自分の目線で相手を見ていないか?今問い直したい、リーダーのあり方

登壇者
麻野 耕司
  • 株式会社ナレッジワーク CEO 

慶應義塾大学法学部卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。
2010年中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング部門の執行役員に当時最年少で着任。同社最大の事業へと成長させる。2013年成長ベンチャー企業向け投資事業立ち上げ。HR Techを中心にビズリーチ、ネオキャリア、あしたのチーム、Fond, Inc.(旧AnyPerk)など20社近くに投資。
2016年組織改善クラウド 「モチベーションクラウド」立ち上げ。国内HR Techの牽引役として注目を集めている。2018年株式会社リンクアンドモチベーション取締役就任。著書に「すべての組織は変えられる?好調な企業はなぜ『ヒト』に投資するのか?」(PHPビジネス新書)。

赤川 隼一
  • 株式会社ミラティブ 代表取締役 

2006年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。「Yahoo!モバゲー」等の立ち上げ後、新卒出身者として初の執行役員に就任し、海外事業の統括やゲーム開発に携わる。2018年2月、「わかりあう願いをつなごう」をミッションに株式会社エモモ(現 ミラティブ)を創業し、日本最大のスマートフォンゲーム配信サービス「Mirrativ」を運営中。

関連タグ

Gunosy創業者でLayer X代表の福島良典氏、SHOWROOM代表の前田祐二氏、ラクスル代表の松本恭攝氏 など、若くして急成長企業を率いるリーダーの活躍が目覚ましい。

社会にインパクトを与える事業を生み出し、熱意と能力を兼ね備えた優秀な人材を巻き込む若手リーダーに共通する力とは何か。

2019年11月27日、FastGrowは、若手リーダーに必要な“習慣力”をテーマとしたイベント「『BEST TEAM』を導く若手リーダーの原理原則──【麻野氏×赤川氏】突き抜ける20代の習慣力とは?」を開催。

リンクアンドモチベーションの麻野耕司氏と、ミラティブの赤川隼一氏という2人のリーダーが登壇した。

FCE Holdings 人材開発室長であり、全世界3000万部・日本国内でも220万部発行の世界的ベストセラー書籍『7つの習慣』のファシリテーターでもある石井努氏による進行のもと、『7つの習慣 賢者のハイライト』を参考に、20代のリーダーに欠かせない素養と身につけるべき力が語られた。

全世界のグローバルリーダーから愛される「成功に必要な習慣」と、今をときめくスタートアップの若手リーダーたちの「成功の習慣」。

そこにはどのような共通項があるのであろうか。

  • TEXT BY RIKA FUJIWARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY JUNYA MORI
SECTION
/

何をするかの前に、“誰”とするか。理念、美徳など目に見えないものを信じ合える組織は強い

イベント冒頭で語られたのは、チームを共に作りあげ、事業を牽引するための“仲間集め”だ。事業を成長させるのは、人。採用などの人の選定のみならず、『7つの習慣』では事業で成果を生み出すためには「人間関係」も非常に重要であると書かれている。

石井氏は、両者に「人を見極める上で意識していることは何か」と問いかけた。

麻野「同じ何かを信じられる人」と働くようにしています。そう感じるようになったのは、2008年のリーマンショックがきっかけです。リンクアンドモチベーションは、リーマンショックによって業績が悪化。以前は業績が好調で、社内外から賞賛していただけていたのですが、業績が悪化した途端に一変しました。組織が崩壊したんです。

同じ組織にいたけれど、みんなが違う方向を向いていたのだと感じました。業績が低迷したときなど、成果が出なくなったときは、未来を信じなければいけません。未来を信じるためには、お互いに共通して信じられるものが必要なんです。それがないと、組織は簡単に崩壊してしまうと思います。

理念など抽象的なものを信じられる組織は強い。そう麻野氏は語る。報酬や勲章、肩書などの権威や名誉など、具体的なものは、なくなりやすいからだ。抽象的なものを信じあえる組織の例として、麻野氏は宗教団体を挙げる。

麻野世界に広がっている宗教の中には、世界に何億人もの信者がいて、かつ何千年も続いているものもあります。規模から考えても、組織としては最強だと思いますし、そう簡単には崩壊しない。

