顧客のペイン探しからは生まれない、価値創造型SaaS『Anews』開発のストックマークCMOが語る「これからのBtoBプロダクト論」
Sponsored「価値創造の仕組みを再発明し、人類を前進させる」をミッションに掲げるストックマーク。現在メンバーは約120名、ビジネス特化のAIをコア技術とするビジネス情報収集プラットフォーム『Anews』が大企業250社に導入され、シリーズDまでで累計88億円を調達するなど、堅調に成長を続けている。
BtoB市場を見ると、これまでは業務効率化型のSaaSが主流だった。しかしChatGPTに代表される生成AIの登場により状況は変わりつつある。今、BtoBビジネスをどのように考えるべきなのだろうか。その問いに対して、これからは、「マイナスをゼロに」ではなく「ゼロをイチに」する価値創造型のサービスが主流になると、ストックマークの田中和生CMOは話す。
約10年間のコンサルタント経験も踏まえ、価値創造の本質を考え続けてきた田中氏に、同社の主力事業であるビジネス情報収集プラットフォーム『Anews』の独自性と、その根底にある思想を語ってもらった。価値創造型のプロダクトを開発し、多くの大企業で導入されているストックマークのストーリーを参照しながら考えていこう。
- TEXT BY YASUHIRO HATABE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「ペインを聞く」でゼロイチの価値は生まれない?
ゼロをイチにする。社会に新しい価値を生む。スタートアップではよく語られる言葉ではあるが、これを実現しよう、しなければならないと考えているのはスタートアップだけではない。どの企業だってそうだろう。つまり、企業の価値創造を支援するBtoBサービスのニーズがそこにあるということだ。
しかし現状の市場にあるBtoBサービスを見てみると、顧客の中での価値創造に焦点を当てているものはそう多くない。
田中スタートアップとして、起業するときや新規事業をつくろうとするとき、「顧客のペインは何か」という問いを立てますよね。顧客の「負」を見つけてそれを「解消しよう」と。
ただ、ここを起点にすると、業務の非効率な部分を効率化するといったような、マイナス(負)をゼロにするという発想にとどまってしまいがちだと思うんです。すると、サービスラインアップもそういう思想のものが並んでしまう。
「顧客のペインをひたすら聞こう」という話はFastGrowも過去に発信してきたし、それが悪いことだというつもりはない。目先の問題の解決は目に見える成果になりやすく、何より顧客は喜ぶ。しかしそれだけでは「新しい価値を生む」方向に、なかなか進んでいかないのではないか──というのが、戦略コンサルタントなども経験してきた田中氏の考えだ。
田中ペインはわかりやすいんですよね。世の中が情報であふれていて、複雑なものよりもわかりやすいものを選ぶようになってきている。
「マイナスをゼロに」することはイメージできるからわかりやすいけれど、逆に「ゼロをイチに」することはいろいろな可能性がある分、具体的なイメージがわきにくい。その意義や意味を説明するのが難しいと、常に感じます。
でも、だからこそ「価値創造型」のサービスがBtoBの市場でこれから伸びていくはずだと田中氏は考えている。
容易にデジタル化できない人が行う業務の課題から逃げるな
そんな田中氏の目から見て、ここ数年の日本のBtoBのSaaS市場はどのように見えているのだろうか。
田中BtoBのSaaS市場は2017〜18年頃、立ち上げが一気に増えたという意味で、雰囲気として最盛期だったと思います。従来の「SIerが主体となる重厚長大な開発」から、「個別の課題に対応するSaaSの提供」への移行が進み、市場への期待が大きく盛り上がりました。
でも、ここ2〜3年で状況は変化しています。企業の「マイナスをゼロに」する課題はひと通り対応され、ブルーオーシャンと呼べる領域がなくなってきています。新しいSaaSが登場しても、企業がいきなり飛びつくようなことはなく、既存のサービスとどう違うのかをじっくりと問うような環境になっています。
もう少し具体的なモデルの話で聞いていこう。
田中従来のSaaSは、紙の帳票やExcelの管理をシステム化する、シンプルなデジタル化を主な提供価値としていました。
これらは、言ってみれば「業務効率化型」のサービスだと位置づけられるだろう。
田中でもそれが一巡した後は、簡単にデジタルに置き換えられなかった部分、「人」の業務をまるっと置き換えられるように支援するプロダクトに移行しつつあると見ています。そこを逃げずにやっているSaaSが伸びている印象ですね。AI導入もこの文脈が多いように思います。
デジタルに置き換えることが容易でない部分。ここをAIが担うサービスが主流になりつつあるということだ。
田中以前はAIを使ってさえいれば差別化要素になっていましたが、もはやそうではなくなり、「どういう尖らせ方をしているAIなのか」が問われるようになりました。AIはインターネットやクラウドと同じく、「あって当たり前」になったということです。
コンサル時代に学んだ「価値創造の営みこそが企業を活性化させる」という事実
田中氏がこのような見方をするのは、ストックマークが「価値創造型」のサービスを志向しているからでもあるし、田中氏の個人的な経験に由来するものでもある。
田中私は以前、戦略コンサルティングを約10年やっていました。その中では、成果が出やすいということで「マイナスをゼロに」する提案もいろいろしてきました。
でも、結局のところ「ゼロをイチに」をやらないとクライアントの組織が活性化しないんですよね。「マイナスがゼロに」なったからといって幸せかというと、そういうわけでもありませんし。成果は確かに出ていて、ゼロイチのための時間は生まれたかもしれませんが、「ゼロをイチに」する次の方向性やアイデアは簡単には出てこない。
逆に、新規事業をつくろうとするとき、「今までできなかったことが明確にできるようになる」みたいなことがあると、企業に活力が生まれるんです。たとえば、某自動車メーカー向けに、「事業アイデア100本ノック」という100のビジネスモデルから有望なビジネスモデル候補を絞り込むという案件がありました。100本の具体的なビジネスモデルを出すことで、クライアントのこだわりや社会的意義が具体化され、これを事業としてやるべきだとクライアントの中で腹落ちしたミーティングを今でもよく覚えています。
そうした数多くの体験をしてきたことで、根底の部分で私は「ゼロをイチに」を常に志向していたと思います。
そんな田中氏がストックマークに入社したのは2020年のこと。「『自分の業務における“課題”を解決するのは自然言語処理ではないか』と2015年頃に思い始め、自然言語処理を扱うベンチャーを常日頃から見ていて、『ストックマーク』を見つけました」とWantedlyのストーリーで語っている。
田中コンサルタント時代に、「情報を集めてきて、加工して、提供することで、これだけの付加価値を出せるんだ」ということを知りました。
しかし、シニアなコンサルタントがそれをやるからこそ価値が出せる半面、アシスタント時代に自分がやっていた情報収集は夜中までGoogleで検索し、仮説構築に必要な情報を集めたり、ベンチマーク調査をする企業や事例を集めたりするのがほとんど。単なる情報から付加価値を生み出すプロセスをプロダクト化できれば世の中を変えられると思ったんです。それが2015年頃、一人のコンサルタントとして、お客様から評価頂けるようになった頃の話です。
有り体に言うと、ChatGPTを作りたかったんですよ。
ChatGPTや今のPerplexityに質問すると、多角的に情報収集をして、ロジカルな回答を用意して、きれいに整理して提示してくれます。この流れ自体は「コンサルタント」が提供する付加価値とかなり近いです。当然、レベル差はまだまだありますが、少なくともアシスタント時代に自分がやっていたデスクリサーチの大半は、プロンプトを工夫すればChatGPTで実現できます。
ChatGPTが登場したおかげで自分たちの作りたいものが明確になった
しかし、ChatGPTは別の人間の手で作られてしまった。初めてChatGPTを見た時、田中氏は「やられた」と感じたという。
だが、田中氏をはじめストックマークのメンバーは、今の状況を非常にポジティブに捉えている。
田中ChatGPTが登場する前、僕らがやろうとしていたのはまさに「ゼロをイチに」することであり、ニーズがあるのかどうかさえわからない価値創造型のプロダクトづくりでした。
でも、僕らが作りたかったものがChatGPTという形になって目の前に現れたわけです。超巨大な競合ともいえますが、我々はChatGPTを普通に「ベンチマーク」と捉えています。
ChatGPTがこれだけ多くの人や企業に使われている今、ニーズがあることは十分過ぎるほど明らかになりました。でも、僕らがやりたかったことと100%同じというわけではありません。
だから、マーケットをBigTechとは少し違った切り口で見ると、僕らなりの勝ち筋が見えてくるんじゃないかと思っていて、それが今すごくエキサイティングなんです。
ChatGPTが出てきたおかげで、自分たちのやりたかったこととの「違い」がより明確に見えてきたというわけだ。ではその「違い」とは何なのだろうか。
田中具体的な話は避けますが、ChatGPTは、あくまでもまだ「汎用」なんですよね。尋ねられたことに対して、世の中にある情報をわかりやすく組み合わせてアウトプットするサービスです。
それに対して、僕らのプロダクトは少し違う発想に基づいていて、チームで考えることを前提にしているということです。
企業の仕事って、1人でできることは限定的ですよね。だから、一緒に仕事をしている人たちが収集している情報や、それを元にしたアウトプットを知ることが重要な意味を持ちますし、それが次の情報につながっていくというループがあります。そのループを上手く回すことによって、ChatGPTを越える体験を提供できるだろうと考えています。
私が個人的に言語化しているのは「思考のドラえもん」です(笑)。「なんとかしてよ」と泣きついたら、自分や組織のことを全部理解してくれていて、最適な解決策をぱっと提示してくれるようなイメージですね(Wantedlyで公開中のインタビューに詳細があるので合わせて確認してほしい)。
AIが復活させる「デジタルたばこ部屋」のような情報交流コミュニティ
冒頭から少し抽象度の高い話が続いたが、ここからストックマークの主力プロダクトである『Anews』について詳しく見ていこう。
『Anews』は、一言でいうと「ビジネス情報収集プラットフォーム」だ。社外のWebサイトと、社内のさまざまな文書を毎日収集して情報ソースとしている。その中から、個人に有益と考えられる情報をレコメンドしたり、その情報をチーム内で共有したりできる。
田中『Anews』は2016年にリリースし、7年が経ちました。当初はSmartNewsやグノシーのようなBtoC向けキュレーションメディアのかたちで始まりましたが、企業内のコミュニケーションを深化させるために使いたいという要望を受け、BtoBへと方向転換しました。
BtoB展開において重視したのは、業務に必要な情報を適切にレコメンドすることです。そのために、日々の業務の情報や個人の興味関心を正確にインプットできる仕組みの開発に注力してきました。
ChatGPTなどの汎用生成AIは、極端な言い方をすると「LLMにとりあえず大量のテキスト情報を集めてみたらそれらしい答えが返ってくるようになった」というようなものだろう。
『Anews』が汎用生成AIと異なるのは、ビジネス情報が個人や組織に最適化されて届く点だ。
田中ビジネスで流れてくる情報は、ビジネスで使う単位にきちんと構造的に整理し続けなければ、使えないんですね。汎用生成AIを個社の特定の業務で使うと、駆け出しのコンサルタントレベルのアウトプットにしかならず、現場では満足に使えないという評価になってしまうと思います。
一方、我々が個別企業向けにカスタムLLMを作っている中で、汎用生成AIとは明らかに異なる、高品質なアウトプットが出てくることが見えてきています。
『Anews』の特徴は、個人に対して「今必要な情報が届く」こと。それから、一緒に働いている人たちにサポートしてもらって「知らなかった領域に気づく」ことの2つがあります。『Anews』を使用するチーム内の、他メンバーが注目する記事等の情報について、わかりやすく伝える、そこにこだわって開発を進めてきました。
新規事業を実現する上では、「よいアイデアの創出」と「社内での合意形成」という2つの要素が欠かせません。アイデアの質は良質な情報収集と分析から生まれますが、社内合意を得るためには、意思決定に関わる人たちが日常的に参考にしている情報を事前に理解しておくことが重要です。それによって、より効果的なプレゼン資料を作成できたり、提案の軸を適切に設定できたりするようになります。この両面を常に意識して取り組んできました。
