していくためのポイントについて伺った。

自分の意見を発信するためには、それなりの知識を身につける必要があります。もちろん知識を身につけていくことは有効かつ重要なことではあるんですけど、やはり最初はハードルが高いので、僕たちが推奨しているのは「引用すること」です。

自分の意見や感想は書かなくて良いから、ニュースの中の特に気になった部分を引用だけする。まずはそうやって「とにかくアウトプットする」という姿勢が大事ですよね。

よく「会議に参加しても、発言しないなら出席していないのと同じ」って言いますけどそれと同じです。きっかけは何でも良いから、そこを起点にぐちゃぐちゃと議論していくことが、イノベーションの創出につながる。

その場では何もアウトプットせずに、「実はあの時こう思っていて……」と後から言い出すのが、一番無意味なことなんです。

また、メンバーに積極的なアウトプットを促していきたい企業にとっては、そのための雰囲気を作っていくことが非常に重要な課題となる。

経営学では「コンピテンシー・トラップ」と呼ばれたりしますけど、新しいことをやるのって基本的につらいんですよね。既存のことをやっている方が基本的に楽なので、そういう人たちが「上手くいっているのか?」「金の無駄遣いだ」と新しい取り組みについて揶揄し始めると、どんどん全体のモチベーションが下がっていく。1人でもネガティブな人がいると、伝播していくんです。

なのでまず、メンバー全員が変革しないことに対して危機感を持ち、変革することのチャンスと捉えること、全社としてチームを作っていくことが重要ですよね。

具体的に、メンバーのアウトプットを促進していくための雰囲気を作るには、積極的にアウトプットを行うインフルエンサーを中心に広げていくことが有効です。やっぱり周りのみんながやっていると、自分もやってみようかなと思えるようになるものなので。

インフルエンサーが自然に発生しない場合には、メンバーの誰かをアサインして1日に数件はアウトプットをするよう依頼したり、社長やマネジャー層が自らその役割を担っていくことも効果的だと思います。

Googleでは、「変化に強く、新しい物事をなんでも学んでいける人材」のことを「ラーニング・アニマル」と呼んで積極的に採用しているが、日本もいよいよ全員がこの「ラーニング・アニマル」にならないと、生き残れない時代になってきた。

自らの「変革」に取り組む第一歩として、ぜひ情報収集とアウトプット&コミュニケーションの習慣をアップデートしてみてはいかがだろうか。

こちらの記事は2021年05月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

藤田マリ子

写真

藤田 慎一郎

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