でも宗教は死後の世界など、時間的にも空間的にも実証不可能な世界を信じている。組織の場合は、あくまで現実の話。その中で、いかに理念など捉えにくいものを信じられる仲間と出会うかが、良いチームを創る上では欠かせないと思います。

麻野氏の話を受けて、赤川氏は、“捉えにくいもの”を美徳と表現した。人としてどうありたいか、何を美徳と捉えるかを指標に仲間集めをする大切さを語る。

赤川規則ではなく、同じ美徳のもとで動ける組織は強いと思います。今は変化が激しい時代。過去の経験から作られた規則は、変化が激しい世の中では、すぐに通用しなくなってしまいます。

その中で、各々が持つ価値観や、仕事や生き方における優先順位につながる指標になるのが「美徳」。ここが揃っていると、自然と方向性が定まります。

美徳が重要だと考えるに至った背景には、10年前、赤川氏が前職のディー・エヌ・エーでの新卒時代に経験した組織課題があるという。社員数が180名から300名に急拡大したタイミングで起きた組織課題に言及しながら、ベースの価値観が一致していることの大切さを語る。

赤川もともと、ディー・エヌ・エーは、創業者の南場智子さんを筆頭に、目標達成意欲に満ち溢れた人たちが異様に多い組織でした。ただ、組織が拡大するタイミングで、まだDeNA Qualityという行動指針や価値基準もなかった中で最終面接を担当するメンバーが増え、目標達成を重要としない社員も入社してきた時期がありました。

結果、一時的に組織がうまく回らなくなりしました。その時に、美徳が揃っていることの重要性を実感しましたね。

僕はこうした経験も踏まえて、採用面接をする時にも、相手と自分の美徳が一致するかを重要視しています。時には面接で「人生どう?」と問いかけることもありますね。

どんな価値観を持っているのか、人生において何が大切なのか。それを確認した上で、自分たちがやりたいことと、相手が人生でやりたいことが重なるタイミングを見極めることが大事かなと。

仮に美徳が重なっていたとしても、常にタイミングが合うとは限りません。それぞれが自分の価値観を信じて取り組んでいる中で、やりたいことが重なることがまれにある。そうしてタイミングが合う時に一緒に組んだプロジェクトは、うまくいくことが多かったです。

SECTION
/

ディレクションからアラインメントへ。組織とメンバーの関係性が変化しているからこそ、相手の理解が欠かせない

次に、石井氏は「どのようにメンバーに向き合い、チームをスケールさせるか」について2人に尋ねた。メンバーにチームの方向性を伝えても、動いてくれるとは限らない。両者は、どのようにメンバーの理解を深め、モチベーションを高めているのだろうか。

麻野よくありがちなのが、リーダーがメンバーに対していきなりスケールの大きな要求をすることです。“相手の目”ではなく、自分の目で見てしまうんですよね。メンバーが今、何を考えているのか。何ができて、何ができないのかを理解しないまま話を進めてしまう。

メンバーを理解した上で、本人がやりたいことや得意なことから成功体験を積ませて、少しずつ幅を広げることが大切です。人間の中にある「自分の良さを生かしたい」「何かに貢献したい」欲求を、成功体験によって引き出すことで、モチベーションは自然に上がると思います。

この場合、一番良くないのは「主体的になれ」と頭ごなしに叱ることですね(笑)。

麻野氏は『7つの習慣 賢者のハイライト』の中でも、第5の習慣「まず理解に徹し、そして理解される」を担当している。この習慣はチームを束ねるリーダーにとって必要不可欠だ。書籍の中で麻野氏はこうメモを残している。

「リーダーとしてどれだけ多くの人を束ねられるかどうかは、どれだけ多くの人に共感されるかではなく、どれだけ多くの人に共感できるかで決まる」

相手への理解が、自然とモチベーションアップにつながるというわけである。

一方赤川氏は、「メンバーの納得感が大切」だと続ける。納得感を得られていないものを強引にやらせてもうまくいかないと、これまでの組織運営で実感してきたという。納得感を醸成するために意識するのは、プロジェクトの意義を伝えることだ。

