スタートアップこそ学ぶべき、「副業」人材のメリットと活用法
メンバーの半数以上が副業人材で構成されていながらも、急成長を遂げているスタートアップがある──株式会社ミラティブと株式会社Traimmuだ。両社が推進する「副業採用」の実情に迫るべく、ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏とTraimmu代表取締役の高橋慶治氏をゲストに招いたトークイベントが開催された。副業・転職採用プラットフォームを運営する株式会社YOUTRUST代表取締役の岩崎由夏氏がモデレーターを務め、「スタートアップこそ、副業人材の活用が事業成長の鍵になる」と力説する2社の取り組みが明らかにされた。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「オリンピック選手をレンタルする」副業採用が生み出す3つのメリット
スタートアップ界隈でも、いち早く副業採用に注力するようになったミラティブとTraimmu。両社ともに、はじめから副業採用を志向していたわけではない。「ベストな組織形態を模索していくなかで、現在のスタイルにたどり着いただけ」だという。
赤川氏は、「そもそもの前提として、近年の優秀な人材は副業を志向する」と語る。
赤川優秀な人は、自身の成長のために多様な経験を得たいと考える傾向にあります。そんな中、副業解禁の流れで、「副業するとローリスクで経験を積めるぞ」ということが認知されてきている。周りの人たちを見ていても、優秀な人ほど副業に興味を持っている印象があるんです。
続けて、スタートアップが副業人材を採用するメリットが3つ明かされた。
赤川まずは、フルタイム社員と比べて入社の意思決定をしてもらいやすいことです。雇われる側にとっては、福利厚生や将来性も不安定なので、スタートアップにフルタイムでジョインするのはハードルが高い。しかし、副業であれば、本業を手放すリスクを取る必要がないため、参画してもらいやすいんです。
例えるなら、移籍してもらうのは難しいオリンピック選手を「レンタル」させてもらう感覚。ウサイン・ボルトに「ちょっとサッカーやりたくない?」と勧誘するようなイメージです(笑)。
岩崎たしかにミラティブには、「あの会社の〇〇さん」といったスタートアップ界隈における有名人が、たくさん集まっている印象があります。
赤川続いて2つ目は、活躍の場面が限られる人にも、力を借りやすいこと。たとえば僕たちは中国のゲーム会社さんとの仕事が増え、関連業務が発生しはじめていますが、中国語に堪能なメンバーに今すぐフルタイムで入ってもらいたいほど、中国特化の業務量があるわけではありません。
そこで、以前に中国関連の仕事をともに手掛けたことがあるメンバーに、副業としてサポートしてもらっているんです。
そして3つ目は、内定を出してからジョインしてもらうまでのタイムラグが短く、すぐに働いてもらえること。フルタイムの場合、内定承諾後に退職申請をする人が多く、入社まで2、3ヶ月ほどかかってしまうこともあります。しかし副業であれば、極端な話、面接を行ったその場でジョインしてもらうことも可能です。
先日発表したスマホ1台だけでVTuberのようにアバターを着て配信できるサービス『エモモ』も、「このままいくとリリースが遅れる」という報告を受けて即日、二人のエンジニアに副業で来ていただけたことで、無事に予定どおりリリースすることができました
対して高橋氏は、「採用のミスマッチが発生してしまったことが転機になり、副業採用に力を入れはじめた」と語る。
高橋正社員として採用したメンバーが、入社後に価値観の違いを感じて辞めてしまうケースが多発したんです。そこで、まずは副業として手伝ってもらう期間を設け、相互理解を深めたうえで正式にジョインしてもらう方針へと転換しました。結果として、雇用のミスマッチが生じにくくなったと感じています。
小規模なスタートアップは、一人ひとりのメンバーが会社に与える影響がとても大きく、大企業と比べても、より一層足並みを揃える必要があります。自社の結束を高めたければ、副業採用でお試し期間を設けることは有効な施策といえます。
赤川同感です。ミラティブ社も同様に、フルタイム入社を希望するメンバーには基本的に必ず、副業として手伝ってもらう期間を設け、お互いに違和感がないか確認したのちに入社してもらっています。
推進すべきは、“外様感”の排除。副業メンバーに最大限活躍してもらうために
次に、副業メンバーの採用基準について議論された。高橋氏は、「時間的なコミット量を重視し、要件で定めた時間以上の勤務をこなせる人のみを採用している」と語る。
高橋勤務時間が少なすぎるメンバーは、社内の雰囲気に馴染みきれません。結果、余分なコミュニケーションコストがかかってしまい、業務も上手く回らなくなってしまいます。
