連載私がやめた3カ条
あえて、逆方向に舵切りしました──EXIDEA小川卓真の「やめ3」
起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」略して「やめ3」。
今回のゲストは、コンテンツグロースハックカンパニーとして、Webメディア事業とコンテンツマーケティング事業を展開する株式会社EXIDEA代表取締役社長/CEO小川卓真氏だ。
- TEXT BY YUKO YAMADA
小川氏とは?
「全ては世界に通用するWebサービスを生み出すために」。確固たる信念を持ちグローバルに挑む起業家
常に先を読み、いち早く世界に目を向け、強い信念をもって道を切り拓いてきた人物がいる。それが小川氏だ。2000年代初頭、Webの可能性にいち早く着目した小川氏は、大学時代からECビジネスをスタート。その後、新卒で金融の大手企業に入社したものの、やはりインターネットビジネスへの想いを捨てきれず退職を決意。勃興期のITスタートアップに飛び込む...かと思いきや、彼が選んだのは「自ら起業」という選択肢であった。
SaaSという言葉が世に浸透するより遥か昔の2007年、月額課金に特化したSEOツールを展開するエフティーを共同で立ち上げ、COOとして事業を拡大。2013年にWebマーケティング力を強みにグローバルに戦える組織を目指すEXIDEAを設立した。EXIDEAという名前には、Excellent Idea(卓越したアイディア)からイノベーションを生み出すという思いが込められている。
現在、同社は日本・アメリカ・ベトナムの3カ所に拠点を構え、そのサービスラインナップは多岐に渡る。中でも数百サイトへの導入運用実績を持つSEOライティングツール『EmmaTools』や、LINE、Sansan、freee、HRBrainなど錚々たるBtoB企業への制作実績を持つ動画マーケティングサービス『CINEMATO』は急成長を見せている。
順調に事業を拡大させていくEXIDEAだが、小川氏はここで次のステップに進むために大きく事業転換を図った。いったいEXIDEAでは何が起きたのか。そしてどこへ進もうとしているのか。話を伺っている内に、徐々に小川氏が目指す組織の姿が明らかになっていった。
ティール組織であることをやめた
今も昔も変わらず、「組織設計」や「マネジメント」は経営における重大なテーマとして扱われ続けている。従来のトップダウン型マネジメントではなく、意思決定機能を組織全体に分散させる手法も注目を集め、いち早く実践する企業も多い。
小川氏がEXIDEAを立ち上げた理由の1つに、「一人一人が自己実現できる会社にしたい」という想いがある。2013年の創業時、まだティール組織という言葉がない時代に、小川氏は今でいうティール組織のような経営を実践していたのだ。
しかし、組織の拡大とともに、それだけが正解ではないと考えるようになったという。
小川そもそもティール組織は、全員が自律自走で高いパフォーマンスを生み出す極めて筋肉質な組織です。社員全員が一級のプロフェッショナルで、かつカルチャーも共有されていることが絶対条件となります。当社ではカルチャーは追い付いていたのですが、採用と育成が追い付いていませんでした。
ティール組織を理想とすることに変わりはありませんが、それには段階があって、まずは事業も各人も最速で成長できる組織体系にしていく必要があると判断しました。
各人が最速で成長できてこそ、それぞれの自己実現が達成される可能性も高まり、そして企業としてのビジョンも達成される。
小川氏のティール組織を目指すという創業当時からの想いは変わらない。だからこそ、今はあえてヒエラルキーを作りながらも、信頼関係を大事にしながら主体性を発揮できる組織へと大きく舵を切ったのだ。
次から次に新しい事業を立ち上げることをやめた
EXIDEAは、Excellent Idea(卓越したアイディア)から付けられた造語であり、新しいアイディアを考えては次々に事業を立ち上げるというコンセプトで成長してきた。
世界に通用するWebサービスを生み出すためには、その種は多い方が可能性は高まるという考えから、様々なサービスを立ち上げてきた同社だが、社名にも使われているほどの重要なコンセプトをなぜ変えたのかを尋ねた。
小川数十は立ち上げたサービスの中で、結局、何が最も成長しているのかを眺めた時に、自分たちのコアコンピタンスである「優れたコンテンツを制作し、愚直に改善する」ということを大事にしている事業だけが成長していることに気が付きました。
例えば、SEOライティングSaaSのEmmaToolsや、動画マーケティングのCINEMATOは市場で有数のサービスに育ってきている。Webメディアも国内市場で1位になっている分野があるし、グローバルに成功しているWebメディアもある。案外足元を見ると、コンテンツマーケティングに関わる事業では十分に世界に通用するWebサービスを生み出せる状況にあると確信しました。
それでも、元々の社風から日々様々なアイディアが生まれるため、それをやらないことは歯がゆいというが、まずは自社の勝ち筋であるコンテンツグロースハックによって、グローバル最高レベルの会社となることが先だと判断した小川氏は語る。
資本と組織と強力な人材がいてこそ、ゲームチェンジを起こすものを生み出せる。中途半端にやるよりは、まずは一番の強みで世界を変えるサービスを生み出し、その上で、盤石な資本をもって新しいサービスを創造していくという順序で進むという。
創業当初の想いである「世界に通用するWebサービスを生み出し、世界をエンパワーメントしていく」という小川氏の信念は今も変わらない。
マザーズへの上場チャレンジをやめた
多くのスタートアップ・ベンチャー企業にとってある種の登竜門とも言えるIPO。EXIDEAも同様にマザーズ市場への上場を目指してきた会社の一つだが、このチャレンジをやめたという。
ただし、上場チャレンジ自体をやめたわけではない。現在EXIDEAが目指しているのが、東京証券取引所のプロ投資家専門の市場である東京プロマーケットだ。一般投資家は参加できず、流通株式比率の制限がないことが特徴だという。つまり、株式の売り出しをせずに上場企業になれるということだ。
小川これは大きな決断でした。大企業や官公庁との取引も増えてきているため、上場企業としての内部統制は敷きたいが、一般投資家の方にまだ投資をいただく段階ではない。目の前の利益を優先すれば先行投資ができなくなり、グローバルへのチャレンジは遠のくと思いました。この決断は誰に話しても反対されるので、最近はもう話さないのですけど(笑)。
しかし、東京プロマーケットに上場している社長から話を聞いた時に、誰よりも夢を追えていて、大きく成長もできていました。外野の声よりも実際にコートに立っている人と自分の内なる声を大事にしようと思いました。
国内市場におけるポジショニングを確立して、いよいよ、グローバルに本格的に展開するタイミングでは本則市場へのIPOを考えているという。
上場ゴールという言葉があるが、上場をゴールにしないためにも東京プロマーケットに上場し、いざ本当に踏み込むタイミングでの本則市場へのIPOをすることはこれからの日本の上場チャレンジの一つのスタンダードになるのではないかという考えが小川氏にはあるという。そのチャレンジができる一番面白い時期にあると声を弾ませる。
ティール組織をやめたのも、会社名に使われているアイデンティティを追うことや、マザーズへのIPOチャレンジをやめるという選択をしたことも、同社にとっては逆方向に舵を切るレベルの選択だ。この何かを「やめる」という決断は、一方で何かを「生み出す」ことでもある。経営トップに求められるのは、意思決定をおこなうCEO自身が持つ信念の強さなのかもしれない。
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