赤川なぜこのプロジェクトをやるのか。目的がわからないのに進めろと言われても、辛いですよね。背景を説明した上で任せると、メンバーの納得感が違うんです。

今は、個人の時代となり、組織とメンバーの関係性が一方的な「ディレクション」から双方ですりあわせていく「アラインメント」に変化しています。メンバーは自分がいいと思わないと動きませんし、転職だってしやすい時代。

メンバーにとってどんな意義があるのかを伝えることが欠かせないんです。新しく入社した人にも、「プロジェクトの背景説明が丁寧ですね」と驚かれることもありますね。

情報がオープンになっていると、人は主体的に動きやすい。プロジェクトの目的や背景をしっかりと説明することは、人が動きやすくなるための納得感醸成には欠かせない。

これは、麻野氏がメモで残していた「コミュニケーションを阻害するのは、多くの場合「論理」ではなく「感情」である。「感情」に配慮することは、一見非合理に見えて合理的である」という点にも通じる。

SECTION
/

素直に「モチベーションが下がっています」とさらけ出せる組織が強い

時代と共に、組織のあり方も変わる。リーダーには、メンバーを理解し、歩幅を合わせながら目的に向かうことが求められる。そのためには、メンバーの関心や特性、心身の状態を適切に理解することが欠かせない。

メンバーを理解する上で2人が特に注力するのが、等身大の自分をさらけ出せる「心理的安全性のあるチーム作り」だ。

麻野心理的安全性がないと、メンバーが役割を演じて、本音を押し殺して軍隊のように目標を達成する組織になりがちです。そういう組織の良さもありますが、プロダクトに問題があっても意見が言えず、問題が放置されることにも繋がりかねない。

パワーでコントロールする方法でも、60点や70点の組織は作れるかもしれない。僕はそれ以上の、事業も人も成長を続ける80点の組織を作るためには、自分の真の姿をさらけ出す必要があると思います。

モチベーションが上がらない、プロダクトに不満があるなど、正直に伝えてくれた方が適切な手が打てる。僕はメンバーに、真実の自分でいてくれと伝えています。

真実の自分でいるためには、「心理的安全性」が必要だ。ミラティブが月に一度開催している「プレミアムエモイデー」は、会社の状況とメンバーの近況を共有しあい、相互理解を深める場となっている。

赤川プレミアムエモイデーでは、もちろん事業報告もします。ただ、その前にメンバーが双方向で「最近あったエモい話」をするんです。「障害対応のあと、ユーザーからたくさん『無理しないで』とメッセージをもらった」「昔の彼女と再会した」など、公私問わず自分の話を共有します。どんなオープンな話をしても、みんなが受け入れてくれる雰囲気があるんです。

仲間に自分の話をして、受け入れられる経験をすると、周囲への安心感と信頼感が醸成されていきます。それはまるで、全てが許される教会のミサのような雰囲気。この積み重ねが、「等身大の自分で仕事をしていいのだ」というメンバーの安心感につながると思います。

2人は、メンバーに自己開示を求めるだけでなく、自らが等身大の姿をさらけ出すことを厭わない。ビジネスの現場では、仕事における人格「組織人格」と、プライベートでの人格「個人人格」は使い分けるように教えられることが多い。

上司やクライアントから厳しいフィードバックを受けても、あくまで仕事上の指摘であり、個人の人格を否定していないと割り切れるからだ。しかし、麻野氏はあえて公私問わず等身大の自分でいることを心がけている。

麻野常に等身大の自分でいようと決めたのは、30歳の頃、チームの崩壊と離婚を一度に経験したからです。当時の私は、リーマンショックで業績が低迷した部門の立て直しに励んでいたのですが、部下が私の考えた戦略を実行しなかった。同時期に家庭もうまくいかなくなり、精神的にはかなり参りました。

なぜ周囲の人たちが離れるのか内省したところ、メンバーにも家庭でも自分の思いを伝えていなかったと気づいたんです。自分の照れや恥ずかしさを乗り越えて、正面から部下の好きなところを伝えるようにしてから、周囲の反応が変化しました。本気で思ったことを伝えると、伝わり方が何倍も違うのだと感じました。