赤川ミラティブも、かつては週1回の勤務も認めていましたが、メンバー同士の連携があまり上手くいきませんでした。反省を活かし、現在では、基本的には週2回以上の勤務をお願いするようにしています。
続けて赤川氏は、正社員メンバーと副業メンバーの溝を埋めるための工夫について述べる。
赤川ミッション・ビジョンなど、会社が目指している最終目標のすり合わせは、ジョインしてもらった直後から時間をかけて取り組んでいます。例えば、毎月開催しているイベント「プレミアムエモイデー」。会社に関わるメンバー全員を集め、自分たちが目指す到達地点からプライベートな話に至るまで、お酒を飲みながら赤裸々に語り合っています。
また赤川氏は、「持っている情報量の面でも、社内に溝が生まれないよう工夫を行っている」と述べる。ミラティブでは、副業メンバーとフルタイムメンバーで情報格差が生じないよう、基本的には事業KPIを含むすべての情報を開示しているそうだ。
赤川副業メンバーはどうしても“外様感”を覚えやすいので、少しでも組織のシンクロ率を高めるために、社内のチャットツールを通じてすべての情報を得られるようにしています。
「危機管理が甘い」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、僕は社内で得た情報を悪用する人はあまり現れないと考えています。なぜなら、情報を悪用するメリットに対し、デメリットがあまりにも大きい時代だからです。
スタートアップの経営者や人事担当者同士は密接につながっていて、日常的にリファレンスも取られています。もし悪意のある行為が明るみに出れば、同業態の人たちに噂がどんどん広まり、本人の社会的な信頼が中期的に失われてしまう。
となると、人を疑って情報を遮断したり確認プロセスを増やす方がもはやコストになる。とにかく社員たちを信用して性善説で経営することが、組織にとって一番プラスになると思います。
ここで、話は「副業メンバーに支払う給与額の調整方法」にまで及んだ。Traimmuでは、基本的にメンバーから欲しい額を自己申告してもらい、調整に努めているそうだ。
高橋「自己申告だと不当な額を求められるのでは?」と思うかもしれませんが、適正な給料を支払えていると自負しています。ある程度優秀な人であれば、自身の仕事にどれだけのバリューがあるのか客観視できるからです。見当違いな額を請求されることはほとんどありません。
一方、ミラティブでは、そもそもあまり給料の多寡を気にかけない人を採っているという。
赤川報酬の額よりも、事業の面白さ、やりがいを期待する人たちにジョインしてもらっているので、今のところ給与関係で揉めたことはありません。
とはいえ、給料にも競争力がないと、長い目で優秀な人が集まり続ける会社にはできません。会社の現ステージの正直な状況と、財務状況の変化に合わせ、報酬体系を柔軟に見直していきたい意向はオープンに伝えています。
「手を動かす仕事」は、副業に不向き?
最後に、副業メンバーに最大限能力を発揮してもらうための環境設計について議論がなされた。赤川氏は「副業向きの業務と、そうでない業務がある」と前置きしたうえで、「緊急度は低いが重要度の高いタスクを、副業メンバーに振り分けるべきだ」と語る。
赤川たとえば、厳密な期限があるタスクは、急務に対応できるフットワークの軽さが求められるため、副業メンバーに任せるリスクは一定出ます。また、プロダクトのリリース後に仮説検証を繰り返していくような業務も、コミュニケーションを密に取る必要があるため、あまり副業向きではないことが多い。
さらに赤川氏は、副業人材を検討する際は、「優れた頭脳を求めているのか、手を動かしてくれるリソースが欲しいのか」を明確にする必要があると述べる。
赤川知見を求めている場合は、オンラインで相談に乗ってもらうだけでも、大きなバリューがもたらされます。一方、手を動かせる人が求められる状況で勤務時間が短いメンバーが数多くいても、マネジメントコストが膨らみ、かえって疲弊してしまう。
いま求めている人材がどちらに該当するのかを判別し、相手に期待するバリューについてのすり合わせを十分に行ったうえで採用することが大切です。
イベントでのトークを受け、スタートアップが急成長を果たすための一手として、副業採用はますますメジャーになっていく可能性を秘めていると感じた。しかし、だからといって流行りものに盲目的に飛びつくのではなく、欲しい人材が副業向きのポジションなのかどうかを精査したうえで、自社に最もフィットする形での導入を検討するべきだろう。
こちらの記事は2019年01月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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