サービス提供先はエンタープライズに特化しており、250社以上の大手企業に導入されているという。プロダクトのこうした特色が、大きな組織でこそ効果を発揮するからなのだろう。
田中社内では、こうしたコンセプトをわかりやすさを重視して「デジタルタバコ部屋」という言葉で話すことがあります。業務上の枠組みである「部署」や「チーム」という括りとは関係ないところで、情報を起点に縦・横・斜めに情報交流が生まれていく場、コミュニティといった意味合いです。
従来、こうしたインフォーマルな情報交流は喫煙室(タバコ部屋)や飲み会などで自然に行われてきました。本当にそういう場でゼロイチの種が生まれていたのかどうか、厳密に測ることはできませんが……でも、一定以上の年代のビジネスパーソンには納得感があるようです。
それが、コロナ禍やそれに伴うリモートワークの普及、世代別の価値観の違いにより、今は機会が減ってきました。『Anews』がその機能を現代的な形で復活させつつ、さらに情報連携を加速させる役割を果たしているからこそ、大企業に受け入れられているのだと思います。
私たちは、これまで言語化されていなかったが重要な役割を担ってきた、情報交流コミュニティという価値創造の場を機能として定義し、『Anews』で具現化してきています。これが価値創造型SaaSです。
デジタルで置き換えできない「人」の業務課題を解決するには人の介在が不可欠
こうした情報交流コミュニティを機能させるため、PC上のプロダクト以外のサービス提供にもストックマークは注力している。
田中理想とするコミュニケーションに至る上での課題はまだまだあります。たとえば『Anews』上で、情報に対するちょっとしたコメントであっても、企業内での発言には責任が伴うため気軽にコメントができず、なかなか活性化しない企業もいらっしゃることは事実です。
そこで、現状ではコミュニケーションを活性化する部分をカスタマーサクセスが担っているのだという。
田中僕らは「DJ(ディスクジョッキー)」という表現をしていますが、現状ではカスタマーサクセスのメンバーが、「この情報って御社ではこういうふうに活かせるのではないですか」「以前、Aさんがしていた取り組みと似ていますね」といった形で、“合いの手”を入れることで最初の流れをつくる支援をしています。
ただ、企業の中でのコミュニケーションを促す働きかけの方法は他にもいろいろと考えられますので、今後はプロダクトの機能として盛り込む可能性もあります。
AIが利用者個人や組織について十分理解していることを前提にすると、例えば、社員AさんとBさんの考えていることが近ければ、「話してみませんか」と直接的にマッチングする方法もあるでしょう。あるいは、特定の情報に対して「この領域の専門家であるあなたのコメントを待っています」といったコメントを促す方法もいいかもしれない。カレンダー情報と連携して、リアルに会うための最適なタイミングを推薦する方法も考えられます。
こうした幅のある選択肢の中から最適な解決策を選んでいく過程では、中長期的な思考も必要ですから、カスタマーサクセスだけでなくBizDevやPMM、PdMも重要な役割を果たしています。エキサイティングな仕事ですが、お客様の「ゼロをイチに」できるかという価値軸と、それを日進月歩で進化する技術を用いて、どのレベルの体験として組み込めるかという技術軸の両軸を考えなければならないので、一番大変なところでもあります。
日本ガイシと共同で行う実証実験から見えた個社カスタマイズAIの可能性
2024年2月から、ストックマークは日本ガイシと実証実験を開始した。ストックマークの130億パラメータの独自LLMと、日本ガイシが保有する特許や論文を含む社内外文書を組み合わせ、日本ガイシ製品・技術の新規用途先をより高速・高精度に探索する試みだ。
田中従来、「新しいアイデアを出す」というものは、自社の技術を正しく理解したベテランメンバーがマーケット情報を多角的な視点で集めて熟慮を重ねた結果、出てくるという、職人芸のようなものでした。
日本ガイシ様との実証実験では、情報の関連性を正しく理解した上で、アイデアの叩き台を出すところまでをAIが行っており、現在までにかなりの成功事例が溜まりつつあります。
これまでベテランの暗黙知とされてきた思考プロセスが、LLMとナレッジグラフ(後述)によって再現されつつあるのは、大きな進化だと思いますね。こうした事例を、もっといろいろな人たちに体験してもらいたいと思っています。
今のChatGPTを使っても、おそらく抽象的なアイデアしか出てこなくて、実行に移したいと思えるような具体的なアイデアには至らない。そう感じている人が多いでしょう。でも、ストックマークの技術を活用することで、自社の技術とマーケットの課題を紐付けたときに、「可能性があるかもしれない」と思えるアクションのきっかけが多く生まれています。これは、日本ガイシ様との取り組みで特に実感したことです。
しかし、生成AIをよく知る人だったら、「RAG(Retrieval-Augmented Generation=検索拡張生成)とどう違うのか」と疑問に思うかもしれない。
田中当社の特徴的な技術として、先ほど言及した「ナレッジグラフ」というものがあります。これは知識と知識のつながりをグラフ化する技術です。
通常のRAGでも拡張検索のようなものはできます。例えば、「長い」という言葉は一般的に「長大」とか「大きい」といった言葉に関連付けられます。
一方、私たちの技術では情報の構造化技術により、独自の関連性を構築できます。例えば「長い」という言葉が、特定の技術領域においては「強い」というポジティブな意味合いになり、またほかの技術領域においては「長すぎて使えない」というネガティブな意味合いになる、そんな関係理解がスムーズに進むよう構築することができるのです。
このように、より適切で正確な情報の組み合わせによって、人間の「ひらめき」に近い発見をサポートできることが、私たちの大きな強みとなっています。
「千三つ」が「十三つ」に?! 新規アイデア創出の再現性を高める
田中氏は、イメージしやすいようにあえて「ChatGPTを作りたかった」と説明してくれたが、ビジネス特化、とりわけ個社向けにカスタマイズしたAIの優位性が垣間見えたのではないだろうか。
『Anews』の完成度を田中氏に問うと、「完成形をどこに置くかにもよりますが、多めに言っても10〜20%くらいでしょうか」といい、まだまだ伸びしろが大きいことをうかがわせる。
田中情報って面白い世界だなとつくづく思います。情報単体にも価値はありながらも、情報同士を組み合わせれば組み合わせるほど価値が出てきます。いわゆる「切り口を変える」ということだと思いますが。
例えば、バラバラの事象を時系列に並べてみると、それまで見えなかった示唆が得られたり、それがまた次の新しい示唆につながったりしていく。だから基本的に情報は増えるたび、掛け合わせて得られる示唆も変わってきます。
これまでは、基本的にテキスト情報を扱ってきましたが、その掛け合わせの対象を、社内の定量情報や図表情報にも拡大しています。例えば業績情報と掛け合わせると、テキスト情報だけでは見えてこなかった領域まで見えるようになり、全く違うことができるようになるだろうと思います。
究極の形は、例えば「今期の業績が上がった理由は、Aさんがこの情報を見つけて、Bさん・Cさんとこういう会話をした結果、こういうアイデアが生まれたからです」くらいの粒度で、瞬時に分析できるようになること。
そういう世界観を作れるようになると、個人がどのように会社に貢献しているかがわかりますし、「千三つ」と呼ばれる新しいアイデアが生まれる低い確率を、「十三つ」という高い確率にするといった、再現性を高めることにもつながると考えています。
企業規模が大きいほど個人の貢献が見えにくくなり、やりがいを感じられなくなった人が辞めてしまうといった話は大企業にありがちな話だが、労働人口が減少する今、企業にとって小さくない問題だ。
田中個々の貢献がはっきり可視化できれば、属人的な評価でなくデータから正しく評価でき、退職を防げるかもしれません。ひいては、企業全体のパフォーマンスや生産性の向上にもつながっていくと考えています。
価値創造型のプロダクトこそが日本企業を変え得る