麻野氏の発言に、赤川氏も大きくうなずいた。赤川氏は、ディー・エヌ・エーに在籍していた20代のころ、個人人格を封じ、組織として求められる人格だけを演じていた経験がある。ディー・エヌ・エーの会社の方針を分析し、求められる人物を体現していた。

赤川組織人格が自分自身であるかのように演じた結果、28歳で執行役員に抜てきされ、評価もされていました。天狗になっていた時期も正直ありましたね。でも、調子に乗って強がって個人としては大事だと思うような些細なことを見落としていると、あとでツケが来るんです(笑)。

そうした経験を重ねるうちに、「ダサくてもいいから等身大の自分でいよう」と思うようになりました。事業がうまくいかないならうまくいかないと、メンバーにありのままをさらけ出す。

素直な自分でいるようにしてから、メンバーも自分をさらけ出してくれて、心から信頼しあえている感覚がある。いいチームが構築できています。

苦境に立たされても折れない、メンバーが内発的動機で動ける。強いチームを作る上で、等身大の自分が受け入れられる安心感は外せない。『7つの習慣』にも「周りからどう見られているかが気にならなくなると、他者の考えや世界観、彼らとの関係を大切にできるようになる」という一文がある。

メンバーに心を開いてもらうためには、まずは自身が心を開き、等身大の姿で向き合い、メンバーの理解に徹することが大切なのだ。

SECTION
/

20代は、自分づくり。BEST TEAMを率いるリーダーになるために

最後に語られたのは、強いチームを率いるリーダーになるために、20代のうちから心がけておくべきことだ。麻野氏は自身の経験を踏まえ、20代は自分探しではなく「自分創り」の時期だと語った。

麻野実は僕、20代の頃は自分の希望が会社で通ったことがなかったんです。「コンサルタントとして成長して、日本にインパクトを与えるような案件を手がけたい」と伝えたら、なぜか人事部に異動になって。人事の仕事が面白くなって、「人事の責任者になりたい」と伝えたら、なぜか他部署に異動になった。しかし、今は全ての経験に意味があったと思える。

20代の頃は、やりたいことはどんどん変わっていく。目の前のことに全力で取り組むと、その経験が材料になるのだと思います。

赤川まさに、目の前のことに全力で取り組むと見えてくるものはありますね。好きな言葉に、スティーブ・ジョブス氏の「Connecting The Dots(点と点を繋げ)」があるのですが、僕はいつも一言加えています。“ただし、全力でやったことに限る”と。

もしも今、全力で取り組めることがないのであれば、全力で何かをしている人を応援してみてください。全力で生きている人にはエネルギーがあります。エネルギーを浴びると自分も元気が出てきたり、チャンスが舞い込んできたりします。必ずどこかで繋がるはずです。

物事にも人にも、等身大の自分で全力で向き合うべきだ。リーダーこそ速く走るために、他者からの理解を求めるだけではなく、自分から心を開き「まず理解に徹する」。

『7つの習慣』第5の習慣「まず理解に徹し、そして理解される」にはこのような1節がある。

“相手の話を深く聴くには、強い安定性が必要になる。自分自身が心を開くことによって、相手から影響を受けるからだ。傷つくこともあるだろう。それでも相手に影響を与えようと思ったら、自分もその人から影響を受けなければならない。それが本当に相手を理解することなのである。”

「自分は、目の前のことに等身大で向き合えているか」

リーダーを目指す若手は、まずそう問いかけることから始めてほしい。『7つの習慣』という、業種・業態を問わずグローバルリーダーから愛される、普遍的なリーダーの原理原則から学び、素晴らしいBEST TEAMを率いてもらいたい。

こちらの記事は2019年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

藤原 梨香

ライター・編集者。FM長野、テレビユー福島のアナウンサー兼報道記者として500以上の現場を取材。その後、スタートアップ企業へ転職し、100社以上の情報発信やPR活動に尽力する。2019年10月に独立。ビジネスや経済・産業分野に特化したビジネスタレントとしても活動をしている。

写真

藤田 慎一郎

1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン