連載私がやめた3カ条
「白か黒か」の考え方は身を滅ぼす──Baseconnect國重侑輝の「やめ3」
起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。
今回のゲストは、法人営業を支援するクラウド型企業情報データベース『Musubu』を開発するBaseconnect株式会社の代表取締役、國重侑輝氏だ。
- TEXT BY TEPPEI EITO
國重氏とは?
大志を抱く少年から、仏のような社長に
何者かになりたい、世の中に爪痕を残したい。そうした、漠然とした願望が、國重氏にもあった。学生時代には、世界に貢献するための仕事がしたいという思いから、国連の事務総長になりたいと考えていたのだという。
しかし大学生になり、彼は理想の姿と、自身の現実的な能力との差を自覚する。「何かスキルを身につけなければ」。そうした焦燥感に駆り立てられて、IT企業でのインターンを始めた。
がむしゃらになって働き、プログラミングやコンサルティングの知識を身につけた國重氏は、在学中にインキュベーター事業を行う会社を立ち上げた。
この会社で彼は、サービスをつくり世に送り出すという、ビジネスにおける“0→1”のフェーズを幾度となく体験することになる。この経験は、Baseconnectを立ち上げてから数年の「創業期」と呼ばれる厳しい時期を乗り越えるのに大いに役立った。
しかし、「創業期」を抜けた先は彼も未体験の領域。プロダクトが形を成し、組織が安定し成長してくるフェーズにおいて、彼は自分自身のやり方を変える必要に迫られた。そのとき彼は何をやめ、何を捨ててきたのだろうか。
軍隊的な組織体制をやめた
会社設立から2~3年の間──スタートアップの創業期に多いかもしれないが──、Baseconnectでは創業者である國重氏のワンマンな経営がなされていた。
指示系統は明確で、中央集権的にすべての情報が國重氏に集められ、トップダウンで各所へと指示が落とされていく。当時、会社運営における意思決定の9割以上を國重氏が行っていたという。
こうしたやり方は、創業期において良い方向に働いた。シリアルアントレプレナーである彼の経験も大いに寄与したのだろう。
しかし、メンバー数が50人を超え、会社が成長してくるにつれて、この経営スタイルに限界が見え始めたのだという。すべての情報を掌握することが難しくなり、自分の意思決定がことごとく裏目に。自分の承認待ちのタスクが増え、指示待ちのメンバーも増えてきた。会社の成長において、國重氏自身がボトルネックになり始めていたのだ。
そうした状況を打開することができたきっかけは、同氏による10日間の「瞑想合宿」だ。
國重自分の具体的なスキルを伸ばすというよりも、「器を大きくする」みたいな抽象的なスキルを伸ばす必要性を感じていたんです。何か起きると口を出したくなるし、自分が先導して行動したくなる。でもそういうリーダーシップでは会社はこれ以上成長できないって思ったんです。
それで、昔から興味があった瞑想で俯瞰的に自分を見つめ直す必要がある、と思って山ごもりに行きました(笑)。
この行動は、意図せぬ副次的な「気づき」をもたらした。それは、「社長がいなくても会社は回る」という気づきであった。10日間、スマートフォンやPCでの連絡をすべて断ち、瞑想を続けた中、事業や組織が停滞したことなどは何一つなかったのだ。メンバーが自走する”自律分散協調型組織”の胎動が始まっていた。
國重氏自身も、瞑想それ自体の効果と、副次的な気付きとによって、組織論を改めた。権限を分散し、メンバーの自律性を尊重する組織。それこそがポスト創業期における理想の組織像なのではないか、と。
出社義務をやめた
各々が自律的に意思決定するという新しい組織体制が機能し始めると、働く場所がオフィスである必要がなくなってきた。
家から会社までの往復でかかる時間を削ることができれば、時間あたりの生産性も高くなる。また、京都にオフィスを構えるBaseconnectにとって、出社義務は採用の足かせにもなっていたのだ。そうした背景から、同社はリモート勤務を開始することにした。
ところで、コロナが少し落ち着いてきた最近になって、徐々に出社比率を上げる企業が増えてきているのはご存知だろうか。コミュニケーションミスと生産性の低下を理由に、リモート体制の是非が問われているのだ。
そんな中、Baseconnectでは今でもリモート勤務がうまく機能しているという。なぜ同社では、出社義務をやめても生産性を上げることができているのだろうか。
國重まずは採用の段階で「自律性」を確かめるようにしています。マネジャーがいなくても自主的に仕事に取り組むことができるかどうかというのは、弊社が最も重視している点です。
次に制度設計。自律して働ける素質のあるメンバーが入ってきても、それを実現できる環境がないと機能しません。そういう意味で最も重要なのは、情報をオープンにすることだと思っています。創業当初の中央集権的な組織体制を経験して学んだんですが、情報さえ与えられれば意思決定はそんなに難しいものじゃないんですよね。メンバーの意思決定を困難にする原因は、そもそも必要な情報がない、というものだと思います。
ただ「リモートOK」にするだけでは、当然うまく機能していかない。そのための採用基準を設け、リモートでも意思決定ができる環境を整えることで、出社の必要性をなくすことができるのだ。
「白か黒か」という考え方をやめた
國重氏には昔から、「何事も極端でなければいけない」というすべての前提となるような考え方があった。一種の強迫観念のようなもので、会社だけでなく個人においても、何か他にはない尖った特徴を持っているべきだと考えていたという。
そうした考えは、前述の組織体制の転換に際しても強く影響した。
國重軍隊的なトップダウンの組織体制がダメだと気づいてすぐに、ボトムアップの体制に急転換したんです。すると、これまでやってこなかった意思決定を突然求められてストレスを感じるメンバーが出てきたり、意見を自由に言い過ぎて険悪な雰囲気になってしまったり、いろいろとトラブルが生じたんですよね。
他にもプロジェクトの進め方とか、採用の仕方とか、「白じゃないなら黒だ!」という風に、振り切った考え方をすることで不要な摩擦を生んでしまうことが多々ありました。
極端に考えを変えてしまうやり方は、スタートアップ経営において間違いとも言い難いが、その変化に組織が付いてこれるかどうかは別の話。
そうした失敗から、彼は偏った考え方をせず、ちょうど良い立場をとることを意識するようになったという。
國重これまでは「白か黒か」という考え方でしたが、どちらかに振り切る必要はないな、と考えるようになりました。これは中途半端にグレーを選ぶというのではないんです。
例えば組織体制で言うと、経営戦略はトップダウンにして、業務アイディアはボトムアップにするとか。自律分散的な体制がうまく働くこともあれば、場合によっては軍隊的な体制が機能するときもある、とか。どちらか一方だけに固執することに合理的な意味はないな、ということに気づいたんです。
スタートアップに対しては、大きなビジョンを描くのが当たり前というイメージを持つ読者が多いかもしれない。そこを敢えて、地に足をつけることを強く意識しているわけだ。
会社経営においても、人生設計においても、極端な考え方は身を滅ぼしかねない。儒教で言うところの「中庸」の立場で、良い塩梅を保つことが成功の秘訣なのかもしれない。
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