前職含め肌で感じてきた人間の思考の課題感と、BtoBビジネス全体の潮流。日本企業が新たな価値創造をしていく世界を実現するため、独特なプロダクトとビジネスを構想しているわけだ。
冒頭で、今までは業務効率化型のサービスが主流だという話があった。これにはいくつか要因があると田中氏は改めて強調する。
田中理由の1つは、日本では企業のIT投資が「守り」中心であること。
また、新しい価値を生み出していくような業務を行う人は、企業の中で少数派ということもあるでしょう。
加えて、雇用の問題もあります。業務効率化するまではいいのですが、それで省力化された分、人員を削減できるかというとそうもいきません。
本来は、その余裕ができた時間でより価値を生む、生産性を上げる方向にできればいいし、すべきなのだが、今の日本の大企業にはその具体的な「アイデア」がないように見える。あるいは、アイデアはあるが、「合意形成」ができていない状況かもしれない。企業で何かを変えるためには、「アイデア」と「合意形成」が欠かせない。
今回の記事では、主に『Anews』について論じてきたが、今年2024年には新たなプロダクト展開を見せている。『Anews』のデータ構造化基盤や生成AI基盤『SAT(Stockmark A Technology)』としてPaaSプロダクトとして提供を始めたのだ。
これにより、個社ごとのAIのカスタマイズが進み、新しい価値創造をより強力にバックアップできるようになるだろう。
新しいアイデアを考え出し、新しい価値を生む仕事は企業の中でも一部の人たちに限られると考えられてきた。しかし、価値創造という営みを再現可能な仕組みにできる『Anews』のようなサービスがあれば、全てのホワイトカラーが活用し得るものになるかもしれない。
スタートアップなら自分たちの価値創造を目指すのは当然のことだが、それ以上に顧客企業の「価値創造」にフォーカスする企業が、これからのBtoBの主流になる。成長の機会を探しているなら、そのような視点を持ってジョインする企業を探すべきだ。
自社と顧客企業、2軸での価値創造。ストックマークでは、今回登場いただいたCMO田中氏に加え、BizDevコンサルタント、PMMが連携して担っている。次回記事では、その具体的な方法論を事例も交えて紹介する予定だ。
こちらの記事は2024年12月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
畑邊 康浩
写真
藤田 慎一郎
おすすめの関連記事
PKSHA上野山・STORES佐藤が今25歳に戻ったら「キャリア開発よりも“好き”を追求する」の真意とは──AI全盛期を俯瞰する起業家の想い
- 株式会社PKSHA Technology 代表取締役
「AI・LLMの民主化へ」注目2社の最年少執行役員それぞれが描く未来像【対談:Chatwork桐谷・LayerX中村】
- 株式会社kubell 執行役員 兼 インキュベーション本部長
この成長曲線は、5年後の理想につながるか?──新プロダクト・組織再編・M&Aまで、SaaS戦略をSmartHR倉橋・マネーフォワード山田が語り合う
- 株式会社マネーフォワード 執行役員 マネーフォワードビジネスカンパニーCSO
エンプラ攻略したくば、9割の「見えない現場の動き」を許容すべし──Asobica×ナレッジワーク対談に見る、スタートアップがエンタープライズセールス立ち上げ時に陥りやすい8つの罠
- 株式会社Asobica VP of Enterprise Sales
真のユーザーファーストが、日本にはまだなかったのでは?──「BtoBプロダクトの限界」に向き合い悩んだHERP庄田氏の、“人生の時間”を解き放つコンパウンドHR戦略
- 株式会社HERP 代表取締役
【独占取材】メルカリの0→1事業家・石川佑樹氏が、汎用型AIロボットで起業した理由とは──新会社Jizai立ち上げの想いを聞く
- 株式会社Jizai 代表取締役CEO
【独自解剖】いまスタートアップで最も“謎”な存在、キャディ──SaaS×データプラットフォーム構想によるグローバルテックカンパニーへの道筋
AIはあくまで手段、"顧客密着"こそが競争優位・高利益を生む──後発SaaSのTOKIUMが「BPaaS時代」を先取りできた理由と、「社会インフラ級」のプラットフォーム戦略とは
- 株式会社TOKIUM 代表取締役