AIが奴隷解放してくれる未来とは?
人工知能の本質的な未来を今語ろう

インタビュイー
川合 雅寛
  • クロスリバ株式会社 代表取締役 

1980年2月、山形県出身。上京後、日立製作所入社。中央官公庁のSI事業を担当。21歳の時に国税庁確定申告書作成コーナーをJAVAとLinuxで構築し、当時としては凄まじいアクセス数となる。その後、ソフトバンクモバイルに入社。iPhoneおよびGoogleAppsの企業向けSEとして、日本の名だたる大企業を担当。

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AI(人工知能)が様々な場所で活用されるようになり、今後その進化もより加速していくと言われる。

では最先端AIのチャレンジャー達は、具体的に私達の社会と生活がAIによってどのように変化していくと考えているだろうか。

ストーリー解析システムの開発などを手掛ける、クロスリバ株式会社の代表取締役・川合雅寛さんに話を聞いた。

  • TEXT BY KEI TAKAYANAGI
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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AIはコンピューティングが高度化したもの

近年、一般のメディアでも人工知能に関する特集が増え、日常生活においてもAIというキーワードを耳にする機会が増えたと思います。なぜ今、AIが大きく注目されているのでしょうか。

今のAIブームは第三次ブームと言われています。昔から、機械が知的であるかどうかを調べるチューリングテストなどがあるように、人々は完全性を持ったAIに強い憧れや興味を持っています。

簡単に言えば映画『ブレードランナー』のレプリカントや、ドラえもんのような自立して考えるロボットを作りたいという思いがあります。20世紀の中頃からAIに関する論文はありましたが、当時はコンピュータのCPUパワーが足りず実現できませんでした。

しかし、時代が進みCPUやGPUの単体性能の向上、並列処理や分散処理ができるようなり、開発に大きな進歩がみられ、利活用に道筋が見えてきました。

そのなかで、自動車の自動運転や家電などにもAIが取り込まれ、一般の人の目にも触れるようになり「AIすごい、それを支える機械学習やディープラーニングもすごい」というイメージが形成され始めた結果だと思います。

日本におけるAIのディープラーニングの活用の現状はどの程度進んでいるのでしょうか。

一般企業でAIが語られる時、いまだに何かすごいことをしてくれるものだという印象を持っているケースが多いと思います。しかし、ディープニューラルネットワークを介して膨大なデータから新たな法則性を発見するディープラーニングも、一定のアルゴリズムに従って学習効果を積み上げていくマシンラーニングも、どちらも「コンピューティング」という仕組みだということを忘れてはいけません。

つまり、情報をインプットしてアウトプットが得られるコンピューティングの基本は同じです。今、それらに必要とされるのは、様々なことを解析させることを目的にするのではなく、目的とする結果にたどり着くための最適な数式を見つけることです。

毎回調査のために膨大な情報をコンピュータにインプットして解析するのは大変ですので、ディープラーニングの結果アルゴリズムさえわかってしまえば、エッジコンピュータで処理できるようになるのでサービス全体の処理速度が向上するでしょう。

日本では、AIと言えば将棋ソフトや絵に自動的に采色するところに使われたりしていますが、これは本来の到達点ではないはず。

例えば、囲碁AIのAlphaGo等を作ったGoogle DeepMind社が現在AIの活用を進めているのが医療分野です。

CTやレントゲン画像の影の出方やパターンのアルゴリズムを解析して、ガンなどの早期発見につなげることを目指していると聞きます。

ゲームで勝つために作るのではなくその先にある課題の実験のためにボードゲームを利用しただけであり、日本の研究者はもっとドライに社会課題の解決にトライすべきかと思っています。

日本でもPreferred Networks社がトヨタ自動車から資本業務提携を受けています。海外では自動車産業は自動運転ばかりに目が行きがちですが、インダストリー4.0的なディープラーニングの活用法として、工場におけるベルトコンベアを通る部品の品質チェックを行うといういものがあります。

従来のようにラインを流れてくる部品の写真画像を取り込み、逐次クラウドにアップロードし分析していては遅いわけです。

そこでプリファードが得意とする監視カメラの画像解析技術利用し、カメラそのものにAIのアルゴリズムを組み込んでしまえばレイテンシは究極に低くなるためスループットの向上が見込めます。

彼らは、このクラウドとネットワーク、現場のデバイスがデータ処理を分散して行う手法を「エッジヘビーコンピューティング」と名付けています。その他にも、最近発売したiPhone XにはAR撮影などで活躍するAIモジュールが入っています。

AIを活用した最先端の現場ではディープラーニング自体をシステムに組み込む時代は終了していて、まずは大量のデータを処理して、ディープラーニングによって先にアルゴリズム化し、デバイス自体に組み込むという手法が増えてきているのです。

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ベンチャーキャピタルはAIに投資しない

AIの流行は今後も続いていくでしょうか。

私の周りのAI開発現場では、現在のブームはそろそろ終わると考えられています。実際にベンチャーキャピタルの投資対象から、AIベンチャーが外れてきているようです。

昔から、AIベンチャーは眉唾ものも多く、アルゴリズム自体をAIだと謳っている所もあったりします。第二次ブームの時は、日本語入力システムのATOKを人工知能だと言っていたりもしました。

私自身は、自社のストーリー解析システムの開発にIBM Watsonを使っていて、その言い方にならって、Artificial Intelligence(人工知能)ではなく、Augmented Intelligence(拡張知性)という意味でAIという言葉を用いています。つまり、人間を拡張するためのコンピュータということです。

もともとAIの分野に携わるようになった理由も、人間を強化し助けてくれるロボット開発など、その思想がとても近いです。

例えば、住宅の電力コントロールシステムは、拡張知性の一つと言えるでしょう。千葉・柏の葉では、地域の施設と複数の住宅において発電や受電量、消費電力量などエネルギー利用の効率化と地域相互の最適化を検証する実験が行われています。

日本は欧米などと違い、社会にコンピュータとAIの導入の流れがほとんど一緒にきてしまいました。そのため、デジタル化がうまく浸透せず、AIも浸透していない現状です。これからR&D(研究・開発)だけではなく、実務家が社会実装を積極的に行っていくのことがメインの時代になるでしょう。

AIの話題でシンギュラリティによるディストピアの妄想が語られたりします。川合さんはAIと人間との関係について今後どのように変化していくと考えますか。

完全に自律した思考をするArtificial Intelligence(人工知能)であれば、人間を支配する可能性もあるかもしれません。ですが、Augmented Intelligence(拡張知性)はむしろ人間を様々な面倒ごとから解放してくれる存在になるでしょう。

その意味でもすぐに取り組めるAIの活用は、労働集約型のビジネスの自動/効率化です。これにより、ワークライフバランスの改善を図れます。現状、ホワイトカラーも、デスクに座り指先の労働集約型ビジネスであり、仕事の奴隷です。

一方、AIがビジネスで活用されることで、失業者問題が生まれる可能性があります。その時代に生き残っていける人は自ら行動できる人です。会社で仕事をただ待っている指示待ち人間は生き残れないでしょうね。

その時が来たら、ベーシックインカムがより必要とされるようになるかもしれませんが、私は労働の代わりに芸術的な分野で人間の才能が開花する可能性があると思っています。

自分で創作したもので不労所得を得ることが当たり前の時代が来ると思っています。AIが進化し社会と融合していくことは、21世紀の奴隷解放宣言となるでしょう。

こちらの記事は2018年01月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

高柳 圭

写真

池田 有輝

編集

海老原 光宏

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